サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から東部地域の活性化に向け、官民一体で提言を行うサンフロント21懇話会は、活動の模様や地域が抱える課題を毎月1回「風は東から」で取り上げている。本年度は、スポーツによる地域振興や、動物愛護の取り組みなどを取り上げた。年度最後の3月は、川勝平太知事、県の農業研究をリードするAOI機構のシニアアドバイザーで理化学研究所の和田智之氏を迎え、ファルマバレープロジェクトを中心に東部の地域づくりについて聞いた。聞き手は静岡産業大総合研究所長でふじのくに医療城下町推進機構の大坪檀理事長。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ12

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健康と食の研究が加速 次世代への産業振興を
■医療城下町を具現化
大坪 ファルマバレープロジェクトは国内クラスターの中でも存在感を増しています。旧長泉高跡地にできた中核的支援拠点「ファルマバレーセンター」も昨年4月に新法人となり、私が理事長を仰せつかりました。ここには、テルモをはじめ十数社が進出しています。
川勝 本県の医療機器・医薬品の生産金額は7年連続全国1位です。それに化粧品を合わせると1兆数百億円と断トツの生産金額を誇ります。2011年には内閣府の「ふじのくに先端医療総合特区」に指定され、17年度にはライフ・イノベーションの分野で全国一の評価をいただきました。名実ともに日本トップのプロジェクトに育ちましたね。
静岡がんセンターの山口建総長を中心に、ものづくり、ひとづくり、まちづくり、世界展開と四つの戦略を進めてきましたが、ものづくりについては、すでに100以上の成果品を生み出しました。ひとづくりでは慶応大、早稲田大、東京工業大、東京農工大と連携し、国際的には英科学誌「ネイチャー」にも載りました。まちづくりは、面的広がりを見せてきて、山口総長が提唱する日本最初の「医療城下町」の具現化が現在の課題です。
大坪  県東部には新しく、農業分野の研究開発拠点AOI-PARC(アオイパーク)が開設されました。
和田 活動のテーマが二つあります。一つは「健康科学」。日本は長寿国と言われて久しい一方、要介護の期間も長いのが課題です。健康状態を正確に把握して、将来予測をし、どうしたら健康な状態を長く保てるかの研究をしています。
もう一つは農業です。農作物の機能性を高めることで、食べて健康になる。農業だけでなく、食品産業も含めて、健康に寄与する新しい産業を創りたいと考えています。
今、農業はAI(人工知能)やIOT(モノのインターネット)などの技術革新がすごい速さで進んでいます。ゲノム(遺伝情報)や環境制御、機能性分析などの分野です。衛星から地球を見ながら環境をコントロールしたり、植物工場の技術だったり、農業でも使える技術が発展していく中で、それらを統合する場所がありませんでしたが、AOI-PARCができたことで、そういった技術を統合して世の中に見せられる場所を提供いただいたと思っています。

川勝平太 知事



■食を通じた健康を研究

川勝 健康長寿を実現するには「食生活、運動、社会参加」が大切です。特に食生活は、健康と密接に関わります。本県の農産物の品目数は300以上で全国一です。それらはいずれも、土壌、品種、肥料、農機具などの改良のたまもので、高品質の「農芸品」です。
これらを科学的に分析・計測して、どのような環境で育てればおいしく、形が良く、栄養があり、安全で安心な野菜果実ができるのか、環境制御や機能性分析はAOI-PARCの研究テーマですね。
大坪 農業は、大成長産業だと思っています。「儲かる農業ビジネス」という本を書きましたが、農業関係者が一人当たり1千万円くらい稼げるようになるといいですね。ポテンシャルはありますが、それには科学技術の支援が欠かせません。
和田 農業を産業からとらえるというお話がありましたが、産業化しないと若い人が入ってきません。やりがいにつなげないといけない。就業側からとらえる面もありますし、知的好奇心を刺激させる産業にしないとならないと思います。
川勝 AOI-PARCの成果として生鮮野菜ではわが国初のソフトケールが機能性表示食品に認定され、人気を博しています。
和田 皆さんが健康かどうかを判定する数値はずっと昔に決まったものです。実は、未病と呼ばれる状態にいる方がたくさんいます。その健康状態を測れる技術を理研は作っています。血液検査をしなくても、この方が将来的にどう推移するかが分かる技術です。それにより健康状態を維持できるのです。食べたものの効果によって、自分の健康が前にいくか後ろに行くかを評価できる技術ができています。
機能性成分で売り出すためには見る、測るなどの技術があるとまったく違います。そういう技術と抱き合わせれば機能性成分のある食べ物をもっとたくさん売り出せると思っています。ケールはその中の一つです。

和田智之
AOI機構シニアアドバイザー

理化学研究所光量子工学研究センターチームリーダー



大坪 檀 静岡産業大学
総合研究所所長
サンフロント21懇話会アドバイザー

 


■4クラスターで新産業創出

大坪 ファルマバレーの次なるテーマは「健康長寿で暮らせる家を作ろう」「介護機器を開発しよう」といったものです。創薬探索など、今まで地元企業がなかなか入り込めない部分もありましたが、このテーマなら参画しやすいのではないでしょうか。
これを機会に、県内各地の商議所にファルマバレーを見に来てもらうようにしています。健康寿命を延ばす総合的な産業を一緒に作っていこうという第一歩です。
川勝 まちづくりでは、バリアフリーの家のつくり方、買い物、介護・医療の福祉サービスなどを身近にする町のデザインなど、それらを実現していけば、医療城下町になっていきます。
東部はファルマバレーとAOI-PARC、中部はフーズ・サイエンスヒルズ、西部はフォトンバレーと、地域の特性を生かしたプロジェクトが進んでいます。それらの結合が課題です。ファルマバレーとAOI-PARCの連携はもちろん、そこにフーズ・サイエンスヒルズやフォトンバレーの知見も入れ込んでいきたいですね。
和田 実は農業の基本は光です。光のエネルギーを取り込む仕組みというのが農業で、そのエネルギーが機能性成分を作っているのです。
先ほどのケールにしても、光で成分が制御できます。青汁で使う時には、徹底的に機能性を高めた方がいい。ただし、苦くて食べられません。野菜で食べる場合は、機能性は少し犠牲にして食べやすくします。人や地域によってどこまでの苦さに耐えられるかも違いますので、将来、オンデマンドの野菜ができるようになるのです。
川勝 光が環境の主要な構成要因で、光を制御することで生育をコントロールし、必要な栄養成分を伸ばすというのは魅力的な話ですね。
大坪 ファルマバレーでは介護機器の開発に力を入れていきますが、食を通じて認知症を軽減する研究も進んでいると聞きました。
和田 認知症になる20年も前からある特殊なたんぱく質が骨髄液の中に出ることが分かっています。70歳で発病するとすれば、すでに50歳でその傾向が表れている。それを計測し、この人にどういった食べ物をオンデマンドで作っていけばいいかが分かる研究が進んでいます。
川勝 ビッグデータと疫学とゲノムをベースに、人の健康状態を正確に捉えて、それに応じた食生活を提案するわけですね。今、平均寿命と健康寿命には10歳ほど差があり、それを縮める研究が先進国でなされています。本県は、健康寿命が高く、健康のまま天寿を全うするという人類の夢を実現するには、いい立ち位置にいます。
和田 これをぜひ産業にしてもらいたいですね。若い方を巻き込みたいと思います。これが産業化されればまた違った産業も生まれるので、その役割をAOI-PARCが担えればと思っています。
大坪 県内4クラスターに働き掛けたら、一緒にやろうという話になってきました。次世代の大きな産業興しにつながっていくと思います。



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