サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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第10回総会 平成16年5月27日(沼津東急ホテル)
記念講演「日本経済と金融の行方」
金融関連コンサルティング「KFi」社長 木村剛氏

■講師略歴

木村剛(きむらたけし)
KFi代表取締役社長

 1985年、東京大学経済学部卒。同年日本銀行に入行した後、営業局、企画局、ニューヨーク事務所、国際局など主要部局を歴任。一貫して、金融機関監督関連業務を担当し、金融機関経営・マーケット構造の調査・分析、リスク管理・先端金融商品の統括、金融制度改革の企画・立案などに携わる。BIS規制に係る国際的な各種委員会にメンバーとして参画。
 1998年3月、金融サービスに関する総合コンサルティングを行うKFi株式会社(旧:KPMGフィナンシャル株式会社)を設立、代表取締役社長を務める。大手金融機関の事業提携プロジェクトや規制に関するアドバイザリーを統括。金融監督庁金融検査マニュアル検討会委員、通産省アジア金融通商研究会委員、総務省郵政事業公社化に関する研究会委員、金融庁金融分野緊急対応戦略プロジェクトチームメンバー、金融庁金融審議会第二部「リレーションシップバンキングのあり方に関するワーキング・グループ」を歴任。
 現在は、経済同友会企業会計委員会委員長・行財政改革委員会副委員長、内閣府経済動向分析検討チーム委員、金融庁「新しい中小企業金融の法務に関する研究会」委員、金融庁金融審議会第二部「自己資本比率規制に関するワーキング・グループ」メンバー、東京電力「広報問題検討委員会」委員を務める。2003年11月より会員組織"KFiClub"を発足。
 著書に『戦略経営の発想法』(ダイヤモンド社)、『金融維新』(アスコム)、『「会計戦略」の発想法』(日本実業出版社)、『おカネの神様に学ぶ個人投資家のすすめ』(アスコム)、『竹中プランのすべて』(アスコム)など著書多数。


木村、竹中ショック

 このような形でお話できることを大変嬉しく思っている。というのは、竹中チームというものがあったころは、このような場に出ようものなら「お前は外資の手先」と罵詈雑言を浴びせられ、おちおち外も歩けない状況だった。その時と比べると世の中も多少明るくなってきた。
 振り返ると確かに皆さんの怒りも分からなくはない。竹中大臣が2002年9月30日に「金融もやるぞ」といった瞬間に株は9,500円割れして9,383円、竹中ショックと呼ばれた。1日後の10月3日にプロジェクトチームのメンバーが発表され私が入ったと伝えられると、9,000円を割って8,936円となり、木村ショックと言われた。竹中プランが出た10月30日の翌日、8,640円となり、木村・竹中ショックで「いいことは何もない」といわれ、昨年の4月末には8,000円も割り込み7,607円をつけて「木村・竹中は日本を滅ぼす」といわれた。
 最近は株価が上がって、今日も1万1,000円前後と聞いている。底値から約5割回復した。 竹中さんが大臣になった時と比べても約2割の回復。私がチームに入ってからと比べても25%くらいの回復だが、世の中は冷たくて誰一人として竹中リカバリーといってくれない。ましてや木村リカバリーなんて言う奇特な人もいない。
 静岡県東部は景気がいいようだ。有効求人倍率も1倍超えていると伺った。東京だけではないのだという感じがしている。経済全体でみても良くなって来たと思う。これは当たり前のことを当たり前にやったからだという感じを持っている。


