サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から県東部で医療健康産業の集積と振興を図るファルマバレープロジェクト。がん患者のベッドサイドニーズを満たす医療機器などを多数生み出してきた。この成果を踏まえ、新たな取り組みとなる「健康長寿・自立支援プロジェクト」が始まった。1月の「風は東から」は同プロジェクトのうち「人生100歳住宅整備プロジェクト=終の住処(ついのすみか)プロジェクト=」を中心に紹介する。“最期まで自分らしく暮らせる部屋”の実現に向けた関係者の意気込みを聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10

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人生100年にふさわしい未来の住居開発に挑戦
■課題解決へ四つの戦略

「人生100年時代」が当たり前に語られる昨今、最期まで自分らしく過ごせる環境をどうつくるかは、先進国共通の課題。超高齢社会に加速度的に突入した日本はこの課題に真っ先に立ち向かわなければならない。
ある研究によると、60歳を過ぎた日本人男性のうち、19%が何らかの介護を受けている。一方で、70%は70歳を超えるまで自立、残り10%は80、90歳まで自立できている(図1)。女性もほぼ同様だが、「自立」を維持する青線部分がなくなる。この19%(赤線)や70%(黄線)をいかに右側にずらせるか。それには白内障、難聴、筋力低下などの老化現象や一部の重篤な疾病(認知症、脳卒中、心臓病、がんなど)への対策をしっかり取ることが重要だ。
ファルマバレープロジェクトはこの課題を解決する四つの戦略を立ち上げている。
その一つ目はゲノム医療を中心とした予測・予防。二つ目は福祉・介護用品の情報提供と機器開発。三つ目は高度な疾病対策。そして四つ目が住環境の整備。自立や介護がしやすいさまざまな工夫が施された「終の住処」の開発だ。
 
■山口建 県立静岡がんセンター総長
県立静岡がんセンターの山口建総長は「このプロジェクトが、超高齢社会の進展で将来破たんする可能性が高い医療・介護の救世主となることを目指したい」と語った。また、ビジネス面でも、高齢化を迎える他の国々にこのシステムを導入できる、と山口総長は意気込んでいる。


■終の住処 プロジェクト始動
すでに首都圏では、看護師、社会福祉士など人的サービスを手厚くした高額な介護付きマンションが販売されている。75歳で終身契約をした場合、1億7000万円(別途月額利用料26万円)で、富裕層が対象だ。こうした人的サービスを、機器の活用で安く提供できないかーという可能性を探るのが同プロジェクトの大きなテーマだ。
現在、ファルマバレーセンターは「最期まで自立できる機能を組み込んだ20年後を先取りした部屋」のプロトタイプ(原型)のモデルを設計している(図2)。
「ファルマバレーモデル」と呼ばれるこの部屋は、バリアフリーを基本に、梁や壁はリフトや手すりを付けることを想定した構造や、転倒時の衝撃を軽減する床材を組み入れ、開閉センサー付き引き戸や温度・湿度調整機能が付いたエアコン、消臭壁なども装備する。
室内には離床アシスト付き電動ベッド、骨伝導イヤホンやボタン一つで遠近が切り替わる眼鏡、電灯やテレビなどを操作するAIスピーカー、車イス用洗面台や腰掛付き風呂、便座リフト機能付きトイレや便座から立ち上がりやすくするテーブルなどを置く。すでにベッド際まで移動でき、においも軽減できる水洗トイレも開発されている。
県は、こうした自立のためのさまざまな工夫を凝らしたモデルルームの整備を次年度に検討している。超軽量の自立つえや手が不自由な人のためのフットマウスなど、ファルマバレーの成果品も積極的に採用する。将来的には、「おーいお茶」と呼べばお茶を運んでくるロボット、映像や音、香りまでもがバーチャルで体感できるウオーキングマシンなど、超高齢社会を楽しむ工夫も盛り込みたい考えだ。


■コンソーシアム立ち上げへ

また、「人生100年時代の健康長寿・自立支援コンソーシアム(仮称)」を立ち上げる。医療・介護事業者はもちろん、住宅・建材、照明、ベッド、浴室、トイレなどの各メーカー、エネルギー、情報サービス、交通インフラなど、さまざまな分野の参入を見込む。地域企業にも広く参画を呼び掛け、研究開発、企画提案、製品化、事業化を進める。
このコンソーシアムから生まれる成果も、「ファルマバレーモデル」としてマンションや医療機関、介護施設などに展開していく。すでにこのモデルを参考に県東部では戸建て住宅整備の検討も始まっている。
静岡がんセンター、ファルマバレーセンターの北10キロの裾野市では、トヨタの未来都市構想が浮上した。県東部が未来の住まいづくり、まちづくりの拠点に育ちつつある。
※同プロジェクトの問い合わせは県の外郭団体であるファルマバレーセンター<電055(980)6333>へ



地域開発の中核的概念に
山本行俊システム環境研究所会長
■山本行俊 会長
日本は平均寿命が世界一だが、元気で高齢を迎えるのが次に目指すステップ。トイレ、食事、歩行などの問題をサポートする「終の住処プロジェクト」はまさに時流に合致した考え方だ。
日本の福祉行政は、在宅での看取りの実現を目指しているが、実際に自宅で最期を迎えるのは難しい。手厚い在宅医療、支援が受けられる環境を整えられる人は一握りしかいない。今まで個人に委ねられていた分野を、自治体がけん引役となり推進する本プロジェクトに大いに期待したい。
中でも、ファルマバレーモデルを実現するための「人生100年時代の健康長寿・自立支援コンソーシアム」は4月の立ち上げをにらみ、当研究所がマネジメントを受け持ち、準備を進めている。
モデルルームを作るに当たって、壁、床、トイレ、照明などの施設系、サービス系、情報系と3系統でグルーピングしていく。サービス系、情報系は、今までファルマバレーで開発してこられた皆さんの出番があると考えている。単に最新鋭の機器を入れるのでなく、既存の技術やアイデアを組み合わせたり活用したりしたい。例えばVR(バーチャルリアリティ)機器を使い、部屋に居ながらにして初詣ができたり、先祖の墓参りができたりするといったことだ。もちろん、ロボット化を考えるのも必要だろう。
こうした考えは、地域開発のコアコンセプトになるのではないだろうか。産業の裾野も広く、山口総長が提唱する「医療城下町構想」の実現につながるだろう。


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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