サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から伊豆半島の背骨と表現される「伊豆縦貫自動車道」。2014年2月に東駿河湾環状道路の三島塚原IC〜函南塚本IC間が開通し、伊豆へのアクセスが飛躍的に向上した。全線開通すれば、東名沼津から下田までを約1時間で結ぶ。12月の「風は東から」は、伊豆縦貫道が東部・伊豆にもたらす効果について国土交通省沼津河川国道事務所の藤井和久所長と県東部地域局の望月宏明局長に聞いた。聞き手は静岡新聞社・静岡放送の植松恒裕取締役東部総局長。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

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伊豆の背骨「伊豆縦貫道」 地域の安全と振興に寄与
■アクセス向上で誘客数が2.6倍に

■来月、供用開始される天城北道路(国土交通省沼津河川国道事務所提供)

 植松 来年の1月26日に天城北道路が開通し、いよいよ伊豆縦貫道が下田までつながる姿が想像できるようになりました。
 藤井 事業中の区間は、来年の開通を予定している天城北道路と河津下田道路の2カ所です。天城北道路は、地域の方からは河津桜まつりに間に合うように開通してほしいとの強いご要望をいただいていたところで、多くの喜びのお言葉をいただきました。
また、河津下田道路の河津IC〜逆川の区間は、現状だと道が狭く線形が悪いため、夏季の観光シーズンに観光バスを含む大型車が通行できません。今年5月に工事に着手した約2キロのトンネルを貫通させ、河津IC(仮称)と逆川IC(同)の区間を一日でも早く部分供用したいと考えています。トンネルができると下田まで約10分短縮されます。
天城峠を越える区間は、環境影響評価の手続きを進めていまして、11月に方法書の縦覧を行いました。
 望月 観光面の効果については、14年に東名と圏央道が結ばれたことで、関東圏から来るお客さまが2・6倍に増えています。内訳は、北関東(埼玉、群馬、栃木)が10%、南関東(東京、神奈川、千葉)と静岡県県内が各40%です。車を利用する方が都内を通らずに来られるようになったのが大きいですね。
 藤井 伊豆地域に来られる方は8割が車です。伊豆縦貫道が全線開通すれば、沼津から下田まで自動車専用道路で行くことができます。また、山梨県と静岡県をつなぐ国道138号須走道路・御殿場バイパス(西区間)も整備を進めていて、これができると、中央自動車道と新東名が自動車専用道路でつながります。
こうしたネットワークができることでより多くの観光客を伊豆に呼び込むことができるのではと考えています。また、災害に強い道路の確保にも寄与します。
 植松 道路整備の効果は企業誘致にもプラスに働きますね。
 望月 県は内陸のフロンティア事業(※1)を進めています。今まで小山町や御殿場市などの新東名沿いが主でしたが、伊豆縦貫道が部分開通して、伊豆半島の利便性も向上しました。三島市、伊豆の国市などは物流や通勤時間の短縮が大きなアピールポイントとなっています。
観光産業、スポーツ産業も、今後いろいろな動きが出てくると思いますが、まずは観光に直結するところに来てもらうのが良いと思います。すでにレンタサイクル事業が始まったり、既存の飲食店がリニューアルされたりもしています。
 藤井 先日も地元企業の方から、従業員の確保が難しい中、道路ができたことで通勤圏が広がって雇用環境が改善したと聞きました。



■「命の道」整備が喫緊の課題

 植松 次に、伊豆縦貫道の全線開通に伴う所要時間等の変化が伊豆に与える影響についてうかがいます。
 藤井 天城峠を越える区間は、今年1月に計画段階評価を終了し、1本のルート帯を対応方針として公表しました。この区間については環境影響評価と都市計画を進めるための調査を実施しており、それらが終わった後、新規事業採択時評価を経て新規事業化となります。現在90分かかっている沼津〜下田間が60分に短縮されます。
 また、道路はネットワークが形成されて最大の投資効果を発揮します。背骨だけでなく肋骨(ろっこつ)となる道路の整備も一体で進めることが重要と考えていて、ここは県としっかり連携して進めていきます。
 望月 住んでいる方の利便性向上も大きなポイントです。災害や救急医療面でいうと、まさに「命の道」の整備と思っています。
 先日、総合防災訓練を行いましたが、中伊豆地域から順天堂大静岡病院への搬送ルートの誘導を、正確に把握しておく必要性を感じました。
 また、自衛隊との合同訓練でも、確固たる道があって初めてそこを起点に、どう肋骨をつなげ目的地に行くかをシミュレートしておかねばならないと思った次第です。伊豆は一本道が多く、渋滞すると身動きできなくなります。肋骨道路の整備は急務ですね。
 藤井 県東部・伊豆地域で高度な医療を受けられる第3次救急医療機関は、順天堂大静岡病院と沼津市立病院しかありません。重篤な病気を患って1時間で治療が受けられるかが生死を分けるそうですが、今の道路ネットワークでは残念ながら五つの市町(※2)で1時間以上かかります。伊豆半島南部は、脳血管疾患、心疾患で亡くなる方が全国平均の2倍という調査結果もあり、アクセス面が関係しているのかもしれません。
 私たちは県と連携して、「伊豆版櫛(くし)の歯作戦」という計画をつくっています。伊豆縦貫道は東名、新東名からの救命ルートとしても期待されています。下田方面で津波が起きた場合、背骨の道路を核にして肋骨道路で救援、救命ルートを確保する計画です。

