サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2021.4.22 静岡新聞掲載」

【東部・富士山地区合同分科会】
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、オンラインでの合同開催となった、2月24日のサンフロント21懇話会東部・富士山地区合同分科会。テーマを「駿河湾の海洋資源と環境保全」とし、沼津港深海水族館副館長の安永正氏、沼津工業高等専門学校教授の大津孝佳氏、マリンオープンイノベーション(MaOI)機構専務理事の渡邉眞一郎氏に、産業や教育面での駿河湾の活用法やヒントについて聞いた。コーディネーターは企業経営研究所の理事長で懇話会研究員の中山勝氏。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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資源活用と環境保全両立しマリンエコノミーを推進
■多彩な海洋資源 可能性は未知数
■渡邉眞一郎 氏
マリンオープンイノベーション(MaOI)機構専務理事

静岡県入庁後、交通基盤部部長代理、文化・観光部長などを歴任。富士山静岡空港関連業務、クルーズ船就航促進、静岡ディスティネーションキャンペーン、ラグビーW杯準備などに従事。県退職後、2019年から現職
中山 多くの恵みを与えてくれる駿河湾。その特徴や海洋資源の活用についてうかがいます。
渡邉 駿河湾には多様な生物が生息しています。昨今のバイオ技術や研究によってこうした生物の中に、人に役立つ成分があることもわかってきました。また、日本一水深が深い駿河湾では、未知の生物などの発見も期待されますし、波力等海のもつエネルギーの活用等、多くの可能性を秘めています。MaOI機構は、こうした海の恵みを人々の暮らしに役立てるとともに、海洋環境の保全も目指す「ブルーエコノミー」を推進しています。
安永 駿河湾自体が資源です。地形的に一級河川が流れ込む湾で、ミネラル分が豊富にあります。湾の南西部は浅くなっており、黒潮が入ると海流が複雑になります。そのため、浅い海から深海まで非常に生物が豊富です。
水族館では、底引き網漁とかご網漁で採れた生物を漁師さんから提供してもらっています。漁師さんは採れる場所をよく把握されていますが、漁をしていない場所も多くあると聞いていますので、期待は大きいですね。
■安永 正 氏
沼津港深海水族館副館長

東京水産大(現東京海洋大)修士課程修了。サンシャイン国際水族館(現サンシャイン水族館)に入社し、館長を務める。退社後は「よしもと遊べる水族館」設立にアドバイザーとして参画し、2011年から現職
※石垣市よりオンライン参加
大津 世界にはエネルギー、健康、食糧などさまざまな問題があります。それらを、実際の深海を使って学ぶ試みをしようと、高専で深海調査のクラブ活動を立ち上げました。
深海魚の活かし方の一つに、深海魚を食糧にする、ということを考えています。世界の人口は2020年の78億人から2050年には97億人になると言われています。われわれには「干物」という技術がありますので、食育の一環で、世界の食糧課題を深海魚を食べることで解決しようと活動しています。
また、深海魚には油がたくさん含まれています。それを活用できないでしょうか。深海バイオマス発電も小さなエネルギーですが非常時には使えると思います。深海魚がもつ油は化粧品やサプリメント、マッサージオイルなど肌の健康を保つためにも使われています。


