サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から ファルマバレープロジェクトは「超高齢社会を支えるものづくり」をテーマに、医療機器開発だけでなく、より多様な産業との連携を図っている。11月の「風は東から」はこのほど行われたサンフロント21懇話会東部地区分科会の座談会を取り上げる。出席者に県立静岡がんセンターの山口建総長、高齢者対応型住宅や介護施設等の設計監理を手掛ける1級建築士事務所アトリエ4Aの天野彰社長、を活用した介護現場の生産性向上を研究する静岡大創造科学技術大学院の竹林洋一特任教授を迎え、人生100年時代の自立支援のあり方について討論した。聞き手は青山茂シード副社長(懇話会TESS研究員)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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人生100年時代の自立支援 人間中心のAI活用を
■自分で生活できるよう住まいにロボットを
 青山 年齢を重ねていくにつれ排泄や認知症など、自宅での自立した生活が難しくなっていきますね。
 山口 ファルマバレープロジェクトでは、健康寿命延伸・自立支援をテーマに新しい活動を始めています。その一つの試みが、「終(つい)の居室プロジェクト」です。最期の日々を送るための快適な部屋はどうあるべきか。
 人間工学に基づく設計で有名なコルビュジエはカップ・マルタンの休暇部屋を設計しました。私たちのプロジェクトは、もし身体に障害を持っていたら、コルビュジエならどんな居室を設計しただろうという問いから始まりました。
 天井からクレーンでハーネスをつって自在に動き回れたり、AIやロボットなどの活用を考えたりしています。
 天野 日本の住宅は狭く、また、こだわりがある家ほど車椅子の生活に適していません。
 車椅子がなくても最期まで自立して生活できるよう、部屋の中の移動用ハーネスや、浴槽へ体をずらして入れる部屋などを設計してきました。私自身も骨折入院を経験し、トイレだけは自分一人でできるようにしたいと切に思います。20年、試行錯誤を繰り返し、やっと常用しても大丈夫なハーネスの試作品までこぎつけました。
 竹林 「自立できる」状況とは、頼れる人、施設、技術がたくさんあることです。これは家庭環境や地域の状況によって変わります。また、頼られる人の方は介護や医療技術が高い方が良く、こうした能力の啓発活動にもを使っています。
 排泄は、さまざまなセンサーを付けることである程度解決できます。センサーもたくさん作ればコストが下がりますから、製造業が集中している県東部や西部地域は適していますね。ただ、静岡県はハードウエアの強さに比べソフトウエアが弱い。ソフトは芸術作品のように無駄なくクリーンで、エレガントに作るというのが必要で、にデータを放り込めばいいというのは誤解です。
 山口 超高齢社会が進み、介護される人々が増え続け、介護する側のリソースはいずれ枯渇します。そのときが来る前に準備をしなければなりません。一番難しいのは排泄、特に排便です。宇宙飛行士はどうしているか調査をしています。医師の立場からは、人工肛門にすれば自分で始末できるのではないかと考えています。やや過激であっても、そういった知恵を集めないと超高齢社会を乗り切ることはできません。
 認知症は、元気な時のその人の行動をAIに覚えさせておき、認知症になって異常な行動を取るようになったら警告をします。広い豪邸では難しいですが、10畳ほどの部屋でAIが行動を管理するという工夫も大切です。
 竹林 常識を持った介護ロボットを作るにはまだ10年かかりますが、単機能なら開発できると思います。人間の行動パターンで必要な部分をどうモデル化し、どうアプローチするかをビッグデータ化して、それを見ながらロボットをデザインするというのが良いと思っています。
 天野 家を建てる人は誰も、耐震には関心を持ちますが、高齢になった時を考えていません。
 在宅介護は皆さん苦労をされていますし、施設なども介護士が不足して預かれません。車いすに乗せたり、ベッドに乗せたりするなど、少しの手助けをロボットがやってくれるだけで助かるでしょう。
 竹林 いろいろな立場の人の困り事のデータベースを作ろうとしています。AIは、データを集めて表現する事は得意です。
 困り事に意味付けをするのは専門家です。また、困り事にどう折り合いをつけるかは人それぞれです。そうしたことをデザインするのはAIでなく人間の知恵なのです。

