サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2025.3.28 静岡新聞掲載」

県東部地域の活性化に向け、官民一体で提言を行うサンフロント21懇話会は、活動の模様や地域の課題を毎月1回「風は東から」で取り上げている。本年度最後の3月は、新たに静岡県知事に就任した鈴木康友知事をお迎えし、懇話会代表幹事の清野眞司静岡中央銀行会長とともに「ファルマバレープロジェクト」が進む県東部のこれからについて聞いた。聞き手は懇話会アドバイザーでふじのくに医療城下町推進機構理事長の大坪檀氏(新静岡学園学園長)。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ12

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医療と産業の交差点 県東部発・未来への布石
■高い医療分野のポテンシャル  異業種参入を加速
■鈴木康友 知事


大坪 サンフロント21懇話会は今年でちょうど30年を迎えます。自治体と民間企業、それもさまざまな業種がまとまって地域の未来を議論する場がこのように長く続くのは珍しいですね。
清野 懇話会発足から約10年、静岡がんセンターの開院を機にファルマバレー構想(現:プロジェクト)がスタートしました。私はメガバンクを経て、こちらに来て15年程になりますので、この地域でファルマバレープロジェクトがどう進んできたのかをほぼリアルタイムで見ています。仕事柄、さまざまな地域、地方を見てきましたが、20年でこれだけのプロジェクトが進んでいる例はあまりなく、大変なことだと思っています。
中でも医療分野に関するポテンシャルは高く、この分野を引き続き伸ばすことに経済界としても何ら異論はありません。しかし、企業が医療分野に新規参入するのは非常にハードルが高いため、企業が持つ強みや技術力をしっかり見極めていくことが重要な点であると思います。
大坪 特に中小企業、これは本県の宝です。数が多いだけでなく、素晴らしい技術を持っていますね。ファルマバレーセンターでは、医療機器産業に参入した企業の製品をたくさん展示しています。それを他の企業が見て、自社でもできそうだと思ってもらうのが展示の意図です。
鈴木 「ものづくり県」である本県には、素晴らしい企業がたくさんあります。しかし、大手企業の下請けが多くを占めていました。
浜松市にある自動車部品製造の橋本エンジニアリングも、地域企業の一つで、リーマン・ショックの際には、大きな影響を受けました。そこで、自社が持つアルミ加工技術を使い、片手で持ち上げられるほど世界最軽量の車いすを開発しました。現在、福祉業界では知らない方はいませんし、多くの車いすテニスの選手がこの会社の製品を使っています。
清野 東海部品工業も自動車部品の製造会社です。偶然、先代社長と私が同じマンションに住んでいたことが縁で、15年ほど前、医療機器に参入するかどうか悩んでいると相談を受けました。
私は「ぜひおやりになったらいい、取引先も自動車関連以外に広がるのでは?」とやや勝手な事を申し上げたのですが、その後、三菱重工業に勤めておられた現社長が会社を継ぐことになり、今では骨接合用のマイクロネジやインプラントなどの医療機器を製造しています。



