サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.4.28 静岡新聞掲載」

ヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)の動向に注目が集まっている。2002年に開館した現代イタリア彫刻の巨匠、ジュリアーノ・ヴァンジの個人美術館だ。昨今のコロナ禍で事業継続が難しくなり、美術館側は県に支援を求めている。サンフロント21懇話会も、昨年末に県東部での活用を緊急提案し、理解を求めた。4月の「風は東から」は、先月14日の幹事・運営委員と地元県議・市長町長との合同会議で行われたトークセッションを取り上げる。池田修長泉町長、伊東市在住の彫刻家・重岡建治氏、懇話会副代表幹事の岩崎清悟静岡ガス特別顧問が、同美術館の魅力や文化・観光拠点としての役割について語った。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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存続求めるヴァンジ美術館   芸術と地域の在り方模索
■世界的彫刻家ヴァンジの魅力

重岡 私がヴァンジを知ったのは50年前、イタリアに留学していた頃です。戦後、第二のルネサンスと言われ、ジャコモ・マンズー、エミリオ・グレコに代表される作家がたくさん出てきました。その中で一番若かったのがヴァンジです。日本に初めて紹介されたのは41歳の時。その後、世界中の彫刻家、画家からたった一人が選ばれる高松宮殿下記念世界文化賞も受賞しています。
ヴァンジの作品は、分かり易さの中にも考えさせられる部分があります。最近はアニメ作品やデジタル絵画が数多く取引されていますが、そうした中で具象彫刻を作り続けているヴァンジはすごい。今作ろうと思っても不可能に近いでしょう。私も彫刻をしていますが、ヴァンジのように自分の美術館があればと、うらやましい限りです。ヴァンジもすごく喜んでいると思いますので、ぜひ存続をしていただきたいですね。
池田 ヴァンジ美術館、ベルナール・ビュフェ美術館、井上靖文学館からなるクレマチスの丘は、本町だけでなく県東部の財産だと思います。
近隣の首長さんたちとも協力し、ヴァンジ美術館の存続を望む地元の声を川勝平太県知事に伝えました。
もちろん、地域で何とかしなさいというご意見も耳にします。当町もただお願いをしているわけではなく、井上文学館を町営にしました。あえてお伝えすると、管理運営に年間1500万円かかります。2022年度はスロープや浄化槽の改修も含めて4400万円の予算措置をしました。お預かりする以上責任をもって維持していきたいと思っています。
ただ、これ以上の予算の確保は厳しいため、ぜひ県にも考えていただきたい。ビュフェ美術館は静岡新聞社さんが作品の分散を防ぐために買い取って運営をされています。ヴァンジ美術館はぜひ県に運営していただき、それぞれが力を出し合ってこのエリアの文化を守っていきたいと考えています。
岩崎 美術館というと、フランスのルーブルやオルセーなど大きなものを想像されるでしょうが、パリには小さな個人美術館がたくさんあります。街はずれの美術館を周囲の風景と共に楽しみながら訪ね歩く。そういう旅人も実に多い。ヴァンジもビュフェも個人の作品をじっくり見られる。さらに、ヴァンジは彫刻と庭園の調和がすばらしい。
私は経済界で生きてきましたが、お金を稼ぐというのはとても疲れます。そうしたときに、ふっと「非日常」の世界に入っていける場所があると助かります。音楽も同じです。オーケストラ公演という非日常に身を置くことで、明日への活力が蘇る。これはすごく大事なポイントで、そうした場を地域が持っているか否かが地域の魅力を大きく左右すると思います。
懇話会としてもこうした非日常を体験できる場は大切にしていきたいと思います。

■池田 修 氏
長泉町長
1980年長泉町役場に入職。2004年企画財政課課長、07年教育部長、08年総務部長などを経て、13年長泉町副町長に就任。17年より現職。静岡県町村会副会長も務める。長泉町出身
■クレマチスの丘の玄関口に位置し、観光客だけでなく、住民の憩いの場となっている「ヴァンジ彫刻庭園美術館」


