サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.3.24 静岡新聞掲載」

東部地域の活性化に向け、官民一体で提言を行うサンフロント21懇話会は、活動の模様や地域の課題を毎月1回「風は東から」で取り上げている。年度最後の3月は、川勝平太知事、懇話会副代表幹事の岩崎清悟静岡ガス特別顧問を迎え、ファルマバレープロジェクトが進む県東部・伊豆の最近の動きなどについて聞いた。聞き手は懇話会アドバイザーでふじのくに医療城下町推進機構理事長の大坪檀氏(静岡産業大学総合研究所所長)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ12

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メディカルガーデンシティ目指し医療・教育・文化のさらなる底上げを
■医療産業の生産金額増に寄与

大坪 ファルマバレープロジェクトが始動して約20年、富士山と肩を並べるまでに成長したと感じています。
川勝 ファルマバレープロジェクトは、静岡がんセンターの山口建総長のリーダーシップのもとで「ひとづくり、ものづくり、まちづくり、世界展開」を戦略の四本柱とする活動を順調に広げてきました。
今や本県の医薬品・医療機器の合計生産金額は1兆2000億円、11年連続で全国第1位です。特に医療機器は2位以下を大きく引き離しています。日本の医薬品・医療機器は輸入超過で、赤字が年4兆円に膨れ上がっています。しかし本県は合計生産金額を増やしています。
山梨県のメディカル・デバイス・コリドー推進計画(※1)とも連携ができたので鬼に金棒です。ファルマバレーセンター(PVC)には健康長寿の“環富士山”の拠点になっていただきたい。
大坪 この間、内閣府の方がお見えになり、どうしてファルマバレープロジェクトはうまくいっているのですか?と質問されました。要因の一つに、サンフロント21懇話会の存在があります。
岩崎 懇話会に集う先人たちは、構想段階から今のPVCとなる中核支援機関の早期稼働や地元企業が医療分野に参入できるような仕組みづくりの提案など、さまざまな働きかけをしたと伺っています。
その後、PVCができ、静岡がんセンター研究所もできました。こうしたインフラ整備と相まって、多くの企業が医療機器製造分野に参入しました。参入企業は48社を数えます。
正確な生産金額までつかめませんでしたが、PVCに関連するだけでも少なくとも300億円規模の製品が生産されています。県全体の医療機器の生産金額が3000億円強だったと思いますので、まさに医療城下町の具現化と言っていいでしょう。

■川勝平太 知事
■岩崎清悟
静岡ガス特別顧問
サンフロント21懇話会副代表幹事






■県東部にがん大学院大学を
■大坪 壇 ふじのくに医療城下町推進機構理事長
サンフロント21懇話会アドバイザー

大坪 今までは日本のファルマバレーでしたが、これからは「世界のファルマバレー」になってほしい。そのためには静岡がんセンターを世界一のがんセンターにしたいと思っています。
そして、がん専門の大学院大学をつくる。そうすることで世界中からトップレベルの医者、研究者が集まります。子どもも連れて来るでしょう。そうしたら、地域の教育水準も上がります。
川勝 医師不足解消策として、まずバーチャルメディカルカレッジ(仮想医科大学)を創設しました。そこで学んだ500人を超える医師が県内で働いています。つぎに予防医学の静岡社会健康医学大学院大学を創設しました。院生のなかには医師・保健師もいて研究意欲がきわめて高い。
目下、一両年中に三島市の国立遺伝学研究所の近くに感染症予防の専門施設を設置する計画です。
ファルマバレーは高度ながん専門病院が核です。それをベースに、がんに特化した大学院大学の構想を山口総長はお持ちです。臨床研究のできる環境は抜群で、敷地内もしくは隣接地に大学院大学をつくることは可能です。ぜひ、すすめていただきたい。
これらが整えば、東部は少なくともアジアでトップの医療水準を誇る地域になります。懇話会も後押ししてください。
岩崎 山梨県のメディカル・デバイス・コリドーや神奈川県の未病プロジェクトとも連携を広げて、富士山エリアが世界も注目する医療城下町になることが期待されますね。これに裾野市に建設中の「ウーブン・シティ(※2)」も加えて、この地域に世界から高度な人材が集まることが想定されます。こうした時流を確固たるものとするには、教育と文化の充実は欠かせないと思います。
高度な人材が定住するには、自分の子どもにどのような教育が受けられるか、自分たちがどう余暇を過ごせるか、という暮らしの要素もまた重要なポイントとなりましょう。東部地域の現状を見ると、英語での教育環境は未整備で、文化・芸術により非日常を楽しむ環境も物足りなさを感じざるを得ません。
平成の大合併時に東部地域は核となる都市ができず、未だに各市町単位の行政運営が続いているため、こうした大きな課題への取り組みが難しい。ここを何とかしないといけないと思います。



