サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.05.28 静岡新聞掲載」

日本一の深さを誇る駿河湾。その恵まれた海洋資源を活用しようと、昨年夏、新たな県のプロジェクトが誕生した。それが「マリンオープンイノベーション(MaOI)プロジェクト」だ。産学官金が連携し、オープンイノベーションとマッチングで、マリンバイオクラスターの構築を目指す。5月の「風は東から」は、同プロジェクトの意義や概要、研究が始まった事業などについて関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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海の恵みに技術革新を新産業の芽を探求
■駿河湾開発に新技術導入
■豊かな駿河湾を舞台に、県の新しい挑戦が始まる
MaOIプロジェクトは、既存の水産業をはじめとする海洋関連産業に、モノとインターネットをつなぐIoTや人工知能(AI)などの新技術や異分野を取り入れ、産学官金の連携によりイノベーションを起こし、新たな価値を生み出す。プロジェクトの推進役、渡邉眞一郎MaOI機構専務理事は「デジタル技術やバイオ技術の進展はめざましく、例えば遺伝子情報の収集や活用など、今まで手が届かなかったことができるようになった。県と連携する大学の先生方のアドバイスもあり、駿河湾を主なフィールドに、こうした技術を活用するなどして、海由来の新たな価値を見出し、社会実装していこうという機運が高まった」と語る。
先ごろその第1次戦略計画が発表された。海洋関連産業は間口が広いため、当面は「水産」「食品」「創薬」の3分野を軸に研究開発を進めていく。プロジェクトの戦略推進委員会には静岡大、県立大、東海大、早稲田大、東京海洋大などの大学、理化学研究所などの研究機関、経済団体や民間企業、金融機関、自治体などが加わり、産学官金連携のもと計画の実現に受け定期的に協議していく。
同機構の松永是理事長は、元東京農工大学長で海洋研究開発機構(JAMSTEC)の理事長も務める。また、五條堀孝研究所長は元国立遺伝学研究所副所長で、現在はサウジアラビアのアブドラ国王科学技術大の特別栄誉教授だ。両人とも、マリンバイオテクノロジー研究の第一人者であり、加えて、統括プロデューサーとして、清水区出身でイノベーションに造詣の深い、東京工業大の橋本正洋教授が名を連ねている。 同機構は、こうしたトップの指導のもと、研究活動に取り組むとともに、県内企業と大学、研究機関をマッチングし、事業化、製品化を目指すコーディネーターの役割を担っていく。


■水産・食品・創薬が柱

■「プロジェクトの対象領域は幅広い」と語る渡邉眞一郎専務理事

水産分野では、例えば養殖業へのIT導入を図ることで、労働生産性の向上、バイオ技術を活用した種苗の品質向上などが考えられ、助成金を活用した研究開発が進んでいる。
また食品分野では、機能性成分を加えるなどの高付加価値化を目指す。カツオやマグロに含まれるDHAやEPAが代表的で、健康長寿に役立つ機能性の追求が期待される。すでに、県内ではフーズ・ヘルスケアオープンイノベーションでの取り組みがあるため、これと連携しながら海由来成分の活用を進めていく。
創薬分野では、魚などに含まれる成分から薬に使えるものの探査などが始まっている。昨年度県が助成した事業では、魚のある成分が人の目の病気の改善に役立つことが分かったという。この分野はファルマバレーとの連携を視野に入れる。
水中ドローンなどの海洋関連機器開発もプロジェクトの対象だ。ドローンの性能が上がると、人が直接行けない海中の探査が、いつでも長時間可能となる。養殖魚の健康管理や病気の発見、また、AI搭載カメラでの魚の数の管理などに役立つ。岸壁やダムの水面下にも行けるので、陸に居ながらにして安全管理ができる。
海にとどまらず、水関連の産業は幅広い。「地域、あるいはバーチャルで世界とつながり、海洋関連産業をけん引する知の拠点を目指したい」と渡邉専務理事。駿河湾の海洋生物資源や環境データの収集、海洋プラスチックごみの課題解決への貢献など、多岐にわたる展開が予想される。


