サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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活動内容
平成18年の活動方針

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平成18年度総会 平成18年5月15日(沼津東急ホテル)
「米中・日中関係の将来〜中国は怖くない」
ニューヨーク大名誉教授 静岡新聞客員論説委員 佐藤 隆三氏

略歴

佐藤 隆三氏
ニューヨーク大名誉教授、東京大学大学院経済学研究科客員教授、静岡新聞客員論説委員。
1931年秋田県湯沢市生まれ。一橋大学卒業。専門は理論経済学、中でも経済成長理論。ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程卒業、Ph.D.取得。ブラウン大学教授を経てニューヨーク大学レナードスターン経営大学院教授、同大学日米経営経済研究所所長。元ハーバード大学ケネディ行政大学院兼任教授。元全米経済研究所(NBER)研究理事。経済成長に関する独自の論文を執筆し、ポール・サミュエルソンやハル・ヴァリアン等、欧米の経済学者の著書を翻訳した。
主な著書に『菊と鷲』(第一回読売論壇賞受賞・講談社)、『経済成長の理論』(日経図書文化賞受賞・日本経済新聞社)、『ミー時代のアメリカ』(日本経済新聞社)、『技術の経済学』(PHP出版)、『グローバル・ユーイズム』(日本生産性本部)など多数。


子供を伊東市で育てる

 私は1957年、昭和32年ですが、フルブライト留学生としてアメリカに行きました。今ではちょっと考えられませんが、2週間ちょっとかかって、氷川丸という船で横浜からシアトルに行きました。当時の仲間としては後にハーバードの教授になられた広中平祐さんとか経団連の三好正也氏等約50人の学生がいました。1年間の予定でしたが、私は、1年が2年になり、2年が3年になって、大体47、8年間、アメリカで生活をすることになりました。
 しかし子どもが4歳の頃ですから1967、8年の頃、私はヨーロッパの学者と同じように半分アメリカで暮らして半分母国で暮らすという生活を始めました。そこで日本で正式に住民票をいただいて居住地にしたのは伊東市の赤沢という場所です。そこに1970年からおりまして、6年前に東京に住民票を移すまで伊東市の人間でした。そんなご縁で静岡新聞にも20年以上になりますか、論説委員をやらせていただいています。


「経済収斂の理論」

 1957年といいますと日本がようやく回復の軌道に乗ったかという時期です。私は恩師の当時、一橋大学学長の中山伊知郎先生に「アメリカに行く」とごあいさつしましたら、「君はまだ若いから1年間でもアメリカの大学院に行ってドクターコースに入りなさい」といわれました。私は学者になる希望は持っていましたが、アメリカの大学の博士号を取ることなど考えていませんでした。当時はアメリカの博士というのは価値がないんだと、日本の博士号を取らなければならないという時代でした。
 今でも覚えていますが、ドクターコースの最初のクラスに日本人が3人いました。アメリカ人が15人、それからドイツ人、カナダ人といました。フィリップ・マカロフという教授がいきなり紙を配り、これから私が言うことに答えなさいという。内容は日本語でいいますと、あなたが持っている効用関数の中の5つの変数を選んでこれをトップからランク付けをしなさいというのです。これを普通の言葉で言えば、今、あなたがほしいと思っているものを5つ選んで、それをランク付けして書きなさいということなのです。
 何を書いたか正確に覚えていませんが、例えばビフテキを食べたいとか、いろいろ書いたわけです。先生が集めて「ここに3人の変わった人種がいる」というんです。ミスター安場、ミスター川村、そしてミスター佐藤だと。この3人の学生は他の学生と違って遊びたいとか、旅行したいとか書いてないというんです。当時の日本人としては遊びたいとか、旅行に行きたいといったら、おやじにバカ野郎といわれる時代です。アメリカ人、ドイツ人、カナダ人は全部レジャーを楽しみたいと書いている。先生が「もし日本が経済発展を遂げてアメリカとかヨーロッパの国と同じ様な所得水準、あるいは富を蓄積したら、その趣味と趣向が変わって30年、40年、50年後にはアメリカ人と全く同じように書くようになりますよ。私は保証します」というんですね。
 実はこれは経済学では「収斂の理論」といいまして、人間の経済行動は所得水準が上れば上るほど同じような経済行動になるという一つの定義があるんです。彼は10年ほど前に亡くなりましたが、今日本に来られたら「私が言ったことは当たっていたでしょう」とおっしゃるでしょうね。


