サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2025.12.26 静岡新聞掲載」

スポーツを軸とした地域の動きが広がっている。2021年の国際大会を契機に自転車競技の環境が整い、地域資源としての価値が高まってきた県東部。一方、企業はスポーツを通じた人材育成や雇用促進に取り組み、まちとの関わり方に新しい広がりが見え始めている。さらに、日常の運動が地域のつながりや暮らしの質を高める例も出始めた。12月の「風は東から」は競技、企業、暮らしの3つの視点から、東部各地の事例を取り上げる。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9

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スポーツが広げる地域の力 競技・企業・暮らしをつなぐ
■国際大会が育てた 自転車の地域力
■日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)で行われた国際自転車競技大会

11月、伊豆市の日本サイクルスポーツセンターに、ふたたび大きな熱気が戻ってきた。100年の歴史がある聴覚障害者の国際的なスポーツ大会で、日本での開催は初。会場では17日から25日にかけて複数種目の自転車競技が行われ、選手・関係者を除き延べ5000人以上が訪れた。県をはじめ地元自治体や企業の出店ブース、ろうあ協会の紹介ブース、キッチンカー、自転車体験コーナーなどが並び、競技を見るだけでなく体験を通じて楽しめる場としてにぎわいを見せた。
大会は数日にわたるため、飲食店や宿泊施設は期間中多くの人でにぎわう。伊豆市の大路弘文産業部長は「国際大会を経験するにつれ、地域の受け入れ態勢も成熟してきた。また、競技会場のある伊豆市だけが潤うのでなく、隣の伊豆長岡温泉や三島市など、伊豆半島全体に経済波及効果がみられる」と語る。
同市では市内小中学生が競技を観戦。事前学習などで理解を深め、サインエールや手話を学んだ。スポーツイベントがもたらす経済効果に加え、住民が大会を支える経験そのものが、地域の誇りや自信を育てている。
このように県東部・伊豆は近年、自転車競技の集積地として独自の地位を築きつつある。2021年の世界的スポーツイベントで自転車競技の会場となった日本サイクルスポーツセンター(CSC)をはじめ、ジャパンマウンテンバイクカップが毎年開催され、プロサイクルチームも複数拠点を構えている。こうした環境が、今回の国際大会の受け入れにもつながった。
県はサイクルツーリズムの推進や自転車環境の整備を進めてきた。特に県東部では矢羽根(自転車ナビライン)の整備が進み、民間によるライドイベントやマウンテンバイクのトレイル開発など、多様な動きが生まれている。例えばスルガ銀行(加藤広亮社長)は10月に東急ホテルズと伊豆半島一周サイクリングを企画。三島駅前の富士山三島東急ホテルを拠点に伊豆半島一周約246キロメートルを2日間で完走した。
一方で、自転車利用の増加に伴う安全対策や観光地でのマナー、レンタサイクル事業やルート整備の課題など、自治体と民間が連携して改善していくべき点もある。こうした背景を踏まえ、県はトップアスリートを育成し、裾野を広げる従来の戦略から、「産業展開」「SDGs推進」を目標の柱に方向を転換。会議名を「県サイクルウェルビーイング推進会議」に改称し、観光、健康、暮らしを含む総合的な政策へと踏み出す予定だ。

