サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2022.12.22 静岡新聞掲載」

温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、一年を通じ、多彩な農産物を産出している本県。野菜・果物などの生産品目数はトップクラスだ。こうした高いポテンシャルを背景に、農業の生産性向上と関連産業のビジネス化をオープンイノベーションで進める県の「アグリ・オープンイノベーション(AOI)プロジェクト」。12月の「風は東から」は同プロジェクトの中心を担う会員組織「AOIフォーラム」のさまざまな活動を例に挙げ、先端農業がひらく未来について考える。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

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先端技術で農業の生産性向上 多様な活動から成果続々
■様々な業種が集まり新しい価値を共創

AOIプロジェクトは、先端技術を農業分野に応用し、静岡から「世界の人々の健康寿命の延伸と幸せの増深」に貢献することを目的とした県のプロジェクトだ。中核的支援機関のAOI機構を中心に、産学官が連携して農業のデジタル化、データ重視の生産方法の導入、新品種開発を支えるスマート育種システムの開発などを行っている。2022年には農作業の場所と時間を自動で記録できるスマートフォンアプリ「AOI Trace」の販売を開始した。
2017年に先端農業研究の開発拠点「AOI-PARC」を沼津市に開設。理化学研究所、慶応義塾大学SFC、県農業技術研究所(農技研)などの研究機関が入居している。また、農家や農業に関心のある県内外企業、団体が集う会員制プラットフォーム「AOIフォーラム」は、会員数が320を超えた(22年12月現在)。
AOIフォーラムの役割は大きく二つ。一つ目は会員間の交流連携を促進して、農業と関連分野のビジネス展開を促進すること、二つ目はAOI-PARCの成果をいち早く会員にフィードバックしてビジネス化することだ。今回は、同フォーラムから生まれた成果を2例紹介する。



■「うるおい(R)力持ち」による高糖度トマトの栽培
 フラワーガーデン佐藤
■「フラワーガーデン佐藤」の高糖度トマト
フラワーガーデン佐藤は、高品質・高糖度で付加価値が高いトマトの栽培を行っている。JAふじ伊豆組合員の佐藤光さんは、AOIフォーラムに入会後新しい技術や情報を精力的に収集、農技研と制御システムを手掛ける山本電機(牧之原市)が共同開発した「うるおい(R)力持ち」を導入した。
「うるおい(R)力持ち」は重量モニタリング型自動給液システムのこと。人の判断では難しい潅(かん)水のタイミングから潅水量の決定まで自動化し、高品質で機能性成分が多く含まれるトマトの栽培を可能にした。
■重量モニタリングシステム「うるおい(R)力持ち」
また、ハウス内の環境をモニタリングし、作物にとって最適な環境を作り出すことを目指している。その結果、生産物の病気が減り、農薬の使用回数を減らすことができた。労務管理システムも導入し、作業時間や作業効率などの把握も行っている。
「一番の課題は販路。トマトを適切な単価で販売できる販路を確保することで、持続可能な事業にしたい。また、『うるおい(R)力持ち』を生産者に横展開することも視野に入れている」と佐藤さん。今後もAOI機構やJAふじ伊豆と一緒にブランディングを進めていく。


■機能性野菜「サラダ小松菜NEO」開発
 森島農園
■機能性野菜の開発に取り組む高林取締役
小松菜を主に、米、サラダ用葉物の水耕栽培、季節の露地野菜など多品種を栽培する森島農園(浜松市)。高齢者や女性も活躍する現場でおいしく、健康的な野菜を提供している。
 同社の主要生産物である小松菜は小松菜としては国内でも先駆けて機能性表示食品の届出が消費者庁に受理された。小松菜は価格が安定しにくいが、小松菜の価値を上げたいとパレットを使った土耕栽培を確立し、サラダ感覚で生食ができる小さいサイズの小松菜を「サラダ小松菜」として商品化した。それに伴い、小松菜にも機能性成分があるのではないかと思い立ちAOI機構に行きついた。
■「サラダ小松菜NEO」の新パッケージ
機能性表示取得の過程では、AOI機構と静岡県産業振興財団、静岡県立大から支援を受け、今年10月に機能性表示食品として申請が受理された。同社の高林千晴取締役は「毎月小松菜のサンプルを取り、1年間分析を行った。結果、目に良い成分とされる『ルテイン』が基準値を満たすことから、申請に踏み切った」と振り返る。年明けから「サラダ小松菜NEO」として市場に出す。森島恵介会長は「機能性は第一段階。今後は、同じ機能性野菜を生産する農家と組んで新たな加工品を生み出すなど、付加価値を高めていきたい」と抱負を語った。


