サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2021.9.23 静岡新聞掲載」

農業の生産性向上と関連産業のビジネス化をオープンイノベーションで進める県の「AOIプロジェクト」。拠点となるAOI-PARC(沼津市西野)は、開設から5年目を迎えた。9月の「風は東から」は、ここでの研究開発や取り組みについて一般財団法人アグリオープンイノベーション機構(AOI機構)の岩城徹雄専務理事兼事務局長に聞いた。また、同プロジェクトの中心となる会員組織「AOIフォーラム」から生まれた成果事例を紹介する。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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5年目のAOI-PARC スマート農業を強力に推進
■高付加価値化と環境負荷軽減
■AOI-PARC全景
― 昨今の農業分野の大きな流れをお願いします。
岩城 「スマート農業」が言われ始めて5〜6年が経ちます。これまでは言葉が先行していたきらいがありましたが、国や地方自治体の支援メニューが充実したこともあり、実際にスマート農業を導入し、経営効率化や収量アップを図る実証をするなど、現実的な施策が増えてきたのがここ2〜3年です。
同時にSDGs、カーボンニュートラルなど、環境負荷軽減につながる農業の展開が、これからの動きだと思います。
また、農業のデジタル化、データ重視の生産方法の導入も進んでいます。これらをうまく取り込みながら、農業生産者が、安全安心で健康に良く、おいしいものを消費者に届けられるか、というのが課題です。

― AOI-PARCでは、こうした流れに沿った様々な取り組みをされています。
岩城 食のサスティナビリティを推進するため農作物のスマートフードチェーン構築を進める「戦略的イノベーション創造プログラム」、カメラやドローンを活用したセンシングなど新しい技術を活用する「スマート農業関連実証事業」など、国の研究開発プロジェクトに積極的に参画しています。
また、官民研究開発投資拡大プログラムとして、理化学研究所ほか全国の研究機関等と協力した種苗開発を支えるスマート育種システムの開発、微生物の活動をフルに活用し完全資源循環型の食糧生産システムを開発するムーンショット型農林水産研究開発事業にも参加しています。
昨年もAOIフォーラム会員を中心にいくつかの共同研究が進みました。これまでの成果を農業現場に定着することを目指しており、現在、ケールとトマトの生産については農業生産者と実証事業が行われています。また、スムーズな生産現場での実証事業実現のため、静岡県が県東部の6つのJAと提携し、約8万6000アールの使用可能な圃場をリスト化しました。


■伴走支援と出口戦略

岩城 徹雄 氏
一般財団法人アグリオープンイノベーション機構専務理事兼事務局長

2017年6月から現職。最先端技術により農業の飛躍的な生産性向上を図り、関連産業まで含めたビジネス展開を目指す静岡県のAOIプロジェクト。その推進を担う団体で生産者や企業の支援を進めている。

― 活発な活動の背景には、AOI-PARCに入居する県農林技術研究所、慶応義塾大SFC研究所、理化学研究所などの研究機関の存在があります。また、農業ビジネスに関心のある県内外企業、団体が集う「AOIフォーラム」も特徴の一つですね。
岩城 農業でオープンイノベーションを進めるためのAOIフォーラムの会員企業がどのような課題やニーズ・シーズを持っているかをAOI機構に所属するコーディネーターが丁寧にヒアリングしています。その上で具体的な解決方法として、他の企業とのマッチングや、内容によっては大学や研究機関との共同研究をスタートさせます。最終的にはビジネス化やビジネスの拡大につなげるところまで「伴走支援」するのがわれわれの役割です。

― コーディネーターが重要ですね。
岩城 農業分野だけでなく、素材や化学に強かったり、植物工場の運営経験があったり、また、中小企業診断士の資格を持つ者など、いろいろな分野にわたって専門性をもったコーディネーターがいます。必要に応じて、国などの補助金のアドバイスや申請支援などもしています。昨年度から、より大きなメリットを得られた会員企業からコンサル料をいただくようになりました。こうして得た対価をAOIプロジェクトの拡大、発展や支援の充実のために展開していきます。

― 今後の展望をお願いします。
岩城 今後力を入れる部分として、AOIプロジェクト全体では世界的な流れのSDGs、環境負荷軽減などに向けたスマート農業の推進、AOIフォーラムでは会員に対する出口戦略、知財、資金調達、人材育成支援―が考えられます。
人材育成については、農業のデジタル化を推進できる人材の育成を進めたいと思っています。現在は県の普及指導員やJAの営農指導員向けの研修を、県から慶応大に委託していますが、これを本機構の事業としてできないか考えています。また、磐田市に開学した静岡県立農林環境専門職大学とも、具体的な連携ができるプログラムの検討を進めています。

■参加企業が自由に交流するAOI Meet Up。サンプルの交換や、その場で商談につながるケースも
― フォーラム会員の増強も課題ですね。
岩城 より多くの方に農業分野に参入してもらいたいと思います。「オープンイノベーション」のきっかけづくりに重要なのが会員相互の交流です。コロナ禍でリアルな交流会の開催ができないのが歯がゆいですが、会員企業のシーズやニーズを発表してもらい、興味をもった企業と自由に交流する「AOI Meet up」というイベントを活発に開催しています。この中から新しいオープンイノベーションの種を見つけ、経済活動につなげる。実際は「(成功事例は)千に三つ」と言われるような世界ですが、これをたくさん開いていくことで農業の新たな可能性が広がると思います。


AOIフォーラムから生まれた成果

【事例1】
コンテナ型植物工場「BlockFARM」を使った葉物野菜生産と海外展開ファームシップ(東京都中央区)

県の「オープンイノベーション型事業化促進事業」を利用し、同社を代表機関に、石井育種場、AOI機構、不二ライトメタルでコンソーシアムを構築。葉物野菜の栽培レシピについて、県農林技術研究所に委託研究し、同時に現地ではマーケティングをしながら品種の検討を行った。
残念ながらコロナウイルスの影響でシンガポールでの展開は保留となっているが、今後沼津市に予定している大規模植物工場に「BlockFARM」を設置し、引き続き実証を行っていく。
■「BlockFARM」外観 ■内側では青々とした葉物野菜が育つ

【事例2】
残渣(ざんさ)を使った新商品開発と販路展開クレアファーム(静岡市)

同社は、オリーブオイルを絞った果実の90%を占める残渣の有効活用から製品を開発。長引くマスク生活で肌荒れに悩む人が増えていることに着目したもので、残渣にオリーブと同程度の有効成分(美容成分)が含まれていることから、AOIコンソーシアム(同社、不二工芸製作所、エフシー中央薬理研究所、静岡県立大学大学院薬食研究推進センター)を組み、開発を進めた。
プロダクトアウト製品の販売の難しさから、化粧品ブランド「草花木果」のフォロワーにプロモーションをするなど、出口戦略にも力を入れている。
■整肌美容ミスト「草花木果」 ■原料となるオリーブは、日本平の農園で丹精込めて育てられている



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