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特別講演会 平成18年7月6日(サンフロント)

「世界の潮流と日本の進路」
国際政治学者 浅井 信雄氏

略歴

浅井 信雄

1935年6月23日新潟県長岡市生まれ。東京外語大卒業後、58年読売新聞社に入社。ジャカルタ、ニューデリー、カイロ各特派員、ワシントン支局長を歴任。81年退社後、アメリカ・ジョージタウン大学客員研究員、野村総合研究所在米コンサルタントを務めた。83年東京大学、東京外国語大学講師、三菱総合研究所客員研究員、(財)中東調査会理事を歴任。87〜98神戸市外国語大学国際関係学科教授(専門は国際政治学)を務めた。海外在住10年余、90カ国を訪問した。著書『アジア情勢を読む地図』 (新潮社)、『アメリカ50州を読む地図』 (新潮社)、『民族世界地図 』(新潮社)等多数
 北朝鮮が日本海にミサイル発射した翌日の7月6日、国際政治学者の浅井信雄氏の特別講演会が沼津市魚町の静岡新聞社東部総局ビル「サンフロント」で開かれた。静岡政経研究会とサンフロント21懇話会主催で、テーマは「世界の潮流と日本の進路」。ホットな北朝鮮問題を中心に講演は展開した。約110人が聴講した。

ものごとは慎重に見なければいけない

 昨日以来、北朝鮮のミサイル発射で大騒ぎです。こういう事件が起こりますと、つい私たちは空気に流されるというか、感情的に怒ったりしますが、きょうはそういう雰囲気から離れ、事態を冷静に見てみたいと思っています。朝鮮半島、北朝鮮問題をじっくり考えますと、今の世界全体の様子が分かってくると思います。それほどいろいろなところに関係してきます。
 昨日はミサイルを7発撃った。ひょっとしたらまだ撃つかもしれないという情報が流れています。撃つか撃たないか。彼らも大変緻密に準備して、これだけの発射をやったわけですから本当に慎重に今、世界の状況を見守っているんだろというふうに思います。したがって私たちも慎重に見なければいけないということです。
 皆さんお気づきのように、当初は日本海にバンバン撃っているぞと。花火ではあるまいしというような反応がありましたが、よく地図を見ますとミサイルの落ちたところはロシアに近いところで、日本からはかなり遠いということです。こういうことをどういうふうに見るかであります。北朝鮮がミサイルを撃ったぞと号外見たりしていると「これは大変だ。怖いな」と思いますが、本当に怖いのかどうか。どういうことになったら怖いのかも考えてみたい。
 3種類のミサイルを撃った。これはあくまでも実験であります。爆弾は積んでないわけです。破片が落ちて来てどうのこうのという心配は、可能性はゼロではありませんが、とにかく落ちたのは朝鮮半島の近く、ロシアの近くです。そういう意味では当初から彼らも気を使っていたのかなと思います。日本やアメリカがどういうふうに反応するか。数は多い。華々しい。しかしよく見ると、何が脅威なのかなと。アメリカの大統領補佐官、安全保障担当のハドリー補佐官は「アメリカにとってほとんど脅威ではない」といっている。注目すべき発言です。


北朝鮮のミサイル開発の理由

 一体、彼らがミサイルを開発してきたのはなぜなのかということです。少なくとも3つの理由があります。1番目は、自分の国の内部を抑えるためです。非常に高度な軍隊を持つ。兵器を持つ。これによって国内でいろいろな反乱が起きたときに抑えるという象徴的な意味があります。2番目は自分の国を守るためです。今度のミサイル発射実験のあと、公式の反応を見ますとアメリカや日本からの核攻撃に備えるためであるという説明があります。これはある意味では本音だろうと思います。彼ら自身は怖いんです。自分の国よりも強い軍隊が周りにいるんですから。そして非常に高度な兵器を持っているわけですから。普段は北朝鮮をけしからんと言っている。あるいは場合によっては武力攻撃もするかというような議論がアメリカの中で起こる。そういう中で北朝鮮はやはり心配で仕方がない。それに対抗するためには自分たちも核兵器を開発してミサイルを持たなければならないと考えてもおかしくはないだろうと思います。そして3番目は何か。そういう高度なミサイルを開発することによって、これを外国に売ることができる。それによって外貨を稼ぐ。北朝鮮の経済は特に外貨が足りないので困っていますが、外貨獲得の手段です。この3つが、ミサイル開発の主たる目的であろうと私は見ております。
 このミサイル実験、3種類撃ちましたね。テポドン2、スカッドミサイル、ノドンミサイル。テポドン2はアメリカを意識して相当に長距離を飛ぶことを目標に開発しているものです。今回はなぜか1分もたたないうちに海に落ちてしまった。これは失敗なのか、わざと抑えたのか、両方の見方があり、今のところ私は判断する材料を持っておりません。いずれにしてもアメリカにとっては、何の脅威でもないという反応が出てくるわけです。日本にとっては、残りの2つのミサイルが問題です。とくにノドンはまさに日本を頭において開発したミサイルで、これは100発くらいいつでも使えるように実戦配備しているといわれます。そのミサイルを、また実験している。精度が高まったのか、質が向上したのか分かりませんが、今までより性能のいいものを作ったんであろうという意味では日本にとって脅威ですが、最初にノドンが登場したときに比べれば今回の脅威は少ないだろうと思うんです。結論としては7発も同時に同じ日にやったものですからびっくりしてしまったという気持ちを持つわけですが、よく見ると脅威ではあるけれど今までとどれだけ違うのか。そこを注目して考えてみたいと思います。