無責任のエコノミスト

 この2年間、経済学者やエコノミストがどういう事を言って来たか。例えばこう言っていた。「不良債権を処理するとは何を考えているんだ」と。不良債権を処理するとデフレになる。デフレになると債務、借金が重くなる。借金が重くなると、ますます返せなくなる。するともっと不良債権が増える。不良債権が増えるともっと景気が悪くなる。こんなに不景気の時に不良債権処理を続けるなんていう奴は、経済学の「ケ」の字も分かっていない、と言う人が2年前、たくさんいた。今、どこにも居なくなった。
 こういうことを言っていた人がいた。「デフレは構造的だ」と。中国という国がある。日本の20分の1の賃金で働く奴が10億人もいる。値段が上がるわけがない、と。これは1世紀続くデフレだと。いつの間にかいなくなり、最近は中国がいるからインフレになるという人まで出てくる始末だ。
こういうことを言っていた人もいた。「日本は未曾有の危機である」と。対処するためには非伝統的な、つまり普通の政策を超えた思い切った金融政策、例えばインフレターゲッティングのようなことをやらないと、絶対に日本は回復しないと言っていた。インフレが善で、デフレが悪だったら、今こそ言うべきだ。いかにいい加減だったか。エコノミストの言うことを聞いていたら良くないという事が今回はっきりした。
 実際にこの人たちの理屈は非常に簡単だ。皆さんも聞いたことがあると思うが、世の中には総需要と総供給というものがあって、それはもう決まっていると。日本の場合は需要が足りない。これは民間の力を持ってしてはいかんともしがたい。だからこれは官が埋めるしかない。つまり財政出動するしかないということを、難しく、分かりにくく言っていた人がたくさんいる。
 皆さんも聞き覚えがあると思う。需要不足が問題だと。もう民間企業はどうしようもないと。それを国が埋めなくて何をするんだと。その人たちは最近、何も言わない。本当にいい加減だ。ちょっと前までは景気は回復しないといっていた。まだ需要不足だと。東京だけで沼津は違う、みたいなことを言っていた。しかし沼津もいいんじゃないかという話になってくると、大分言い方を変えて、最近は「小泉政権は経済政策をことごとく誤った。しかし個々の企業が努力して景気はよくなった」と言っている。
 しかし、そういう人に限って2年前は「個々の企業が努力してもどうにもならない」と言っていた。そういう人に限って、いまの景気回復は個々の企業の努力だという。個々の企業の努力で景気が回復すればいいんであって、何が何でも財政を出動させて景気を回復させなければいけないとか、何が何でも政府が景気を回復させなくてはいけないんだというヘンな考えから解き放たれて、もっと経済の実態を見るべきだと思う。これまでのエコノミスト、経済学者たちは経営者の力や個々の企業の力をあまりにもなめすぎていた。経営したことがないから分からない。
 そもそも総需要なるもので経営しているのか。日本全体の総需要というものがあって、静岡県のシェアがあって、その中で沼津市のシェアがあって、会社ごとに割り振りがあって、総需要が大きいからうちも売り上げが増えた、そんな簡単なことでは経営できない。総需要というものがあるなら見せてほしい。


ビジネスモデル

 私も今ではこう言っているが、7年前はお役所中のお役所のような日本銀行にいて、その頃は総需要というものがあると思っていた。恥ずかしながら。経済学の教科書には、需要曲線と供給曲線なるものがあり、値段が高いとあまり売れないが、値段を安くするとたくさん売れるという曲線があって、物事は何で決まっているかというと需要曲線と供給曲線の交点で決まっていると。ここで値段と量が決まるという。
 7年前まで私も信じていた。7年前に私は自分の会社を興してビジネスを始めることになった。悲しいかな、自分でビジネスをやると需要曲線がない。一生懸命、銀行に対してこういうアドバイスはどうですかといっても、全然売れない。では値段を下げたら売れるか。下げても売れない。そんなに簡単なものではない、ビジネスは。実際、この値段でよく売れたねという時があれば、この値段でなぜ売れないんだということもある。
 マクロの総需要といっていた人たちはテレビでなんと言っているか。もっともらしく言っている。「そうですね。ビジネスモデルがポイントですね」とか、あるいは銀行の決算が出ると「本当に新しいビジネスモデルが確立出来るかどうかがかぎですね」と。そんなビジネスモデルで商売できたらそんなに楽なことはない。
 ビジネスモデルとか、経営戦略でうまく行った企業はない。例えばあの有名なマッキンゼーがアドバイスしたところを知っているか。北海道拓殖銀行。「国際業務をやりなさい」といったらつぶれてしまった。長銀。「営業と審査を一緒にしろ」といったら、うまく行かない。
 皆さんは私より先輩の経営者だから、よく分かると思う。机上の空論で経営ができるんだったら、コンサルタントは皆社長になっている。なっていない。なぜか。コンサルタントは経営者の能力がないからだ。私は経営者7年生で小学校を出たぐらいだから、皆さんと比べるとまだまだよちよち歩きだが、良く分かった。何が分かったか。お金をもらって働く人と、お金を払って働く人、これは全然違う。これは、やってみないと分からない。
 ビジネスモデルでは私にも辛い思い出がある。私は日本銀行という絶対につぶれない会社にいた。また給料がいい。でもたまたま間違って、このビジネスモデルは完璧だと思って会社を興した。そのビジネスモデルとは何か。
国際的監査法人が5つある。その中の一つにKPMGというグループがあった。KPMGはアメリカでは超スーパーブランドで、例えば、英国王室の監査人だ。あるいはドイツのメルセデス、ダイムラークライスラー、ドイチェバンク。ヨーロッパの企業のほとんど、特に金融。アメリカのシティーバンク、トラベラーズ、これはKPMG。だから金融では、いわばディファクト・スタンダードを作っているグループである。
 当時、グローバルスタンダードというのが流行っていて、グローバルスタンダードを日本に持ってこよう、と。ただグローバルスタンダードそのままでは、絶対にうまくいかないから、それを地元化するという形で金融機関に提供する。これが私のビジネスモデルだった。完璧でしょ。120%完璧だと思った。で、日本銀行を辞めた。会社を興した。客のところに行った。10人に会って、10人ともKPMGを知らなかった。ショックだった。まずKPMGとは何かから説明しなくてはいけないのだから。私のビジネスモデルは3カ月で崩れた。それぐらいビジネスモデルというのははかないものだ。
 真空の研究室の中でビーカーも試験管もそろっていて、雑菌もいなくて助手もたくさんいて、何回も空調施設の中で試してうまく行くかな、というのがビジネスモデル。うまく行ったところで実際のビジネスでうまくいくのか。そんなことはない。雑菌はうようよしているし、通行人がビーカーを倒すかもしれないし、地震が起こるかもしれない、雨は降るかもしれない。ビジネスモデルは役に立つかもしれないけれども、それが成功の秘訣であることはない。
 やはりそこには経営者の力、想いというものがものすごく重要だ。そういう経営者の力をもっと真正面から受け止めるべきだと思う。どうやって経営者の方々に元気に仕事をしていただくか。どうやって会社が活性化するようなフィールドを作るか。私が不良債権問題を長年言い続けてきたのは、そのフィールド、ある意味では皆さんが経営者として競争される器をなるべくフェアなものにしたいと。それだけの話だ。


