サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から サンフロント21懇話会は「人と動物が共に、幸せに暮らす地域づくり」を活動方針に掲げている。NPO法人「人と動物のハッピーライフ」(理事長・井口賢明あさひ総合法律事務所長)は、その実現に向けた第一歩として2016年11月に設立された。セミナーの定期開催やシンポジウムを通じて、啓発を図っている。8月の「風は東から」は、NPOの活動や、県東部・伊豆での事例を挙げながら、これからの共生社会のつくり方について関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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動物も暮らしやすい街へ レベル向上と理解不可欠
■NPOの活動が本格化

「セミナー等を通じ理解と共感の輪を広げたい」と語る井口賢明理事長

 NPOの設立から間もなく2年、今までに開催したセミナーは10回、シンポジウムは2回を数える。セミナーは、獣医師をはじめ動物行動学者、動物看護士など、動物の“プロ”を呼び、ペットがかかりやすい病気や自宅でのケア方法をはじめ、動物の行動の意味や体の構造、器官の働きなどを学び、動物についての理解を深めている。
 半年に1度開催するシンポジウムでは、地域と動物の良好な関係を目指し、迷い犬や飼えなくなった猫の保護を行っているNPOや、譲渡会を積極的に進める市民団体が登壇し、さまざまな議論を戦わせている。今年5月のシンポジウムは、伊豆地域でペット同伴が可能な旅館や観光施設が、課題や将来像を話し合った。
 井口理事長は「登壇者の発言などを聞いていると、その努力に頭が下がる思いだ。それをわれわれが上手に“翻訳”し、一般の方と思いや取り組みを共有していきたい」と抱負を語る。
 10月には、初の試みとして、沼津市門池で屋外イベントを開く。飼い主の啓発を目的に、獣医師や看護師、しつけの専門家が、普段なかなか聞けない医療やしつけ、食事などの疑問に答える。ゲームなどを楽しむコーナーも設置する。

■三島市内で行われた初回シンポジウムでは、行政や動物愛護団体が動物との上手な付き合い方を探った

 


■広がる共生社会と課題
■「アプルール秦野」にはドッグトレーナーが常駐している
 県東部、特に伊豆は、ペット同伴可の宿泊施設が増えてきた。一般客と宿泊エリアを区切ったり、離れやコテージで気兼ねなく泊まれたり、中にはペット同伴者専門の高級宿もある。特に、伊豆高原エリアは、ペット同伴で泊まれる宿が50施設以上。周辺の観光施設も、小型犬は飼い主が抱っこする、中型犬はケージに入れるなどの条件は付くものの、ペット可の施設が増えてきた。
 観光関連だけでなく、沼津市内に、ペットを連れていけるデイケアセンターも登場した。神奈川県秦野市には、ペットと一緒に入居できる老人ホーム「アプルール秦野」があり、犬を4頭まで受け入れ可能だ。現在は入居者の犬が1頭、ホームで飼っている犬が2頭いる。引きこもりがちだったほかの入居者が犬と触れ合うため部屋から出てくるようになったり、犬の鳴き声を判別できるようになったり、プラスの影響も出ているという。同施設ではドッグトレーナーも採用し、入居者のサービス向上を図っている。
 このように、公共の場でペット同伴が当たり前になる時代がもうそこまで来ている。「大切なのは、飼い主のレベルアップと、飼っていない人も含めた周囲の理解」と井口理事長。盲導犬は小さい頃から厳しくしつけられ、周囲の理解も浸透している。「盲導犬とまでは言わないが、今後は、家で排せつを済ませてから散歩に行く、ほかの犬を見ても吠えさせないなど、人の管理下にいる限り、そういうしつけはスタンダードになってくるのでは」と言う。