■スタートアップ支援と第二創業 次世代の産業基盤づくり
■大坪檀 ふじのくに医療 城下町推進機構理事長
サンフロント21懇話会アドバイザー

大坪 知事は浜松市長時代、「ベンチャーキャピタル(VC)ファンドサポート事業」という制度を立ち上げたそうですね。
鈴木 VCがベンチャー企業に投資する金額と同額を市が補助する制度です。それにより、VCにとっては投資リスクが軽減でき、ベンチャー企業にとっては資金獲得が容易になる。しかも行政から交付金をもらうことで、信用力も上がります。これからこの取り組みを、全県で展開します。
清野 新たな分野への参入には、新規性が大事と思われがちですが、一般的には本業に準ずる、いわゆる周辺事業の方が着手しやすいと思います。先の東海部品工業は小さなネジを作っている会社ですが、このネジの特性を活かし、何かと何かを繋ぐという、一見当たり前とも言えるアイディアです。しかし、ネジを応用して骨と骨を繋げることを発想し、医療機器産業への参入のみならず、先ごろは新工場の建設に取り組むと聞いています。
鈴木 自動車部品、しかも精密加工技術は医療機器産業と相性がいい。私はスタートアップ支援に力を入れていますが、地域企業が新たな分野で事業を立ち上げる、いわゆる第二創業を増やしていくことも重要です。ファルマバレープロジェクトが進む県東部では、今後も医療分野で新たなチャレンジする企業がますます増えるのではないでしょうか。
清野 スタートアップ支援では、通常、支援した企業が上場し、VCが投資額を回収できることがゴールとされていますが、それに限らず地元の産業として長く続く、繋がるという視点を持つことも大事と考えます。個々の企業の事情もありますが、相続や事業承継をどうするかという課題も、制度に組み入れられるといいですね。



■幸福度の高い地域へ 医療田園都市構想の実現
■清野眞司 静岡中央銀行会長
サンフロント21懇話会代表幹事

大坪 ファルマバレープロジェクトが20年経ち、これから医療田園都市構想というフェーズに入ります。医療、福祉、介護の充実を図りながら、都市機能を強化し、豊かな暮らしの実現を目指すというこの構想をどのように進めていきますか。
鈴木 県東部は、静岡がんセンターを中心とした医療城下町が作られ、住環境も、首都圏へのアクセスも良く、生活の利便性も高い。ウェルビーイング(身体的にも、精神的にも、社会的にも、すべてが満たされた状態にあること)が実現された、幸福度の高い地域になりつつあると思います。これまでファルマバレープロジェクトが積み重ねてきたことが、社会的価値があることを世間が認め始めたのでしょう。今や、「ウェルビーイング」は世界共通の認識になっています。今後は、県東部のモデル12市町、さらには県全体に拡(ひろ)げていくことも重要です。
清野 今後、医療田園都市構想を進めるには、地域全体を俯瞰したグランドデザインが必要ではないでしょうか。日本の都市計画は拙い点が多く、もちろん地権者の意向を無視するわけにはいきませんが、まちづくりとして考えた場合、駅前にはこうした機能、郊外にはこういう機能など、エリア毎の役割をあらかじめ決めておくことが重要と思います。
鈴木 例えば伊豆半島で言えば、温泉施設を活用して、スタートアップ等の誘致を行いたいと思っています。既に佐賀県の嬉野温泉に先進事例がありますが、その経営者は、嬉野よりも首都圏に近い伊豆半島の方がポテンシャルが高いとおっしゃっています。やる気のある旅館の経営者と連携して、ぜひ実施したいと思います。
大坪 旅館をリノベーションして、スタートアップ等を誘致する構想は、伊豆半島にピッタリの取り組みですね。
鈴木 現在、オンラインでできる仕事が増えています。自由に温泉やサウナに入りながら仕事ができる環境は、国内にもあまりありません。普段は伊豆半島の温泉でゆったりと仕事をし、必要なタイミングで東京などで打合せをするような生活は、ウェルビーイングも高まるでしょう。市町や団体、事業者等と連携して新しいモデルを作り、国内外に発信していきます。
清野 おっしゃる通り発信が大事だと思います。懇話会の関係者も含め、地元の我々にファルマバレープロジェクトの素晴らしさをもっと浸透していく必要があります。現在の状況がどれだけ素晴らしいのか、静岡がんセンターが出来上がって地域にどのような効果があったのかをわかりやすく伝えていくことが大切でしょう。
次のフェーズ(医療田園都市構想)に進んだ時には、県民の皆さんに向けて、また、東京などで開催される発表会でも聞く側に「刺さる」ように発信することはとても重要だと思います。懇話会の発足30年を機に、今一度、発信方法も見直していきたいですね。



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