サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2025.3.20 静岡新聞掲載」

サンフロント21特別編 首長座談会PART3

サンフロント21懇話会の設立当初の大きなテーマが広域連携。設立以来30年が経ち、この間の環境、社会の変化は大きく、地域が生き生きと輝くためには、行政の境を越えた連携が欠かせない。「風は東から」特別編では、県東部20市町を東部、伊豆、伊豆南部、富士山の四つの地区に分け、これからの広域連携の在り方について語っていただく。
第三弾は、富士宮市の須藤秀忠市長、富士市の小長井義正市長、御殿場市の勝又正美市長、
裾野市の村田悠市長、小山町の込山正秀町長に、観光、産業、環境保全をテーマに今の課題や
連携の可能性について聞いた。(聞き手は編集部)
注)本座談会は2日間に分けて開催し、紙面上で構成・編集しています

[サンフロント21懇話会企画]

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富士山の保全と活用へ循環型社会の構築目指す
■広域連携で観光強化 地域資源を最大活用

左から勝又正美御殿場市長、込山正秀小山町長、小長井義正富士市長

― 富士宮市の富士山世界遺産、小山町のモータースポーツ、富士市のサイクルツーリズム、御殿場市のアウトレット、裾野市の準高地トレーニングなど、富士山麓エリアには独自の観光資源が数多くあります。これらを生かした観光連携をどう進めていきますか。
須藤 2013年6月に富士山が世界文化遺産に登録され、構成資産となった富士山本宮浅間大社や白糸ノ滝に世界中から多くの観光客が訪れるようになりました。
最近では登山シーズンに限らず、年間を通じて海外から観光客が訪れています。こうした外国人観光客をターゲットに、富士山の麓の自然環境を満喫できる体験型のコンテンツも数多くつくられています。例えば、富士山の五合目から下山を楽しむハイキングや、ふもとでのキャンプなどです。このようなコンテンツは市町の境界を意識することなく、富士山エリア一帯で楽しむことができると考えています。
ただ、市内に観光地は数多くありますが、宿泊施設や夜も楽しめる場所が少ないのが弱点ですね。

小長井 富士市は、唯一富士山と海の両方を有しています。田子の浦港は産業港としてこれまで活用してきましたが、富士山に最も近い港という立地と、「みなとオアシス田子の浦」という拠点を生かし、賑わいづくりをしています。しかし誰もが知っているような観光スポットエリアがないため、広域的な連携による富士山麓観光ブランドづくりが重要と感じています。
市内北側には富士山を自転車で一周する「フジイチ」、南側にはナショナルサイクルルートに指定されている太平洋岸自転車道があります。ですから、サイクルツーリズムにも力を入れていきたい。この4市1町を舞台に自転車の世界的なレースができると面白いのではないでしょうか。
込山 小山町は富士スピードウェイを中心に、モータースポーツのメッカを目指しています。
2022年に富士スピードウェイホテルが開業しました。これは海外の一流ホテルの系列で、特に外国人観光客に人気です。宿泊客の実に6割を占めると聞いています。また、箱根の強羅花壇も高級リゾートホテルを建設中です。こちらはヨーロッパ向けの長期滞在型ホテルです。さらに、足柄SAの隣接地に加え、他にもホテル建設の話が来ています。
このように、町内に長期滞在型のハイクラスホテルが3つできる予定で、宿泊客向けに近隣の観光施設やゴルフなど、さまざまなコンテンツを提案していかなければなりません。こうした、富士山周辺の観光の仕掛けをぜひこのネットワークで行っていきたいですね。
村田 裾野市も準高地トレーニングが好評で、数多くの大学や実業団の陸上長距離チームに来てもらっています。「裾野から頂(いただき)へ」を合言葉にしており、この地で練習した選手が箱根駅伝や世界的な大会で活躍している姿を見るのはとてもうれしいですね。また、トップアスリートの皆さんが練習している姿を地元の子どもたちにも見せています。
観光合宿を通じて、子どもたちのひとづくりの根幹を築く取り組みを進めていますが、御殿場であれば馬術センター、富士宮であれば素晴らしいソフトボール場があります。この取り組みを広げ、様々なスポーツが富士山に集って頂を目指していくような、合宿のメッカのような形になると面白いですね。
勝又 こうした観光資源を生かすためには、宿泊施設の相互利用が重要になります。御殿場市もこの2年半の間に10棟ほど新しい施設が建ちました。御殿場プレミアム・アウトレットには年間1110万人ほどが訪れます。このほか、富士スピードウェイでのモーターレースやゴルフの大きな大会もあります。広域連携の視点で観光客を誘導する仕組みを構築することが課題でしょう。