■藤井 和久 氏
国土交通省 沼津河川国道事務所 所長

2002年入省、近畿地方整備局浪速国道工事事務所(現浪速国道事務所)に配属後、在イラン日本国大使館、内閣官房、本省道路局、総合政策局などの勤務を経て、17年4月より現職

 


■道路整備でポテンシャル発揮

 植松 早期開通を実現するための地元の役割についてご説明ください。
 藤井 私の個人的な思いとしては、予算の状況にもよりますが、おおむね10年をめどに、下田までの全線開通を実現したいと考えています。
 道路を造るにあたり、重要なことが二つあります。一つは事業予算の確保、二つ目が地元の方々からの用地のご提供など、事業環境の整備です。予算を確保する上で一番大切なのが地域の方の声です。私の持論ですが、道路は造ることが目的でなく、どう地域の方々に使ってもらうかが重要です。地域の方々には、そこを今一度、全線開通を見据えて議論していただき、必要性について期成同盟会などを通じて東京や名古屋に発信していただきたいですね。
 望月 地域で観光業を盛り上げるためには宿泊や買い物で消費を増やしてもらわないとなりません。今までは点でアピールしてきましたが、背骨ができ、肋骨が整備されると、回遊性が高まりより多くのチャンスが生まれます。長期滞在も容易になるでしょう。河津桜を見てそのまま帰るのではなく、東伊豆を経由して伊東で泊まってもらう。春は河津だけでなく、桜の名所が各地にありますし、桜以外の花もたくさん咲いています。
 肋骨を整備し、大型バスが通れれば回遊性が高まります。2020年を見据え、早急に整備する場所、中長期的に取り組む場所を整理しながら進めています。
 藤井 3月に水わさび栽培が世界農業遺産となり、4月にはユネスコの世界ジオパーク認定がありました。また、自転車競技はトラックとロードの世界レベルの大会が開催できるようになるなど、伊豆半島への期待感が高まってきていると思います。
 デービッド・アトキンソン氏(※3)の本によると、世界の主要な観光地には気候、自然、文化、食事の4条件があるそうです。伊豆には全部そろっています。道路整備の醍醐味は、ポテンシャルのあるところに造ることで需要を喚起できることです。
 防災面でも脆弱(ぜいじゃく)ですから、地域の安全安心の確保と、暮らしと経済を支えるインフラ整備を当事務所としても責任をもって進めていきたいですね。
 望月 人は魅力がないところにはいくらアクセスが良くても行きません。どうやって魅力を発信するか、利便性を高めるかは地域振興の両輪と考えています。

※1 防災・減災と地域成長の両立を目指した取り組み。企業が事業を展開しやすい環境づくりとさまざまな支援を展開している
※2 下田市、東伊豆町、南伊豆町、松崎町、西伊豆町
※3 英国出身で日本在住の小西美術工藝社社長。日本の文化財修復の専門家

■望月 宏明 氏
県東部地域局 局長

1978年静岡県入庁、2011年健康福祉部子育て支援課長、16年文化・観光部伊豆観光局長(東部総合庁舎駐在)、17年文化・観光部スポーツ局長などを経て、18年4月より現職

■植松 恒裕
静岡新聞社・静岡放送

取締役東部総局長
1984年静岡新聞社入社、大仁支局、伊東支局、東京支社などを経て、2005年政治部副部長、09年社会部長、14年編集局長、16年取締役に就任。18年7月より現職

 




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