不良債権問題

 では不良債権問題とは何か。不良債権の裏側には問題企業がたくさんある。問題企業がたくさん残っているということは、モノを売りたい人がたくさんいるということ。しかもその供給過剰が日本の場合は質の悪い供給過剰になった。なぜか。経営が下手で失敗して傾きそうな人に限って借金棒引きという恩典が与えられるということを、ここ10年ずっと続けてきたからだ。
 現実問題としてそれが本当に役に立つのか。本来なら退場すべき人がたくさん残って何かを売ろうとすれば、デフレになる。当たり前の話だ。誰かが値下げをする。それに追従せざるを得ない。皆で収益性を落とす。そういうことをやっていて元気になるわけがない。
 でも東京で、例えば国土交通省の役人と話をすると「ゼネコンが倒れると地域の中堅ゼネコンがパタッといき、連鎖倒産が起こって零細企業の地域の人たちが困る。だからゼネコンを守ってるんだ」と、もっともらしくいう。
 この間、福岡に行ってきた。本当に怒っている、建設業者が。「県庁の隣の空き地に箱モノを建てるんです。3千万円ですよ。それくらい地元の業者に落としてくれてもいいじゃないですか。ところが借金を棒引きしてもらった大手がとっていった」と。同情していたら「こんな事でひどいと言ってはいけません。私が怒っているのは、3千万円で取っていった工事を2千万円でうちに丸投げしたんです」と。これでは元気出ませんよね。
 あるいはこの間、北関東の百貨店ではなく八十貨店ぐらいの小売店のオーナー系の社長に会った。ここにはナショナルブランドで有名なところが、攻めて来ていた。毎日、安売り合戦をするからそれはもう必死。本当は正社員を増やしたい。でも正社員は無理だからパートにする。地元の企業と協力してチラシも工夫して何とかする。人件費を削って爪に火をともすような努力をして何とかやってきた。
 ある日、吉報が入った。何と、このナショナルブランドの小売りが撤退するらしいと。社長は喜んで社員を集めて「今日は飲もう。祝い酒だ。これでようやく君たちの苦労に報いることができる」と。いい話でしょう。翌日、借金棒引き、債権放棄、2度目が決定です。「ふざけんな」と社長は言って今度はやけ酒。二日酔いで会社に行ってみたら、お隣が借金棒引き記念大バーゲンセール。
そんな状況下で、がんばれといって、がんばれるわけがない。そういう変なことを続けていると、皆変になる。やはり、真っ当に努力した人が真っ当に報われるフィールドにしないと、経済に元気は出てこないと思う。