ジャパンモデルの3要素

 なぜこの話をするかといいますと、実は戦後、今60年ですが、60年に日本が達成した経済成長、経済発展というのは歴史上、例外中の例外なのです。その例外中の例外であると同時に、いわゆる私の話の中心になります、中国やその他のいわゆるアメリカでいうと黄色人種ですが、皮膚の色が違う人たちにも新しいモデルを提供するという意味で、これが大きな励みになっているということです。
 そのジャパンモデルとは何かまとめてみました。戦後50年のトレンドの番目は、「所得上昇が人種・文化を超えて人間の経済行動を同一にする」という、これは「経済収斂の理論」という理論、仮説の通りです。15年ぐらい前に私のハーバード時代に学生に同じようなことを試してみましたら、今の日本人はアメリカ人と全く同じです。一番したいことは旅行と書いています。しかし中国、韓国、台湾などの人たちは私が50年前に書いたように勉強をしたいと。サボりたいなんってことは全く書いておりません。
 そしてジャパンモデルの2番目は「西欧以外の非白人社会でも繁栄を達成し得る」ということです。日本のような国が経済発展を遂げるということは経済学の常識にはなかったことです。日本が非白人社会の国の代表として経済発展を遂げたということです。
 ジャパンモデルの第3番目は、これは国際関係論の学者達が言っていることですが、「民主主義国家の間では戦争は起らない」という仮説があるんですね。実は、今から10年ぐらい前に過去200年の統計を取りまして、アメリカの全米経済研究所が、これが本当かどうかテストしまして、やはりそうだったと。曲がりなりにも日本は民主主義国家です。マッカーサーが押し付けたとかいろいろなことを言われますが、民主主義国家である日本、つまり非白人国家で民主主義国になって、一生懸命やれば日本のような立派な経済発展を遂げると。これがジャパンモデルの3つの要素です。
 しかし日本モデルがすべて成功したということではないんです。その代表的な失敗例が、ちょっと難しい言葉ですが、日本は特異点を作ってしまったと。特異点とはシンギュラリティ・ポイントといいますが、普通の言葉で言えば、通常起り得ないような大きな間違いを犯したということです。経済的なミステークといって、歴史の流れで起きる一種の経済的異変ですね。とりもなおさず、日本は世界の経済史の中で5番目に、あるいは5つ目の大きなバブルを経験したということです。バブルが日本の大きなマイナス点だったということです。
 つまり日本は、非白人社会で経済発展を遂げると同時に日本の経済行動は先進国とほとんど同じようになった。そして、それは民主主義という政治体制によって培われていると。しかし日本は歴史上かつてない、世界の歴史の5つの指に入るバブルを起こしました。
 5つとは簡単にいいますと、オランダのチューリップバブル、フランスのミシシッピーバブル、イギリスの南海バブル事件、アメリカの1930年代の大恐慌というバブル。それから日本のバブルです。


