サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.08.27 静岡新聞掲載」

「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」
県東部の地域振興について広く検討する「風は東から」。8月からは新シリーズ「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」と題し、県東部を代表する方々に今後の地域の在り方について聞く。初回のテーマは観光。コロナ禍の観光地の状況や、今後の新しい観光スタイルについて、熱海市の斉藤栄市長、伊豆市の菊地豊市長に、また、伊豆赤十字病院の志賀清悟院長に、観光地に立地する病院としての在り方や地域への提言をそれぞれ聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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正解のないコロナ対策 安全な旅の在り方模索
■安全安心を前面に官民で対応策次々と  斉藤栄 熱海市長
■「多くの方の協力を得てコロナ対策をしている。安全安心な熱海スタイルをどう構築するか、模索は続く」と語る斉藤栄熱海市長
新型コロナウイルスは、百年に一度の事態だ。4〜5月は国の緊急事態宣言もあり、経済活動の抑制を優先した。本来、観光地にとってはあり得ないことだ。
その後、コロナの影響の長期化が明らかになった。これ以上の抑制は市民生活が成り立たなくなると考え、ウィズコロナの実践に大きくかじを切った。
試金石となったのが、7月23日の海開きと、8月5日の花火大会だ。感染を、密をどう防ぐのか。
そこでメインとなるサンビーチにゲートを設け、AI搭載カメラを3台設置した。出入りの人数をカウントすることでビーチの人数を常に把握した。この取り組みはおそらく全国初だろう。
また、入場時間ごとに色の違うリストバンドを配布。ビーチの滞在者の上限を3千人とし、混雑状況を5段階で表示、1時間ごとに市のHPやツイッタ―で発信した。
花火大会は、宿泊客と市民及び別荘所有者を対象とし、日帰りは原則ご遠慮いただいた。その代わり、インターネットでライブ配信をした。宿泊客は宿から、市民は自宅から見物してもらったが、宿から見られないお客さまには海岸の一部に専用スペースを設けた。親水公園には、ソーシャルディスタンスを表すシールを足元に数百カ所張って対応した。
カラオケ店でクラスターが発生したのが7月17日。ここでは市内飲食業3団体が「コロナ対策協議会」を立ち上げ、安全安心チェックシート、認証ステッカーなど、いち早く対応をしてくれた。市も財政支援や市内500店舗の順次訪問など歩を一にしている。
行政だけでは対応しきれない課題も多く、専門家の知見や新しいテクノロジーをスピード感を持って採り入れてきた。市役所と観光協会、また複数の民間企業に入ってもらい、官民連携で乗り越えた。
加えて、事業者向けにPCR検査の助成制度を始めた。クラスター発生を防ぎきることはできないが、影響をいかに小さくするか、安全安心な観光地をアピールすることが大切だ。
■サンビーチの混雑情報が一目でわかる熱海市のHP
宿については、新たな投資も必要だろう。すでに一部の旅館・ホテルでは、カラオケボックスを食事処にしたり、大浴場を家族風呂にしたりと、この短期間に改修工事をしているところもある。料金は高くても、安心安全が担保できる宿はすでに客足が戻ったと聞く。
そして、ワーケーション(※)はぜひ力を入れたい分野。移住定住の促進が理想だが簡単ではない。まずは熱海に来てもらい、東京よりクリエイティブな、あるいは生産性の高い仕事ができることを実感してほしい。日本中に素晴らしい環境はあるが、熱海の強みは新幹線。首都圏とはこだまで45分の距離だ。
次は具体的にどんな企業に、どの施設を使ってもらうか。その中できちんと生産性を上げながら採算が取れるかの実証をしていきたい。

※「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語で、観光地やリゾート地で休暇を取りながらテレワークする働き方


