サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から2016年12月に成立した「自転車活用推進法」。今月、国の基本計画が閣議決定され、国会に報告された。今後ますます自転車を活用したまちづくりが全国各地で進んでいく。6月の「風は東から」は、法律の立役者であるNPO法人自転車活用推進研究会の小林成基理事長に、世界的なスポーツの祭典を控える県東部が目指すべき自転車による地域づくりについて聞いた。(聞き手=編集部)

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3

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自転車活用 国が舵取り走行空間整備に英断を
■計画の主体は市町村

■「大村湾ZEKKEIライド」のポスター。告知は長崎空港と結ぶ羽田空港でのみ行った

 ― 「自転車活用推進法」の基本方針は、自転車専用道路の整備から競技施設の整備、良質な供給体制、教育及び啓発、健康の保持増進、賃貸事業の促進など、項目が多岐にわたっていますね。
小林 国は法に基づき、基本計画を作りました。しかし、これには基本理念と数値目標が書かれているだけで、まだ掛け声の段階です。
地方主権が進む中、地方が国と同格の権限をもって実行するのが基本ですから、各市町村は国の計画にのっとり、シェアサイクルの推進や観光振興など、自分たちの地域に合った活用を進めていくのです。
 ― 伊豆であれば、自転車を生活の足に使うというよりは観光振興に役立てる、といった特徴は自治体ごとに決めるのですか。
小林 はい。また、計画は単体で作っても、周辺市町村と組んでもいいのです。
長崎県の大村湾は、1周160キロです。取り巻く自治体は10市町村。長崎空港のある大村市が中心となり、10市町村が連携して昨年、「大村湾ZEKKEIライド」を始めました。10市町村全部の人口を足すと100万人。160キロの長丁場ですが、疲れたら湾をショートカットもできます。
第1回の昨年は400人の募集枠があっという間に埋まり、今年は定員が500人になりました。大村市の担当者が他の市町村を口説いて自転車を大切にしよう、来てくれる人を大事にしようと頑張っているので成功しつつあります。
例えば、高価な自転車に目が届くところで食事ができるとか、タイヤがない、サドルが盗まれたということがないような配慮をきちんとしています。
しかし、実際はこうしたサイクリストの目線で考えることができない地域が多いですね。道に案内看板をたくさん立てても、自転車に乗った人からは見えず、見にくいのです。地面に書くのが一番分かりやすいですね。ほんの少しのことですが、車から見るのとは違う視点があることに気が付きません。
サイクリングマップもよく作られますが、現在地が分かる地図になっていません。例えば交差点の名前が落とし込まれていないと、せっかく案内看板があっても、今自分がどこなのか分かりませんね。
 


■車優先社会からの脱却

■小林成基
NPO法人自転車活用推進研究会理事長
1949年生まれ。駒澤大学文学部英米文学科卒。衆議院議員公設秘書、大臣秘書官として国会で20年間立法活動。退職後、(財)社会経済生産性本部エネルギー環境政策部主任研究員として環境行政に関わる一方で、自転車活用を提唱、自転車活用研究会を創設。2006年7月研究会をNPO化。国交省、警察庁、東京都をはじめとする自治体の自転車関係会議委員を務める