日本にミサイルを撃つのは最後の段階

 本当に北朝鮮がノドンミサイルを含めて、日本に撃つとしたらどういう時に撃つんでしょうか。
 私は2つの可能性があると思っています。1つは北朝鮮のいろいろな意味で外国から圧力を受けて、制裁を受けて、国としてもたないと。金正日政権はもう終わりだよというふうに思ったときに「もう駄目だ。そういえばあそこに兵器が残っているな。あれをどこかに向けて撃つか」、こういうふうになる可能性です。今、北朝鮮が正面からミサイルを撃つ可能性のある国は日本とアメリカです。ノドンはアメリカに届きませんから、日本であります。そういうふうに追い詰められて、もう最後だなと彼らが思ったら最後にこれ撃つかということになる可能性。それは金正日政権の最後の段階です。
 もう1つの可能性は、間違ってボタンを押す可能性です。冷戦時代、アメリカとソ連がお互いに山のようにミサイルも核兵器も作りました。もう人類を何回も殺せるぐらいお互いに持ってしまった。一番怖いのはアメリカとソ連が横綱同士で対決して片方が間違って相手を撃った時です。1発で相手は全滅しません。ミサイルも核兵器も残っています。それで必ず報復で撃ってきます。こうなるとアメリカもソ連も共倒れになってしまう。冷戦時代、米ソともこれが一番怖かった。そこで米ソはフェールセーフの理論といわれますが、間違ってボタンを押したら今のは間違いだから報復しないでくれと直ぐに相手に伝えるという単純なことが一番効果的だという結論になり、アメリカとソ連の間に、いわゆるホットラインが引かれていつでも最高首脳同士が意思を伝えるというシステムが出来たわけです。
 つまり北朝鮮が日本に向かってミサイルを間違って撃ったら日本、あるいは在日米軍、あるいは韓国にいる米軍、韓国軍、恐らく中国やロシアも動くでしょう。一斉にそれはこういう政権はもう駄目だといってつぶしにかかるでしょう。金正日政権の最後であります。
 この2つの可能性しか私は考えられないんです。
 今回の実験は、華々しいけれどいずれもこれは政治的な目的がある。戦争する気は毛頭ないということです。戦争すれば北朝鮮は負けるに決まっているんです。そういうふうに私は考えております。


平壌宣言に違反しているか

 日本の反応の中に、いわゆる平壌宣言、小泉総理が初めて北朝鮮に行って金正日さんとの間で調印した宣言があります。今回のミサイル発射は、これに違反している疑いがあるという表現が出てきます。「違反した」とは言わない。外交文書というのはこういうちょっとした言葉に注目してそこに意味があるんだということを知っていただきたいと思います。
 平壌宣言が調印されたのが2002年の9月で、最後の方に「朝鮮民主主義人民共和国はこの宣言の精神にそってミサイル発射の保留を2003年以降もさらに延長する意向を表明した」とあります。つまり2003年の段階ですから、来年以降もミサイル発射を保留しますという意向を表明したと書いてあるんですね。これは外交用語としては非常に拘束性が弱い言い方なんです。
 そして最初の安部官房長官の談話の中にもこんなことが書いてありました。「北朝鮮ミサイル発射モラトリアムを改めて確認する」。モラトリアムというのは凍結するという意味ですね。そして6者会合に早期に出席することを要求する。6者会合というのは北京でずっと行われてきたアメリカ、日本、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、この6カ国による協議です。ミサイル発射のモラトリアム、凍結を再確認せよということは、まだ日本政府も破ったとは見ていないんです。破ったのかどうか疑わしいけれどもう一回確認してくれと言っているんです。そして6カ国協議に出てきてくれよと言っているんです。
 これはデリケートな表現ですが、最後通告のようなものではないんですね。その一歩手前でとどまっている。それが外交用語としては大事なんです。まして今度のように実験したミサイルがむしろ北朝鮮に近いところに落ちているということは国際法に違反しているとはいいにくい面がある。ですからデリケートなところでミサイル実験をやったと私は感じています。微妙なところですが、そういうところまで読まないと、つい感情的になって「けしからん」となってしまいます。


