サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.2.24 静岡新聞掲載」

自治体運営における情報通信技術(ICT)活用が叫ばれているが、住民から見て分かりやすく導入している事例は多くはない。「風は東から」2月は、ICTを実際に導入し、地域課題を解決している自治体の事例を取り上げる。地域の課題にどう光を当て、どのような解決を図るのか、清水町と藤枝市の事例について、関係者に聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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地域課題解決にICT活用 実証通じ効果を測定
■<清水町>高齢者の健康寿命延伸をサポート ― オンライン訪問看護「もしもしケア」
元気なお年寄りが多い清水町
■オンライン訪問看護の様子。画面越しにベテラン看護師が高齢者の体調を把握する
「それではまた2週間後に」。モニターに映る70代の女性は、名残惜しそうな笑顔を見せた。
これは、清水町が昨年10月から始めているオンライン訪問看護の実証事業。町内在住、65歳以上の男女14人に、2週間に1度、ベテランの看護師がオンラインで日ごろの様子や生活する上でのちょっとしたアドバイスをするものだ。
事業を行う清水町の関義弘町長は、「コロナ禍で、以前のように家族や友人と頻繁に会えなくなったり、外出が制限されたりしている。元気だったお年寄りが要介護になったり、認知症になったりするのを防ぐ目的で、今回オンラインの訪問看護を取り入れた」と語る。
サービスを提供するのは一般社団法人ライフコネクト(東京都中央区)。介護を必要としない在宅高齢者向けの自立生活支援を、ICTを活用して展開している。
■関町長は「介護予防とコロナ禍での非接触を両立する新たな取り組み」と語る
同法人の常務理事・若杉好洋さんは、自身の一人暮らしの母親を介護した経験から、自宅や住み慣れた場所で、専門的なサポートが必要と痛感。介護や医療を受ける前の「公的給付空白域」を少しでも長く支えるサービスとして「もしもしケア」事業を立ち上げた。
実証事業は昨年10月からスタートし、今年2月まで行われる。参加者は2週間に1度、計6回にわたり、オンラインで看護師の訪問を受ける。1回30分。これは高齢者が疲れずに会話ができる適切な時間という。使用するのはスマートフォンやiPadなどのタブレット端末。機器の導入については「最初は心配していたが、1時間程度の説明でご理解いただけた。オンラインでのやり取りも皆さん抵抗がない」と看護師で常務理事の武藤朋子さんは笑う。 同社団によると、自治体がオンライン訪問看護に取り組むのは全国でも珍しいという。県内では、清水町が初の試みだ。


笑街健幸なまちづくり目指す
■「オンライン訪問看護が離職中の看護師の掘り起こしにつながれば」と語る武藤さん
清水町の高齢化率は27.2%。「心身共に健康」と思う高齢者の割合も半数を超える。「元気なお年寄りが多いからこそ、この状態を維持したい」と関町長。今後さらに高齢化が進む中で、元気なうちから経験豊富な看護師が定期的に面談し、生活や健康面での話をすることで脳が活性化し、認知症の進行を少しでも食い止めることができれば、と期待する。
もしもしケアでは、診療結果の共有のほか、耳鳴りなど病院に行く程ではないが困っていることなどをヒアリングする。また、会話を通し、普段の食生活や運動の頻度なども看護師が把握する。時には、若い頃の思い出や趣味に話が及び、予定の30分をオーバーすることもあるという。
武藤氏は「最初は積極的でなかった参加者も、回を重ねるうちに服装を整えたり、お化粧をしたり、見せたいものを準備したりして約束の時間を待っている。その日、伝えたいことをメモして臨む参加者もいる」と語る。
続けて、「日ごろの高齢者の様子の把握が重要」という。
病院にかかるにしても、普段どんな食生活をしているのか、どんな薬を飲んでいるのか、家族の形や近所付き合いが変わっている今、本人から聞き出せない状況は増えている。専門家が定期的にヒアリングをすることで、こうした情報をはじめ、介護の予兆などを把握することが可能になる。
実証事業では、3カ月間の変化をアンケ―トや意見交換会などを通じて参加者にヒアリングする。
関町長は「次年度は人数を増やし実証を重ねていく。将来的に、医療負担軽減や健康寿命延伸に結び付けられれば」と語る。若杉氏も「最期まで自分らしく生活できる期間を、伴走しながら延ばしていきたい。今後はかかりつけ医やケアマネと日ごろの情報共有、提供をしていきたい」と語る。
こうしたサービスが地域のインフラとして、社会的に位置づけられることを期待したい。