■魅力磨きと受け皿整備で観光体質改善の好機に 菊地豊 伊豆市長
■菊地豊伊豆市長は「日本は今までも大きな災害を乗り越えてきた。観光を足元から見直す機会にしたい」と語る
観光交流客が市民生活に相当貢献しているというのが今回のコロナ禍で図らずも露呈した。観光客が来ないことで、仕入れ業者、土産物店、農業生産者、バス・タクシー関係者など、軒並み影響を受けている。観光客の来訪で、人口3万人の市では確保できないサービスがどれだけ維持されていたのか、誰もが実感したと思う。 
ウィズコロナ時代の新しい観光とはどのようなものか。一つは、伊豆の強みであるアウトドアコンテンツを中心とした旅の提案だ。
三密とは無縁の自然の中、アユ釣り、ダイビング、シーカヤック、そしてゴルフなど、安全なアウトドアレジャーと、癒やしの温泉、そして地元の海の幸、山の幸が一度に楽しめる。こうした魅力を、感染者が比較的少ない山梨・長野・新潟の「縦ライン」にセンス良くプロモーションをしたらどうか。
また、非常にオーソドックスな話だが、本質的にはそれぞれの地域の良さに磨きをかけることに徹する。修善寺は歴史、湯ケ島は自然と文学、土肥は海と夕日、中伊豆は里山、そして全てに温泉と、バリエーション豊かな地域性をしっかり磨き上げる。いずれのコンテンツもコロナに強い。
ある意味、時間の余裕があるうちに、社員研修などもいいだろう。修善寺の一部では始まっているが、改めて宿のスタッフが修善寺の歴史を勉強し、湯ケ島の文学を勉強し、外国語研修をするなどスキルアップを図る。
今後2〜3年、インバウンドが戻らないのであれば、その間に受け皿整備もしておきたい。また、バリアフリー化、景観整備、PRについてもまだまだ紙媒体が多く、ウェブプロモーションに弱いなど、準備に1、2年は優にかかる課題が多い。こうしたことを通じて首都圏依存型、土日集中など“いびつな観光スタイル”を改革したい。そこに予算と時間を投入するのも行政の務めだろう。
■自然の中のアクティビティは新しい観光の形
修善寺のような全国ブランドの温泉街に皮肉なことにナイトライフがない。結果的に安全な温泉街となっている。ウィズコロナ時代の新しい旅のモデルがここにある。いずれ首都圏がマーケットとして復活すれば需要はおのずと増えるだろう。
もう一つ、強化すべきなのが関係人口を増やすための環境整備だ。東京から伊豆まで150キロ、通勤者にとっては遠いがワーケーションなら近い。
静岡大が市内に東部サテライトを造った。週に2、3日は伊豆、残りは静岡で問題はない。では初めて東京から伊豆にオフィスを造る方にとって、あと何が足りないのか、そこを埋めれば相当競争力が上がると思う。まさに今が「体質改善」のチャンスである。


地域一丸で感染症予防 医療の多言語化も急務 志賀清悟 伊豆赤十字病院長
新型コロナウイルスの拡大で、通院する人、入院する人が1〜1.5割程度減少している。これは市民だけでなく、観光客が減ったことも要因だろう。同様に外国人観光客も減少した。救急患者についても3割程度減っている。
コロナに限らず、観光地にはいろいろな病が持ち込まれる。地元で流行っていない、あるいは日本では珍しい病気が持ち込まれる可能性もある。われわれは現場なので、罹患者への対応が仕事だ。もちろん予防も大事だが、それは病院というよりは行政、保健所の役割だろう。おそらく、米国の疾病予防管理センター(CDC)のような組織が必要ではないかと考える。日本にもこうした組織の必要性が言われており、それに近いものが保健所だが、今は仕組みが追い付いていない。
また、観光地の病院という意味では、外国人の救急患者の対応が課題だ。定期的に地元消防隊と会議をするが、言葉の壁で正確な情報を収集できない場合、病院への搬送が遅れることがあると聞く。英語が通じるならまだしも、これだけグローバル化が進むとすべての言語を網羅するのは難しい。言葉が通じなくても絵で痛む個所を指させたり、数カ国語が話せる翻訳機を用意したりする対応が必要だろう。当院も外国人対応マニュアルなどの書籍を用意したが英語版にとどまっている。
オリンピック・パラリンピックを見据え、医療現場や救急医療における多言語化の取り組みが急務だ。



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