サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.03.26 静岡新聞掲載」

東部地域の活性化に向け、官民一体で提言を行うサンフロント21懇話会は、活動の模様や地域の課題を毎月1回「風は東から」で取り上げている。本年度は、先端農業の研究開発拠点「AOI-PARC」の取り組みや、ラグビーの世界大会を契機にしたビジネスマッチングなどを取り上げた。年度最後の3月は、川勝平太知事、懇話会副代表幹事の岩崎清悟静岡ガス取締役特別顧問を迎え、ファルマバレープロジェクトがもたらす地域の将来像について聞いた。聞き手は懇話会アドバイザーでふじのくに医療城下町推進機構理事長の大坪檀氏(静岡産業大総合研究所所長)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ12

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環富士山で医療産業を多様性対応可能な地域に
■健康長寿の実現を追求

大坪 人生100年時代に向けたファルマバレーの新たな取り組み「健康長寿・自立支援プロジェクト」が始まっています。ゲノム解析等による老化現象の予測・予防や、補助器具の開発、可能な限り自立した生活をして、介助者の負担を最小にできる理想の居住空間の提案など四つの戦略から構成されていますね。
川勝 高齢になったときにいかに安心して暮らせるのかは大きな問題です。ファルマバレーを20年近く続ける中で100以上の製品が生まれ、医療健康関連産業に参入した企業は約50を数えます。老いや病気をネガティブにばかり捉えるのでなく、安心して老い、安心して医療のお世話になれる、そんな地域づくりが進んでいます。
岩崎 超高齢社会に対応する大切な視点は「多様性」でしょう。高齢者と言っても健康状態や就労意欲は千差万別。戦後の日本を支えた世代と違い、これからの高齢者は多様な人生観を持った人たちです。その多様性にどう対応するかが一つのポイントですね。
もちろん、全ての人が満足できるものは難しいと思います。多様性をもった人たちに適合していく取り組みには、行政がやるものと民間がやるものがあり、民間がやるものはしっかりと付加価値を付ける。その付加価値に応えるマーケットはあります。また、最後は誰もが動けなくなります。体が動かなくなった方は行政がしっかり面倒を見る仕組みをつくらないと難しいでしょう。官・民それぞれの活力を融合して初めて、超高齢社会への備えができてくると思っています。
大坪 そんな中、昨年12月に隣の山梨県と、医療健康産業分野の連携協定を結びました。これは画期的なことですね。
川勝 山梨県と本県は共に「ふじのくに」として、富士山の世界遺産登録を実現しました。あと1年もすれば甲府と静岡が中部横断自動車道で結ばれます。さまざまな連携が進む中、ファルマバレーと、山梨県内の電子機器の生産拠点等をつなぐ「メディカル・デバイス・コリドー」構想が立ち上がりました。それにより、富士の麓に医療健康産業の一大拠点が誕生します。