■新しい地域のロールモデルに

大坪 教育は大きな投資産業です。教育に投資をすると、すごい人が集まってすごい産業が興る、お金も使ってくれる、文化水準も上がるでしょう。文化は守るものでなく、創造するものです。今、それを忘れて守りに入ってしまっている感じがします。
川勝 国立遺伝学研究所の五條堀孝名誉教授は、遺伝学の世界的権威で、県のMaOI機構(※3)の研究所長ですが、サウジアラビアの国王が設立した大学の特別栄誉教授です。あちらは砂漠で富士山・箱根・伊豆へのあこがれがあって、それを受けて五條堀先生は「富士・箱根・伊豆国際学会」を立ち上げました。
これはすごいことです。世界的学者が、リゾート・医療・福祉等をだれもが享受できるように、富士・箱根・伊豆を学際的・総合的に研究する国際学会です。コロナ禍の中ですが、国際化の動きが県東部に出てきています。
岩崎 東部地域では、教育や文化の充実など機能を特定した広域連携を県が主導する必要があります。当懇話会も、地域の経済人や自治体が集い提言する団体ですので、こういう問題解決の動きがあれば、これに即応して地域の価値を上げていく、それが本来の役割だと認識しています。
川勝 懇話会と歩みをひとつにするために県は協力を惜しみません。
岸田内閣は「デジタル田園都市」を掲げていますが、田園都市は英語の「ガーデンシティ」の訳です。山口総長は「まちづくり」の戦略を、日本語では「医療城下町」、英語では「メディカルガーデンシティ」としています。
デジタルは手段です。社会がデジタル実装すれば、遠隔でも仕事ができ、自然豊かな中で生活し、安心して医療を受けられるのが「メディカル田園都市」です。アラブ地域と縁のある国際学会が立ち上がり、国内では本県は2年連続で移住希望地ランキングの第1位に選ばれています(※4)。
世界が注目するウーブン・シティも建設中です。ファルマバレーではメディカル田園都市に向けて超高齢社会を快適に過ごせるモデルルームを紹介中です。岸田内閣がデジタル田園都市のロールモデルを日本のどこかにつくるなら、県東部が最適でしょう。
岩崎 今後、全国各地でデジタル田園都市構想に多くの手が上がると思いますが、ここは、医療城下町という特徴を有することで、大きなプライオリティを得る可能性を秘めています。
繰り返しますが、この具現化には、教育と文化の充実は是非とも図っていかなくてはなりません。ヨーロッパに行くたびに、彼らの文化的な広さや深さの違いを痛感するところですし、経済力では既にリスペクトされる立場にあるわけですから、今のうちにしっかり文化の水準も上げていかないとなりません。それは静岡県も例外ではないと思います。
当地域では、ヴァンジ彫刻庭園美術館などの施設を活用した文化のある地域づくりを目指していきたいですね。


※1.山梨県内の機械電子産業が持つ高いものづくり技術を医療機器関連分野に参入させる計画
※2.トヨタ自動車が建設中の実証都市
※3.マリンオープンイノベーション機構。海洋資源の活用と環境保全を両立する新たな産業拠点の創出を目指し、Blue Tech(海洋先端技術)を用いて、健康長寿で豊かなくらしを将来につなぐことに貢献する
※4.特定非営利活動法人100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センター「地方移住に関するアンケート(窓口相談者ランキング)」



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