人口23億人の「チィンディア」

 中国とインド、世界中、どこでも皆関心の的でして、最近この2つの国を一緒に、例えば西欧のいろいろな国と同じ様に、こういうふうに書いています。チャイナーとインディアをくっつけまして「チィンディア」といいます。英語で盛んに出てきます。この2つの国を合わせますと人口がなんと13億に10億と、合わせて23億人という大変大きな人口を持った国であると同時に、今経済発展を遂げている国です。
 中国がこのまま行きますと2030年には14億人になるという。インドが今10億ですが、2030年には14億になるという推計があります。第3番目に人口が大きいのはアメリカ、続いてインドネシア、ブラジル、ロシア、日本の順です。日本は人口が減っていくわけですが、今は1億2700万で、それが2030年には1億100万、2050年には1億970万という予想です。
 もう一つ皆さんに知っていただきたいのはGDPの統計でして、アメリカ、日本、ドイツ、英国、フランス、イタリアの順で、中国は6番目か7番目です。そしてスペイン、カナダ、インドと続き、韓国が11番目です。6番目、7番目ぐらいの中国ですが、これは為替レートによってすぐに上ったり、下がったりしますので、これから中国元の元高が起りますと上に上っていくわけです。
 1人当たりのGDP統計を見ますと、これは為替レートの平均で取ったものですが、世界で一番大きいのはアメリカで約4万ドル。円に直しますと410万円くらいです。それから日本が3万6405ドルです。中国は1298ドルでして、つまり日本は中国の28倍の1人当たりGDPがあるわけです。因みに韓国は1万4776ドルでして、日本は韓国の約2.5倍というような生活水準です。
 因みに、一人当たりの住む場所が一番小さいのがシンガポール、次ぎは韓国、そして日本です。日本の人口はアメリカの約半分です。日本全体はアメリカのカリフォルニア州、あるいはモンタナ州と同じ位の面積で、たった1州に過ぎません。その中にアメリカの人口の半分が住んでいるということです。逆に中国は日本の人口の10倍近くですが、アメリカと同じか、それ以上の大きな面積を持ったところに住んでいるという対照的な国です。


500年間の世界の経済発展の様子

 これまで経済発展をどういうふうに遂げてきたか。16世紀はじめから1998年までのGDPの推移統計から500年間にどこの国がどういうふうになってきたかといいますと、例えば西暦1500年に一番豊かな国はイタリアでした。全世界の平均を100とするとイタリアは195で、次はオランダの133、イギリスが126、アメリカは71、日本は88、フランス129、ドイツ120で、アメリカと日本は当時平均以下の国でした。
 アメリカは18世紀まで平均以下で、はじめて1820年になって188、同じ年に日本は100でようやく世界の平均的な所得を得るようになったということです。戦争のあと1950年、ちょうど私が大学に入った時ですが、そのころ日本は91ですが、1973年になりますと279という驚異的な成長を遂げたわけです。そして1998年にはアメリカが479でトップ、日本は358で先進国といわれる国になったわけです。
 大体、経済発展を遂げる、イタリアとかオランダ、イギリスは、500年前から生活水準がずっと高く、それを維持してきたわけです。しかし日本とアメリカは別だということです。


先進国仲間入りの経済学的な常識

 問題はここで日本の生活水準の約30分の1の中国が何年たったら、どういう状態のもとでこの先進国に仲間入りすることができるだろうかと云うことを考えていただきたいということです。
 経済学という学問は、資本主義で自由に経済活動が出来る民主主義というか、市場主義のところに当てはまる理論なんです。それ以外の場合、例えば共産主義とか、社会主義とかにはまた別の理論があって、残念ながらいまだかつて社会主義、その他の国が資本主義の国が発展したように発展したという歴史がありません。ですから今のところわれわれが考えているモデルは資本主義体制で、このまま続けていったらという仮定があります。
 ここで非常に大切なことがあるんです。それは人口がどれくらいあったら経済発展が一番上手く行くかという最適人口論と云う考え方です。今まで経済発展を遂げた国は最大の人口がアメリカです。約3億人の人口を持った国が大体いいと。それ以上になったら問題が起る。例えば以前のソビエトということですね。ですから人口の問題から来る中国、あるいはインド。インドはある意味では民主主義といえるでしょうが、中国の13億の人間が一つの大きな国を作って、先進国に仲間入りすることはちょっと経済学的な常識からは考えられないということです。
 最初の問題は、資源制約説という、資源の制約です。極端な話、今の先進国の人口を全部足しても、せいぜい6億とか7億人です。もしインドと中国が、資源を先進国と同じように使うとすれば必ず資源戦争が起るだろうとわれわれは考えています。中国の13億の人間が先進国と同じように、例えば牛肉を食べるとか、その他の同じような生活をするということになりますと、今の技術進歩の予測からいいまして、他の国、つまり今先進国だといわれている国々は、逆に所得水準が下がらざるを得ないということです。
 これは非常に大きなことですから、仮定は幾つもありますが、例えば石油資源の問題があります。もちろん太陽エネルギーの新しい使用方法が出来て、もう石油などは全然いらないとか、そういう発明がおこれば別ですが。それから食糧の問題があります。私のところで博士号を取った中国人によりますと、中国で食糧が困っているということはない。食べたい穀物は全部あるということです。確かにその通りなんです。しかし、もし中国のように新しく発展するであろう国が先進国と同じように牛肉を食べ出しますと、すぐに食糧難が起るわけです。なぜかというと、穀物を直接人間が食べるのと牛を通して食べるのを比べますと効率が約5分の1になってしまうんです。
 その他いろいろな問題がありますが、資源制約説からいって13億人の人間が、何年たつかしれませんが、すべてが先進国並みになりうるということは、ちょっとわれわれの現代経済学の中には考えられない一つのプロポジションだということです。
 1つには技術面でそれを許さないだろうということと、もう一つは仮に中国が資源をあさって、現在も石油価格の上昇の一部が中国の需要によって起っていると言われていますが、こういうことをどんどん続けていったら必ず資源戦争が起るだろうといわれます。資源戦争が起るということはどういうことかといいますと、場合によっては人類が滅亡するような核戦争にまで発展することになるんじゃないか。それを仕掛けるのは仮に中国とインドだとすれば、よその国が黙ってみているはずがない。ですから、恐らく中国もそんなことはしてこないだろうということです。ですからその可能性というか、そういうことから考えて中国が今の13億人そのものが先進国のようになるのは不可能ではないかということです。


