サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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県東部地域連合「ひかり輝く地域づくり」に向けて

 県東部特集「風は東から〜ひかり輝く地域づくり」の第5回目です。
 毎月1回、県東部と関わりの深い各界の方々にご登場いただき、県東部の将来像についてさまざまな視点から光をあてていきます。案内役はサンフロント21懇話会アドバイザー、静岡産業大学国際情報学部教授の大坪檀氏。
 今回は熱海市長川口市雄氏、作家杉本苑子氏にご登場いただき、熱海市が中心として進めている「伊豆湘南道路構想」などについて対談していただきました。
風は東から
3周年記念  ●対談シリーズヲヲ5
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芸術文化で観光振興を 「伊豆湘南道」実現へ一丸

作家 杉本苑子(すぎもとそのこ)氏
作家 杉本苑子(すぎもとそのこ)氏
第48回直木賞、第12回吉川英治文学賞、第25回女流文学賞を受賞。歴史小説の第一人者。平成9年熱海市名誉市民となる。熱海市在住。     
深い歴史と豊かな環境に恵まれた熱海。
新しい観光への転換を模索
大坪 熱海は多くの文化人にも愛され、素晴らしい美術館もある。ところが最近は観光客も減り、人口も減ってきている。
川口 熱海の歴史をさかのぼると、明治時代は非常に交通が不便でしたから、この優れた環境は政府高官や資産家、文人など特定の方々だけのものでした。「熱海政府」と呼ばれた時代です。ところが丹那トンネルが開通、三十年後に新幹線が止まるようになって、大勢の方に来ていただけるようになった。良くも悪しくも観光地として広く一般化した。現在、厳しい熱海の現状を打開しようと市民と一緒に緊急の不況対策に取り組んでいますが、二十一世紀に到来する大観光時代に向けて新しい熱海を創ろうと頑張っています。
杉本 文人に例をとっても坪内逍遙、谷崎潤一郎、志賀直哉、吉川英治に泉鏡花と、熱海には本当に多くの著名人が居を構えていました。現代も橋田寿賀子、小山内美江子、森村誠一氏らが熱海で創作活動をしています。私もここを本拠に執筆してますし、その伝統が失われているわけではありません。逆に新幹線が止まることで東京に近接しましたし、気候もよく風光明媚な環境の中においしい水と空気がある。とても住みよい街ですね、この熱海という街は。
大坪 おっしゃる通り、この熱海は素晴らしい環境と文化の伝統がある町です。ただその素晴らしい資産がうまく生かされていない。
川口 当然、団体客が減り家族連れやグループ客が増加するといった観光形態の変化の中で、これからはこの熱海の素晴らしさをアピールしていかなければなりません。文化もそうですし、やはり熱海ならではの非日常的な体験をしていただくことが大切なのではないかと考えています。
杉本 旅館一つをとっても、仲居さんが来てチップを上げたのに、次に違う仲居さんが来るのでまたチップを上げなくてはならないのかしらと気を揉んでしまう。ゆっくりと過ごしたいのに、朝食は八時から九時までに取らなければいけない。くつろぐはずの旅館でくつろげない。もっと多様で自由なスタイルに対応していく必要があるかもしれませんね。


町中に息づく熱海の魅力。
親切運動と文化の街づくりで観光の活性化を
川口市雄(かわぐちいちお)熱海市長
川口市雄(かわぐちいちお)熱海市長
熱海市市長公室長、総務部長、助役を経て、平成 6年熱海市長に就任。「親切と文化」をキーワードにしたまちづくりを目指す。熱海市生まれ。


大坪 先日イタリアに行ったのですが、たくさんの日本人が芸術文化を見に来ている。今は芸術文化が重要であって、温泉だけを売り物にする時代はもう終わってしまった。
川口 広い意味で芸術文化が観光に果たす役割は今後さらに大きくなっていきますね。ですから熱海も親切運動と文化のまちづくりを目標に様々な取り組みを始めています。親切運動は、初代英国公使のオールコック卿の愛犬が「大湯」の熱湯を浴びて死んでしまったところ、熱海の里人が手厚く葬って慰め、公使の対日感情の改善に大きく貢献したという逸話を原点にしています。つまり観光においても人ひとりのお客様に満足していただくホスピタリティの実践が基本であると。一方、文化のまちづくりでは伝統的な文化を掘り起こし、その上で新しい文化を創造していくことを目指しています。「湯〜遊〜バス」と名付けたレトロ調のバスによる観光スポットの巡回、また市内の由緒ある源泉を再整備し、「七湯めぐり」と銘打ちながら湯けむりの街の演出に努めるなど様々な試みを始めています。最近では日本一と言われる四百人の熱海の芸者さんの見番という練習場を毎週土・日に公開して、手軽にその素晴らしい踊りを楽しんでいただいています。特に女性の方に大変好評です。
杉本 文化の浸透というのは実に忍耐のいる、歳月のかかるじりじりとした蓄積ですから、焦らず少しずつ進めていくことが大切です。その意味でも、いきなり清元や常磐津を持ち出すのではなく、見番で踊りを見ていただいたり、「熱海をどり」を楽しんでいただいたりすることは非常に良いアイデアだと思います。また熱海は昔からの湯治場ですから、湯汲み道中などに残る熱海ならではの歴史を上手にアピールしていったら良いのではないでしょうか。私は東京から来る編集者に歴史的な話を交えてここをよく案内しますが、非常に喜んでいただいています。



