サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2020.12.24 静岡新聞掲載」

「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」
県東部の地域振興について広く検討する「風は東から」の新シリーズ「ウィズコロナ時代の地域づくりを考える」。12月は「ものづくり」に焦点を当てる。コロナ禍による市場の変化をつかみ、自社の技術で新たな商品開発に結び付けた丸富製紙(富士市、佐野武男社長)、平電機(長泉町、平正和社長)に、その対応策や今後の方向性などについて聞いた。また、変わる企業の在り方について、懇話会TESS研究員で、企業経営研究所の中山勝理事長が展望を語った。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

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コロナ禍で新市場出現 技術と行動で開拓を
■市場ニーズを敏感にキャッチ  丸富製紙
丸富製紙は、トイレットペーパーやタオルペーパーの製造販売を行っている。主力商品のキャラクターや花柄のプリントをあしらったトイレットペーパーは、国内生産量1位を誇る。
トイレットペーパー月産1万2000トンのうち、商業施設や都心部の宿泊施設、テーマパークなどの業務用が3割を占める。コロナ禍で業務用の需要は落ち込んだが、家庭用は伸びている。
2〜3月にかけ、トイレットペーパーが店頭から姿を消した事態は記憶に新しい。同社はすぐにSNSで十分な生産量があることを発信し、多くの反響を得た。騒動後に消費者アンケートを実施したところ、8割の家庭が備蓄をしていることが分かった。
そのため、騒動の際、特に品薄になった都心部の住宅環境も考慮に入れ、3年前に発売した超長尺のトイレットペーパーの売り込みをさらに強化。通常の5倍の長さという特徴に加え、かさばらず備蓄に最適という価値を生み出した。この超長尺品の製造技術は同社独自のもので、他社は追随できないという。 
■女性が商品開発の主力となっている丸富製紙の市場ニーズを的確に捉えた商品群
■透かし模様のような印刷を施したトイレットペーパー
他方、消毒液のふき取りなどで需要が増大したのがペーパータオルだ。同社は、漫画雑誌などに使う「せんか紙」を生産する大二製紙(富士市、滝口陽子社長)と業務提携し、増産体制を整えた。需要の増加とともに販売店から大容量が欲しいという声があり、5個パックも新たに商品化した。
自社ブランドの商品開発は丸富製紙マーケティング部の女性3人が担当する。無漂白トイレットペーパーも女性の意見を取り入れた。クラフト紙のような見た目は、カフェなどの雰囲気に合う仕上がりだ。また直近では、日本の和紙を思わせる透かしの印刷技法を開発、特許出願中だ。「SNSで発信したところ、特に女性の支持を得ているようだ」と同社の太田智紀執行役員は自信をのぞかせる。
マーケティング力の強化とともに同社が力を入れているのが環境への配慮だ。以前から、業界初の牛乳パック再利用化や、石油由来からバイオマスのインキに切り替えるなど、環境に配慮した取り組みを行っている。地域貢献にも熱心で、今年はコロナの影響で受け入れを中止しているが、例年、工場見学に地元を中心に5000人が訪れる。また、県や富士市と連携し新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」を活用した商品開発にも力を入れ、商品の付加価値をさらに高める取り組みも進めている。
太田氏は「消費者が商品や企業を選ぶポイントが変わってきている」と話す。持続可能で、かつ楽しさ、新しさを付加価値として商品にどう反映していくか、試行錯誤が続く。