■<藤枝市>高齢者に確実に届ける災害情報 ―災害時安否確認送受信機「マゴスピーカー」
■ボタンを押すだけの簡単な操作で安否確認ができる「マゴスピーカー」
災害時の逃げ遅れゼロへ
独居高齢者にいかに確実に災害情報を伝えるかは、各自治体の悩み。藤枝市は、「オープンイノベーション推進事業(※)」の一環で、IP個別端末「マゴスピーカー」を土砂災害警戒区域に住む一人暮らしの高齢者に配布、通信テストなどの実証実験を行っている。
本事業に取り組むきっかけの一つが、昨年の熱海市の土砂災害。同市も山間部を抱えており、そこに住む高齢者も少なくない。熱海で災害が起こった時は同市も避難指示を発令したが、実際に避難した住民は少なかったという。情報弱者や高齢者は迅速な避難行動がとりづらく、情報入手の経路も限られる。今回はこういった市民を対象とした。「避難指示が確実に届き、逃げ遅れゼロを目指したい」と同市都市建設部基盤整備局河川課の計画係長・榛葉隆浩さんは意気込む。
「マゴスピーカー」は、災害情報を音と光で通知。ボタン操作で安否確認や返信通知ができるため、スマートフォンやタブレットPCの操作が難しいお年寄りも簡単に扱える。また人感センサーを内蔵しているので、返答がない場合や、平時の見守りにも活用できる。
■実証実験に先立ち、動作確認をする市職員
スピーカーから返信された情報は、管理者が安否確認画面の一覧表やマップ上で見ることができる。
この実証実験は、市内2地区の10人を対象に、スピーカーを貸与。参加者は期間中に流れる「避難してください」のメッセージを受信し、「無事」、あるいは「助けて」ボタンを押す。「助けて」ボタンを押した場合には、あらかじめ決めていた家族等に連絡を届けることができる。
これにより、情報が伝わっているか、使いやすさはどうかなどを検証する。事業を担当する企画創生部情報デジタル推進課主事の岡里美さんは「今のところ、順調に反応が返ってきている。問い合わせの電話もあるが、概要を理解してくれているので、思った以上にスムーズに対応いただいている」と語る。
検証の結果を踏まえ、今後は正規の運用について検討したい考え。「今回の実証実験は土砂災害だが、洪水災害の危険区域にも対象を広げていきたい」と榛葉さん。また、この事業には防災だけでなく、福祉部門も参加しており、見守りでの活用の可能性も探っている。
「ICTはお年寄りにこそ利用してほしい分野。ただ、デジタルの活用に慣れていないので、手厚くサポートしながら進めたい」と岡さんは抱負を語った。

※市が抱える地域課題に対応するICTを使ったソリューションを募集する事業。本事業の他、イチゴのパッキング作業の効率化、ゴミの戸別回収ルートの効率化などを行っている。本事業はクレバ―ラクーン社製の災害広報システムと専用端末を使用し、アイティ・イニシアティブ(三島市)が運営する。


■<三島市>マンホールの老朽化 市民の目で―「マンホール聖戦 in 三島」
三島市が面白い取り組みを始める。その名も「マンホール聖戦 in 三島」。街中に設置されたマンホール蓋の写真をWebアプリを利用して集める市民参加型イベントだ。
イベントで集まったマンホールの画像データは、マンホールの機能不備を早期に発見することなどに活用される。参加者はマンホールの写真投稿数で競い合い、入賞すれば順位に応じた賞品(三島市の特産品など)を獲得できる。
イベント期間は3月19〜24日。市内全域の下水道マンホールが対象。



■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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