大坪 檀(おおつぼ まゆみ)さん
大坪 檀(おおつぼ まゆみ)さん
静岡産業大学国際情報学部教授。サンフロント21懇話会アドバイザー
限りない可能性を秘めた伊豆湘南道路。
新しい交流と文化の創造を生みだしていく
大坪 ところで先日、伊豆湘南道路の建設に向けた期成同盟会が発足したとお聞きしています。慢性的な交通渋滞に悩む熱海市の未来に非常に大きな意味をもつのではないか。文化の振興によるまちづくりとともにぜひ成功させなければいけませんね。
川口 これは湘南方面から熱海を経て三島・沼津方面を結ぶ自動車専用道路ですが、単に熱海だけでなく県東部と神奈川県西部を結ぶという意味で、広域的な文化の発展や産業の活性化、降雪や地震等の災害対策に大きな役割を果たすと考えています。ですから期成同盟会も両県四市四町を母体にスタートしました。
大坪 この道路ができることで、この一帯も新しい圏域として大きく発展していきますね。
川口 市民にとって県境はあまり大きな意味を持ちません。良いところ、行きたいところへ人が集まるということです。この道路ができれば沼津、小田原間が約四十分で結ばれるのですから、大きな交流が生まれ新しい文化も生まれてくると思います。そのためにも平成十五年からの国の計画に取り入れていただき、十七、八年の着工を目指して現在、国等への働きかけを進めています。
杉本 駿河の国はもともと伊豆、相模、つまり小田原も含んだ範囲でした。それが時代の経過とともに分かれ今の姿になったわけです。ですから現在の静岡県も決して不変ではなく、むしろこれからは時代に即した新しい圏域というものを考えていく必要がありますね。そういう意味からも新しい道路の構想は大変結構だと思います。私にできることがあればお手伝いすることもやぶさかではありません。
大坪 伊豆湘南道路の建設構想などをきっかけに市民の意識もまた変わってきます。それを踏まえて熱海の街は文化、芸術を柱に二十一世紀型に脱皮し繁栄していくのではないでしょうか。文化、芸術と共にある新しい熱海に期待しています。


サンフロント21懇話会からのメッセージ
「熱海に想う」


岡本久美子(おかもとくみこ)さん 岡本ホテル社長
サンフロント21懇話会運営委員
岡本久美子(おかもとくみこ)さん 岡本ホテル社長
岡本久美子(おかもとくみこ)さん 岡本ホテル社長
サンフロント21懇話会運営委員
少彦名命(すくなひこなのかみ)をまつる熱海市上宿町の湯前神社例大祭は今でも、献湯や湯汲み道中を古式ゆかしく行う。
温泉に感謝する熱海の人々の気持ちは今も昔も変わらない。ことに、お客様を迎える私たちの側に感謝の気持ちがあせるようではいけない。その感謝の気持ちの内側をお客様にも分かっていただけたら、熱海の良さがさらに分かる。
私たちはお客様に本当の熱海の良さを伝えているのだろうかと思う時がある。まだまだお客様に玄関付近を見せているだけなのでは、と思うことがある。
例えば、早春の山路に咲く通条花(きぶし)の花は見る人の心を優しくし、そして、日金山までの道すがらに建つお地蔵様は、私たちに優しくほほ笑みかけ安らぎを与えてくれる。
また、うっそうと茂る落葉樹の小道で、空中湿度のある世界に佇む時、「あっ、ここも熱海だ」と感激する。そして「この森林に貯えられた水が地下深く浸透し、再び温泉となって海岸近くに湧き出るのだ」と感動する。熱海は海も素晴らしいけど、背後に控える山がいい。
2000年の伊豆新世紀創造祭に向けて伊豆の活性化が推進されています。
時代がテンポを早めて過ぎていく時は、同時に伝統的な文化が消えていきがちです。熱海らしいゆったりとたおやかな文化を未来に向けて継承していきたいと思います。

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