サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

風は東から観光業のみならず、各業種で人材不足が叫ばれている中、伊豆半島も例外ではない。9月の「風は東から」は、先月行われたサンフロント21懇話会伊豆地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、熱海市観光建築部の立見修司次長、高崎商科大の熊倉浩靖特任教授、NPOサプライズの飯倉清太代表理事が登壇し、伊豆の振興と人口減少時代の課題について議論した。コーディネーターは企業経営研究所の中山勝常務理事(サンフロント21懇話会TESS研究員)

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

バックナンバー


伊豆の持続的発展へ 選択と集中を迅速に
■地方創生で疲弊も

中山 人口減少時代に、伊豆地域の振興をどう考えるかについて討論します。まずは伊豆の現状と課題について説明をお願いします。
飯倉 伊豆の知名度は抜群ですが、一歩踏み込んだ情報は案外知られていません。どのような情報を誰に、どうやって出していくかが重要です。伊豆の宿泊客数のピークは1991年でした。そこから右肩下がりをたどっていますが、見方を変えれば他の地域が増えていると言えます。そこから研究していかないとならないと思います。
立見 V字回復といわれている熱海の観光ですが、実は昭和の高度成長時代は400万〜500万人の宿泊客がありました。
今はシティプロモーション計画を作り、熱海の魅力をもう一度しっかり発信する取り組みとして「ADさんいらっしゃい」や「意外と熱海キャンペーン」を行っています。重要なのは全市的な取り組みにすることで、行政、観光事業者だけでなく、NPOや交通事業者などと熱海で稼げる仕組みをつくろうとしています。
日本人観光客が減る中でインバウンドが注目されていますが、唯一日本人が減らない首都圏にいかに情報を届けるかがカギと思っています。首都圏において認知度を高めることで将来顧客をつかむと考えています。
課題は、宿泊施設の稼働率が高まる中での人材不足です。労働者も高齢化し、予約は入っているのに部屋を全部使えない状況が出てきています。こうした問題は各旅館に任せるだけでなく、全市、あるいは伊豆全体で取り組む課題と考えています。
熊倉 この数年、地方創生で交流人口や関係人口が増えればやがて定住人口になる、という方程式を立て、さまざまなイベントが行われてきました。
確かに発信力や交流人口は増えましたが、実は人口は減っています。それは群馬の事情なのか、伊豆もそうなのでしょうか。
2010年と15年を比較すると、観光交流人口が伊豆地域全体で14%増えました。熱海市は20%近く、伊豆市も13%増えました。
しかし人口は、熱海市は5%減、伊豆市は8.4%減、県全体では1.7%減りました。つまり一生懸命努力し、さまざまなことをしたにもかかわらず地方は疲弊しています。東京の大都市部を除いては、みな同じ課題です。

