サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

風は東から 清水港と土肥港を結び、富士山の景観を楽しみながら海の県道223号を航行するフェリー。今年、民間企業から県と3市3町(静岡・下田・伊豆市、西伊豆・松崎・南伊豆町)でつくる一般社団法人に運営が移管された。6月の「風は東から」はふじさん駿河湾フェリーを取り上げる。一度は廃止の危機に陥った同フェリーの運航を継続した背景や伊豆にもたらす効果について、一般社団法人ふじさん駿河湾フェリーの理事長を務める県の難波喬司副知事に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3

バックナンバー


海上に公共空間誕生 地域で財産化し活用を
■潜在需要を掘り起こす

難波 喬司氏
静岡県副知事

国交省で関東地方整備局港湾空港部長、大臣官房技術総括審議官などを歴任し、2014年同省を退職。同年5月から現職。

―今年の大型連休の乗船客は前年比35%増となりましたね。
難波 JRのデスティネーションキャンペーン(DC)と重なり、本県の観光入込客数は全体的に伸びていますので、われわれのPR効果がどの程度かというのは相当割り引いて考えないといけないと思っています。ただ、それだけ伸びる余地がある、ということは注目したいと思います。いろいろな形のキャンペーンや企画努力をした結果が35%増に表れているので、潜在的な需要はあると考えています。
―運営の継続を判断されたポイントは何ですか。
難波 例えば名古屋の方が伊豆に行こうか、熊野に行こうか、といったときに、フェリーの存在が有利に働きます。実際、観光バスの企画ではフェリーに乗ることが大きな魅力になっていて、たくさんのバス旅行を呼び込んでいます。ですからフェリーの廃止は伊豆の集客力の低下につながります。
もう一つ、地域経済や社会への波及効果もあります。民間企業の場合は直接の損益で判断せざるを得ませんが、われわれの場合は地域社会、経済全体にプラスかどうかが一番大きなポイントです。
フェリー廃止の場合、年間21億円の経済損失が生じるという試算結果が出たため、存続を決めました。
―年間17万人の利用客を20万人に押し上げる計画だそうですね。
難波 まずは地域との連携です。今まではフェリーと一緒に何かする、魅力を伝えるということを地域もあまり意識していませんでした。けれど、廃止の話が浮上したことであのルートの大切さがあらためて認識されたと思います。これからはフェリーと地域が一体で魅力を高め伝えていく、それが結果的に乗船につながり、宿泊につながるという事になると思います。

■悠々と航行するふじさん駿河湾フェリー。新たな伊豆観光の目玉となることが期待されている

また、単なる移動手段にとどめず、公共空間ととらえて活用していきます。「海テラス」とでも言いましょうか。そこで食やお酒を楽しんだり、コンサートやトークショーなどをやったりしてもいいでしょう。
子育てをしている方々から、お子さんを預けながら親御さん向けのセミナーや悩みの意見交換をしたらどうか、という提案をいただきました。お子さんたちが安全に遊べる空間を船内に確保できますから、地域のコミュニティーホールとしても利用できます。このような公共空間としての使い方は今までのフェリーではやってこなかった部分です。


■地域一体運営の機運を
― 今年から来年にかけ、県内では大きなスポーツイベントが行われます。富士山静岡空港もあり、インバウンド需要の取り込みをどうお考えですか。
難波 お客さまがたくさんお見えになることで本県の認知度が上がり、それに伴いフェリーの認知度も上がると思います。その上で実際に乗ってもらわないとなりません。今、伊豆は「サイクリングの聖地」を目指していますので、サイクリングとの連携はやはり強化していきたいと思います。
気楽にサイクリングを楽しみたいという方には、e-BIKEですね。鉄道で来て、船に乗って、伊豆で降りたらe-BIKEで西海岸や修善寺に行くのはとても楽しいと思います。
空港との関係でいうと、韓国のチェジュ航空やエアソウルなどLCC(格安航空会社)のお客さま向けにPRをしたい。LCC利用の多くが個人客です。皆さん、思い立った時に来る気軽なイメージです。日本のどこかに行ってみようかという時に、韓国は海へのあこがれが強い国ですので、静岡でフェリーという選択肢は大きな魅力です。中国の方も同様ですね。