破綻には原因がある

 どんな企業だって、破綻をするには原因がある。経営者が悪いのか、戦略を間違ったのか、商品に魅力がないのか、人材がいないのか。
それを埋めるために借金に次ぐ借金をして過大債務になって、借金の負担に耐えかねて、破綻をする。これは当然だ。しかし借金が多すぎるだけでつぶれた企業はどこにもない。借金が大きすぎて破綻が加速することはある。でも借金が多いだけでつぶれた企業はどこにもない。原因はその前にある。だから借金を軽くしただけで復活した企業はない。
 この10年間、大銀行は何をしてきたか。借金は棒引きしようと。だけど経営者は変えない。戦略も商品も変わらない。人材も補強しない。どうなるか。経営者にすると借金棒引き、「おお、肩の荷が軽くなったな」と。でも、経営はよくならない。「当たり前でしょう。あなたが替わってないからだ」という話になるが全然駄目。
どうするかというと「安売りでもするか」となる。そうするとまともにやっている人たちが、それに合わせてまた、安売りをする。結果的に、みんなで収益性が落ちる。それで元気になるわけがない。
 確かに痛みはあるが失敗したのだから、潔く一旦撤退すべき。それを埋める元気な企業はたくさんある。ただ、その駄目な経営者についていってしまった従業員の雇用問題は確かにある。そこは失業保険、あるいはブリッジしてやってそれを埋める企業が再雇用する。その間は、国がサポートしてやるべきだと思う。借金棒引きで、あたかも再生するがごときインチキを続けると、多くの人たちに迷惑をかける。
 竹中さんがやったのは、「そういうのをやめたら」。それ以上でも以下でもない。「理に反することは止めましょう」と。完全にやり切れているわけではないが、少しは進んできて、昔の借金棒引きの弊害よりは大分少なくなってきた。
1年9カ月前の2002年10月24日、竹中プランの真っ最中、7人の大銀行の頭取が集合して記者会見して「竹中許さず」と気勢を上げた。怖かったですね。UFJの寺西さんは「俺たちは、サッカーの試合をやっているんだ。アメフトではないんだ。手を使えなんて間違っている」なんて言ってた。そう言っていた自分がハンドしていた。ハンドしてはいけない。審判の目をごまかせても、それが習い性になるといつかばれる。ペナルティーエリア内でやるとPKもある。インチキは止めた方がいい。真っ当にやっている人たちが、真っ当に勝負できるようにきちんとやるということしかない。
 寺西さんは本当に苦渋の決断をされたと思う。過去の負の遺産をきれいにする布石を打ったという意味で将来、振り返ればよく決断したということになるのかもしれない。惜しむらくは2002年の10月のときにアメフトじゃないという前に、自らのハンドというものをどう考えるかやっていれば、こういう状況にはならなかった。早期処置に勝る妙薬なし、ということだと思う。経営者によって企業は変わりうる。パフォーマンスも変わる。


ポジティブなあきらめ効果

 マクロ経済があって、静岡があって、沼津市があって、皆さんの会社があるわけではない。皆さんの会社があって、沼津市があって、静岡県があって、日本がある。何かしらお上が決めてそれで何とかしてくれというのは、もう違う。
 良くも悪くも小泉さんは、何もしなかった。で、良くなって来ている。皆さんが良くしたわけで、小泉さんが良くしたわけではない。小泉政権というのは不思議な政権だ。なぜか、内閣支持率が凄い。今また、60%くらいになった。下がったって40%。もっと不思議なことに小泉政権の経済政策の支持率は低い。高くて20%、低いと一ケタない。
 要するに何が起こったか。皆さん「財政出動だ」と大合唱だった。エコノミストや経済学者は「総需要が足りないんだ、ミクロの企業の努力ではなんともならないんだ」と。財政出動しなければ日本の底が割れるといっていた。小泉さんは、「構造改革なくして景気回復なし」といっているだけで、後は何も言ってない。
 小泉政権の一番の貢献はここにあると思う。私はこれを「小泉のポジティブなあきらめ効果」といっている。皆あきらめちゃった。「小泉には言ってもしょうがない」と。財政出動だといってもピクリとも動かない。しょうがないな、自分で努力するかと。努力してみたら「おお、いいじゃないか」と。
 素晴らしい、小泉さんは。ここまで読んでいたとは思わないが、小泉さんはポジティブなあきらめ効果で総需要論を吹き飛ばしてしまった。エコノミストたちより、実は経済のことが分かっていたのかも知れない。
 はっきり申し上げて小泉さんは政策に興味がない。期待する方が間違っている。彼の興味があるのは、政局と世論、これだけ。
 小泉さんはよく丸投げ批判されるが、それでいい。並みの丸投げではないから。政策に興味がないのは凄いこと。私は素晴らしい上司だと思う。例えば、金融に関して去年、2大イベントがあった。一つは「りそな」、二つ目は「足利」。時の権力者だから普通は何か言いたくなる。「りそな銀行」はメガバンクだし、足利銀行は地域に密着だから。
 小泉さんの丸投げは、腹が据わっている。何も言わなかった。並みの人は出来ない。正確に言うと、一言だけ言った。「しっかりやってくれ」と。こんな上司、いないでしょう。お前の好きなようにやっていいと。責任は俺が取る。立派な上司。だから丸投げ批判は当たらない。
 小泉さんを上司に迎えて進まないとすれば、それは部下が悪い。「小泉さん、どうしましょう」ではなく、「小泉さん、これで行きましょう。これで大丈夫です」と。「分かった、終わり」だから、いい上司だ。


