サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2024.12.27 静岡新聞掲載」

県東部の潜在力を生かし、人にも産業にも選ばれる地域になるには―。12月の「風は東から」は11月に行われたサンフロント21懇話会東部地区分科会のパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに早稲田大理工学術院・社会環境工学科教授の森本章倫氏、三島市の豊岡武士市長、三菱地所エリアマネジメント企画部マネージャーで静岡サウナ協議会理事の神田主税氏を迎え、地域の交通計画や関係人口創出について聞いた。コーディネーターはサンフロント21懇話会TESS研究員の青山茂氏。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

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地域間競争勝ち抜くため広域連携で潜在力発揮を
■再開発事業を機に交通体系の見直しを

青山 まちづくりの現況と首都圏との関係性についてお話しください。
豊岡 三島駅南口は東街区と西街区に分かれ、どちらの土地も国鉄清算事業団から払い下げを受けました。東街区は払い下げの土地と周辺の商店を合わせた1.3ヘクタールで再開発事業を行っています。ミサワホーム、野村不動産などの事業者と、地権者で組合をつくって開発を進めています。
東街区の開発コンセプトは「広域健康医療拠点」。メインとなる24階建ての建物の4階に、高度な健診機能を持った医療施設が入る予定です。他にも保育園や住宅棟、商業施設、大きな駐車場が計画されています。完成予定の3年半後には、三島駅南口が大きく様変わりするでしょう。
駅前だけでなく市全体の活性化を図るため、三島駅南口と三嶋大社、そして三島広小路駅を結んだ三角形を中心市街地とした「三島市まちなかリノベーション推進計画」を作りました。既存の商店に魅力的な店舗になってもらえるよう、関係機関や商店街の人たちと連携しながら取り組んでいます。
森本 再開発事業のような大きなまちづくりは、千載一遇のチャンスです。機会を生かさないと、東京100キロ圏内を生き抜くことは難しいでしょう。そのため今後のまちづくりでは、移動手段をどう組み合わせるかを考えてほしいですね。基本は歩く空間で、場合によっては自転車の空間、また、鉄道との連携が必要かもしれません。あるいは、自動運転など次世代交通機関を取り入れてみるのもひとつです。既存と新設の交通手段を両輪で進めていくと、相乗効果が生まれます。
神田 私は三島市に住みながら新幹線で東京の会社に20年通っています。コロナ禍前は始発で会社に行き、終電で帰る生活を送っており、県東部のことをほとんど知りませんでした。しかし近年は、コロナ禍をきっかけにテレワークができるようになり、移住者が増えたことで、まちが活性化されていると感じます。
特に三島市はそれが顕著ですね。市内にゲストハウスやコワーキングスペースを運営している人がいたり、ウイスキー蒸留所ができたり、移住者が活発に活動しています。移住者の「外から見る目」が、三島市のコミュニティーに大きな影響を与えているのではないでしょうか。

■森本 章倫氏
早稲田大理工学術院/社会環境工学科 教授

宇都宮大助教授、マサチューセッツ工科大(MIT)研究員などを経て、2012年宇都宮大大学院工学研究科教授。14年より早稲田大理工学術院教授(現職)。専門は都市計画、交通計画。博士(工学)、技術士(都市及び地方計画)



■地域の魅力を発信しまちへの定着図る

青山 東京100キロ圏内にある県東部のポテンシャルを、どのように生かしたらよいでしょうか。
神田 テレワークなど働き方が柔軟になる中で、自分が何のために働いているのか、自分のノウハウをどこで生かすべきかといった可能性を感じている人達が、地方の副業やプロボノ(※1)などのプログラムに参加する動きが増えています。
一方、地方側は、副業の受け入れ態勢が整っていません。企業の経営者も、どうやって受け入れるべきか悩んだり、そもそもそうした動きを知らなかったりする人もいると思います。
そのため、まずは副業などに対する理解を得てもらうことが大切だと思います。そして企業側は、どの業務を副業の人に頼むべきなのか、洗い出すことが必要です。
豊岡 将来を見据えて、企業誘致にも積極的に取り組んでいます。三ツ谷工業団地では、体外診断用医薬品メーカーのタウンズが工場を建設しています。また、医療機器や自動車部品の製造を手掛ける東海部品工業が三島玉沢IC付近に進出します。他にも市内に医療系の企業が複数進出しています。
さらに三島大場地区は、地権者による準備組合をつくり、都市的なまちづくりを進める区画整理事業を推進しています。
企業誘致で雇用の場を創出するとともに、きめ細やかな移住対策を行うことで、本市が将来的に発展していくようにしていきます。
森本 三島市で生まれ育った人は、地元への愛着力が高く、既に地縁関係やネットワークを持っています。親御さんが三島市に住んでいる間は、彼らが戻ってくるチャンスがたくさんありますよね。こうしたチャンスを上手に活用し、若い人たちが一度巣立って東京に住んでも、また三島に戻ってこられるような体制づくりが必要ではないでしょうか。あとは、若い人に向けて三島の素晴らしさをもっと伝えた方がよいと思います。
青山 東京から見て「住み心地のよいまち」をつくっていくために重視すべきことは何でしょうか。
森本 東京から移住してくる人の大半は車を持っていません。そのため新たなまちづくりの視点で、歩いて暮らせる空間づくりを行うと、地域の魅力を最大化することができます。
神田 住んでいる人が楽しそうだと、住んでみたくなりますよね。住んでいる人が楽しくなれるような、まちづくりのソフト面のサポートがあったら良いですね。
東京はサードプレイス(※2)が非常に増えていて、大手町、丸の内、有楽町エリアには企業内のサードプレイスも含めると約50か所もあると言われています。働き方が変わり、オフィスに出社する意味が問われている中、仕事中や行き帰りに、サードプレイスで様々な人が交わりアイデアを集めるのが、東京の潮流になっています。
豊岡 これまで、湧水やせせらぎなど三島の魅力を大いに生かした「ガーデンシティ」や、人も街も産業までも健康なまちを目指した「スマートウエルネス」の取り組みを行ってきました。これらの活動は具体的な成果が出始め、全国的に注目を集めています。
さらに現在は「幸せ」にフォーカスし、三島市に暮らす全ての人々が、身体的・精神的・社会的に良好な状態である「ウェルビーイング」となるまちづくりを行っています。まず市民の皆さんにウェルビーイングについて理解してもらうため、市民集会などで紹介しています。今後も日本一幸せに暮らせる都市を目指して尽力していきます。