■小長井 義正 富士市長
富士市出身。1997年富士市議に当選。2013年まで5期務める。09年富士市議会議長、全国特例市市議会議長会副会長。14年富士市長に初当選。20年静岡県東部市長会会長。23年から全国市長会評議員。現在3期目



■働く場と住環境の整備でエリアの魅力を向上

須藤秀忠富士宮市長(左)と村田悠裾野市長(右)

― 次に、現在推進されている産業振興の取り組みを伺います。
勝又 産業振興の鍵は企業誘致にあります。御殿場市では、本社機能の誘致を含め、今夏には工業団地の開発を進めています。広域での産業発展を目指すうえで、各市町の強みを生かした企業誘致が重要です。
込山 小山町は湯船原、小山PA周辺、足柄SA周辺地区で企業誘致や交通アクセスの充実を図る「三来拠点事業」を進めていて、湯船原工業団地には続々と企業が進出しているところです。雇用も生まれていますが、若い世代がなかなか戻らないことが課題ですね。
須藤 全事業所のうち、製造業が6割以上を占めるものづくりのまちです。医薬品・医療機器を中心に、食料品、飲料、精密機械の機器など、多種多様な業種の企業が偏りなく、バランスよく立地していることが大きな強みです。現在は、工業団地開発を誘導するエリアを設定して、民間主導型の開発を推進しています。これにより市内の北部地域に10ヘクタール程度の工業団地造成の計画が提案されたりしていて、協議を進めているところです。

小長井 地域産業の強みを生かした産業振興も重要です。富士市は製紙業の知見を生かし、県と連携しながら、新素材セルロースナノファイバー(CNF)の用途開発や社会実装に取り組んでいます。CNF関連の一大集積地を目指し、構想策定やプラットフォームの設立を進めています。多くの企業や大学等の研究機関も進出し、用途開発、新商品開発にかなり取り組んでおり、現時点で18の製品をCNFブランドとして認定しました。
そういう新たな産業に取り組むことで、富士市を離れて他の地域の大学に進学した若い人たちが、そこで学んだ技術や知識をもってCNF関連産業に戻ってきてもらえるのではないでしょうか。
村田 企業誘致と並行して、企業“留置”にも力を入れており、四半期に1度、必ず企業を回るようにしています。
不二家さんは、平成のはじめに当市に来ていただき、ボトリング工場も出していただきました。会長さんからは、裾野市さんはよく来てくれると言われます。「市民」という言葉がありますが、ここに通う人、通学する人全てが裾野市民ですから、不二家に通う皆さんの声も丁寧に聞いています。それが次に繋がっていると感じています。
勝又 企業の進出が増えるにつれて、人手不足も深刻な問題です。富士山麓の4市1町が連携して、企業ガイダンスを開くのもいいのではないでしょうか。新卒だけでなく、中途や子育て中の方、現役をリタイヤされた方など対象は広くしたい。また、交通が便利になったので首都圏も通勤圏内です。
今、小田急線は5〜6分間隔で走っていて、朝の時間帯に小田急線新松田駅と御殿場線御殿場駅をバスで繋げようと考えています。途中、足柄インターを通るので、今、小山町に声をかけて立ち寄る検討をしています。そうすれば、首都圏へのアクセスが良くなります。新東名ができればますます便利になりますね。
込山 小山町としても、首都圏が近くなるのは有難い話です。
一方で、豊かな自然環境のもとでの職住近接の住環境整備にも力を入れています。いま、町が主体となり、分譲地の販売を進めているところです。
村田 この4市1町を一体のエリアとして生産年齢人口の数を見てもらうことが強みになると思います。通勤圏内にどのような企業があり、どのような人材を求めているかという集団説明会は絶対やるべきでしょう。裾野に住んで富士宮の富士フイルムに勤める、富士宮に住んで裾野のトヨタに通うといったことです。地域の人口減少を食い止めるには、何も市内で働かなくても、隣市町で働いたっていい。道路が良くなれば通える範囲も広がりますし、進出企業にとっても安心材料になるのではないでしょうか。

■須藤 秀忠 富士宮市長
富士宮市出身。1979年富士宮市議会議員に当選し5期務める。 92年富士宮市議会議長。99年静岡県議会議員に当選し3期務める。2004年天皇陛下より藍綬褒章を受章。11年富士宮市長に初当選。現在4期目

