サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.09.24 静岡新聞掲載」

「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」
県東部の地域振興について広く検討する「風は東から」の新シリーズ「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」。9月は引き続き「観光」をテーマに、これからの観光の新たな形や方向性を下田市の松木正一郎市長、西伊豆町の星野浄晋町長に展望してもらった。また、3密回避の観光コンテンツとして注目を浴びる自転車をテーマにした宿を経営するコナリゾートの大嶽龍太郎社長に課題や今後の取り組みを聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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コロナ克服へ施策続々 伊豆観光の新様式模索
■下田モデル確立し都市観光の魅力を整備  松木正一郎 下田市長
■「人々の営みが歴史の重みとなって今に残る下田の街並みを生かしたい」と語る松木正一郎下田市長
下田は海の街だ。夏、海水浴に多くのお客さまが来る。そこで、夏のピーク時に地元の方たちの安全をどう確保するかが一番のミッションだった。
7月5日に就任し、23日に海開きが予定されていたため、10日ほどで安全対策を決めた。手洗い、うがい、消毒液の用意は言うに及ばず、当地を訪れる観光客に事前の協力をお願いした。
具体的には、予定の2週間前からの体温チェック、体温計の携行、現地で発熱などが分かった場合はお帰りいただくなど、ある意味「高飛車」な要請だ。告知は当市出身の漫画家鈴木由美子氏が描く白鳥麗子のイラストを前面に押し出し、ユーモアを交えながらもきちんとこちらのスタンスを明記した。
受け入れ側のわれわれは、伊豆急下田駅での検温、白浜大浜海岸でのリストバンド装着、医療機関との連携、また感染症予防のために、海水浴場の公衆トイレも簡易洋式トイレに変え、流す際は必ずふたを閉めるよう注意書きをした。規模の小さな飲食店は、利用を地元の常連客のみとし、それ以外の方にはテイクアウトを促すよう呼び掛けた。こうして「下田モデル」の周知徹底に取り組んだ。
当初、ここまでやれば当然批判も覚悟していたが、観光客自身も安心して来られる、と高評価で迎えられた。
安全管理はきりがない。それよりも、いかに多くの方に「安心」を届けられるか。短期間に効率的で最も効果が上がる方法を取捨選択し、そこに財源を割いた。

■話題となった下田モデル対策の告知チラシ
下田モデルは夏で一つの区切りを迎えた。次は日常の安全確保に移行する。「新しい生活の形」の提案だ。
しかし、下田は日常の暮らしの中にも観光がある。ペリーロードをはじめ、街並み自体が観光の目的になる。つまり、下田は町そのものが都市観光のフィールドになっている。
今後はその特徴を生かし、外でのアクティビティーを増やしていく。飲食も屋内と屋外を上手に使い分ける。例えば、テイクアウトした商品を海辺や公園で食べられるといったことを、新しい下田の楽しみ方として提案したい。現在、街そのもの、観光そのものを再設計し、それをインフラに落とし込んで、そこに投資しようと考えている。
どのように観光客を呼ぶか、どうやって定住人口を増やすのか、自治体共通の課題だ。補助金などの金銭的インセンティブも有効と思うが、下田はきちんとした対策とともに「安心」を前面に出していきたい。また、バケーションの質を高める、街の空気感を良くするなど、さまざまな施策を駆使しながら、「場の力」を最大化するような観光インフラを整えていきたい。