中国のGDPは20年後に日本よりも大きくなる

 アメリカのCIAがアメリカ国民に中国は怖いんだぞと言うために、中国のGDPがいつ先進国のGDPに追いつくかと予測をしました。そうすると20年後には中国のGDPは日本よりも大きくなると言っている。これは可能性があります。今でももし中国の1ドル8.11元が、例えば7元とか6元に値上がりしますとすぐにGDPが上りますので、その可能性はあります。
 では、アメリカをいつ追い越すんだというとちょうどアメリカのGDPは、日本の2倍ですから40年後か35年後ぐらいといっています。35年ぐらい経ったら中国が、あるいはインドが人口が多いために世界のGDPのナンバー1になる可能性があると云うことで、これはわれわれも認めざるを得ないということです。これは悪いことでもいいことでもなく、むしろいいことかもしれません。


格差社会の問題

 ここで大きな問題は、経済でいいますと中国にはアンバランス・グロスといいますが、格差ですね、格差を生じた経済成長が行われているという事実です。これは経済発展のときに所得が上れば上るほどいろいろな問題が起ってくる。この格差社会を伴いながらGDPがナンバー1とかナンバー2になった時にどういう状態が起きるか考えなければならないと思います。
 そこで、例えば中国の経済成長、向こう5年間は7.5%から7.9%といっています。過去5年間のGDPの成長は約9%といっていますが、中国の統計は専門家から見ますとデタラメです。なぜデタラメかといいますと、GDPの成長率が9%だといいながら電力の消費量は1%増というんですね。こんなことは先進国の中ではありえないんです。ですから今は、色々なことで恣意的な統計の数字がありますので、どの程度信じていいのか分りませんが、中国経済が成長していることには間違いありません。


