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■山口 建
静岡県立静岡がんセンター総長
(兼)研究所長(併任)静岡県理事
1974年慶應大医学部卒。81年東京大医学博士号取得。86年国立がんセンター研究所内分泌部部長、99年研究所副所長を経て、2002年より現職。1999〜2005年宮内庁御用掛。乳がんの治療や腫瘍マーカーの開発を手がける一方で、患者の生の声から「がんの社会学」を研究。「がんよろず相談」を設け、治療だけでなく患者の悩みや不安の相談にのる仕組みを創設した。6月末、政府のがん対策推進協議会会長に就任 |
− 2002年に静岡がんセンターが開業してから、理想のがん医療を追究し、実現した15年だったと思います。
山口 静岡がんセンターを開院するにあたり1994年頃から検討を始めました。理想のがん医療をどのように具現化するか、また、21世紀のがん医療とは何かについて、世界中を回りました。
米国の国立がん研究所の友人を訪ねた際「研究志向か、患者志向か明確にした方がいい」というアドバイスを受けました。ちょうどその頃、国立がんセンターのプロジェクトも手掛けていたので、国立がんセンターは研究志向、静岡がんセンターは地域に立脚した患者志向‐という明確な目標を立てました。
それから15年、患者家族支援に関しては「朝日がん大賞」をいただき、当初考えていた理想のがん医療に近づいていると思っています。
− 静岡がんセンターのマークは富士山と心をモチーフにしていますね。
山口 私が主治医を務めていた高松宮妃喜久子殿下が「日本人には和の心がある」とよく話されました。シンボルマークの「心」には患者の心、職員の和の心、ファイティングスピリットという意味を込めています。
また、全国の病院に先駆けて「多職種チーム医療」を進めてきました。医師、看護師、コ・メディカルが対等の立場で、自分たちのやれることを行う。患者家族が中心に置かれているので、満足度が高まります。これも「和の心」の表れです。
− 今後の静岡がんセンターが目指すところを教えてください。
山口 最初に考えた目標の8〜9割は実現したと思います。これを維持することが大切です。
もう一つ大事なのが「患者さんの医療への参加」です。患者さんというのは医療を実践する上で、重要な役割を担う存在です。今は、言葉は悪いですが「お任せ型医療」。十数年でそこは打破してきたつもりですがまだまだ足りません。
これから超高齢社会が進み、一人一人に手厚い支援ができなくなってきます。患者さんの自立が望まれる場面も増えるでしょう。ただ、単に「がんばれ」ではなく、支援のためのシステムやツール作りも必要です。
県東部に住むと、日々の生活において最後まで自立して暮らすことができる、そういう地域になればいいと思います。
− 病気を抱えている方も地域で自立ができるということですね。
山口 多くの自治体が「健康増進都市」とか「健康寿命の延伸」を目標に掲げています。しかし、これからは、健康寿命が尽きた人が、最後の10年をうつうつと過ごすのか、健康寿命は尽きたけど数年は自立して生きたよ、となるのか。健康寿命と本来の寿命の間にもう一つ何かつくれないかー。いわば「半健康寿命」への対処も必要です。
病気や体の障害はあるが、精神的には充実し、自立している。すべて介護のお世話になるのではなく、一部お世話してもらう。心の持ちようとしてはその方がいいのではないでしょうか。 |