サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.9.22 静岡新聞掲載」

ウィズコロナ時代の今、一過性ではなく持続可能な観光を考えることが求められている。9月の「風は東から」は、今月5日に行われた伊豆地区分科会パネルディスカッションを取り上げる。パネリストに小説家の秋山香乃氏、ゆこゆこホールディングスの徳田和嘉子社長、日本大学国際関係学部の矢嶋敏朗准教授、伊豆の国市観光協会の稲村浩宣会長を迎え、今後の伊豆観光の在り方について聞いた。聞き手は、懇話会TESS研究員で企業経営研究所の中山勝理事長。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6

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持続可能な観光地目指し データ分析と広域連携強化
■旅行スタイルの多様化とブランディング

中山 まずは、ご自身の活動を通した中での伊豆の現状と課題についてお話しください。
徳田 私が代表を務めるゆこゆこホールディングスは、宿泊予約事業を主に行っています。ターゲットは平日のアクティブシニアで、サイト予約の利便性と電話で予約できる安心感を兼ね備えたサービスを展開しています。
弊社が行った伊豆に関するアンケートでは、アクセスの良さや温泉、自然の豊かさが魅力として挙がった一方、お土産に関してオリジナリティーや品数が少ないという意見がありました。これはすぐに工夫できると思います。
矢嶋  大学の教員になる前は、日本旅行に31年勤めていました。ですから研究もアカデミックなものでなく、地域に一人でも多くのお客さまが増えるような取り組みをしています。昨年度は韮山反射炉を中心にE-BIKE(電動アシスト付き自転車)を使って周遊する動画を作りました。
伊豆は東京から踊り子号が走るなどアクセスが良く、発展の可能性は大きいと感じています。ゼミ生が一人でも多く地域を愛し、誘客の立場になることを望んでいます。
稲村 伊豆地域は昔、全国有数の団体客を受け入れる観光地でした。しかしコロナ禍もあり、個人旅行にシフトしたため、団体向けの施設は難しい対応を余儀なくされています。
現在の伊豆長岡温泉は、離れのある旅館やペットの受け入れが可能な旅館など、多様性のある温泉に変化しています。ターゲットを決め、その特徴をつかんだサービスを展開する施設や旅館が成功していますね。
また、今年は大河ドラマのロケ地に選ばれました。実は伊豆の国市は沼津や三島で勤務する人のベッドタウンになっていて、観光産業自体の比率は高くありません。観光地は地域の人が外部の方を受け入れる姿勢が大切ですが、そうした機運の醸成に大河ドラマはプラスに働いたと思います。

■秋山 香乃 氏
小説家 福岡県生まれ。沼津市在住。『歳三往きてまた』でデビュー。『龍が哭く 河井継之助』で野村胡堂文学賞受賞。代表作『氏真、寂たり』、『茶々と信長』、『茶々と秀吉』、『茶々と家康』、『氷塊 大久保利道』など


■伊豆の価値を提供していくために

中山 多くのお客さまに来ていただくために、地域に必要な視点をどうお考えですか。
秋山 小説家や脚本家は物語のひとつの場面に、伏線をつくるための3つの意味をもたせています。観光も同じく、歴史だけに絞るのではなくほかの要素も入れて提案するのが大切だと思います。
伊豆の観光資源といえば温泉ですが、その魅力を知る人はまだ多くないように思います。今後は温泉の魅力をさらに、全国だけでなく世界に発信していくべきでしょう。歴史と温泉、さらに人の生活と切り離すことのできない食と、この3つの要素を絡めていくのがよいのではないでしょうか。
稲村 韮山反射炉は世界遺産登録以降、訪問者数が登録前の7倍になりましたが、そのうち約6割は団体バスの観光客です。また、反射炉以外の施設に立ち寄ることが少なく、伊豆の国市全体の連動ができていませんでした。その反省に立ち、大河ドラマでは観光周遊型バス「歴バスのる〜ら」を運行するなど、地域全体で連携できる施策をあらかじめ立てています。
矢嶋 ゼミ活動で伊豆長岡を訪問した多くの学生が口々に言うのは、人づくりの重要性です。観光は人がやるものですので、人間関係やそのノウハウが重要となってきます。例えばおもてなしの心を育む方法として、きちんと挨拶ができるよう子どもの頃から教育をするなど、小さなことから始めるのはどうでしょうか。
また、広域観光の検討もお願いしたいですね。自治体と観光マップを作る際に言われるのが「市内だけにしてください」。伊豆は車で来るお客さまが多い場所なので、修善寺や三島スカイウォークに立ち寄った人を呼び込むなど、広域の視点は欠かせません。まさに「損して得取れ」です。伊豆の立地の良さを生かし、ボーダーレスな観光にすることで、近隣地域を観光するお客さまの誘客も見込めます。
徳田  観光客から人気が高い草津温泉は集客の鍵となる部分を常に探しています。例えば湯畑周辺の開発や、駐車場の場所を一カ所に集約するなどです。これらを通じて観光客が増え、増えた歳入を観光への投資に回し循環させていくことを目指しています。結果的に町の歳入は10年で3倍に増え、地元の人が草津を好きと言うようになりました。
また、下呂温泉は、長年、交通手段別宿泊推移を把握し、それを元に改善策を考えています。一番にやるべきは客観的な事実に基づく現状の把握です。それを基に戦略を立て、検証していく。既存の顧客をいかにリピーター化し、新規顧客をいかに獲得するか、マーケティングとマネジメントは持続可能な観光地を目指す上で欠かせない視点だと思います。