大きな矛盾を抱えた中国経済

 私の感じでは、恐らくは向こう10年間は7.5%くらいの成長ですが、その後はいろいろな問題が起ってきまして、そんなに続かないんじゃないかと思います。その理由の1つは、先ほど申し上げた資源制約説と格差、この格差を直さなければならないからそんなに成長ばかりしているわけにはいかないという非常に大きな矛盾を抱えている経済です。
 私のところで博士号をとった、連成平君が今中国で活躍をしていますが、中国というのはアメリカの博士号が非常に価値が高いんですね。連成平君は中国に帰って江沢民さんの下のところにある研究所に入りました。そして天津大学の助教授をやって、アメリカの大きな会社の北京の代表なんですね。4つ目の仕事は今の派生金融商品、デリバティブの研究所の理事長をやっている。4つの仕事をやっているんですね。中国の大学の先生の平均の給料は日本円にして約30万円です。彼はその10倍、300万円稼いでいます。それでもわれわれアメリカにいる学者の影響を受けているかどうかは別として、中国は将来危ないかもしれないというんで自分の奥さんと子供はニューヨークに置いています。月に一度ニューヨークに行くんですね。中国人自身がいろいろなリスク分散をしている現実を見ますと、このまま成長率が9%、10%続いて、50年後に日本のような先進国、あるいはアメリカのようになるということは中国自身もあまり考えていないということが1つ。つまり格差社会をどうするかという問題ですね。
 それから3つ目の問題は日本の3つ目の問題と同じようにポリティカルシステム、つまり政治体制が今のような一党支配が続くだろうかどうかという問題があります。これはなぜ民主主義というのは、今政治体制として考えられている、ある意味ではベストな、非常に効率がよくないしいろいろ問題はありますが,他の政治体制と比べてベストかといいますと、これは経済の、お金が儲かるシステムと共存できるという非常に大きな意味があります。
 逆に言いまして中国で今のような9%、10%の経済成長を続けていきますと、お金持ちがどんどんできてくるわです。現にちょうど日本の人口と同じ人口の10%の人が日本のような生活水準を享受できる時期は20年、30年で簡単にきます。それから10%では少し多いかもしれない。仮に5%の人口が生活水準において日本と同じようなことを享受できるということはどういうことかというと、フランスと同じ国が中国の中にできるということです。10%の人が豊かになるということは中国の中に日本と同じような生活水準を持つ国ができるということです。実はそれが起っています。どこにおきているかというと、北京、上海、香港、そして台湾。この4つの地域は、もう生活水準が非常に上がっている事実があります。13億人の生活水準が上がっているかということとはまったく別の問題です。
 そうしますと、こういう人たちは共産主義という主義が嫌なんですね。ですから共産主義体制というものをだんだん変えていきたいという気持ちが起きるんです。そういう意味で政治体制が今のままでここ50年間、経済が豊かになれば、続くということはちょっと考えにくいということです。経済が豊かにならなければ、その可能性はあります。
 ですから中国は豊かになってほしいんですが、そのためには政治体制を変えなければならないとよく言いますが、変えなければならないということではなくて、変わらざるを得ないんです。中国人自身が変わることをわれわれが期待するわけです。これが1つの可能性を生む、政治体制の変動ということから起ります。