処方箋はあるが

 竹中プランも、評価は分かれると思うが、改革を進めろと言う人は「遅すぎる」というし、改革したくない人は「何で進めたんだ」と言う。海外から見ると圧倒的に遅すぎると言われる。私もアメリカ、ヨーロッパ、海外の当局の友人がいるからいろいろ言われた。竹中チームに入ってから。何をやっているんだと。「不良債権処理なんて簡単だろう。とっととやれ」と。
 不良債権問題と言うのは、全世界の3分の2の国々が経験している病気。風邪と同じでちゃんとやればすぐに治るが、こじらせると肺炎になる。ただ処方箋は決まっている。
 まずは不良債権に対し引当金を十分に積みなさい、と。二つ目は、引当金を積んだ結果、資本金が足りなくなったら退場させなさい、と。三つ目は、それをしっかりやるために監督と検査を強化しなさい、と。以上。後は枝葉末節。アメリカもヨーロッパもラテンアメリカも、韓国も全部同じ。やることはそれだけ。
海外の友人は「何でやらないの」と。「いや、それがなかなか難しいんだ」と言うと「竹中が官僚を呼んできてやれといったらそれでいいじゃないか」と。「それが難しいんだよ」に「やらなかったら首にすればいい」と言う。それが他の国の常識。発見して、治療して、完全に治るまでに大体3年から5年。唯一の例外が日本。発見してから、10年かかっている。
 私も言いましたよ、ヨーロッパの友人に。「お前の言うとおりだ。しかし、ここは日本なんだ」と。「日本は『お前は首だ』と言えないんだ」と。理解してもらえない。海外の人たちは大臣は人事権を持っていると思っている。日本は人事権がない。これは説明が本当に難しい。
 田中真紀子さんが外務大臣の時、軟禁事件というのがあった。田中さんは外務省の人事課長を左遷しようと思い、人事課の女の子に「左遷の人事発令を書け」と言った。女の子は「書けません」と泣き崩れてしまった。田中先生は怒り心頭。「お前が書くまで出さない」と言って軟禁してしまった。
 本当に面白かったのはこの後。田中さんの目を盗んで女の子が逃げてしまった。で、自ら毛筆で「人事発令、人事課長、お前は首だ」と書いた。人事課長を呼んで「人事発令を申し渡す。人事課長、お前は首だ」とやったが、人事課長はすごい。何と言ったか。「大臣、書式が違うので受け取れません」。本当のこと。首にもならず、左遷もされなかった。これぐらい日本の大臣は権限がない。