■関係者によるテープカット(6月1日)

― 最後に抱負をお聞かせください。
難波 まずは交通機関としての安全性の確保と確実な運航です。海上運送事業の大前提ですね。そこはしっかりやりながら、新たなイベントや取り組みを進めたいと思います。
もう一つは、伊豆、静岡の地域の方々と一体で運営するという機運をもっと高めていかないとなりません。県と3市3町、各市町観光協会等でつくる環駿河湾観光交流活性化協議会(会長・土屋優行副知事)などと共に、伊豆全体で盛り上げて連携していく形になると思います。
また、静岡市と伊豆地域の観光や商業などの関係5団体に「駿河湾フェリー応援隊」も結成していただきました。出張などでフェリーを利用する企業や団体は、応援隊にどんどん加わっていただきたいと思います。
黒字化ももちろん大事ですが、観光客の方に楽しかったねと思ってもらい、地域の方にも存続してよかったねと思っていただける存在にしたいと思います。
 

多彩なルートで魅力発信
■田中豊 下田商工会議所会頭
海上の船旅は70分。富士山や美しい駿河湾を見ながら食事を楽しむにはもってこいの優雅な時間だ。地元の食材を県が認定する「食の仕事人」が調理するといったことも可能だろう。
海から見る伊豆半島は非常に美しい。世界ジオパークに認定された複雑な海岸線は、普通ではなかなか見られない光景だ。深海の駿河湾にもぜひ思いをはせてもらいたい。
伊豆の魅力を詰め込んだモデルルートをつくりたい。土肥に着いてからは市町をつなぐ広域の視点で、お客さまの趣味嗜好(しこう)に合わせ、季節に合わせ、花の時期はここ、滝を見るならここ、といった提案をしていきたい。下田な1月のスイセンまつり、6月のアジサイまつりなど、コンテンツには事欠かないのが伊豆のすごさだ。
時々は下田まで航路を延ばしてはどうだろうか。石廊崎を回る際の海流で操船が難しいと聞くが、新たな海のルートづくりとしてぜひ検討してもらいたい。
オンリーワンの観光素材生かせ
■萩原 仁 JTB静岡支店副支店長(サンフロント21懇話会会員)
フェリーによる船旅は、単なる移動手段としてだけでなく、「船に乗ること」や「船内での過ごし方」そのものの魅力づくりが大切だ。例えば、清水〜土肥間の船内からは、駿河湾上に浮かんでいるような富士山の眺めを乗船した方だけが堪能できる。これは全国でもこの地域だけが持つオンリーワンの観光素材ではないだろうか。地元では当たり前のことでも、見逃してしまうのはあまりにもったいない。
1日4便のうち、朝と夜便の稼働率をいかに上げるかも一つの課題だが、宿泊と組み合わせ、朝または夕方ならではの眺めといった楽しみのポイントを折り込むなどの工夫も必要だろう。
外国人観光客が増える中、特に最近は団体旅行から個人旅行へのシフトが顕著だと言われている。レンタカーやタクシー、高速バスなどとフェリーによる移動の組み合わせによって、個人旅行のニーズをもっとキャッチできる可能性は高まるのではないか。
また、自転車にも注目したい。現在でもレンタサイクルは各地にあるが、乗り捨てできる仕組みが広がれば地域内での回遊性が増すことも期待できる。ハード面での安全性や分かりやすさへの配慮はもちろん必要だが、エコで小回りが利く自転車での観光は、地域の人々と観光客との交流拡大ももたらしてくれそうだ。
発着地が連携し、どのようにおもてなしを具体化していくのか。われわれも地元の市町や観光協会の方々と一緒に考えていきたい。


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.