■立見修司
熱海市観光建築部次長

1991年日本大法学部卒、同年熱海市役所入庁。観光企画室長、美しい伊豆創造センター出向などを経て、2016年観光経済課長、18年より現職



■熊倉浩靖
高崎商科大特任教授

シンクタンク勤務、群馬県立女子大教授を経て現職に。現在文化審議会副会長、NPOぐんま代表理事、群馬テレビアドバイザーなど



■稼ぎ方を地域で考える

中山 地域全体がどう持続的に生き残れるか、そのためにお互いが持つ資産を自分たちのために見直す必要があります。持続的にこの地域を発展維持させるためには、地域の資源を磨き上げ、ネットワークを構築することが重要ですね。
熊倉 群馬でも旅館の従業員は不足しています。大きな原因は働いてくださる方が子育てと介護で忙しい時間が、旅館の忙しい時間に重なります。そういう中で、子育てが終わったお年寄りがその時間を手伝うよ、という動きが出ています。SDGs(持続可能な開発目標)の在り方の一つです。自分たちの資源をどうつなげて無理のないように継続してくのかが問われています。
群馬はオール群馬の成功体験が1回ありました。生糸産業です。その成功体験をもう一度復活させたい、でも今は生糸ではなく温泉だと考えています。
伊豆はジオパークが産業構造を支えるテーマになるのではないでしょうか。東京に一番近いジオパークであり、温泉と豊かな農産物、海産物が提供できます。これをどうやって伊豆の産業構造にできるのか。ユネスコは、地球という貴重なものを守りつつ、地域振興に使っていこうと提唱しています。
立見 熱海ではいかに宿泊客を増やすかが共通認識です。それに向けて自分たちができることを進めています。観光協会は熱海に来てもらうまでが役割で、来ていただければ宿のおもてなしでリピーターになります。また、魅力あるお土産づくりを進めています。
今は若い女性が多く来ています。若い女性に人気のスイーツの店が増えています。次は何か、地元のものを食べたいという声が出てきます。熱海には一通りのものはありますので、ここで取りあえず食べてもらって、もっと食べたい場合はその先に行っていただく。
幸い熱海は伊豆の玄関口です。いかに熱海が伊豆の魅力をプレゼンテーションできるかで、今後伊豆全体のお客さまが増えるのではと思います。それには広域的に、組織をいかにつくるか。県の伊豆観光局や美しい伊豆創造センター(美伊豆)と積極的にかかわりを持ちつつ一緒に努力していきたいと思います。
飯倉 産業界にはCSR(企業の社会的責任)、CSV(共通価値の創造)があります。昔は期末にお金が余ったらどこかに寄付するといったことをやっていましたが、今は期首に予算を組み、他の団体や企業と一緒に地域貢献すること自体を自分たちの広告としています。つまり、信用を積み立てているんですね。
大企業と小さな企業と民間団体が地域活性をやってしまって、行政がそこに入れない可能性があります。スピード感がだんだん違ってきています。
伊豆半島の行政は、去年まで3人でやっていた仕事を今年は2人でやるような状況です。当然片手間になってしまい、それぞれの仕事が薄くなってしまう。
ですから、やること、やらないことをきちんと分ける時期に入ってきたと思います。民間と組むことが行政にとってとても大事になると思います。また、地方創生事業をする際、せっかく東京から地域に入ってきたお金を東京の事業者に流してしまっています。地域の事業者に仕事を任せないと、お金もノウハウも地元にたまりません。そこはシティマネジメントとして見直すべきだと思います。

■飯倉清太
NPOサプライズ代表理事

地域活性のためのNPOサプライズを設立。民間100%出資の移住定住施策「ドットツリー」プロジェクトデザインを担当し、ソーシャルビジネスを営んでいる



■中山勝
企業経営研究所常務理事

スルガ銀行入行後、1982年企業経営研究所出向。首席研究員、部長を経て2008年常務理事。サンフロント21懇話会TESS研究員



■原点に立ち返り努力を

中山 今後、伊豆はどんな地域になると良いと思われますか。
立見 「伊豆は一つ、ひとつずつ」という話がありましたが、画一的な味でなく一つ一つの味があるといいですね。文学、世界遺産、ジオ、景観などを結びつけるのが美伊豆の役割で、市町の役割はそれら資源を磨き上げることです。熱海で言えば宿泊客を増やすことですが、泊まったお客さまにご満足いただけるサービスは一市町ではできません。
熊倉 まずは「知っているつもり」を一度退けましょう。お互いに知り合って動き始めるのがいいのではないでしょうか。隣の町を見に行って熱海に泊まってみる、そこから解決策が見えてくるのではないでしょうか。観光とは「国の光を観(み)る」ことです。自分たちがよそに行って国の光を観て、改めて自分たちのところを観て磨き上げることです。その原点にもう一度戻ってやってみることが必要です。
飯倉 「おもてなし」という言葉は、相手の好みに応じて組み立てることで自分の好みを押し付けることではありません。作ってから売るのでなく、作る前に調べる、それが根本です。
中国のニュースはテレビで見るのに、伊豆のニュースはあまり知りません。伊豆箱根鉄道の三島―修善寺間の運賃が510円は高いと言いますが、実際に修善寺から三島まで歩いてみたら安く思えました。誰を見て仕事をするかを決定し、何をするか、なぜやるかを決める必要があると思います。
中山 これからの地域づくりにおいて「持続的発展」や「選択と集中」は重要なキーワードです。それを念頭に、伊豆各地が豊かに実るブドウの房のようになると良いですね。

 


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.