イランの動きを見ながら動いている北朝鮮

 さらにその辺を検討してみますと、ミサイル実験をやっている国は他にもあるじゃないかと。中東にはイラン、つい数カ月前にペルシャ湾の中でミサイル実験をやっています。日本ではほとんど騒いでいない。インドもやっている。核兵器も開発している。パキスタンもやっている。核兵器を持っている。一時的には非難するけれど、その後ずっと静まっているじゃないですか。ついこの間、ブッシュ大統領がインドに行って、そのインドと原子力協定まで結ぼうと言い出しているんです。こういうのを二重基準というんでしょうね。
 ですからアメリカも都合の良いときはそういう国を大目に見る。見て見ぬふりをするようなところがある。特にイランの場合は、ついこの間まで世界中が非難していたんですよ。核兵器を作るに違いないと。何とか早めにつぶさなければいけないと騒いでいたのに、結局今どうなっているか。イランは自分の方の態度は何も変えていません。依然として核兵器開発にもつながるような作業を続けています。しかしアメリカはイランと話し合ってみようかと傾いてきているんですね。
 こんなことはアメリカとイランが25年前に国交断絶以後、初めてです。イランとの話し合いに入る。こういう事態を北朝鮮は良く見ていると思うんですね。強く出ればアメリカも譲歩するんだ。だから今回の事態も7発も一度に撃ち上げてびっくりさせて、アメリカの国内に北朝鮮が望んでいるんだから1対1で話し合ったらどうかという声を強めたい。事実、議会の方に出ているわけです。そういう声がブッシュ政権に圧力になってくるかもしれない。北朝鮮はそこを狙っているんじゃないか。イランの動きを見ながら動いている。つまり私たちは北朝鮮だけを見ていても駄目なんです。イランも見なければいけないということです。


致命傷ではない万景峰号の入港禁止

 日本としては拉致問題もなかなか進展しない。北朝鮮は横田めぐみさんの旦那さんだったという人を出してきて、これで終わりにしたいような宣伝を始めている感じがあります。日本の世論としてはイライラしているんです。そこにミサイルを撃ち上げたらカッとくるという、それは非常に感情的にはよく分かるし、そんなこともあって、万景峰号を、取りあえず入港禁止半年間というような制裁措置を打ち出したのですが、どうでしょうか。今度の日本政府が打ち出した制裁、どれだけ効き目があるのか。向こうに痛手ででしょうが、致命傷ではないですね。
 船舶に関する法律とか規則を厳格に適応すると北朝鮮の船は日本に来にくい。ですから日本と北朝鮮との間の貿易高は今、どんどん減ってきています。しかしその減った分がどうなっているかというと、北朝鮮と韓国、中国の間の貿易が増えているんです。北朝鮮とタイの間の貿易も増えている。アメリカはかねてから単独で制裁をやっても効き目は薄いと言っているわけです。しかし今回は万景峰号入港禁止などというのは非常に象徴的に、目に見える形でやった。国民全般にはわかり易い。しかし北朝鮮は恐らくそんなことは織り込み済みだと思います。その分はどこかで穴埋めをして補充できる。日本人としては欲求不満を晴らせるかなという気分はありますが、実際の効果ということになるとそういうふうに考えざるを得ないわけです。


アメリカの本音は公的な処理

 ヒル国務次官補という人がアメリカにいる。この人は北朝鮮問題をずっと担当してきており、6カ国協議にもアメリカの代表として何回も出席している。この人が急遽、中国、韓国、ロシア、日本を歴訪します。どうしようかという相談に移るんでしょうね。どうやったら北朝鮮を6カ国協議に引っ張りだすことが出来るか。そういうための意見交換になると思うんです。つまり具体的にそういう外交的な動きをはじめているんです。アメリカの本音はそこです。外交的に処理したい。武力行使はしたくない。イラクを攻撃したときとは違うでしょう。アメリカは変わってきています。
 イラクの時には大量破壊兵器があるから、危険だからといって戦争を始めてしまった。しかし始めてみたら大量破壊兵器は何にもなかったんですね。今回は、アメリカの軍事力をもってすれば北朝鮮がミサイルを撃ち上げた基地をつぶすのは可能です。可能だけれどそのあとが大変です。アメリカの北朝鮮に対する武力行使に日本も反対です。こんなところで戦争を始めては困る。その施設だけを潰せばいいけれど、いったん武力行使をすればそうではすまないだろう。韓国は勿論反対です。なぜなら韓国にとって北朝鮮は身内ですから。同じファミリーです。中国もロシアも反対。周りが全部武力行使に対して反対なんです。こんなところでアメリカは武力行使は出来ません。
 そういうことですから外交的な解決をはかるしかない。早速ヒル次官補を各国に派遣すると、こういう動きです。


