サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から4月17日、伊豆半島ジオパークの拠点施設「ジオリア」(伊豆市)が歓喜に沸いた。初回の挑戦から2年半、晴れて伊豆半島が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界ジオパークに認定された。研究員を3人に増員し、日本でもトップクラスの運営体制が整い、今後、国際貢献がますます求められる。5月の「風は東から」は、世界ジオパーク認定の意義やユネスコの理念、今後の地域への展開について関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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伊豆半島ジオパーク世界へ持続可能な国際貢献を
■「世界」を冠した価値と意味

世界ジオパーク認定を受け、「ジオリア」には、ゴールデンウイーク中に例年の2〜3倍の人が訪れた。
世界ジオパークがユネスコの管轄になって国内で初めての認定。地質学的な価値はもちろん、その価値を地域が誇りに思い、保護・活用できる実力のある地域として認められたことを意味する。
伊豆半島は豊かな自然に恵まれ、その自然に適応した暮らしが営まれてきた。そうした姿が日本で有数の観光地としての魅力になっている。温泉しかり、街並みしかり、起伏に富んだ海辺の景観しかり―。ところが観光産業が発展するにつれ、自然が産業や人の営みと切り離されてしまった側面もある。伊豆半島ジオパーク協議会の鈴木雄介専任研究員は世界ジオパーク認定の意義を「伊豆の気候風土、土地の成り立ちに立ち戻り、その上にできた産業や暮らしを見直すことで、伊豆半島という地域を持続可能たらしめる何かを皆が考えるきっかけになれば」と語る。
近年、SDGs(エス・ディー・ジーズ)という言葉を耳にする。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された目標のことだ。あらゆる産業に対しても、持続可能かという目標達成のための基準設定が求められている。例えば、運送会社はCO2の排出量をどのくらい減らしているのか、商社は生産者の生活向上を支えるフェアトレードを実施しているかが重要になっている。ユネスコは、ジオパークとはそうした目標をクリアするためのプログラムであると言っている。伊豆半島が世界の環境問題、人権問題、世界平和にどれだけ貢献できるかも問われる。

伊豆半島ジオパークを代表する景観の一つ、田牛(とうじ)の龍宮窟。 大きな海食洞の天井が一部崩れて、直径50mほどの天窓が開いたもの (伊豆半島ジオパーク推進協議会提供)



■ノウハウ提供も大きな使命

左から朝日克彦(自然地理学)、鈴木雄介(地質学)、新名阿津子(人文地理学)の各研究員。専門分野が異なり、多様な角度から伊豆半島ジオパークを研究・紹介できる=伊豆市の「ジオリア」

世界ジオパークは4年に1度、再審査が行われる。世界ジオパークの運営に詳しい新名(にいな)阿津子専任研究員は「再審査では今回の審査結果の指摘事項をどの程度クリアしたかが問われる。加えて、自分たちのジオパークの活動がどれだけ前進したかをプレゼンテーションしないとならない」と語る。当然、基本計画、アクションプランが求められており、伊豆半島ジオパークが2014年に作った内容を、今回の指摘事項を踏まえて年度内に改訂するという。
また、他地域との交流、ネット―ワークづくり、国際会議への出席など、今後強く求められるのが「国際貢献」だ。新たに加わった地域へのノウハウの提供も大きな使命の一つとされる。
鈴木研究員は「他地域をみると、自然豊かないわゆる田舎が多い。そういった人たちがジオパークを使って地域を興していこうとしている。実は、伊豆半島は産業面では相当先を走っていて、これから新しく観光振興を進めたい地域に、伊豆が行ってきた良い面も悪い面も―例えば、開発により温泉場の景観が失われた地域は、長い目で見ると地域の持続性を失っているのかもしれない―といったことを共有するのも国際貢献の一つ」と言う。
逆のケースもある。新名研究員は香港ジオパークで科学的な情報をツーリストたちにどう伝えればいいかを考える4日間のワークショップに参加した。「ジオサイトの看板を見ながら、観光客から地質についての質問は受けたことないとか、もっと効果的にミュージアムを見てもらってからスタートさせるにはどうしたらいいか、という議論を行い、その結果を持ち帰ったところ」と語る。こうした交流が伊豆半島のレベルアップにつながっていく。