Blue Techとイノベーションで 海の恵みを 社会へ 未来へ
■MaOI機構理事長 松永 是

今日、ICT(情報通信技術)の飛躍的発展により、私たちは未知なる海とその恵みについて、少しずつではありますが理解を深めつつあります。
最近では、海から得られる持続可能な恵みによる経済効果を「Blue Economy(持続可能な海洋経済)」と呼び、米欧のみならず太平洋諸国も注目しています。
そしてBlue Economyを実現する多種多様なテクノロジー「Blue Tech(海洋先端技術)」を活用し、「持続的海洋産業」とも言い得る新たな産業の創出が進められています。
私たちは、この「いのちの世紀」において、マリンオープンイノベーションパーク(MaOI-PARC)を「知」の拠点とし、母なる海とそこで生きる命について研究し、Blue Techにより多様な産業分野での新たな価値の創出と海洋環境・海洋資源の保全に結びつける取り組みを行うことにより、海と人が共にある暮らしを未来につないでいくことを目指しています。



■淡水から海水へ「味上げ」でブランド化目指す

■「事業化を見据えた取り組みを加速したい」と語る岩本いづみ社長

MaOIプロジェクトでは、バイオテクノロジーの活用による種苗生産・養殖技術の開発や、海洋由来の微生物、機能性物質を活用した魅力的な機能性食品・加工食品等の開発など、民間事業者の事業化を促進する「マリンオープンイノベーション事業化促進事業」を広く募集している。昨年度は5事業が採択された。
その一つが、浸透圧調節等を利用した安全で美味しいニジマスの養殖生産技術「味上げ」の開発とブランド化。「味上げ」とは、淡水で育てたニジマスを高塩分水にさらす(海水曝露)ことで味に関与する成分である「アミノ酸」を増加させること。今まで、経験則で行われていた養殖に科学の目を入れ、おいしいニジマスの養殖法を確立する。
魚の鰓(えら)にあり、浸透圧の調節をする塩類細胞研究の第一人者である東京大の金子豊二教授を中心に、どの程度の時間、海水につけるとアミノ酸が増えるか、鰓が行う浸透圧の変化を調べている。本事業の代表団体、柿島養鱒(函南町)の岩本いづみ社長は「静岡という地の利を生かしたブランディングを目指している。大学や他業種との研究ができるのが大きなメリット」と参加理由を語る。

■魚の海水曝露実験
2年目となる本年度は、季節変動でアミノ酸の量がどう変化するかなどを調べる。また、魚の成長が早くなる物質の探索も行っていて、現在、テクノスルガ・ラボ(静岡市)と理化研が魚の腸にある「幽門垂(ゆうもんすい)」の微生物を調べている。販路を見据えたマーケティングやネットワークづくりも3ヵ年の間に行う予定だ。
ニジマスが日本で飼育されて140年を数える。国内のサーモン人気は年々高まっており、家計調査によると、近年、生鮮魚介類別の一人当たり購入量で第1位がサケ類だ。ところが、サケやマス、特に生食は外国産がほとんどだ。
水産庁は2018年に、生で食べるサケ・マスの国内養殖の推進を目指す「全国海面サーモン養殖推進協議会」を発足させた。ある程度の高水温にも耐性のある種苗や効率良く育つ飼料の開発など、日本の海洋環境に適応した養殖手法の開発を進めていく。「ここ静岡から、国産サーモンの生産性向上に貢献する成果を生み出したい」と岩本社長は抱負を語った。


MaOIフォーラム会員募集
■第一線の研究者が発表を行う会員向けセミナー
MaOIフォーラムは、MaOI機構の会員制ネットワーク組織。大学・研究機関と連携し、マリンバイオテクノロジーをはじめとする科学技術や研究成果、最新情報の発信、事例発表会などを通して「産・官・学・金」の会員同士の情報共有やネットワーキングの場を提供し、会員の事業活動や技術革新、新たな価値の創出を積極的に支援する。
問い合わせは、同フォーラム事務局
〈電054(204)1111〉へ。



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