■徳田 和嘉子 氏
ゆこゆこホールディングス代表取締役社長
東京大法学部卒業後、南極含む世界一周52か国を巡る。帰国後はゴールドマン・サックス、投資会社を経て福岡県域ラジオ局・CROSS FMで代表取締役社長を務め経営を再建。2020年ゆこゆこ入社、21年6月より現職

■矢嶋 敏朗 氏
日本大学国際関係学部国際総合政策学科准教授
1987年日本旅行入社。団体営業(伊豆への添乗100回)、ツアー企画、仕入(旅館や運輸機関との窓口)、新規事業、広告会社出向、日本旅行業協会出向(広報室長)、広報(足掛け20年担当。広報室長6年)など多くの業務を担当。2019年4月より現職



■地元に誇りを持ち情報発信に尽力を

中山 観光事業者以外の地域の方々や行政などはどのような活動をしていけばよいでしょうか。
稲村 時代とともに変化している観光のニーズに合わせて、受け入れ側も変化していくべきだと再認識する必要があります。伊豆地域は大変豊かですので、その魅力の発信を様々な手段を使って取り組んでいくべきです。
また、伊豆の国市で最近ミニトマトの生産が増えています。この背景にはニューファーマーと呼ばれる新規就農者が増えていることが挙げられます。農業が軌道に乗り、彼らに余裕が生まれれば、観光にも参画していただけるのではないでしょうか。
矢嶋  近年、コロナによりワーケーション人口が増えています。ワーケーションと交流人口は一緒に考えるべきです。また、観光だけでなく、街づくりやプロモーション、経理など様々な専門家を集めた組織の立ち上げも必要になります。一方で、バスの運転手など観光の現場で働いている人々の声を聞くことも大切です。これらの事業のトップになる人は、現場の声と組織の声の両方をバランス良く聞く必要がありますね。
徳田 地元の方から「伊豆半島は時計回りで楽しむものだ」と教えていただきました。伊豆半島に東から入り、南に降りると駿河湾が広がります。日本一深い駿河湾から望む日本一高い富士山は絶景です。その通りに回ってみて、伊豆半島全体が楽しめることに感銘を受けました。地元の人々は伊豆半島の魅力を誇りに持つべきです。
また、著名なマーケティングの専門家は「観光は特殊な産業である。なぜかというとすべての人の能力が生かせる産業で、住んでいるすべての人が観光に関わることができるから」と言います。伊豆に住む一人ひとりが地域に関わり、「オール伊豆半島」で魅力を発信していければと思います。
秋山 地域や観光地同士が連携することで、点が線となり、ストーリー性がある観光になります。
まずは、話題性を作ることが必要でしょう。事業者が話題性のあるものを作れば、地元以外の人たちがSNSで盛り上げてくれます。その時に話題を一過性のものにするのではなく、継続的な盛り上がりになれるような工夫が観光事業者には求められます。
私は歴史小説家が集まる勉強会「操觚(そうこ)の会」を主宰しています。これは、地域と歴史を結び付ける活動で、例えば、栃木県さくら市と一緒に本を出版したり、セミナーで講演を行ったりしています。温泉ホテルで講演をして温泉とセットで楽しんでもらう活動も行いました。ぜひ、伊豆でもそうした動きがあればお声掛けください。
中山 観光は、顧客満足、社員満足、そして地域満足が同時期に起こり、観光客や社員の間で「ありがとう」の声が響き渡る幸せな産業です。念入りに分析をして、観光客の動きに合わせた活動を地元や行政がやっていくことが大切です。そのためにも、「伊豆はひとつ」を再認識する必要がありますね。

■稲村 浩宣 氏
伊豆の国市観光協会会長 
蔵屋鳴沢代表取締役社長
1983年4月に家業の鳴沢屋へ入社。96年7月に蔵屋鳴沢設立、代表取締役に就任し現在に至る。2018年5月から伊豆の国市観光協会会長。21年5月からは大河ドラマ鎌倉殿の13人伊豆の国市推進協議会会長を務める

■コーディネーター
中山 勝 氏
一般財団法人企業経営研究所理事長
慶応大大学院経営管理研究科修了。スルガ銀行入行後、財団法人企業経営研究所研究員、部長、常務理事を経て2020年6月より現職。専門分野は、マーケティング、経営戦略、地域経営。サンフロント21懇話会シンクタンクTESS研究員


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