サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.11.26 静岡新聞掲載」

「伊豆地区分科会」
初のオンライン開催となった、10月27日のサンフロント21懇話会伊豆地区分科会は、テーマを「コロナ時代の伊豆観光を考える」とし、日本総合研究所の藻谷浩介主席研究員が講演した。約140人が参加登録し、オンラインと特設会場からアンケートフォームを使った質疑など、臨場感あふれるセミナーを繰り広げた。11月の「風は東から」は、開催方法、内容ともに新型コロナに対応した同分科会の様子を掲載する。参加者の声も紹介するほか、修善寺あさば主人の浅羽一秀氏には、今後の観光地の在り方について聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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コロナ時代の伊豆観光 現実見据え意識改革
コロナ禍後のインバウンド再生術
■日本総合研究所主席研究員 藻谷浩介氏
平成合併前の全国3200市町のすべて、海外100カ国以上を自費で訪問し、地域振興や人口問題について精力的に研究、講演を行っている。主な著作は「里山資本主義」「デフレの正体」など。1964年、山口県生まれ
最初の感染拡大が収まった6月初めの時点で、新型コロナウィルスの陽性患者数が一番多かったのは、次の市町村の中ではどこでしょう(図1)。
参加者の皆さんの答えは、(1)ニセコ(2)成田。しかし実際は、ニセコ町0人、成田市5人、そして、東京都港区359人。東京ばかり感染しているんです。人口100万人当たりの感染者数でも圧倒的に多かったのが東京23区です。それなのに、観光地にお客さんが来なくなりました。これは風評被害と言えると思います。
結局、パンデミック(病原体の感染)というより、インフォデミック(うわさ話と恐怖心の感染)というべきものでした。
人間はもともと何かを判断するときに事実を見ません。それが今回はっきり出てしまいました。正確な数字を見ることが重要で、人が言っていることをうのみにしないことが大切です。
さて、「伊豆観光はインバウンドを目指すべきか」という問いに対して、皆さんのうち9割の方が「目指すべき」と回答しました。私も同意見です。
では、人口100万人当たりのコロナの死者数が少ない国はどこでしょう(図2)。
アジアだけで見ると日本はずいぶん死者が多いということになります。このデータでは、ヨーロッパから見た日本は安全です。米国も同様です。逆に困るのはアジアで、中国の方が日本に来るのはものすごくリスクが高いのです。 次に、2019年の訪日数を比べます(図3)。
台湾が5人に1人ならば、中国から50人に1人来てもおかしくないでしょう。そうすると中国から年間1700万人が来る計算です。つまり、インバウンドを再生するには、日本は真横にある巨大市場を無視できません。日本はアジアのきれいなお庭であり続けるので、来るなと言っても向こうから来る―という状況が生まれます。


伊豆を訪れる言い訳づくり
日帰り客の消費額は増えていませんが、宿泊客のそれは増加傾向です。沖縄や北海道は長期滞在が増えています。
「伊豆観光の最大のマイナス点は何か」という問いに対して、「交通の便」が「宿や中身の問題」の倍の回答数です。これが、伊豆が活性化しない理由です。ライバルの沖縄や都市のホテルに比べて宿や飲食店の中身があまりに旧態依然としています。それを分かっていない人がこれだけいることがショックです。
バブル期に若者だった人が今、経営側に回っていると思います。バブル期は、役職者が戦前生まれで、課、部、会社と、旅行が3回あった時代です。それから30年がたち、全員が30歳年を取ったにもかかわらず、このことを自覚せず同じことを繰り返すと思っている観光関係者が多いのです。
50代以下は旅行代理店にあまり行きません。若者は昔の半分しかいません。テニスをしなくなった、旅行に行かなくなったというが、違います。人が半分に減ったのです。
観光関係者は「現実を知る」ことです。日本は人口減少です。台湾、香港は来日頻度が高い。つまり、中国や東南アジアからの訪日は増えていきます。
次に、日本人客の客単価を上げるために何をすべきでしょうか。「客単価の高い滞在客の増加に向け、宿と食を洗練させる」「着地型代理店の利用拡大、通販の拡大」「外国人客は滞在型とリピーターを増やす」などをお伝えしたい。また、富裕層の得意客は大事にしつつ、首都圏のニューリッチ層の顧客を増やしましょう。
非常に大事なのは、お客さんから見て「伊豆は何なのか」という視点です。
お客さんが来る地域は、行く言い訳が立つ地域です。伊豆の〇〇温泉は自然の濃さが違う、なじみの宿だから、といった理由です。「安いから」は最悪の言い訳で、お客さんが値段以外の言い訳を持って選ぶ地域だけが残ります。ストーリーがあるだけでは言い訳になりません。
また、伊豆国と、駿河国や相模国の違い、フィリピン海プレートに乗った火山地帯ならではの風土を発掘し、強調しましょう。言葉ではなく五感―味、匂い、色などで風土を感じてもらうことが重要です。伊豆が持つ、沖縄の離島やタヒチ的な明るさを楽しんでもらいましょう。その地域にしかない暮らしの営み、独自の生活文化に共感してもらいましょう。 「東京のすぐ南の異日常」を打ち出せるかが勝負です。これを明確にアピールしてください。道路事情が良くなればなるほど、もっと日帰り客は増え、宿泊客は減ります。これからインバウンドは増えていきます。今からご自分の店をどう変えていくか、考えることをお勧めします。


参加者アンケートより抜粋 
・とても有益な講演。感情や感覚でなく、データで判断する視点は情報化社会ではとても重要だ。
・講師の的確な指摘に、改めて今後の伊豆観光の在り方を見直す機会となった。
・伊豆観光の不振を交通事情のせいにしていたため耳の痛い話ではあったが、指摘の通りだと思う。地域を挙げて高単価化できるよう、魅力向上に努めたい。
・選択式のアンケートは集計結果がすぐ分かり、オンラインならではの良さを感じた


散策楽しめる温泉場の復活を あさば主人 浅羽一秀氏
地元に戻り、25年がたちます。食べることや建築が好きで、旅にも良く行きました。そうした経験から「理想の宿」を目指そうと、おいしい料理とは、快適な部屋とは何かを追求してきました。掛物や花などで季節感の演出を大事にし、コストよりはお客さまの納得感を重視してきました。その結果、27室あった部屋数を16室まで減らしています。コロナ禍では、国立の医療センターなどでも使われている空気清浄機を全室に導入、お客さまの安心感を具体化しました。
料理は出来立てを提供し、化学調味料は使わないなど、当たり前の仕事を当たり前にやる事が昨今難しいと思います。しかし、そこに価値を置いています。それを評価してくださるお客さまがいるからこそ今があるのです。
宿のレベルは主人以上にはなりません。常に勉強が必要だし、お客さまに教えていただく姿勢が大切です。
修善寺は、修禅寺の門前町として開けた歴史があり、土産物や飲食店、喫茶などが立ち並び、散策して楽しめる場所でした。しかし、昨今、シャッターを閉めたままの店も増えています。店主の高齢化で、昼のみの営業や休業日が増えるなど、温泉場のにぎわいが保てなくなりつつあります。
例えば、温泉場の一角に行政が長屋を造り、若者が挑戦しやすいビジネスプラットフォームにするのはどうでしょう。泊食分離の宿も増えているので、飲食店があれば宿泊施設も増えてくるでしょう。観光客もそうですが、地元に住むわれわれが暮らして楽しい町にしないとにぎわいは生まれません。
理想はベネチアです。車を入れず、散策ができ、路地ごとに魅力的な店が発見できます。25年間思い続けていることです。


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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