サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.1.27 静岡新聞掲載」

沼津市原・浮島地区に大規模野菜工場の進出が決まった。県は、農業分野に先端技術を取り入れ、収益アップや作物の高付加価値化を進めるAOI(アオイ)プロジェクトを進めている。1月の「風は東から」は、11月に行われた東部地区分科会のパネル討論を取り上げる。AOI機構の岩城徹雄専務理事兼事務局長、沼津市商工会の渡邊好孝会長、沼津市企画部の山田晃良政策企画課長をパネリストに、大規模野菜工場の進出を契機に、先端農業の発展や地域づくりをどう推進するかを聞いた。聞き手は懇話会TESS研究員の青山茂シード取締役副社長。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10

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技術革新と防災両論に 原・浮島で進む先端医療
■大規模野菜工場が進出
青山 原・浮島地区は以前から農業が盛んな土地柄で、国道1号線が通り、東名、新東名も近く、交通の要衝です。そこに大規模野菜工場の進出が決まったことで、新たな可能性が見えてきました。
渡邊 国道1号線沿いの約2万平方ヘクタールの土地に、システムメーカーの菱電商事と植物工場を手掛けるファームシップの合弁会社「ブロックファーム」が、世界初の閉鎖型ホウレンソウ量産工場を計画しています。日量約3トン、2022年4月以降の完成予定で、太陽光発電に加え、循環型環境制御システムにより、従来の植物工場より電力を50パーセント削減できるそうです。地域にもたらす効果も、新規雇用100人とインパクトがあり、将来的にホウレンソウのレストラン、近隣の農産物販売の「農の駅」の計画もあるそうです。
岩城 スマート農業に4年ほど取り組む中で、多くの企業が自社の技術や製品を農業分野に展開できないか、と積極的になってきました。例えば、アブラナ科の種苗会社増田採種場は、理化学研究所や農業機械メーカーと、機械収穫に適した平たいキャベツを開発しました。おいしさや機能性だけでなく、機械での収穫に着目した新たな取り組みです。
また、ファームシップは、植物栽培キットを組み込んだコンテナを、野菜栽培が難しいシンガポールに持ち込み、生産を始めました。できた作物は地元のレストランで提供しました。作物が栽培できない場所に新技術を持ち込む、あるいは技術を組み合わせてパッケージ化し、海外に展開する。さまざまな事業体が「オープンイノベーション」を合言葉に、知恵を出し合い、得意分野を持ち寄ることで十分世界に互していけると思います。
山田 原・浮島地区にスマート農業がこれだけ実装化されてくると、今後は他地域に対しての戦略が必要かと思います。すぐそばにインターチェンジも2つあり、非常に注目されている地域です。また、中部横断自動車道の開通で、山梨・長野方面にも十分魅力的だという話も聞きます。相談レベルですが、引き合いも数多くいただいています。
外から見るとどう魅力的なのか、地域の皆さんがご理解するのが大事だと思います。
■岩城徹雄氏
アグリオープン
イノベーション機構 専務理事兼事務局長

2017年6月より現職。最先端技術により農業の飛躍的な生産性向上を図り、関連産業までを含めたビジネス展開を目指す静岡県のAOIプロジェクト、その推進を担う団体で生産者や企業の支援を進める