■地質以外も豊かな文化発信
ジオパークが広がらない背景に、地質学が先行して一般に受け入れられにくいということがある。最近でこそ、NHKの「ブラタモリ」人気で地質は市民権を得始めているが、こと伊豆半島に関しては主産業である観光従事者をどう巻き込み、地域振興、観光振興に結び付けるかも問われている。
「香港では事業者とパートナーシップを提携して進めている」と新名研究員。ホテルにはパンフレットを置き、グッズの販売やツアーの受付をする。ジオパークが目当ての客はそれほど多くないが、訪れた客がツアーを申し込めば手数料が入る。また、国際ワークショップのホストエリアになればホテルを使ってもらえる。「地域の事業者に相互メリットがある形で、ハイクオリティーなものを提供する、という関係性を構築したい」と期待を込める。
外国人客に漆喰こて絵の説明をする佐野勇人社長(左) =松崎町の「御宿しんしま」
こうした動きは少しずつ始まっている。インバウンド向けのトレッキング専門旅行会社「ザウォークジャパンカンパニー」は、伊豆半島ジオパークを冠したトレッキング旅行を販売している。参加者は1週間をかけ、伊豆半島の海沿いや天城山を歩く。料金は一人三十数万円。受け入れ宿の一つ「御宿しんしま」(松崎町)の佐野勇人社長は「海外の方は伊豆の地形をものすごく喜んでくれる。変化に富んだ海岸線を歩いて、日本がこんなに美しいところだとは思わなかったと口々に言う」と語る。ジオパークの説明は添乗員が行い、1度に12〜13人が参加する。参加国は多岐にわたり、すでに日本の観光地を経験した上で“本当の日本が見てみたい”という層が参加する。今年はすでに9本の予定が組まれているという。
ジオパークはその土地に住んでいる人がその土地をどう利用してきたかも楽しむもの。決して地質だけでは成立しない。漆喰(しっくい)こて絵で有名な伊豆の長八は、冬場の強風という松崎の風土が生み出した芸術家だ。強風による火事を防ごうとなまこ壁が造られ、その技術がこて絵を生んだ。佐野さんは「こうした人の営みこそがジオパーク。地質遺産はもちろん大事だが、それだけではないよ、というところを世界の人に見てもらいたい」と抱負を語った。

伊豆の魅力をジオで読み解く 朝日克彦 伊豆半島ジオパーク推進協議会専任研究員

清流が生み出す伊豆のわさび
日本の沖合を流れる黒潮から大気に水蒸気が供給され、風に乗って東へ運ばれます。伊豆半島に達し、天城の山に沿って上昇気流が起こり、多くの雨がもたらされるのです。天城山は、水が染み込みにくい緻密な岩盤の上に亀裂が多く、水が染み込みやすい火山の噴出物が堆積しているため、降った雨が帯水層を地下水として流れ山裾から湧き出します。地下水温は概ねその土地の年平均気温と一致することが知られており、この水はわさびの生育に適した13度を一年中保っています。

大地が生んだ伊豆文学
天城湯ヶ島出身の作家井上靖の代表作「猟銃」は主人公の男の孤独な心情と、滑沢渓谷の黒々とした岩肌や流れる水の清冽(れつ)さを重ね合わせています。この渓谷を形作ったのは、滑沢火山から大量に流れ出した溶岩。長い年月をかけ、磨き上げられた岩肌が作家のイマジネーションを喚起させました。多くの文人たちに愛され、描かれた伊豆の大地に「ジオパーク」という名前が新たに加わり、これからもここを訪れる多くの人の心を打つことでしょう。



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