サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から健康ブームや自転車ブームを背景に、伊豆でサイクリングを楽しむ層が広がっている。狩野川沿いの堤防は、週末ともなるとカラフルなウエアに身を包んだサイクリストが数多く行き交い、主要な観光施設や駅などでは乗り捨て可能なレンタルサイクルのサービスも始まっている。8月の「風は東から」は、伊豆で台頭する自転車を切り口にした新たなサービスを取り上げる。事例を紹介しながら、なぜ民間の参入を引きつけているのか、関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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伊豆の魅力 自転車で発見 観光に新たな価値観も
■サイクルスポーツの拠点にMERIDA X BASE

■ニューモデルの自転車200台がずらりと並ぶ 全て、試乗が可能だ(MERIDA X BASE)

 昨年9月に道の駅「伊豆のへそ」(伊豆の国市)に台湾のバイクブランド「MERIDA」(メリダ)が開設した「MERIDA X BASE」(メリダ・エックス・ベース)。同社の展示・乗車施設の中で世界最大規模となる施設で、常時最新モデル200台が並ぶ。
 伊豆は、伊豆半島1周サイクリングやツアーオブジャパンなどが開催され、競輪学校が立地するなど、起伏の多い地形を楽しむ上級者向けの地域だ。他方、風光明媚(び)で食や温泉があり、首都圏に近い。年間観光客4000万人を超える、日本を代表する観光地だ。
 同施設を運営するミヤタサイクルの福田三朗マネージングディレクターは「E-Bike発売を機に、コア層だけでなく幅広い客層に提案できる体制が整った。この地域は観光コンテンツが豊富なので自転車との親和性も高い」と進出の理由を語った。
 当初はレンタルバイクのみだったが、観光客や地元の方にも自転車の魅力を伝えようと、ガイドツアーや自転車の扱い方を学ぶ「サイクルアカデミー」などメニューを充実させてきた。

■福田三朗ディレクター(左)と品川真寛マネージャー 品川さんはロードレースの元選手でMTBの現役選手

 ガイドツアーは基本コースをもとに参加者の経験や希望を聞きながらカスタマイズする。人気はだるま山を巡るツアーだ。「車なら一瞬だが、坂道を自分の足で登ったという達成感は自転車ならでは。今まで経験者でないと味わえなかったが、E-Bikeの登場でお年寄りやお子さんまで楽しめる」と福田ディレクター。「伊豆は山、海、川などがコンパクトにまとまっていて、多様な自然が凝縮されているのも魅力」と語る。
 サイクルアカデミーで講師を務めるのは、元世界選手権日本代表や同社所属の元選手だ。「今後は地元警察と連携し、小中学校向けの安全教室を開いたり、地元自転車競技部等をサポートをしたりしながらサイクルスポーツを根付かせたい。シルバー世代には自転車を活用した未病対策ができるのではないか」と福田ディレクター。X BASEの可能性はまだまだ広がりそうだ。


■長期滞在の場提供へ  ― コナステイ

■木目をふんだんに使ったロビーに立つ大嶽龍太郎社長(右)と横山圭新執行役員

 伊豆の国市長岡の老舗温泉旅館をリノベーションし、今年3月にオープンした「コナステイ」。自転車をテーマにした全国でも珍しいホテルだ。
 運営するコナリゾートの大嶽龍太郎社長は「開業にあたり、ここにはコンテンツはすでにあるので、お客さまが自由に移動できることが最大のメリットではないかと考えた」と語る。移動の仕組みとして自転車を導入、最終的にはE-Bikeのレンタルを中心とした宿に着地した。
 スタイリッシュなエントランス、開放的なロビー。フリースペースでは自転車をモチーフにしたイラスト展も開催されている。女性向けの簡易宿泊施設も完備し、朝食は付くが、共有のキッチンスペースもあり、自炊や簡単なパーティーも可能だ。
 現場を預かる横山圭新執行役員は「自転車に乗っている方はもちろん、自転車に興味のない方がおいしいものを食べに行こう、観光に行こうというときに自転車を使ってくれて、それが面白かったとなるのが理想」と言う。
そこで今後、力を入れていくのが「ガイドツアー」。同社スタッフがガイドを務め、地元のガイドとも連携し、地元だから知っている店やコースを提案していく予定だ。
 インバウンド需要も多い伊豆長岡は主にアジア圏からの団体客だが、欧米のサイクリストも3泊4日で楽しんで帰るという。横山執行役員は「地域の密度が濃く、山、海、町中を短時間で楽しめるのが受けている」と語る。
 金融機関や行政からは地方創生の新しいモデル事業としても注目を浴びている。部屋や料理を変えるだけのリノベーションとは違い、自転車がテーマで、夕食は周辺の飲食店を利用することなどが評価されている。
 大嶽社長は「この地域がスキーでいうニセコのようになるといい。世界中のサイクリストが長期滞在を楽しめるポテンシャルは十分にある。地元の方たちとどのように受け入れ態勢をつくっていけるか。五輪をきっかけにこの地域が自転車フレンドリーな地域というのを発信したい」と語った。
 