■イノベーションの継続法
青山 地域で農業イノベーションを継続させる方法についてはいかがですか。
岩城 ここは、県の「ふじのくにフロンティア推進エリア」で、沼津市さんは「先端科学技術を活用した農業イノベーション創出エリア」として県に申請しています。
われわれは、研究拠点であるAOI–PARCと生産現場との連携を予定しています。例えばプチベールという機能性野菜がありますが、地元の農家さんが生産しやすい品種を増田採種場と開発し、農家の皆さんがもうかる仕組みを作りたいと考えています。また、ここには植物工場や先進農業に取り組む農家さんもいるでしょうから、将来的には農業の多様性が見られる地域になるといいですね。
渡邊 継続的な改革をするには2つの条件が必要と思っています。
1つは、生産者と販売者が一体で良いものを生み出すことです。例えば、愛鷹牛は地元から銘柄牛を出そうと、長泉の渡辺牧場と肉屋である私の先代とで1998年に立ち上げました。20年ほどは鳴かず飛ばずでした。ところが、国を挙げた地産地消政策で、一気にマスコミに取り上げてもらうようになり、それから徐々に認知していただけるようになりました。
2つ目は、やはり信頼と信用です。今回の野菜工場は、地権者が25人いました。当初、企業の担当者が電話をしても話を聞いてもらえなかったそうです。そこで、最初に私の名前を出してもらうようにしたところ、ほとんどの方に話を聞いてもらえました。ただ、残り数人の方にはなかなかご理解いただけず、約半年、足しげく通いました。そういう中で、地域の農業、観光、防災をテーマに活動する「白隠塾」という組織ができました。住民の方と情報交換しながらさまざまな活動を進めており、今回の工場進出でも、この活動が功を奏したと思っています。
山田 白隠塾の皆さんは原・浮島地区を愛していて、「自分たちがやるんだ」という気概を感じます。
地域協働は、住民と行政、事業者の方、今回の例では農家の方に、どうやって横串をさすかというのが重要です。それには、シビックプライド(住民が地元を良く知り、誇りを持つこと)を持つのが一番いいのではないかと思います。当市には「ぬまづの宝100選」がありますが、これは知る人ぞ知るスポットから、沼津港のような有名な場所まで、市民が自慢したい場所を100カ所選んだものです。シビックプライドがないと、市外の方に自信をもって地域の良さを伝えられないと思っています。原・浮島は白隠禅師というメジャーな存在がありますので、地域の絆も強いように感じます。
■渡邊好孝氏
沼津市商工会長
沼津市生まれ。2018年5月に現職に就任。沼津市内の商工業の振興、発展のために各活動を精力的にこなす。静岡県食肉事業協同組合副理事長も務める。渡邊精肉店本社代表取締役会長
■山田晃良氏
沼津市企画部政策企画課長
1993年4月に沼津市役所に入庁。沼津駅周辺総合整備事業、教育、広報などに携わり、2021年4月から現職。沼津市の重要事業の企画、調査及び総合調整等に取り組む



■自然災害への備えが重要
青山 この地域は、21年7月に大きな水害がありました。住民の生活はもちろんですが、企業がここで安全に運営できるというのが大きな条件になると思います。
山田 主に沼川・高橋川の排水施設の整備をしています。抜本的な振興整備で、河口から沼川までの間で、10年間をめどに進めています。対策は進めていますので、安心して活動いただければと思います。
岩城 農業イノベーションは気候変動対策と分けて考えるのではなく、一緒に考えるべき課題だと思います。AOI–PARCには、栽培環境を自在に変えられる実験装置がありますので、いずれそういう課題を持った研究開発がやれるのではないかと思います。
もう1つが、「ムーンショット」という国のプロジェクトです。2050年までに未利用の生物機能を活用し、無駄のない食糧の供給を図るものです。研究課題に、土壌微生物を解析し、どこにどのような微生物がいて、どんな作物に適しているか、という地図をつくろうとしています。
渡邊 原地域は水害に弱い、というのをブロックファームは認識しており、建築にあたり、行政からの規定もあり、ため池をつくるということをしました。原・浮島は水はけがものすごく悪いわけです。今回、放水路ができると、水害の可能性がゼロに近くなると行政から聞いています。ただそれは10年ほど先で、現在、原地域には防災施設がありません。
今回100人の雇用が生まれます。第2、第3の雇用はもちろん、その10倍近くの物流その他企業も集まります。安心安全なまちづくりをするには、防災と医療は欠かせません。そこで、商工会で、防災と医療の施設の建設に向けて計画をつくっているところです。
青山 イノベーションと災害への備え、この2つが両輪となって地域の発展に資することが良くわかりました。農業イノベーションと原・浮島地区のこれからの可能性に期待しています。
■コーディネーター
青山 茂 氏

シード取締役副社長
(サンフロント21懇話会TESS研究員)

静岡県内外の企業および自治体のプロジェクトのコンサルティングから事業プロデュースまで幅広く手掛ける。ふじのくにしずおか観光振興アドバイザー



■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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