■観光、文化、教育の拠点に

重岡 私の活動拠点である伊東市には池田20世紀美術館があり、間もなく開館50年を迎えます。開館当初から関わりが深く、私の個展も開いています。
また、私のアトリエで時々コンサートを開きます。20人程の小規模なものですが、つい最近ではチェコの音楽家がコンサートを開きました。日本だけでなく、中国の方からも引き合いが多いですね。美術館の中のコンサートも面白いと思います。
彫刻が楽しめる伊東市のなぎさ公園には、私の作品が30点程飾ってあり、散歩しながら見ることができます。また、伊豆高原で行われる「五月祭」は、様々な展示作品が無料で見られる文化・アートの祭りで、多くの方に楽しまれています。私も参加をしているんですよ。
岩崎 19年にラグビーワールドカップが静岡で開かれましたが、その時に当懇話会が県と共催で国際ビジネスマッチングをヴァンジ美術館で行いました。
神奈川県の企業人や各国大使館員などが集まり歓談したのですが、私が理事長を務める静岡交響楽団(現、富士山静岡交響楽団)が、館内にある彫刻を背景に行った演奏が非常に好評でした。私も以前米国での国際会議に参加した際の、ハーバード大学の図書館で開かれたコンサート演奏を伴うレセプションが非常に印象深く残っています。
先月の「風は東から」知事鼎談でも触れましたが、当地はファルマバレープロジェクトが相当な進展を見せており、裾野のウーブン・シティも建設が進むなど、世界から注目されるエリアになりつつあります。これらにより世界から高度な人材が集まるでしょうし、こうした高度人材は地域を大きく変えてくれる可能性を秘めています。
当然、当地域への定住の期待もあるわけですが、そう考えたときに、一体この地域に何が欠けているのでしょうか。それが、教育と文化です。
特に、非日常を気軽に得られる文化はなくてはならないものです。彼らは高度な研究や仕事に従事していますから、非日常環境でほっとしたい。この周辺は素晴らしい景観はありますが、景色を見てもらうだけでは物足りない。それに加えて文化の力をつけていかないと、少なくとも世界からリスペクトしてもらえる地域にはならない。ヴァンジ美術館はもっと活用を図りながら、そういう方々に非日常を提供する場にできたらと思っています。
池田 今、ヴァンジ美術館を運営されている方は教育現場での活用を考えてくれています。特別支援学校の子どもたちが美術館を訪れ、タブレットで写真を撮ってコンクールに出し、金賞を取ったこともありました。中学校の授業ではビュフェ美術館に連れて行きます。生徒達は思い思いに好きな絵を選び、それにインスパイアされた写真に言葉を添えて展示しました。
障害のあるなしに関わらず美術館の中で感性が磨かれる。そういうことが日常的にできる美術館なのです。
観光客はもちろん、地域住民の日常生活にも溶け込む美術館、ということを踏まえ、ぜひ県立美術館として未来につなげていきたい。皆で文化芸術を守り育て、子どもたちにつなげたい、という思いを県にも届けられればと思います。

■重岡 建治 氏
彫刻家
1936年旧満州ハルピン出身。戦後、日本で彫刻家・圓鍔勝三に弟子入りし、日展で初入選以後70年まで9回入選。翌年、ローマの国立アカデミア美術学校へ留学。現在は個展に重点を置き、伊東市のアトリエにて活動中
■岩崎 清悟 氏
静岡ガス特別顧問、富士山静岡交響楽団理事長
サンフロント21懇話会副代表幹事
1969年早稲田大学卒業後、同年4月に静岡ガスに入社。2006年に同社取締役社長、11年に取締役会長を経て、現在は特別顧問を務める


■ヴァンジ彫刻庭園美術館を巡る最近の動き

2021.10.29

ヴァンジ彫刻庭園美術館の岡野晃子副館長ら関係者が、県庁に川勝平太知事を訪ね、支援を求めた
2021.11.19 川勝知事が美術館を視察。沼津・三島・裾野市、清水・長泉町の3市2町が存続を求める要望書を知事に提出
2022.01.19 県が外部有識者でつくる美術館検討会設置を発表
2022.01.21 検討会初会合を開催
2022.03.03 県議会で川勝知事が「改めて存続に向けた意欲を示す」と答弁
2022.03.14 サンフロント21懇話会会合で、美術館存続に向けたトークセッションを開催

ヴァンジ美術館がクラウドファンディングを開始
ヴァンジ彫刻庭園美術館は、作品や建物のメンテナンスや庭園の維持を目的に、クラウドファンディング(CF)を開始した。CFサイト「レディーフォー」で、400万円を目標金額に5月31日まで募る。
専用サイトはこちら


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