■地域文化再生に一役  ― 山伏トレイルツアー

■松本潤一郎代表はトレイル専門誌に寄稿するなど、活動も多彩

 松崎町に1200年前からある炭焼きや生活物資を運んだ道を再生し、マウンテンバイクの「山伏トレイルツアー」としてよみがえらせた「ベーストレス」の松本潤一郎代表。海外経験が長く、ネパールやカラコルムを歩いて旅するのが好きだった。地元のお年寄りから、松崎にも昔の道があると聞き、再生すれば観光に使えるのではないかとひらめいた。
ネパールなどもトレイルを観光に活用して人気を博しており、5年をかけ40キロを整備した。古道を走る上中級者コースに加え、松崎の町並みや田んぼを使った花畑を観光しながら案内するツアーなどもある。
 客層の7割がマウンテンバイク愛好家、3割が体験や家族利用だ。2泊3日など連泊客に人気という。松本代表は「海外にもここほど自然環境が手に届くところはめったにない。海が近く、山が迫っていて、かつ山の中に歴史がある。昔の炭焼きに使った跡だったり、馬頭観音の石仏が発掘できたり、まるで南米のインカトレイル並みにすごい魅力」と絶賛する。特に海外の観光客は古道再生の物語を面白がるため、インバウンド利用も徐々に増えているという。
 そもそもマウンテンバイク専用フィールド自体が日本にはあまりない。先行する長野県は冬場、雪のため閉鎖されるが、ここは一年中楽しめる。加えて、温泉も、海の幸もある。温暖な気候で、首都圏からも近く、冬の方が利用者は多いという。
 古道の整備と併せ、周辺の山林の整備も山主の依頼で行っている。古道再生プロジェクトは、山林の整備に広がり、今では間伐材を内装に利用した宿泊施設もオープンさせた。
 「山の遊びは最高に面白いし、古道を再生させ、循環させ、木を切って宿にする、その一つにマウンテンバイクが回っている。違う観光を創るというつもりでやっている」。千年前から続く生活文化を今の時代に合った形に変える、これが現代の新たなリノベーションの形かもしれない。
 
スポーツの新文化を創造 ― 県東部地域スポーツ産業振興協議会 稲田精治会長
 5年前に県、東部・伊豆の20市町と民間で県東部地域スポーツ振興協議会(E-Spo)を立ち上げ、その中にサイクル部会を作った。当初はモノから入っていこうということで、サイクルラックを作り、サイクルピットを広めてきた。2年後に五輪の自転車レース開催が決まり、一気にソフト分野に方向転換してきた。
E-Spoの役割は行政の考えを実現に向けてサポートすることだ。また、行政の手が離れた後に民間で自立継続させていくことでもある。
最近は、行政のサポートから徐々に民間会員のサポートに軸足が移りつつある。
今まで伊豆は景観、温泉、食が魅力だった。ただ、それらは全国どこにでもある。そこにスポーツの魅力、中でも自転車を入れることで、新しい価値を生み出すお手伝いをしている。
 伊豆の地形はアップダウンがあり、自転車愛好家には良いフィールドだが、観光客や家族連れにはハードルが高かった。E-Bikeの登場は伊豆にとって画期的で、家族やカップルで多くの方々に楽しんでもらえるツールであると感じている。今後は、この流れを止めることなく、また単なる産業振興にとどまらず、自転車文化として地域に根付かせたい。それがE-Spoに課せられた使命だ。


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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