革新的農業を県東部から世界へ
AOI機構 藤井明代表理事
AOI機構立ち上げから5年。白紙の状態から手探りで進めてきた。月日の流れとともに環境も変化し、地球温暖化の進行や食糧問題など様々な課題が深刻化する中で、日本の農業は「守る」から「育てる」段階になったと受け止めている。
そこで当機構はオープンイノベーションを軸に、いかに環境負荷を低減させ、農業を魅力ある産業に成長させていくのかに挑戦している。あらゆる産業と関連させることで、思ってもみなかった農業の未知なる可能性に気づくことができると考えている。
今後、AOIフォーラムは会員の相談対応だけではなく、会員が自身で成長していけるような体制づくりを目指す。会員企業には、受け身でなく、ぜひフォーラムを使いこなしていただきたい。今までの成果は主にそうした「意気込み」を持つ会員から生まれている。そのため、門戸は広く開けておきたい。
一方、将来的に目指したいのは「カスタムフード」だ。カスタムフードとは一人ひとりの体質などのデータをもとに健康寿命の延伸や予防医療に役立つ食事のことだ。AOIプロジェクトに参画している慶応義塾大SFC、理化学研究所、農技研に加えて静岡社会健康医学大学院大学、ファルマバレーセンター、AOI機構が連携して、新たな産業の創造のため、カスタムフードを提供できる環境づくりを目指したい。
沼津市に拠点を構える我々は、県東部への還元はもちろん、県全域、日本、そして世界に影響力を与えるような成果を生み出そうと努力している。環境負荷軽減と生産性・収益性を追求する革新的一次産業の発展を通して、より地球に優しい社会づくりのため活動していきたい。


成果を生み出すAOIフォーラムの「仕掛け」
マッチングを加速「AOI Meet up」

AOI Meet Upは、過去7回開催されている交流会だ。フォーラム会員相互のビジネスマッチングや課題の解決を目的としている。
今年は9月にグランシップ(静岡市)で開催。植物工場や食品加工会社、包装資材メーカーなど、さまざまなジャンルの21会員が参加した。
本プログラムのメーンは、会員による5分間のショートプレゼンテーション。各会員が概要、保有する技術・資産(シーズ)、求めている技術・資産(ニーズ)を紹介、お互いの理解を深めたうえで、その後の自由交流でシーズ・ニーズに合う会員と、マッチングを図る。ここから数多くの事業連携が生まれており、人気の企画だ。

販売実証の場を提供「AOIマルシェ」

フォーラム会員の生産物をショッピングセンターで販売し、消費者の反応と販売ルートの可能性を探る「AOIマルシェ」。清水町のショッピングセンター「サントムーン柿田川」で11月に開催。8会員が参加した。
会場となった生鮮館では、普段あまり目にすることのない「マコモダケ」(スマートブルー)や「生キクラゲ」(IFU)「ストロベリーグァバ」(萬寿企業)などに注目が集まった。また、沼津市に新たに開設した植物工場「ブロックファーム」の葉物野菜も買い物客の関心を集めた。生鮮館で野菜を担当するユナイテッドベジーズの加村隆史店長は「地元産の特徴ある野菜を紹介してもらった。これを機に具体的な取引に移りたい」と手応えを語った。



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