優等生は間違える

 金融行政も変えるのに本当に大変だった。なぜか。官僚というのは頭がいい。頭がいい人はよくない。頭がいいと間違える。
 金融行政では簡単なことを間違えた。大きな問題と小さな問題があるときに、どちらをやるかという問題。例えば金融庁という役所がある。大きな銀行の大きな問題が数個あった。小さな銀行の小さな問題がたくさんあった。どちらから手をつけるか。
 大手銀行は力もあるし、マスコミをコントロールする。永田町には当時相沢さんという人がいて、本当に怖かった。ちょっとでも大手銀行をやる気を見せると30倍くらいになって返って来る。なかなか手が出せない。ヘタをすると永田町に手をまわされ自分の出世だって駄目になってしまうかもしれない。
 片や、地方の金融機関、信用金庫、信用組合。プチプチとつぶしてもどうせくるのは県会議員ぐらいだろうと。
 どちらからやるか。小さいほうからやる。たくさん数をこなして、私は仕事していると。見事にこの5年間で数は半分になった。問題は小さなところをやって、大きな問題が片付くかということ。片づかない。誰が考えても分かる。残念ながら中小企業の中には処理せざるを得ないものもあっただろう。
 問題は中小の小さい問題を片付けたところで、大きな問題が片付くかということ。片付かない。金融庁は大手の問題を放っておきながら、小さな地域金融機関の問題ばかりをやり、大銀行は大手の問題先に手をつけずに、地域の中小企業の貸し出しの問題だけやると。その結果どうなる。理の当然として地域経済と中小企業にしわ寄せが行く。
 頭が良すぎるとなぜ問題なのか。日本において頭がいいということは、試験の点数が高いということ。試験の点数を高くする方法は幾つかあるが、難しい問題をひたすら避けて、簡単な問題をたくさん解くこと。でもそれで点数は高くなるかもしれないけれど、政策がうまくいくのか。人生にとって成功するのかと言えば、これは別。
 例えば私の会社で言うと、私はエコノミストでもなんでもない。コンサルタント50人を抱える小さな中小企業だが、頭の痛い問題が3つある。売り上げ不振、資金繰り難、人材不足。KFiというカタカナの名前が嫌だとか、小さな問題もたくさんあるが、経営者だったら何をするか。簡単な問題は他に任せて難しい問題にチャレンジする。難しい問題を避けて、簡単な問題を解いていると金融庁や大きな銀行みたいに歪んだ方向に行く。問題を正面からきちんと捉えて、難しいことからやっていくということしかない。
 当たり前のことを当たり前にやる。それをやれば、皆さんが競争するフィールドが当たり前になって、ちゃんと汗をかいて努力しているところが報われるようになっていくと思う。そういう意味では「邪魔をしないでくれ」「変なことをしないでくれ」と、霞ヶ関、お上に頼むと言うことだろうと思う。


日本流のいい経営を

 この2年ちょっと、霞ヶ関の人たちと深く、広くお付合いする羽目になってしまったが、一つだけ分かった。霞ヶ関が大事に思っているのは、国民じゃない。まかり間違っても静岡県民ではない。沼津市民じゃない。そういう人たちに「何でお前は霞ヶ関のことしか考えないんだ」と聞いても無駄。その人たちに期待しない。邪魔をするな、無駄遣いするな、とそれぐらいの気持ちでやっていかないと裏切られる。
 外資がどうこうという話があるが、外資だって別に怖くもなんともない。日本企業は外資系企業にいくらでも勝っていけると思う。とくにこの静岡県は競争力の高い企業ばかりだから、そういうケースの人が多いのではないかと思う。
 私は、自分の会社を立ち上げる時に、アメリカから資本を100%いただいてアングロサクソン系の経営者というのを2年間やった。あまりのひどさに耐えかねて、日本の資本に入れ替えて、自分の会社にしている。少なくとも日本のマーケットにおいて外資系企業に日本企業が負ける要因はない。なぜか。客は日本人、経営のルールも日本流だから。
 アングロサクソンは大変。よく大学の先生は、外資系の経営は素晴らしいなんて言うが、一度働いてほしい。絶対そんなことは言えなくなる。例えば外資系は実力主義でいいという。日本のように派閥政治がないと。そんなことない、派閥だらけ。英語でブラウン・ノエジーという言葉がある。ブラウンは茶色で、ノエジーは鼻。ブラウン・ノエジーというのはスラングで、ボスのお尻をずっと付いて行った人がいて、その人の鼻が茶色になってしまったという意味。日本語に直すと、スーパー太鼓もち、金魚のフンということ。そういう人はたくさんいる。別に実力主義でもなんでもない。ただ、トップは実力主義。
 外資系のすごいところは、どんなに嫌いでも稼いでいれば「マイ・ベイビー」。これは凄い。実際にその体験をしてみると日本の経営のありがたさが本当に身にしみる。
 私はそういうアングロサクソン系の会社にいたから、何で外資系の証券会社があこぎなことをするのかよく分かった。あれだけパフォーマンスを要求する株主のもとにいたら3つしか方法がない。毎年、利益を上げ続けるには。法律を破るか、ごまかすか、お客をだますしかない。私はそれがいやだったので、日本の株主に変えた。
 無理をしないで客をちゃんと見るということで、是非皆さんの会社だけは、静岡県だけは、日本がどうなろうとも残っていけるような経営を目指していただきたいと思います。



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