■勝又 正美 御殿場市長
1955年生まれ。御殿場市出身。78年東京都立大学※経済学部卒業後、御殿場市役所へ入職。企画部長、教育部長を経て、2016年に副市長に就任。43年間職員として勤務した後、21年御殿場市長に就任。現在1期目
※旧東京都立大学(1949年〜2011年)。2020年に首都大学東京から改名した現大学とは別。



■富士山の自然を未来へ 地域協力で守る環境

― 4市1町でつくる「富士山ネットワーク会議」は昨年、「富士山麓の森林を守り、Jークレジットにより脱炭素を促進する共同宣言」を行いました。
勝又 4市1町が自治体の枠を超え、富士山麓からカーボンニュートラルを世界に発信する取り組みです。Jクレジットは、適切な森林管理によるCO2吸収量の財産価値を国が認証するもので、本市はそこで得た収益をデジタル地域通貨「富士山Gコイン」による市民活動等へのポイントとして還元しています。
小長井 富士市もJクレジットの活用を進めています。現在、549ヘクタールの市有林をJクレジットとして計画し、2026年度末から売却予定です。こうした取り組みが適切な森林経営管理を促進すると考えています。
須藤 本市は市域の約65パーセントが森林です。その特性を生かしJクレジットの創出に取り組んでいます。市、富士森林組合、地元財産区、静岡銀行と連携し、「富士宮市Jクレジット運営連絡会」を立ち上げ、官民一体で進めています。
込山 小山町では森林組合がなかったため、素材生産事業者等を集め、静東森林経営協同組合を設立しました。また、森林の崩壊を防ぐため、「小山町山地強靭化総合対策協議会」を設立し、町内を5つの地域に分けて、地域の方たちには定期的に森林の管理を行っていただいています。
小長井 いま、本来出荷できる大きさに育った木が、国の間伐材補助があるものの、人手不足により伐採が難しい状況にあります。我々は、育った木を伐採・出荷し、新しい針葉樹を植えているほか、森林経営が難しい土地には、市民の手を借りて広葉樹を植える樹種転換をしています。
勝又 Jクレジットの整備計画は、森林管理のみにとどまらず、木材産業の活性化にもつながります。適切な計画の下で、森林整備から木材加工までの一連の流れを整えることが重要ですね。
込山 木材の販路確保も大切です。本町はエンボードという、チップで木質ボードをつくる企業を誘致しました。いわゆる「川下」ができたので、「川中」に当たるチップ材の工場を作っています。「川上」は地主にご協力いただく、というように、ようやく木材循環が構築できました。
小長井 富士市では森林開発の影響を抑えるため、「森林機能の保全に関する条例」を制定しました。これは、新規開発の際に森林喪失影響評価、または相応の森林を確保するための保全措置の実施を求めるものです。これにより、環境保全と経済発展の両立を目指しています。
込山 災害の原因は、森林を手入れしてないこと。そうすると日が地面に届かず下草も生えません。そこに雨が水道をつくり、大雨が降ると立木と一緒に土砂が流れてしまうのです。
村田 森林管理は単独の自治体で完結するものではありません。例えば、私たちの市が水を引くことで、長泉や三島の水資源にも影響が及びます。周辺市町と協力しながら、水の安定供給のための森林管理を進めることが不可欠です。
山の手入れをしっかり行い、里山の環境を整えることで、水資源の安定供給が可能になります。こうした意識を子どもたちに伝え、未来の環境を守る世代を育てることが重要ではないでしょうか。
須藤 富士山のふもとの自治体は、富士山の恵みで成り立っています。最も重要なのが水の保全です。「次に来る旅人のために泉を清く保て」というチンギスハンの言葉がありますが、これは私たちの環境保全にも通じます。市では、単独浄化槽から、できるだけ合併処理浄化槽へ転換する補助制度を充実させるなど、具体的な施策を進めています。これが観光や産業、教育に波及し、持続可能な未来につながるのです。

■村田 悠(はるかぜ) 裾野市長
1987年生まれ。裾野市出身。国会議員秘書、市議会議員(2期)などを経て2022年1月に県内で最年少の首長として第7代裾野市長に就任。現在1期目。就任時作成した市長戦略達成に日々全力投球

■込山 正秀 小山町長
1987年5月小山町議会議員に当選。95年4月静岡県議会議員に当選し、4期16年。2011年5月小山町長に当選。現在3期目、静岡県町村会会長、駿東郡町長会会長に就任



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