サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2021.10.28 静岡新聞掲載」

「伊豆地区分科会」
コロナ禍で社会が大きく変化する中、注目される「ワーケーション」。旅行や帰省先で余暇を兼ねながら一部の時間を仕事に充てる働き方だ。10月の「風は東から」は、今月19日の伊豆地区分科会パネルディスカッションを取り上げる。パネリストに、日本経済研究所の大川澄人取締役、県の土屋優行特別補佐官、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの岡田美紀子EX&HRマネジャー、ホテルニューアカオの武茂生リゾート活用部長を迎え、伊豆半島でワーケーションを展開するヒントを探った。聞き手は、懇話会TESS研究員で企業経営研究所の中山勝理事長。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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ワーケーションの適地目指し 人と地域を結ぶ知恵絞れ
■多様な働き方の台頭と伊豆の状況
■土屋 優行 氏
静岡県特別補佐官

1978年東北大法学部卒業後、静岡県に入庁。2012年経営管理部長、14年経済産業部長、15年賀茂振興局長兼政策調整監などを経て、同年8月より副知事(伊豆半島担当)に就任。19年8月より現職。下田市出身
中山 今回は、伊豆地域でワーケーションをどう展開していくのか、利用企業、受け入れ施設、自治体の皆さんに伺います。
土屋 伊豆半島は、ワーケーションの適地とよく言われます。県が昨年末に首都圏、中京圏の企業に取ったアンケートによると、半数以上が伊豆半島を希望エリアに挙げました。また、最低条件として、通信環境やプリンターなどのオフィス設備が整っていること、との回答がありました。
サテライトオフィスの設置状況は、把握しているだけで、全県で公共のものが15件、民間が59件。伊豆半島は公共設置が7件、民間設置が18件となっています。
 外資、IT企業を中心にコロナ前からリゾートミーティングの需要はありました。よりリモートワークが浸透し、オフィスが縮小される中で、熱海はすぐに首都圏へ帰ることができ、かつ普段とは違う場所で働けるニーズが高まるのではないかと思います。今後は、プロジェクトやチームごとの利用、また、1〜2泊という短期の利用が増えると考えています。
武 茂生 氏
ホテルニューアカオ
リゾート活用部長

ホテルニューアカオの営業職や企画室(社長室)を経て、2018年にリゾート活用部に異動。現在はアカオハーブ&ローズガーデンの運営や三菱地所によるワーケーション施設の誘致を担当。神奈川県小田原市出身
当社が三菱地所とつくった敷地内ワーケーション施設は、1社占有で利用が可能であり、非日常感を出しています。ロケーションを生かし、利用者に立ち漕ぎサーフィン(SUP)でのジオサイトツアーや、屋外バーベキューなどを提供しています。
単に会議だけして帰るのではなく、街中も楽しんでもらいたいと考え、市内のまちづくり会社と連携して、利用者向けのガイドツアーなどもやっています。
岡田  当社が推進する「WAA(Work from Anywhere Anytime)」は、ワーケーションを会社で推奨しているもので、「社員がどのように生きていきたいか」がスタートになります。
自分がどの場所で働くのが一番よいのかを選べることが、社員のモチベーションにつながり、生産性も向上しました。
WAAを発展させたのが「地域deWAA」で、当社と自治体が包括連携契約を結び、地域課題を社員が何らかの形で解決していく、という仕組みです。その先に、地域を好きになる、地域とつながる、があるのではないかと思います。


■仕事場と自然が隣接するメリット
■岡田 美紀子 氏
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス
EX&HRマネジャー