■防災面で新たな動き
 動物との共生社会が広がる中、まちづくりにどのように位置付けるかも問われている。
 先月の西日本豪雨では、ペットを連れた避難者への対応が自治体によって分かれた(※)。岡山県総社市は市庁舎の会議室をペット同伴者のために開放。倉敷市も、複数の避難所でペット同伴者専用のエリアを設けた。同NPOの西島明信事務局長は「西日本豪雨の際に、同伴避難の状況を初めて環境省の副大臣が視察した」と変化の兆しを指摘する。
 しかし、鳴き声やにおい、アレルギーなどの問題で、同伴を断らざるを得ない避難所も多い。ペットと一緒にいたいがために、車での避難生活を選ぶ飼い主も多いという。
 西島事務局長は「自治体の防災避難計画に、ペット同伴のルールを組み入れるよう働きかけることもNPOの役割。指定した避難所が被災することもあるので、候補はいくつか必要だ。また、行政区をまたいだ連携などもしていくべき」と語る。
 大きな目標の一つとしていた、飼いきれなくなった動物を一時的に預かる活動拠点も、場所の確保に目鼻が付いた。井口理事長は「飼い主のレベルアップを図りつつ、ボランティアや地域行政との接点づくりをNPOとしてやっていきたい」と力を込めた。
 (※)環境省は13年に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を作り、各自治体に配布したが、指針に強制力はないため、各自治体の判断に任されている


■社会に取り込み、理解促進を
 長泉町にある動物先端医療センター・AdAMの伊藤博院長(東京農工大学名誉教授)に、人と動物の共生社会の実現方法について聞いた。
― AdAMが開院して1年5カ月がたち、現状は。
伊藤 腫瘍科、内科、整形外科の三つの領域の専門性を高めている。動注療法や猫の透析治療などで効果が上がっている。動物の病気も早期発見が重要なので、がんの場合は、8歳からの定期的な健康診断を勧めているところだ。
― 新たな取り組みの説明を。
■伊藤博院長(東京農工大学名誉教授)
伊藤 東京医科大学の落谷孝広教授と共同で、創薬分野での人と動物の橋渡し研究をしている。今、医療の進歩は革命期で、がん細胞が分泌する情報伝達物質を調べることで、がんの種類が特定でき早期発見が可能になる。こうした技術を人から動物へ、また動物で分かったことを人に生かす、そうした研究を長泉町から発信したい。
― 人と動物が幸せに暮らせる社会の実現に向けて必要なこととは。
伊藤 犬や猫は穀物など人の財産を守り、家族の一員として人と共に生きてきた。今でも盲導犬や聴導犬、麻薬犬など人の社会に役立っている。また、高齢社会では人に生きる活力を与えてくれる重要なパートナーだ。もっと動物をわれわれの社会に取り込み、理解することが大切だ。動物はいじめもしないし、差別もしない。優しい心を持った動物を通して子どもたちに命の尊さを教えたい。
 「殺処分ゼロ化」も話題になるが、実現するには誰が面倒を見るのか、保護施設を誰が作るのか、お金は誰が出すのかーなど問題は山積している。おそらく、行政がしっかり保護施設を作って運営していかないと実現しない。また、行政だけでなく地域の人たちが一丸となって殺処分ゼロを目指すことが重要だ。


共生へ新たな社会フレームを
■企業経営研究所 中山 勝 常務理事
(サンフロント21懇話会TESS研究員)
 人と動物との共生社会の実現は一筋縄ではいかない。動物への接し方は、人間社会の構図を反映したもので、人間社会が複雑化しているため、動物との関係もおのずとして複雑化している。このような時代だからこそ多様性を認め、他を尊重できる社会をつくらないといけない。
 かわいい、愛くるしいだけではなく、動物の生態や習性を専門家から学び正しい動物観を醸成する。また、社会に受け入れられるための飼い主の正しいマナーも不可欠。その一方で、未だなくならない動物虐待の防止策も考えていかなければならない。その一つのきっかけがこのNPOの活動と認識する。
 動物と共生するための新しい社会の枠組みを創っていかなければならない時期にきている。


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