■急がれる産業構造改革

川勝 本県の人口は外国人を含め363万人、県内総生産はニュージーランドの国内総生産とほぼ一緒です。山梨県の81万人が加われば、ニュージーランドの人口に近く、両県合計の県内総生産は20兆円と、一大「ふじのくに圏」の誕生です。本県の医薬品、医療機器の合計生産金額は1兆円を超え、9年連続で断トツの日本一です。そこに、山梨大医学部の英知や、精密機器の産業集積が加われば、まさに鬼に金棒です。
美しい富士の麓、健康で、いざという時は医療が整い、さらに、20世紀の重厚長大産業から、21世紀のライフサイエンス、生命科学や医療健康産業が集積する地域となるでしょう。
日本の医療健康産業の分野は海外、特に米国に対して年間3兆円の赤字を生んでいます。しかし、この地域が一緒になることで国内生産が可能になったり、海外市場が広がったりすることも視野に入ってきます。また、国の施策としても医療健康分野は極めて重要だと思っています。
岩崎 静岡県の産業構造は、自動車、とりわけエンジン回りのパーツ生産という特徴をもっていますが、これが大きく変わろうとしています。このままでは先行きが見通せないという中で、高付加価値の医療機器などは、今後の大きな社会問題に対応でき、しかもニーズが大いにある分野ですよね。こうした分野にどんどん産業構造を変えていくのは、とても必要なことです。
実は天然ガスのパイプラインが富士から御殿場を通り、富士吉田まで、富士山を半周する形でつながっています。私どもが清水港に揚げた天然ガスが山梨県でも使われていて、その大口のお客さまは多くの精密機械や電子機器の企業です。
山梨県にこうした産業集積があるのは知っていましたが、それらと静岡県の医療やものづくりがうまく連携すると、素晴らしい効果が生み出されるのではないかと、「メディカル・デバイス・コリドー」という言葉を聞いてあらためて思いました。
大坪 日本も世界も産業構造革新に直面していて、いかに高付加価値化を目指すかが焦点です。ここは、医療健康産業で高付加価値を生み出し、世界人類のために貢献できる地域になりそうですね。
川勝 静岡でも山梨でもなく、富士山ファーストを意識し、山梨県ととことん仲良くしたいと思っています。そういうソフト・ハード面における具体的な証が今回の医療健康産業の連携協定です。例えば、医療機器等の展示会に共同出展する、山梨大医学部の医療現場でのニーズ、静岡がんセンターの臨床における発見をそれぞれ独占せずに両県で共有することにより、生産金額を上げていきたいですね。
本県の医療機器生産金額は3587億円、医薬品生産金額は6721億円、対して山梨県はそれぞれ559億円と722億円(2018年度実績)。合わせて常に1兆円の大台に載った上で、連携協定による相乗効果で、1兆5000億円も夢ではありません。

■川勝平太 知事

■岩崎清悟
静岡ガス取締役特別顧問
サンフロント21懇話会副代表幹事


■新しいまちづくり始動
■大坪 檀
ふじのくに医療城下町推進機構理事長
サンフロント21懇話会アドバイザー。

大坪 年明け早々、県東部に大きなニュースが飛び込んできましたね。裾野市にトヨタ自動車が創る「コネクティッド・シティ」という未来都市構想です。私も豊田章男社長のプレゼンテーションを見ましたが、富士の裾野に広がる都市の写真が印象的でした。
川勝 あの富士山は豊田社長ご自身が撮ったそうです。コネクティッド・シティは来年着工し、整備を進めていくと聞いています。AI(人工知能)などの先端技術を使って、世界に誇れる都市をつくるという構想です。県東部で進むファルマバレープロジェクトは健康を生み出すプロジェクトですが、健康=幸せをつくるという意味で、ここに世界のトヨタが引き寄せられたとも言えますね。
岩崎 この未来に向けた実証都市は、世界中の人たちの耳目を集めると思いますし、それ自体が「コト観光」の聖地になります。未来の都市はかくあるべしという発信ができますね。産業としても非常に面白いと見ています。
ただ、裾野市という限られたエリアにとどまっているのではもったいない。周辺各市町も地域性を生かし、連携するような政策が打ち出され始めたら、もっと大きな動きになると思いますし、当懇話会も支援していきたいと思います。いずれにせよ、大きなチャンスだと思っています。
川勝 コネクティッド・シティには2000人が住むと言われています。外国人も多く、公用語は英語だそうです。働く人だけでなく、その家族、特にお子さんの教育は大きな問題です。教育環境の整備や、買い物、医療も必要でしょう。医療についてはまさにファルマバレーの中でものづくり、ひとづくり、まちづくりが進んでいます。医療城下町構想と実証未来都市構想は、実に親和性が高いですね。
このコネクティッド・シティを支援しようと、県庁内に、経済産業部をはじめ、知事直轄組織、くらし・環境部、健康福祉部、交通基盤部、企業局、がんセンター局などからなる部局横断のチームをつくりました。例えば制度的なものが必要となれば、すぐに対応できる状況をつくっています。トヨタのトップに習い、「走りながら考える」ことをしていきたいと思います。





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