大きな問題は為替レートの問題

 次に大きな問題は為替レートの問題です。今中国人民元は1ドル8.11元という固定相場制を取っていますが、ご承知のように中国は香港を含めますと世界一大きな外貨保有高を持った国です。このまま1ドル8.11元の為替を維持することは不可能です。必ず圧力がかかります。どういうことになるかといいますと、最終的に中国が現在の日本とかアメリカ、その他の国と同じようになるには中国元が8倍、1元イコール1ドルというような為替レートにならざるを得ない。これは日本の例でも分かります。
 日本の場合は今大体1ドル100円ですが、1元が1ドルに何年かかってなるだろうか。そうしないと中国の生活水準は先進国になることはできない。これにはひょっとすると100年はいるだろうと。8倍になるには。日本は360円から出発して1970年にニクソンショックがあり、固定相場制は崩れ、今110円前後でいますが、大体1対1の割合になって初めて先進国と同じ生活になるということです。
 皆さん、ご存知でしょうか。中国も昔、今のような8元ではなく12、13元位の元安にしていたんです。それを先進国並みになるということで8.11元に最近決まったんですが、日本の1ドル360円というのも実は恣意的に決まったんです。当時の大蔵省の説明によりますと、つい最近亡くなりましたアメリカ人の友人でGHQにいた人が教えてくれましたし、その後いろいろなところで確かめたんですが、日本がIMFに入るというんで1ドルを幾らに決めようかということで、経済関係の人たちが集まった時、アメリカのGHQのトップに近い人が、そもそも円というのはどういう意味なんだと聞いたら、そばにいた通訳が「円はサークルという意味なんだ」と。「それじゃあ、360円にしよう」というので、それで決まったんです。本当なんです。しかしそういう発表はできません。日本は本当は400円ぐらいにしてほしかったんです。
 そこで、大蔵省がどういう風に説明したかといいますと、1935年の戦前の円とドルは、1ドル3円50銭でした。そこで1935年と1949年と比べますと、アメリカのインフレは2倍、日本のインフレ率は208倍だというんですね。208を2で割って104ですね。3.50に104をかけると360になるんです。こういうふうに購買力平価説によって決まったと発表したんです。
 しかし不思議なものです。為替レートというものは経済に対する大きなショックなんです。人間も注射を打つと痛いんですね。1回目の時は非常に大きなショックがありますが、毎日、毎日やっていると体がそれに慣れるんです。と、同じように360円で日本人は悲鳴を上げたんですが、それでは360円にあうよう経済体制を作ろうというふうに、だんだん経済は生き物ですから調整し始めたんです。そうして360円というのが世界のIMF体制が崩れるまで、1970年のニクソンショックまで続いたんですね。
 IMF体制というのは非常におかしな体制でして、あれはちょうど徳川藩という大きな藩があって、その他の藩はみんな小国と同じようにアメリカが大国であって他の国々は衛星国なんです。なぜそうしたかというと、当時、IMF体制ができたとき、世界の70%の金がアメリカにあったんです。世界のGDPの半分はアメリカが作っている。そういう国ですから、まさにアメリカが大国で、その他は小国ですからそれに合わせるためにつくったのがIMF体制で、金1オンス35ドルという為替レートをフィックスしました。
 しかし、自由貿易をやっていますと日本とかドイツとか一生懸命に働く国と働かない国の格差が出来てきてだんだんその体制が崩れて、しょうがなくて、つまりアメリカから金がどんどん出て行ってしょうがなくて、ニクソンは1オンス35ドルというフィックス為替レートはもうやめますといっちゃうんですね。
 今、中国はまったくそれと同じようなことが起きているわけです。1ドル8.11元としていますが、もう中国に黒字が溜まり過ぎて、このまま行くと世界が、とくにアメリカが破産してしまうということで、必ず元高現象が起ります。元高現象が起りますと、GDPの評価がその時の為替レートで決まりますから恐らく10年で世界のGDPのナンバー2、日本を追い越す可能性はあります。これが日本と同じような、あるいはアメリカと同じような1ドル1元になるまで、50年では、私は今のような状況では達成できないんじゃないかと思います。今のような状況が続いても。そういうふうに思います。


よくがんばった日本の10年

 もう1つ重要なことはバブルです。先ほど言いましたように戦後の日本の決定的な60年間のマイナス面はバブルを作ったことです。先進国というのは、すべて大きなバブルを作っています。先ほどの5つの国ですが、その他ドイツもバブルを作っています。問題はバブルを作ってバブルを克服できるかという問題です。日本は克服するのに12、3年かかりました。
 失われた10年ではないんです。別の見方でよくやった10年なんですね。というのは他の4大バブルの解決したときには、GDPが30%、40%、失業率が50%、60%という大不況を作ったんですね。日本の場合は赤字で大変だといっていますが、GDPでみますとほとんど失った人はないということです。ですからこれは模範的な解答を日本がしたんです。この10年間で。失われた10年というのは文学的な表現ですが、経済学の立場から行きますと、よくがんばった10年というふうに見たい。この10年間でバブルを克服したというのは日本に大きな自信を与えます。


裕福なニューチャイナが生まれる?

 市場主義であれば必ずバブルが起ります。今度、中国で起るであろう日本が経験したようなバブル、第6番目のバブルですね。そういうようなバブルを中国が乗り越えられるかどうかということをわれわれは今から考えておかなければいけない。恐らく今の状態では不可能だろうということです。その点からも中国がわれわれと肩を並べるような人当たりの所得が上昇するような大国になるということはなかなか難しいということのもう1つの例です。
 将来、それではどういうふうになるだろうという予想ですが、私は、中国はある意味では分裂するかもしれない。分裂という言葉がよくないとするならば、別の形の連邦制になるかもしれないということです。そこで重要なのはリッチな、裕福なニューチャイナが生まれるであろうということです。リッチなニューチャイナというのは、上海、香港、北京、そして台湾までが同じような国に入るような新しい中国、これは経済合理性から考えると、しかも同じような人種ですから可能性が非常に大きいと思います。
 実は、この話をこの間、東京のブルンバーグテレビで話しました。これは全世界放送ですから英語でこの話をしまして、最後に台湾も中国の一部になって、新しい中国でそれは他の日本など先進国と同じような生活水準になるかもしれないといいましたら、すごい反応がありました。反対派、賛成派両方から。佐藤を殺してしまえというような極端な話までありましたが、私は真剣に経済成長、所得水準が同じようなところに、人種が同じであるようなところに、1つの国のような状態に落ち着くという、この経済の大原則を基にしていることですので、そういう意味では可能性があると思います。