南山大法学部卒業。1998年リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)入社。2008年米系大手グローバル企業GE(ゼネラル・エレクトリック)日本法人にてRecruiting Manager、GEヘルスケア・ジャパンでHRマネジャーを9年経験、日本発ユニコーンベンチャー企業でグローバル人事を経て、現職
※リモート参加
中山 伊豆地域でワーケーションを進めるために、企業側が感じている施設や地域の課題、要望をお聞かせ下さい。
岡田 企業側はまず、最初の移動時間を考慮します。2つ目は施設です。ワークという観点では通信環境でしょう。ウェブ会議をすることが多くなり、ある程度情報が漏れない場所でやりたい、というニーズがあります。また、最近は自分自身の感性を研ぎ澄ます、という意味で、執務の場所に自然が隣接していることが挙げられます。ヘルスケアの効果はかなり高いのではないでしょうか。
ワークそのものの質を上げていく、オフィスでできない仕事をする、ということを目指す上で、自然の中で仕事ができるのは一つのメリットになると思います。
 利用者の方から、電車で来ると伊豆は近いんだね、と言われます。それを他の企業にどう伝えればいいかが課題です。また、地域の若い方たちと新しいことをやっていければと思っています。
土屋 現状は観光とワークをうまくつなげることができていないと感じています。県の取り組みとして、予算規模3億円の事業を行います。これは、市町のワーケーションの受け入れ計画を前提に、宿泊施設のワーキングスペースの確保などに活用します。
また、企業のワーケーション誘致を支援する相談窓口を開設しました。発信については、ポータルサイト「SHIZUKURU(シズクル)」があります。3月から9月まで2万6000人が訪れています。サテライトオフィスの説明や観光の情報などを入れていますが、まだまだ具体策が少ないと思っています。
大川 ユニリーバ社が見事に働き方の変革を起こしていることに非常に感銘を受けました。仕事そのものの質をワーケーションで変える、という話がありましたが、それができればもっと定着するでしょう。特に自然の中で、というお話は、伊豆にとってはありがたいですね。また、武さんの「伊豆が意外と近いと言われる」という発言にも驚きました。伊豆南の賀茂5市町は、何らかの共通イメージを示すことで、興味を持ってもらえるのではないでしょうか。


■目的と情報発信がカギ
■大川 澄人 氏
日本経済研究所取締役

1969年東京大法学部卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。90年米スタンフォード大国際政策研究所客員研究員。2004年より同行副総裁。07年(一財)日本経済研究所理事長。11年全日本空輸常勤監査役(現ANAホールディングス)。20年6月より現職。伊東市生まれ
中山 今までの議論を踏まえ、ワーケーションを推進するヒントをお願いします。
 伊豆は首都圏から見ると行きやすく、帰りやすい場所と思っています。健康への追求が今後も続く中で、温泉があり、自然環境も豊かという面でワーケーションに適していると思います。
課題は、伊豆全体をまとめてPRするのが難しいこと。また、アクセスの方法が詳細に紹介されると、来る方が増えてくるのではないかと思います。
岡田 週末をまたぐかどうかは大きなポイントです。週末をまたぐ場合、行ける場所があったり、おいしい食べ物があったり、単純にリモートワークだけではなく、そこでしかできない体験がワーク以外の時間にできるといいですね。
伊豆に温泉があるのはすごく大きいと思います。自然と温泉と食べものは心身の健康に資するので、「シズクル」などを活用して効果的な情報発信ができるといいのではないでしょうか。
土屋 公の施設はうまくいっていません。下田市はワークスポットをつくりましたが11人しか利用していない。セキュリティが確保されないのが課題です。河津バガテル公園のワークスペースも4カ月で18人です。ところが民間では古い社員寮をリノベーションし、職員が施設の利用者と地元をつなげる活動をしている。伊東では、長期滞在用に空き家をリノベしたところ、かなり引き合いがあるという話でした。このようにいかに運営するか、その人材を育てるが課題だと思います。
コーディネーター
中山 勝 氏
企業経営研究所理事長
(サンフロント21懇話会TESS研究員)

慶応大大学院経営管理研究科修了。スルガ銀行入行後、1982年企業経営研究所に出向。研究員、主席研究員を経て2000年部長、08年常務理事、20年より現職に。静岡県、沼津市、三島市などの各委員や日本大学国際関係学部非常勤講師など、幅広く活動する
岡田 受け入れ側がこういう事もできますよ、という投げかけをし、そこでしかできない体験ができる、参加する企業にもプラスになる、というのがいいと思います。また、企業研修で来た人に、個人的に使える割引や情報提供などをすれば、連続して訪れてくれるのではないでしょうか。
土屋 関係人口を増やして定住人口を増やす、その先に企業誘致、という明確な目的がないと行政がやる意味がないと思います。
伊豆には美伊豆(美しい伊豆創造センター。「伊豆を一つに」をテーマに2015年に発足した組織。13市町が参加)がありますが、これは共創すべき課題と感じました。何を目標にするかを議論しどうしていくかを共に考えていく、のが近道だと思います。
大川 伊豆への時間距離という話がありました。その解決のためにどうするか、次世代の交通支援サービス「MaaS」をきっちり作って、下田のどこにどのくらいかかるか、西伊豆のどこにはどのくらいかかるか、という最短時間を作ってアピールしたらどうでしょう。
伊豆が一つになる努力をせず、このまま人口減少が続くと私の知っている伊豆の風土が無くなってしまうのではないか、という恐怖を感じています。
中山 ワーケーションは始まったばかりです。ブームで終わるのか、定着していくのか、ターゲットは誰か、どうアプローチするのか―課題は山積しています。うまい仕組みがこの地域にできてくるといいですね。


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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