■山口 建 氏
県立静岡がんセンター総長

1974年慶応大医学部卒。99年国立がんセンター研究所副所長。同年宮内庁御用掛に就任(併任)。2002年県立静岡がんセンター総長。18年厚生労働省がん対策推進協議会会長就任

■座談会の様子(左から、青山茂シード副社長、山口建総長、天野彰社長、竹林洋一特任教授)


■介護される側が自立心を持ち続ける

 青山 超高齢社会における幸福感について伺います。
 山口 人生の前半は「獲得の時代」ですが、後半は「喪失の時代」が訪れます。若い時のような幸福感は期待できません。その代わりに、「豊かな心」を育むことが大切で、そこには、五つの要素があると思います。
 一つは「生老病死」。いつかは死ぬということを理解する。二つ目は、自分の身の回りの「森羅万象」に気付く。患者さんは道端の野花にも喜びを感じます。三つ目が「幸せの域値を下げること」。当たり前のことが幸せなのだ、ということを理解する。四つ目は「絆」です。病気になって初めて、他人の情けが身にしみます。最後に「生きがい」です。小さな志を立てることをお勧めしています。
 天野 寝たきり寸前の70歳の男性が家を建てようと決めたら、健康を取り戻したのです。こうした事例はたくさんあります。家を建てたりリフォームしたりする過程で、こうしたい、ああしたいと考えることが幸福感につながります。
 打ち合わせでは図面だけでなく、木材を見ながら、その香りを感じながら話をします。それだけで随分やる気が出て来ます。家具も木で作るようにしています。難しいことではありません。日常的なことを現実化するのが大切ですね。
 竹林 認知症はかなり分かってきました。アルツハイマーになるとどんどん忘れていって、年齢を聞くと「19歳」と答えたりします。それが進んで3歳になったとしても、上手に介護すると幸福感覚や相互理解ができるのです。また、介護する側も幸福感を覚えます。ですから、認知症になったら終わりと絶望的にならずに「認知症は個性」ということを言いたいですね。

■天野 彰 氏
一級建築士事務所アトリエ4A 社長

日本大理工学部建築学科を卒業後、1967年アトリエ4A設立。元通産省「産業構造審議会」や厚労省「大規模災害救助研究会」などの専門委員を歴任。著書は「60歳から家を建てる」(新潮新書)など多数

 


■支援のものづくりで多くの地域産業に波及

 青山 最後に超高齢社会の産業支援についてお願いします。
 山口 この地域が「超高齢社会を支えるものづくり」というテーマでまとまっていければ、より多くの産業に波及します。今までは医療産業でしたが、ベッドサイドに置くティッシュケースなど、全ての人に共通するテーマですから、全ての人が参加できます。今、参加の仕組みをファルマバレーセンターでつくっています。
 天野 さまざまなシステムを少し見直せばいいと思います。例えば、不動産の仕組みの場合、他人と同居するには契約が必要ですが、今はその社会基盤ができていません。
 実際われわれが建てた家に「訳あり物件。ただし、庭も自由に使えます。犬も猫も飼えます」とキャッチフレーズを付けて貸し出しました。訳ありというのは、実際はお年寄りが住んでいて、もしもの時に見守りをしてもらうという意味です。お年寄りの調子が良い時には子守りをしてもらえます。
 不動産業界も、人と人とのコミュニケーションを創るような仕組みを考えていきたいですね。
 竹林 この分野は成長産業であることは間違いありません。ひょっとすると、「高齢社会デザイン」の分野はここが一番になるのではないでしょうか。
 青山 自立支援産業は、中心に家族を据え、医療・介護、行政、空間デザイン、建築、物流、コミュニケーション、メディアも含めたプロジェクトにすることが必要です。そのためのコンソーシアムを立ち上げて、真ん中にファルマバレーセンターがある、そんな青写真が見える気がします。

■竹林 洋一 氏
静岡大創造科学技術大学院 特任教授

1980年東北大大学院博士課程修了(工学博士)。東芝入社。MITメディアラボ滞在中にAIの父ミンスキー博士の知遇を得る。人工知能学会理事などを歴任、2017年より現職。みんなの認知症情報学会代表理事

 




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