サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

風は東から美しい富士山は古来より、日本の象徴として日本人の山岳信仰や葛飾北斎らの浮世絵の題材にもなってきた。一方で、登山客の増加などによる自然環境への負担も懸念されている。2月は世界文化遺産登録から6年目を迎えた富士山の保全と活用について考える。富士山の価値とは、また、大きな国際イベントが控える本県で、どのように魅力を発信していくかを渡邉眞一郎県文化・観光部長に聞いた。(聞き手・編集部)

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

バックナンバー


富士山の魅力を商品化 負荷の少ない活用模索
■素晴らしさ再認識
―あらためて本県にとって富士山が世界文化遺産になった意義をお話しください。
渡邉 大きく二つあります。県民にとっては、富士山は見えるのが当たり前、まさに空気のような存在です。登録を機に、国際的にも大きな価値があると認められたことで、富士山の素晴らしさを再認識できたのではないでしょうか。
また、文化遺産になったことも大きな意味があります。自然の山としてだけでなく、信仰や芸術などの観点からも文化的な価値があり、皆で守っていくべきものだ、という意識をここで持った方も多かったと思います。あらためて富士山の価値をそれぞれの方が心の中で反すうされたのではないかと思います。
―富士山の要素は多面的です。景観以外の魅力を伝えるのが難しいですね。
渡邉 逆に言うと、富士山を見る方、訪れる方のそれぞれの感性にヒットするものが必ずあると思っています。まずは、こちらがメニューを提示し、特定のテーマに興味が出たら、さらに深堀りできる準備をしておくことが大事だと思っています。
―一昨年12月に富士山世界遺産センターが富士宮市に開設されました。富士山を後世に守り伝えるための拠点施設として、大変な人気を集めている点についてはどうですか
渡邉 オープン当初は個人客が多かったのですが、徐々に団体客も増えています。施設の外観を含め、再度来館していただけるだけの価値がある施設です。一度目は疑似登山をし、富士のパノラマを見てもらい、次からは一つ一つの回廊、世界遺産としての価値を説明するコーナーをじっくり見てもらいたいと思います。
本県は今年、来年と世界的なスポーツの祭典が開催されます。また、今年の4月から6月にかけ、JR6社による観光キャンペーンが始まりますので、来訪客はまだまだ増えていくと思います。

■登山者でにぎわう富士山(県観光協会提供)



■保全と活用を両立

渡邉眞一郎 県文化・観光部長
1982年静岡県入庁、2011年交通基盤部空港局空港経営課長、14年文化・観光部空港振興局長、16年交通基盤部部長代理などを経て、18年より現職

―昨年11月、ユネスコに最新の保全状況報告書を提出されましたね。
渡邉 本県では、保全状況報告書に記載した取り組みを着実に進めるための具体的な活動を行っています。例えば、富士山世界遺産課では、富士山の環境保全や登山者の安全対策のための原資を集める一環として登山者に保全協力金をいただいています。ご協力いただいた方にはバッジをお分けしていますが、登山口や年ごとにデザインや色が変わるので、とても人気があります。
―弾丸登山や軽装での登山など、課題もありますね。
渡邉 富士山静岡空港の担当だった頃、海外の方からTシャツで登れますかという問い合わせがよくありました。富士山が間近に見える空港なので、SNSなどで発信していただける一方、いつでも登れると勘違いされる方も多かったです。
登山シーズンが限られることや、標高の高い場所に登ることの意味をリアルに考えられる方ばかりではありませんので、啓発は大事と考えています。環境省、山梨県と一緒に「富士登山オフィシャルサイト」を立ち上げ、詳しい情報の提供はもちろん、登山用品を販売しているお店などにも啓発チラシを置くなど、地道な取り組みもしています。
また、観光で来て、ついでにパンプスで登ってきてしまった、という方もいますので、係の人間が各登山口であまりにも軽装の方には注意を促しています。最近は山小屋で簡単な装備も買えるようですね。このように、事前の周知と現場でのチェックの二本立てで進めています。
―静岡、山梨両県の登山口から年間20万人以上が登りますので、保全と活用の両立が課題ですね。
渡邉 「ご来光」の場面を写真や映像でよく見かけると思います。あの瞬間を見たい、撮りたいという「ピークハント」を希望する方が多いのですが、富士山にはご来光以外にもたくさんの魅力や楽しみ方があることを、きちんとメッセージとして出すのが大事だと思っています。
登山ルールの周知は当然として、登山以外の楽しみ方をどう発信するか。最近は5合目から自然を見ながらガイドと一緒に下山するツアーが人気です。また、マイカー規制のある夏場にシャトルバスの発着場となる水ケ塚公園では、散策しながら豊かな自然が楽しめます。他にも富士山と景観、富士山と食といった具合に、富士山と何かを組み合わせた提案をしていきたいですし、すでに一部は旅行商品として販売されています。
 


■満足度高いツアーに

■バスに乗る外国人観光客でにぎわう河口湖駅(山梨県)

―景観保全の課題として、特に電柱は美しい富士山の姿を邪魔していますね。
渡邉 周辺の道路整備や景観形成は交通基盤部と協力して進めています。白糸ノ滝周辺の電柱の撤去は昨年終了しました。電線の問題は一朝一夕には進みませんが、今後も眺望の良いビューポイントを重点的に進めていきたいと思います。
―世界から来る方に山の美しさだけでない魅力をどのように伝えますか。
渡邉 例えば、ラグビーワールドカップでは、試合を見るために3週間から1カ月という長きにわたり日本に滞在する方が少なくありません。試合の合間に日本を観光しようという方にとって、初めてであればやっぱり富士山は外せないでしょう。
来日前の予定を立てる段階では、さまざまな魅力を理解できるよう、ウェブなどを使った多言語での情報提供を行い、来日後は分かりやすいアクセスとオプショナルツアーの準備など、必要な情報がきちんと届けられる整備をしていきます。
富士山の登山シーズンはたった2カ月です。けれど、下山ツアーや山麓の構成資産を巡るツアーは、四季折々楽しめますし、その後ろには常に富士山の姿があります。雪をかぶった富士山は人気が高いので、ピークハントだけでなく、そういう場面を積極的に提案して、富士山だけに負担をかけることなく、かつ満足度の高いツアーを数多く仕掛けたいですね。


富士山を真ん中に―日本富士山協会の取り組み
上野裕吉事務局長
日本富士山協会は、2001年に、山梨・静岡両県と周辺13市町村、観光関係者が設立した。「富士山憲章」を行動の指針に、富士山の魅力の発信とイベントを通じて、富士山の楽しみ方を提案している。
事務局長を務める上野裕吉さんは「富士山の周辺には、構成資産をはじめとする神社仏閣、それらをつなぐ巡礼路、また自然の景観は言うに及ばず、13市町村それぞれが特徴的な食文化を持っています。こうした魅力を『富士山』を真ん中にして眺めてみることで、楽しみ方が無限に広がるでしょう」と語る。
今までに同協会が作ったパンフレットは英語版、中国語版、韓国語版の富士山エリアガイドをはじめ、中腹域のハイキングや山麓の街中散策ガイド、富士山絶景スポットガイドなど多数。
富士山の魅力をいろいろな切り口で取り上げており、富士山麓の観光案内所や道の駅などで配布している。協会ホームページでも見ることができる。
■富士山のさまざまな楽しみ方を提案する地図


■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.