■豊岡 武士氏
三島市長

静岡県職員を33年間、県議会議員を3期務めた。2010年から市長を務め現在4期目。誰もが幸せを実感し良好な状態である「ウェルビーイング」の実現を目指して市政運営に取り組む。三島市出身



■連携力を強化しエリアの魅力を底上げする

青山 東京100キロ圏内での競争力を高めるために、東部地域エリアの繋がりをどのように強化していくべきでしょうか。
森本 東京100キロ圏内のエリアは、新幹線のある、無しで二極化します。新幹線がある場所は無い場所に比べ、人口が安定するなどアドバンテージが高いです。
エリアとして勝つために重要なのは、都市を結節させて周辺地域を巻き込み、広域生活圏にすることです。県東部の場合、新幹線がある三島市をひとつの核として周辺の市町を巻き込み、エリアとしての魅力をどれだけ上げられるかが鍵です。各市町で役割分担を行い、お互いにWin-Winになれる仕組みが考えられるかが、勝負の分かれ目かと思います。
神田 東京は大手町・丸の内・有楽町エリアだけでなく、渋谷や虎ノ門や他エリアにもサードプレイスが増えており、拠点間連携を行っています。
一方で三島市と沼津市はそれぞれ拠点が活発化しているものの、コミュニティーがそれぞれ独立しており、お互いの顔が見えていないと感じるので、コミュニティーの顔になる人がさらに繋がってほしいと思います。そのためには、行政や地方の民間企業が繋げる役割を担うと良いのではないでしょうか。
豊岡 裾野市、長泉町、清水町、三島市の二市二町で「富士山南東スマートフロンティア推進協議会」を立ち上げました。中核市に匹敵する人口、産業構造を有する二市二町で広域連携に取り組み、企業誘致や移住促進など地域課題解決を共に図ることを目的としています。昨年12月は、自動運転バスの実証実験を下土狩駅・三島駅間で行いました。
沼津市ともいくつかの連携をしています。三島市と、ベアードブルーイング発祥の地でもある沼津市で、地ビールの発展のため、官民連携の組織「東駿河湾クラフトビール地域循環共生圏推進協議会」を発足しました。また移住希望者に、三島市・沼津市を一緒に見てもらう合同移住体験バスツアーも行っています。
各市町が自分の市町の魅力づくりを強化すると同時に、連携を図っていくことで都市間競争に勝てると思っています。
青山 沼津市や三島市で駅前再開発事業が進み、移住者が増えたり、関係人口のつながりを生み出す仕組みも生まれたりしています。自然環境や暮らしの快適さも含め、東京100キロ圏内で勝つ材料は揃っています。それらを十分に生かすために、市町単独ではなく、広域連携を行い取り組むべきですね。

※1 職業上のスキルや経験を活かして社会貢献を行うボランティア活動
※2 自宅や学校、職場でもない、居心地の良いカフェ等の「第3の場所」のこと

神田 主税氏
三菱地所 エリアマネジメント企画部マネージャー
静岡サウナ協議会理事

三島市在住(浜松市出身)、三菱地所(東京)に勤務、日々通勤している。県内の魅力を全国に発信すべく静岡サウナ協議会を立ち上げ、三島市を中心に静岡県全域の関係人口創出やデジタルを活用したまちづくりなどに取り組む

■コーディネーター
青山 茂氏
サンフロント21懇話会のシンクタンクTESS研究員

シード顧問、スポーツ・ウエルネス総合企画研究所代表取締役。静岡県内外の企業および自治体のプロジェクトのコンサルティングから事業プロデュースまで幅広く手がける



■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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