サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から富士山世界文化遺産の登録から6年が経過し、登山客があふれるオーバーツーリズムや危険な弾丸登山などの課題も見えてきた。2月の「風は東から」は、このほど行われたサンフロント21懇話会富士山地区分科会のパネル討論を取り上げる。パネリストに、国際山岳医の大城和恵医師、富士宮市郷土資料館の渡井一信館長、富士山富士宮口ガイド組合の水本俊輔組合長、富士山観光交流ビューローの土屋俊夫専務理事を迎え、富士山の活用と保全について議論した。コーディネーターは静岡新聞社・静岡放送東部総局の杉山武博編集部長。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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富士山の活用と保全 観光の未来を考える
■課題浮き彫りに
杉山 富士山には観光、保全、防災など、多面的な見方があります。まずは、観光の視点から富士山が果たす役割や課題についてお話しください。
土屋 新幹線の新富士駅にある富士山観光交流ビューローには外国人観光客が多く訪れます。彼らはスマートフォンで、富士山、桜、五重塔が映った写真を見せて「ここに行きたい」とおっしゃいます。これは、山梨県富士吉田市の新倉山浅間公園からの風景で、ここから2時間以上かかります。彼らは新富士と富士吉田の距離を把握していないため「どうしたらいいの」と困ってしまいます。
ですから、インバウンド観光でこの地域を振興するには、お客さま目線に立った2次交通の整備が重要と考えます。
杉山 構成資産についてはいかがですか。
渡井 富士宮市には構成資産が五つあります。当初は大変栄誉なことだと思いましたが、それまで浅間大社以外は村の鎮守様という扱いだったので地元としては戸惑いがありました。
現在、浅間大社を除き整備が最も進んでいるのは白糸の滝です。売店の移転や橋の付け替え、トイレの改修などを進めた結果、来訪者が50万人台に復活しました。
富士山世界遺産センターのオープン以来、同センターから浅間大社へと参拝に来てくれる方が100万人となりました。あとの三つは年間1万〜2万人程度ですが、もっと多くの方に知っていただきたいと、現在、世界遺産センターを中心にした巡路の特定をしています。
杉山 登山者の安全確保も大切ですね。
■土屋 俊夫 氏
富士山観光交流ビューロー
専務理事

富士市役所入庁後、土木技術職として道路・河川行政に携わったのち、総務・企画部門に転じ、総務部企画課長、産業経済部長、都市整備部長等を歴任。2016年より現職。
■大城 和恵 氏
国際山岳医

日本大医学部卒業後、日本大医学部第1内科学講座入局。2002年北海道大野記念病院勤務。10年英国レスター大の山岳医療修士を取得し、日本初の「国際山岳医」となる。15年より富士山富士宮口8合目「富士山衛生センター」に期間勤務。

 

水本 富士山登山に来る方で圧倒的に多いのは初心者です。夏は短パン、Tシャツ、草履で登る方がいたり、昔はよく登山をしたという年配者の靴底がツルツルだったり、装備や心得の不備が散見されます。こうした方に注意を促す人を5合目に配備していますが、強制ではないので真剣に受け止めてもらえない場合もあります。
長い目で見た場合、また保護という観点からも登山者も資産ですので、富士山でいやな経験をすることは見過ごせません。5合目で脅威をしっかり把握してもらうよう、くぎを刺せたらと思います。
杉山 山登りブームの背景にはやはり楽しさがあると思います。ガイドならではの魅力をお聞かせください。また、山小屋では外国人をどう受け入れていますか。
水本 最大の魅力は日本で一番きれいな星空でしょう。ものすごい寒さを我慢してでも見たい景色です。また、8月上旬の土日には、下界の花火大会が一斉に見られます。あちらこちらで小さくポンポンと上がる花火はとてもきれいです。
外国人対応については、山小屋でビーガン(完全菜食主義者)やベジタリアンの調整、受け入れを進めてもらっています。
大城
 富士山なら3日で登るのが良いと思います。今の状態だと、安全に登るというのが実は難しいですね。ですから、登山者だけのせいではないと思います。事前のレクチャーや、必要な物がレンタルできる環境、山小屋も24時間避難できるようにするなど、環境の整備も必要です。
安全は教育も大事ですが、お金がかかるということをもっと周知するべきでしょう。その部分は、行政と民間双方で進めないとなりません。