 ― 県は2020年を機に静岡県をサイクルスポーツの聖地にしようと、川勝平太知事を議長に「静岡県サイクルスポーツの聖地創造会議」を立ち上げましたね。
小林 2020年の開催の成功を目的にするのか、自転車を活用した “レガシー”をつくるのかで目指すものも違ってくるでしょう。
大事なのは、「車が自転車を尊重する感性」を育てることです。食事はおいしいし、景色はいいし、なのになぜ来ないんだろう、と思っている方は実際に自転車で走ってみれば分かります。車が横を結構なスピードで通って、危ない思いをします。
車に自転車の存在を意識付けすることが大切ですが、東京は徐々にそれができました。「矢羽根」と呼ばれる自転車のナビレーン(道路標示)が1000キロを超えたのです。好評なので、今後も増やす予定だそうです。
また、最近よく耳にするお年寄りの自動車事故。特に団塊の世代があと5年もすれば後期高齢者に突入します。重大な事故が増えることを想定すると、車の使い方を見直さなければなりません。
 ― 自転車政策は、実は高齢者や弱者の支援にもなりますね。
小林 中国では、シェアサイクルは市民の日常の足ですから多くの高齢者が使っています。他にも、時速20キロ以下で走る四輪の小型の電気自動車が普及し始めていて、自転車と同様の扱いで自転車通行帯を走っています。自転車の走行空間を整備すれば、こうした社会弱者向けの新しいモビリティーが使えるようになります。
 ― 聖地創造会議にも「走行空間整備部会」ができたそうですね。
小林 自転車の走行空間の整備において、矢羽根は最初の一歩です。しかし、今年は30キロ、来年は40キロ引こうなどと、こま切れに整備するのでは「車優先の社会」は変わりません。だったら思い切って1000キロ引いてしまいましょう。
事実、愛媛県は県予算の0・1%に当たる8億円をかけ、1144キロを一気に整備しました。道路にブルーレーンが引かれたおかげで、車が自転車を認識するようになっています。これはトップの英断です。また、一気に作ったおかげでコストもずいぶん抑えられたと聞きました。
愛媛県の例は、極端なことでも何でもなく、自転車が活躍する社会が必要になることを見越して国も立法化したのです。


■2020年の先を考える
■中国で活躍する小型四輪電気自動車(右)。免許がいらず、自転車通行帯を走っている。自転車通行帯を清掃する専用車(左)もある
 ― 県東部の地域づくりのテーマの一つに健康があります。それと自転車をどう結びつければ良いと思われますか。
小林 肥満の方が増えていますが、ランニングなどはひざや足を痛めやすいので、そういう方に自転車をうまく使ってほしいですね。脚部にかかる負担が少なく、体重を落とす運動が可能です。
自転車ほどひざを上げ下げする運動はなかなかなく、太ももの大きな筋肉を使うので効率的に痩せることができますね。
また、血流速度も上がります。ウォーキング中は平常時の3倍程度の速さですが、自転車は軽くこぐだけで10倍以上です。高血圧の方は注意が必要ですが、血管年齢を若く保つ効果が期待できます。
快適に安全に走る環境があれば、自転車は健康増進や美容器具としてもっと使われていいと思います。
 ― また、伊豆では道の駅伊豆ゲートウェイでE-BIKE(電動自転車)のレンタサイクルが、下田・賀茂エリアでも乗り捨て自由なシェアサイクルが始まっています。 
小林 そうした動きはぜひ進めてほしいですね。重要なのは地元の企業とどう連携するかでしょう。企業の人たちが車から自転車に乗り換え始めると、いろいろなことが分かって、外から来た人たちにとっても快適な空間になるのです。
自転車に乗る人は外から来ればいいや、では変わりません。自転車を安全に快適に使うことができている地域があって、そこにおもてなしが加われば最強です。
■伊豆ゲートウェイでサービスが始まったE-BIKE
愛媛県の今治市と広島県の尾道市を結ぶ「しまなみ海道」は絶景があり、台湾の世界ナンバーワン自転車メーカー「ジャイアント」が力を入れているという理由で自転車の聖地と言われていますが、実はベースにあるのは四国の「お遍路マインド」です。そこにママチャリでなく、軽くて快適なロードバイクを提案したことで、楽しさをつくることができたのです。
 ― 県東部が自転車の活用を進めるにあたり、アドバイスをお願いします。
小林 今はあまりにも車が便利で1キロ離れたコンビニに行くのにエンジンをかけてしまいます。エンジンをかけるより、自転車の方が快適だなという世界をつくらなければ、変わるのは難しいですね。
それには、大胆にやることです。他がやっていないから、といった横並びの発想はやめ、県東部が、伊豆がこうありたい、という将来像を想定してそこから振り返って道づくり、人づくり、環境づくりをやっていく。環境や人にやさしい地域をつくるというレガシーをぜひ実現してほしいですね。


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