サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2025.8.22 静岡新聞掲載」

サンフロント21懇話会30周年記念 県東部首長リレーインタビュー

官民一体で県東部の活性化策を探る「サンフロント21懇話会」は、光輝く地域づくりに向けて研究・提言活動を行っている。今年、設立から30周年の節目を迎えた。それを記念して「風は東から」では、懇話会と二人三脚で県東部を盛り立ててきた自治体のリーダーにリレー形式で登場いただく。8月は、県東部地域局の市川顯局長と、県賀茂地域局の青木克裕局長に、地域の課題と将来展望について聞いた。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5

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東部地域局 実証の地・東部で官民連携が加速
■防災と暮らしの広域連携
■市川 顯 県東部地域局長
浜松市出身。大学卒業後、1989年静岡県入庁。経営管理部東部支援局次長、人事委員会事務局職員課長、三島市副市長、東部地域局伊豆観光局長を経て現職

静岡県東部地域局は、危機管理部門と地域振興部門が統合されて誕生した経緯を持つ。その中核には、災害時の「方面本部」としての機能があり、地震や豪雨などの際には、自衛隊の派遣調整や道路啓開情報の収集など、地域に密着した迅速な対応を行っている。特に伊豆半島では、能登半島地震を踏まえ、防災対策を強化していく必要があり、平時から減災交付金の活用や、7市6町で構成される「伊豆半島広域防災協議会」とも連携し、防災対策や広域避難など安全・安心な地域づくりを支援している。
移住・定住の促進についても、東部地域局は広域的な視点で取り組んでいる。14市町の交通アクセスを視覚化した地図を基に、東京圏を対象とした移住相談会を一体的に開催。市単位ではなく、静岡県東部という広域での暮らしや仕事の魅力を伝えることで、まだ移住先を決めていない層にもアプローチしている。沼津市ではアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」を活用した移住促進策に取り組んでいるが、SNS全盛の時代にあって、キャラクターたちが発する「夢・希望・楽しむ」といった言葉は、人々の共感を呼び、人の流れにまで波及しているのは興味深い。
また、産業振興の分野では、地域の特性を生かした多様な実証フィールドづくりが進んでいる。御殿場・裾野市、小山町では、森林整備を基盤とした富士山東麓エコガーデンシティ地域循環共生圏が形成され、Jクレジットを活用した地球温暖化防止対策にもつながっている。三島駅周辺や長泉町などでは、AIオンデマンド交通などのモビリティ実証実験も展開され、移動手段の確保とサービス向上の両立を目指している。

■静岡県東部地域移住ガイドブック


■実証の場から産業を生む

こうした取り組みの背景には、民間の力を積極的に取り入れたいという思いがある。従来は行政が担っていた社会資本の整備やサービス提供を、人口減少や財政面での制約が進む中、民間の柔軟な発想と技術力を活用して維持・向上させていくことが求められている。例えば、上下水道といったインフラの運用において、また逆に、民間の観光・宿泊施設の維持・更新においても官民連携の視点が重要となっている。
また、インバウンドへの対応も進行中だ。三島駅が通過点として終わらないよう、県と地元自治体が連携して検討会を立ち上げ、外国人観光客の滞在を促す周遊ルートや情報提供のあり方を探っている。これにより、三島市内にとどまらず、伊豆や富士山周辺への回遊性を高め、広域的な経済波及効果を狙っていきたい。
こうした多様な挑戦を支えるのは、顔の見える関係性と自治体同士の信頼構築だ。県・市町間や職員同士の交流を通じ、枠を超えた共創が始まっている。これからの地域づくりは、民間のアイデアを生かした、現場主導のネットワーク型アプローチがカギと考える。
県東部は、富士山という景観、自然、観光資源、産業基盤に恵まれたポテンシャルの高い地域である。その力を引き出すには、県、市町、民間、大学など、多様な主体が連携し、それぞれの強みを生かす「実証フィールド」としての地域づくりが不可欠だ。そうした連携のハブとして、次世代に向けた地域像を描いていきたい。

 
■温泉旅館オフィス化事業の入居企業第1号記念式典


賀茂地域局 防災と観光の視点で連携が息づく地域へ
■災害に強く しなやかな地域へ
■青木 克裕 県賀茂地域局長
静岡市出身。大学卒業後、1990年に県職員に採用。大阪事務所所長補佐、賀茂地域局次長兼地域課長、交通基盤部総務課長を務める。2025年4月から2回目の賀茂地域局勤務

下田市、東伊豆・河津町・南伊豆・松崎・西伊豆町の1市5町からなる賀茂地域は、豊かな自然と温泉に恵まれている。一方で、人口減少や高齢化、災害リスクといった課題も抱えている。
記憶に新しい能登半島地震は、賀茂地域にも大きな教訓をもたらした。海沿いや山間部に点在する集落は、災害時に孤立のリスクが高く、道路が寸断されれば支援が届かない。こうした現実を前に、平時からの連携体制の構築が不可欠なことから、自衛隊、消防、海上保安部、市町の首長らが一堂に会する「賀茂指揮官会議」を開催している
この会議では、ヘリポートの候補地や通行可能ルートの事前確認といった実務的な課題も共有し、緊急時に迷わず動ける体制づくりを進めている。観光地である地域特性も踏まえ、観光客の避難誘導や多言語対応、避難所での暑さ対策なども重視している。
さらに、賀茂地域は一部の合併に留まり、それぞれの自治体が独自性を保ちながら連携を深めてきた。いわば“緩やかな広域連携”がこの地域の特徴であり、フラットな関係性が築かれている。各市町が主役でありながらも、伊豆全体としてのまとまりを意識した情報発信が、今後の観光や産業戦略において重要な鍵を握る。

■賀茂指揮官会議の様子


■人がつながり 未来が育つ土地へ

■「カモスマ(賀茂のカリスマ)」を動画配信などで紹介

地域の持続性を高める上で、移住・定住のみならず、「関係人口」の創出が重要と考えている。その一つの実践が、県が進める「ICOI(イコイ)プロジェクト」だ。本年度は、温泉旅館に企業のオフィス機能を導入し、ビジネスと地域との接点を生み出す取り組みが進んでいる。
賀茂地域では、現在、東伊豆町の「熱川プリンスホテル」、下田市の「下田ビューホテル」、南伊豆町の「石花海別邸 かぎや」の3館が参画予定であり、単なるワーケーションではなく、長期滞在を前提とした“働く場”としての旅館利用を想定している。使われていない部屋やスペースを活用し、癒やしと仕事の両立を図るこのモデルは、旅館経営にも新たな可能性をもたらすと期待されている。
一方で、将来を担う若者たちにこの地域の魅力をどう伝えていくかも大きな課題である。賀茂地域には大学がなく、多くの若者が高校卒業と同時に地域を離れる。「戻ってこい」とは言えないが、出ていく前に、この地の魅力や可能性を知ってもらいたいと考えている。
その思いから、「カモスマ(賀茂のカリスマ)」というプロジェクトを立ち上げた。移住者やUターン組など、地元で多様な働き方や価値観を持って生きる人々を紹介し、講演や学校訪問を通じて子どもたちに触れてもらう取り組みである。この地域にも、自分らしく生きる大人たちがいる。それを知ることで、地元への誇りが育ち、やがて「また戻ってきたい」と思える土壌が醸成されていくのではないかと期待している。
賀茂地域にはまだ多くの可能性が眠っている。防災力の強化、地域の関係性の深化、そして人と人との新しいつながりの創出ーこうした積み重ねが、未来の地域像をかたちづくると考えている。



■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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