■観光や教育面でマーケット創出
■大津孝佳 氏
沼津工業高等専門学校教授

山梨大大学院修了後、日立製作所に入社。慶応義塾大博士号授与後、2010年に鈴鹿工業高等専門学校教授に就任し、15年から現職。地域特性を生かした知財創造教育を推進し、駿河湾をキャンパスとした深海調査などを行っている
中山 新たなマーケットの創出、特に産業や観光についてはいかがですか。
渡邉 例えばMaOIプロジェクトの一環で、沼津工業技術センターが駿河湾のカツオ由来の乳酸菌を使った豆乳ヨーグルトを開発しました。疲労回復などに効果があると期待されるオルニチンが豊富に含まれています。かまぼこなどの練り製品に使うスケトウダラの成分は筋肉の増強に役立つことがわかってきました。こうした特性を活かした、健康長寿に役立つ製品が生み出されることを期待しています。
また、駿河湾由来の魚から、眼病に良い成分が取り出せそうだということで、慶応大に研究してもらっています。うまく進めばファルマバレーでの創薬につながります。このような事業の種をたくさん生み出し、企業の方々と育てていきたいと思っています。
安永 水族館は何かしらのきっかけを作れる場だと思っています。深海魚水族館のオープン当時はお客様の年齢層が高いと感じていましたが、1年ほどでファミリーが増えてきました。
そこで始めたのが、タカアシガニの甲羅を使った魔よけのお面づくりです。戸田地区に古くからあるもので、夏休みに小学生向けに行っています。出来上がりはびっくりするほどユニークです。中には甲羅を逆さにしたり、横にしたりする子もいます。生き物を通じて何かを伝える事が観光や経済に役立つと良いと思います。
中山 教育面での活用もされているとうかがいました。
大津 地域特性である富士山、駿河湾を知財教育のフィールドに、ロボット、自動車、深海調査など本物への挑戦や体験のできるキーコンテンツを創出したいですね。それには発明的な問題解決の理論「トリーズ」を使います。これは、ロシア発の特許分析から生まれた発想法で、特に「40の発明原理」は発想のヒントを与えてくれます。技術的問題のみならず生活の課題や伊豆半島ジオパーク、百人一首の表現を生かした創造法などさまざまな分野への応用が可能です。


■新たな暮らしへ知財教育を実践
■コーディネーター
 中山 勝 氏
企業経営研究所理事長
(サンフロント21懇話会TESS研究員)

スルガ銀行入行後、財団法人(現一般社団法人)企業経営研究所出向。部長、常務理事を経て、2020年から現職。サンフロント21懇話会シンクタンクTESS研究員、日本大学国際関係学部非常勤講師
中山 次に、駿河湾の環境を守っていくには、何を進めていけばよいでしょうか。
渡邉 まず、海中の状況の把握です。水産技術・海洋研究所などが調べた海洋に関するデータを一つにまとめてデータベースをつくり、駿河湾の状態がわかるような形に整理したいと考えています。また、MaOIプロジェクトとして、海洋生分解性プラスチックの研究もしていますが、広く普及するには時間がかかります。プラスチックは便利ですが、別のものに代えられないか考えていくというのも当面必要だと思います。
さらに、海洋環境を守り育む活動も重要です。例えば、失われてしまった藻場を再生する活動が行われています。私たちも、サガラメの再生活動に協力し、20組40人の親子に体験していただきました。
安永 自宅がある石垣島でもゴミ問題は看過できない状況です。ハングルや中国語のラベルが多く、地元の子どもたちは外国で捨てられていると思いがちですが、実際は日本のゴミもアメリカ本土にかなりの量が流れ着いています。自分たちが捨てることで、どれほど悪い影響を及ぼしているか、誰もそれを伝えないのは問題ですね。
水族館の存在意義として、きれいな水の中のきれいな世界、面白い生体を見せ続けたいと思います。見せ続けることでこんな世界が水の中にあるんだな、いつかライセンスをとって潜ってみたいなと思ってもらいたい。そうなればゴミを川や水に捨てようとは思いません。水族館での記憶が、海や川、森を守ることにつながると思います。
大津 駿河湾の環境を守るために、学校、社会、地域が連携し、自分事にすることが大切です。そのために、地域社会と連携した知財創造教育の実践が必要です。駿河湾の環境を自分の問題としてとらえる、さらに社会人教育、生涯学習にも駿河湾を教材にみんなで考える。それを「らせん状の循環性教育」と言っています。それが地域には重要でしょう。
トリーズを活用しながら、問題を解決する取り組みを県内全体に広げ、ここから日本、世界に発信したいですね。2020年のイノベーション能力と成果に関する世界経済ランキングは、日本は16位です。それをもっと高いレベルに持っていきたいですし、そのために駿河湾を知財教育のフィールドにできればと思っています。
渡邉 企業や大学、ベンチャーの方々から、研究開発はラボでもできるが、実証の場がないという話を聞きます。実証の場を提供できるのはいわゆる「地方」でしょう。裾野市にトヨタが創るウーブン・シティも未来の社会を作るための実証の場です。
われわれは駿河湾という場を適切に提供し、人にも自然にも優しい事業を呼び込んで、豊かな東部の地域づくりに尽力していきたいと思います。
中山 産業や観光、教育など多様な活用が期待できますね。駿河湾を次世代につなげる事こそ、われわれの使命と感じました。



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