■地域通貨で域内活性化田舎の豊かさも発信 星野浄晋 西伊豆町長
■星野浄晋西伊豆町長は「われわれの町がどれほど自然に恵まれているかを町民自ら体感してほしい」と語る
緊急事態宣言が出た4月、宿泊施設の予約は前年比2割程度。宣言が出たとたんにキャンセルが相次いだ。しかし、一組でも予約があれば営業せざるを得ない。当町の高齢化率は49.9%と高く、高齢者が身近にいる家族構成だ。町民から不安の声が上がる中、一斉休業の要請を町の方針で出そうと決めた。
休業要請を受け入れてくれた飲食店には、昨年同月の売り上げに応じて補償額を決めた。ホテルなどは残っている予約分を買い取れる補償額にした。原資は財政調整基金で、今回のコロナを町にとっての災害と捉え、取り崩して対応した。
宣言が解除されたGW明け、まずは域内経済を回復させようと、地域通貨「サンセットコイン」を導入し、全町民に1万ユーヒ(1万円分)を付与することにした。サンセットコインの導入は昨年から検討していたが、高齢化率の高いこの町で電子通貨と言っても大半がピンとこない。タイミングを見て、ということで準備だけはしてあった。
そうしているうちに国から10万円の定額給付が決まった。その申請書を地域通貨の申請書とみなし、1万ユーヒを入れたカードを全戸に郵送した。
昨年、漁業や農業に活気を取り戻すために、西伊豆の地物を取り扱う直売所「はんばた市場」を造った。そこでの支払いにも地域通貨を活用することで、町内でお金が還流する仕組みができる。また、介護保険を利用しない元気な高齢者に健康ポイントをユーヒで付与することを考えている。
コロナ禍を機に、世の中の構造が加速度的に変わりつつあり、同時に価値観も変化している。この機を逃さず田舎の魅力を最大限生かしたい。川勝平太知事は、折に触れて富士山を素晴らしいという。われわれは毎日見ているので感動はない。西伊豆の夕日も毎日沈む。海は青いのが当たり前。しかし、この「当たり前」は他の地域の人から見れば「素晴らしい価値」になる。

■生きのいい魚や新鮮な野菜がそろう「はんばた市場」
まずは、その価値を町民自身に理解してもらいたい。地元の人に地元の旅館で楽しんでもらい、生きのいい海産物を食べてもらいたい。地域通貨は町の内需拡大だけでなく、そういった意味でも地元を見直すきっかけになるだろう。
子どもたちにも地域に愛着と誇りを持ってほしい。こんなに素晴らしい自然がある町はほかにないことを学んでもらいたい。これからはリモートワークも進み、働く場所が選べる時代だ。大学も、通わずに十分勉強ができるようになるかもしれない。下宿をしなくて済むし、家の近所でアルバイトもできる。
観光は「国の光を見る」ものだ。都会と田舎、どちらが本当の「豊かな暮らし」と言えるのか。地域が輝けば人は進んでやってくる。


自転車で巡る伊豆半島ツアーづくりと地域連携推進 コナリゾート 大嶽龍太郎社長
サイクルツーリズムをテーマに、昨年3月に開業した「コナステイ」。1年で世界48カ国の方々を迎え入れ、手応えを感じていた。コロナ禍で6月末まで休業を余儀なくされたが、その間四つのツアーづくりに着手した。
一つは、歴史をたどる「里山散走(さんそう)」。宿周辺を2〜3時間かけ、伊豆の国市の韮山反射炉、江川邸、蛭ケ小島を巡るコースだ。このほか初心者向けに、「川縁散走」(狩野川沿いを走る平坦なコース)、「海辺散走」(沼津市の西浦から海辺を通り、沼津港まで至るコース)を造った。中級者向けには「伊豆散走」(東伊豆コース)。伊東市の伊豆高原を出発し、一碧湖、冷川を通り中伊豆に降りる片道コースだ。これは、熱海の旅館の若手経営者にモニターツアーを体験してもらった。
メンテナンスやガイドなど各施設が自前で自転車を持つのは難しい。当館だけでなく、熱海・伊東の温泉宿や伊豆高原の宿でこの商品を宿泊プランとセットで扱ってもらいたい。伊豆全域には宿泊施設が約1200軒ある。そのうちの数パーセントでもこのツアーを使っていただければ、「伊豆半島が自転車で盛り上がっているね」という状況ができてくるのではないか。
サイクルツーリズムの普及には大きく二つの課題がある。一つは、自転車を旅行のツールとして利用する文化が日本にないこと。旅行中に利用しても1、2時間がせいぜいだ。もう一つはガイドシステム。低価格で安全に迷わずガイドできるサービスが使えるといい。近い将来、サイクリング用のゴーグルに道路標識が出せるデバイスができれば、ガイドの課題はクリアするかもしれない。
自転車ならではの、五感で味わう地域の魅力。3密回避の時代だからこその新しい旅の形を提案したい。



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