日本のアメリカ

 最後に、日本とアメリカということについて、ふれてみたいと思います。私は、日本に半分、アメリカに半分という生活を50年近く続けておりまして、両方の文化、考え方も私なりに知っております。
 小泉政権の外交はいろいろなところで問題がありますが、小泉さんがアメリカ議会で初めての講演をしたいといったら靖国に行かないということが条件ならOKだと。これは本当の話なんですね。アメリカは靖国の話を持ってくるということを嫌がっているということなんです。
 もう1つは今の米軍の再編ということです。この間私は静岡新聞に書きましたが、アメリカは日本をやはりお金を出すところとしてしか考えておりません。ですからそれをちゃんと見極めて、出すならそれなりにちゃんともらうものを貰って、日本がそれによって何を得するかということを考えてやらないと、これは大変な失敗に終わると思います。
 日米同盟は英米同盟と同じだと言う人がいますがあれはうそです。そんなふうに考えているアメリカ人はいません。そう思いたいというのはありますが、やはり血はお金より濃いわけで、やはり自分たちはイギリスの方に近いという考え方ですから、英米同盟と同じだというような頭で考えたような期待を持ってはいけないと思います。
 もう1つ、恐らくブッシュさんは小泉さんに非常に感謝していると思います。それは本当だと思います。私は小泉さんとあるところでお話をして、小泉さんが機嫌を害しまして、その後近づかないようにしています。その前の例えば橋本さんとか、その他の日本の総理の方たちとは時々お会いしてお話していますが、日本の総理が世界で認められたと思うのはアメリカの大統領にどう扱われたかという、考えてみるとバカらしい話なんですが、それが非常に大きいんですね。
 ですから例えば何々大統領のときに行って一緒に写真を撮ったというのは1つの業績なんですね。唯一それが出来なかったのは羽田さんで、彼は未だにそれが残念だったと。
 いろいろな意味で私は日米同盟は非常に大切だと思います。しかし日米同盟さえやっていれば、すべてやらなくてもいいというのは、バカらしい話であって、これは経済の話で言いますと、友好は外交の成功のための必要条件ですが、十分条件ではないということです。やはり中国とか、台湾とか近隣の国と今のようなけんかしているような言葉を官房長官が言ったり、向こうも悪いと思いますが、そういうことを言っているのは健全な国のあり方ではないと思います。
 私はアメリカに行って、靖国の参拝を言ってもいらいたくないと思います。ポスト小泉の人たちは日米関係をもう一度考えていただきたい。お金も出すわけですから、無駄金を使わないでいただきたい。例えば、今度沖縄の海兵隊のグアム移転で大量のお金を使うわけですが、その建設をするのは恐らくアメリカの業者でしょう。アメリカからいったら本当は日本の業者が行くべきなんです。そういうことの主張をしているのか。
 自分の思っていることを相手にぶつけてみると。すべてが得られなくても、不成功だと思わないということですね。こういう態度をしないと世界のグローバル化にはついていけないんじゃないかと思います。


中国を仮想敵国のようにすることは非常に危険

 そういう意味では中国は、日本以上に外交に長けた国だと思っています。そういう意味で中国はいろいろな問題を抱えてくると思います。リッチになればリッチになるほど日本にとって怖くないと。リッチにならなければこれも怖くない。
 ですから日本が今、あわてて仮想敵国のようにすることは非常に危険であると思います。ご清聴ありがとうございました。



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