■入山料の活用法は
杉山 保全協力金(入山料)義務化の検討が進んでいますね。
水本 今は5合目で入山料を徴収しています。納めていただくと対価となるようなバッジなどを提供しています。
ただリピーターからは、何のために払うのか、どう使われているか分からないという声を聴きます。1000円という金額は払いやすいですが、諸外国を見るともう少し高くてもいいのではないでしょうか。そうすることで山の保全に関心の高い方も増えてくると思います。
渡井 私は義務化に賛成です。歴史をひも解くと、信仰のために登る際に、その負担を頂上にたどり着くまで幾らか払わないとなりません。それは千円なんてものでなく、その何十倍もの金額でした。そういう歴史が富士山にあったということを理解してもらい、入山料を伝統と環境の保全に役立てたいと思います。
富士宮市には構成資産が多いので、樹木などの倒壊という突発的な事象もあります。今は地元が対応していますが、そうしたところに入山料を活用できる仕組みも必要ですね。
土屋 入山料は目的とされる「富士山の環境保全や安全対策」に使うのが基本です。これが十分担保されるなら、周辺観光にも活用したいですね。例えば来訪者に十分な情報を提供するSNS整備やごみ処理などです。7〜8割は本来の、2割はその時のタイムリーな事業に投資することも検討していただきたい。
入山料は「誰も払いたくない」をベースに考え、用途を明確にしてご理解いただくのが良いと思います。
大城 海外では、入山料を払う方がきちんとした管理につながるため安心です。日本人は金銭面で遠慮がちになりますが、お金を取ることでプライドを持ってきちんと提供できれば、むしろ富士山は安全で安心だということになります。入山料を取ってきちんと管理する山のモデルになるといいですね。

■渡井 一信 氏
富士宮市郷土資料館館長

大学卒業後、富士宮市役所に入庁。2007年に富士山が世界遺産暫定リストに登録されてから13年の富士山世界遺産登録まで、世界遺産登録推進担当として文化庁・静岡県とともに登録に携わる。現在は嘱託として市教委社会教育指導員を兼務。



■山の価値を後世へ

■水本 俊輔 氏
富士山富士宮口ガイド組合長

2010年より富士山公認ガイドとして通算400回以上登頂。富士山のガイド実績は1万人を超え「富士山に最も多く登っている関西人」。山岳写真家として受賞歴多数。大自然の中での特別な体験をプロデュースしている。

杉山 今後の富士山の在り方をどうお考えですか。
土屋 いつか関西、西日本地区で「そうだ富士山に行こう」というCMが流れるといいと思います。関西の方から見ると富士山はあこがれです。一度近くで見てみたい、登ってみたい、中には近くで最期を迎えたいという方もいます。
今は2次交通が脆弱(ぜいじゃく)ですから、目的地までスムーズに行けません。また情報発信、飲食など観光の基本的な部分が未整備です。
これらを解決するために、富士山に関わるさまざまな主体が連携して考えることが大切です。
水本 富士山は休火山です。いつ不測の事態が起きるか分かりません。そこをしっかり心に留めていきたいと思います。防災的なアプローチも必要です。将来的に自分の子孫が安心して登ってもらえるような山にしたいですね。


渡井 多くの方の富士山への思い入れがすごく大きいと思います。日常生活の中でくよくよしたり悩みがあったりしても、富士山を見るとすっきりしたり、新たな勇気をもらえたりします。富士山世界遺産登録で富士山の価値が認められたのですから、それをどう後世に引き継ぐかを引き続き考えていきたいですね。
大城 個人的には誰もが登れる山でなく、価値を理解した人が登ってくれればいい―という考えを広めていけるといいですね。高齢者や外国人の方が安心して登れる山か、それとは違った方向性を目指すのか、試行錯誤する中で世界をリードする山になってもらいたいと思います。
コーディネーター
■杉山 武博
静岡新聞社・静岡放送
東部総局編集部長

1993年静岡新聞社編集局に入社、蒲原支局、細江支局、社会部、東京支社編集部、政治部などの勤務を経て、ニュースセンター副部長、2019年より現職。

 





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