■人に役立つ製品を次々開発 平電機
平電機は、本業として電気回路のスイッチ接点ボタン等を製造するかたわら、医療機器を手掛けている。
10年前、先代が亡くなったのを機に、精密に切削する技術を活用し医療機器分野へ進出。主に難削材といわれるチタン加工に特化、同分野の国際規格ISO13485を取得し、インプラントを製造している。
同社を良く知るファルマバレーセンターの稲葉大典部長は「熟練者による製品の仕上げや品物の検査検品のレベルが高い。一方で最新機器などを積極的に導入し、若手をどんどん採用している」と強みを説明する。こうした技術力が評価され、大手医療機器メーカーの研究部門からの相談が絶えない。
同社は中国・上海に支社がある。日本でマスクが品薄になった時は、支社経由でマスクを輸入。従業員が住む自治体とその子どもたちが通う学校に寄付した。医療現場の窮状がニュースになると、医療従事者を守るフェイスガードを製造、複数の医療機関に寄贈した。改良を加えたメガネ型のタイプは曇りにくく歯科医などからのニーズが高い。沼津市の聴覚特別支援学校に持って行ったところ、子ども用が欲しいという話があり、3サイズ展開にした。
その後、足踏み式消毒器、検温器付きUVディスペンサー、マスク用小型扇風機などを社会のニーズに合わせ次々と開発。直近では、人体に影響がない微量のオゾンを発生し、コロナをはじめとするウイルスの除去、匂いの除去を行う業務用機器を開発。今後は卓上用、ウエアラブル型も販売予定だ。
同社の市川明宏常務取締役は「いかに従業員の雇用とその家族を守るか、地域の役に立てるものづくりができるか。それには世の中の動きをよく見て、自社の技術や資源を生かせるものをいち早く見つけ、迅速に開発し、リリースすること」と語る。金型を工場で作り、上海に送り製造し、輸入する。その一連の工程をスピード感をもって進められることが、同社の強みだ。
■「自社の技術力とネットワークで社会に役立つものづくりをしたい」と語る市川明宏平電機常務取締役

現在、平電機はコロナ禍のアフリカ支援基金「Peace Tech Project」で、非接触電子温度計をアフリカ現地へ届けるクラウドファンディングに協力している。同社の製造ラインを生かし割安の非接触型電子温度計を作り、現地の人に検温の意味や意義を伝える取り組みだ。
同プロジェクトの詳細は https://readyfor.jp/projects/peace-tech-project で。


チャンスは市場の変化にこそある 中山勝企業経営研究所理事長(懇話会TESS研究員)

新型コロナウイルスによって人の動きや生活が劇的に変わった。働き方も大きく変わる中で、知らぬ間に新たな市場がどんどん生まれている。その変化にいかに気づき、つかめるかだ。
製品は市場への導入から時間が経過すると基本機能に加えて副次機能が必ずプラスされる。たとえばマスク。最初は皆同じ使い捨ての紙マスクを使っていたが、今は色付き、イラスト・ロゴ入りなど、多種多様なラインナップだ。まさにマーケティングによるものと言える。品質がいいのはもちろん、付加価値をどう与えるか、お客さまが何を求めているかのマッチングを愚直にやっていかなければならない。
もちろん、そこには優れた技術を保有していることは必要条件だ。
さらに、コロナ禍でのものづくりには、「人に、地域に寄り添う」視点がより重要だ。経営理念に立ち返り、企業の存在価値を再度認識する中から次に進むべき道が見えてくる。丸富製紙や平電機の取り組みはこの点をきちんと踏まえた好例だろう。
今まで考えていないところにビジネスチャンスがある。例えば、医療という市場をどう捉えるか。診療という狭義で捉えるか、健康、未病領域までを考えるのかで大きく変わってくる。生活者に視点を当てれば、まだまだいろいろなことができるだろう。
また、コロナ禍ではスピード感が問われるため、他社との連携がますます必要になってくる。
大と小、グローバルとローカルなど、ものごとを単純に二極化で捉えがちだが、その中間もあると思う。そうなると組み合わせは無限大だ。新しいもの、異業種と組み合わせることで、製品やサービスのライフサイクルや企業の寿命そのものも延びていく。それをどう創り出すかが企業に問われている。
新型コロナウイルス感染症は、企業経営にとって予期せぬ事象かもしれないが、変化することは常態であると捉えるビジネスの“運動神経”が必要だ。




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