■多くの人でにぎわう自転車競技会場


■企業とクラブが 育てる人と地域
■オーストラリアのチームとのエキシビジョンマッチ後の記念撮影

自転車を中心とした競技環境が整う一方で、県東部では、企業がスポーツを支え、人材育成や地域とのつながりを生む動きが広がっている。
沼津市の自動車部品メーカー、イズラシ(堤親朗社長)が立ち上げた男子バスケットボールチームもその一つだ。同社は13年前にチームを創設し、社会人リーグで実績を積みながら全国大会の常連へと成長した。同社の河上浩三常務取締役は「選手同士の絆が強くなり、仕事にも良い影響が出ている」と語る。競技を続けながら働きたい若者の応募が増え、学校との関係も深まり、地域に新しいスポーツ文化が生まれている。
また同社は「バスケットボールで沼津を元気に」を掲げ、小中学校への指導や地域イベントにも積極的に参加している。今月28日には高校生を招いた「IZURASHI CUP」を計画し、沼津市とのパートナーシップ協定も結んだ。
企業によるスポーツ支援は選手育成にとどまらない。ネッツトヨタ静岡(梨本幸博社長)はフェンシング女子エペの鈴木穂波選手を支援し、競技活動と仕事の両立を可能にしている。鈴木選手は全国大会で実績を重ねつつ、学校訪問や地域イベントでフェンシングの魅力を伝え、子どもたちの憧れとなっている。
県東部には、プロバレーボール男子の「東レアローズ静岡」、富士市のプロサイクリングチーム「レバンテフジ」、三島市の「チームブリヂストンサイクル」、サッカーの「アスルクラロ沼津」など、地域スポーツを盛り上げるクラブがそろう。アスルクラロ沼津のような地域密着クラブは住民の参加の入口となり、裾野の拡大に寄与する。東レアローズのようなプロチームは、地域に応援文化を育て、企業と市民の関係性を豊かにしている。



   
■スポーツが育む 地域のウェルビーイング
スポーツを単なる競技や観戦の枠にとどめず、地域課題の解決や居場所づくり、健康増進の手段として生かす動きが広がっている。誰もが参加できる活動や、まちの環境を生かした取り組みが増えることで、スポーツは“する・見る”だけのものから、地域のつながりや暮らしの質を支える身近な営みへと変わりつつある。県東部でも、学生や市民が主体となる実践から、自治体による制度づくりまで、多様なアプローチが生まれている。
順天堂大保健看護学部の辻川比呂斗准教授が提案する「SUPwell(さぷうぇる)」は、スタンドアップパドルボード(SUP)を使った水辺の清掃活動だ。「川で遊びたいなら、まず自分たちの手で綺麗にしよう」。そんな学生の声から2010年に始まり、14年にはSUPを導入し、大場川クリーンズ(DRC)として100名を超える同好会として活動している。水面からゴミを拾う体験は作業効率が高く、楽しさも相まって学生の主体性を引き出した。近年は海岸清掃にも発展し、県外からの参加者も訪れるようになっている。
特徴的なのは、清掃後にバーベキューによる交流会を開き、学生、地域住民、卒業生、企業が自然に交わる場を生み出している点である。辻川准教授は「地域のために行動した後、人と語り合う時間こそ価値がある」と語る。参加者のウェルビーイング(幸福感)は活動前後で顕著に上がり、地域への愛着や自己肯定感の高まりも確認されたという。
三島市は早くから「ウェルビーイング」を市政の重点テーマに掲げ、健康づくりや交流の促進を、まちの幸福度を高める基盤として位置づけてきた。市が進めるウォーキング推進や健康ポイント制度(健幸マイレージ)などは、年齢や目的に合わせて誰でも参加できるよう設計されている。一方、西伊豆町でも「健幸マイレージ」を実施し、一定のポイントを地域通貨「サンセットコイン」に交換できる仕組みを整えている。健康づくりの行動が、そのまま町内で使える通貨につながることで、住民の継続的な参加を促すと同時に、地域内での消費や交流を生み出している点が特徴だ。
これらの制度があることで、スポーツを特別なものではなく「暮らしの一部」として続けられる土壌が広がっている。SUPを使った川の清掃活動が地域への愛着と交流を生んでいるように、三島市や西伊豆町の健康施策もまた、運動を通じて人と人が緩やかにつながる仕組みを生み出している。ウェルビーイングという視点は、スポーツを“競技”だけでなく“暮らしの文化”として捉える新たな価値観を地域にもたらしている。

■SUPを使って川の清掃を行う大場川クリーンズのメンバー

■清掃後にシェアスタイルBBQを楽しむ参加者


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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