「先軍政治」の北朝鮮

 中には北朝鮮の内部に何か異変が起きているんじゃないかという人もずいぶんいます。私もそう思った時期があります。その背景は幾つかあります。今年1月、金正日総書記は中国に行きました。50人ぐらい随行員を連れて汽車に乗って行きました。南部を視察して北上して北京で中国の当局者と会って、平壌に帰っています。
 それほどの大旅行を極秘にして何を得たのか。中国南部は経済が大変発展している。そこを随行員たちに見せたかったと私は考えます。経済人がほとんどだったんです。こういうふうにやれば発展するんだぞと、北朝鮮も開放経済をやってみようじゃないかと。
 私が興味を持ったのはその随行員の中に軍部が入っているかどうかです。金正日総書記の訪問が終わった直後の1月に私は北京に行き、いろいろな人に会って聞きましたが、金正日総書記一行を受け入れを担当した部局の人が私に言いました。「経済人ばかりです」という答えです。
 もう1つ大事な点は、経済は発展しても政治体制はそのまま維持できると。この手で行こうじゃないかと随行員たちもある程度は納得して帰った。すぐ北朝鮮の中で変化が現れるのかと思っていたのですが、なかなか現れない。金正日総書記のツルの一声で直ぐに決まるんじゃないかと思っていましたが、中国側の説明ではそんなことはないですと。北朝鮮の中にもいろいろな声があります。つまり内部でいろいろな意見がぶつかっている可能性を示唆しているんです。その中で恐らく開放経済に抵抗しているのは、軍部ではないかと私はにらんだんです。経済人は改革したい。しかし軍部は変に資本主義の毒が入ってくるより今のままがいいと考えているのではないかと私は想像する。
 そしてついこの間、韓国の金大中前大統領が、もう1回、北朝鮮に行こうとした。今、南北朝鮮の間では鉄道を通すための工事がほぼ完成して試運転をやろうかという段階になっています。金大中さんは南から北に行くのにその列車に乗って北に入る計画まで検討されていましたが、それが潰れました。
 金大中さんが北朝鮮を再訪問するということは南北の融和がさらに進み、南から援助がどんどん北に行く。北の経済も自由化、開放に向かっていくというシナリオが描かれていたと思うのですが、それが止まってしまった。これを潰したのは軍部だとすれば、やはり1月の時の金正日訪中と絡めて北朝鮮の中で軍部が相当に改革に反対するような主張をしているのではないかというのが私の推測です。
 今回もミサイル撃ち上げということは、あくまで軍部の専管事項です。北朝鮮は軍部が非常に重要な役割を演じている。「先軍政治」という言葉があります。軍を先頭にして政治を行う。こういう思想がずっと続けられているんです。今回のミサイル実験も軍が主導権を取ったと思うんです。


北朝鮮に痛手のアメリカの金融制裁

 今、北朝鮮は外交も八方手詰まりです。数カ月前にアメリカが北朝鮮に対して金融制裁を加えました。貿易決済をやったりしていたマカオにある銀行で汚いお金を北が浄化しているんじゃないかと。偽札を使ったりしてそこできれいな札に替えているんじゃないかと。マネーロンダリングです。そういう事に使っている銀行口座を凍結しろと。そうしないとアメリカはその銀行との取引をやめるぞと。その銀行にとってはアメリカとの取引きをやめられては非常に痛い。仕方なく北朝鮮の口座を凍結してしまいました。
 北朝鮮は貿易の決済とか正常な金融もやっていたんですね。それも凍結したんです。北朝鮮の金融資産の40%はそれで止まってしまったといわれます。これは北朝鮮にとって大変痛手です。そこで北朝鮮はアメリカに対してその問題を話し合いたいから1対1で米朝会談をやろうじゃないかとずっと言ってきましたが、アメリカは応じない。話し合いは北京の6カ国協議でやりましょうと。1対1では会いませんと。2ヵ月ぐらい前に、アメリカのヒル国務次官補に平壌に来てくれないかといったら、ヒル次官補は拒否しました。
 今回ミサイルを撃ち上げる直前ですが、アメリカの国務省当局者はニューヨークにある北朝鮮の代表部に電話をして、撃ち上げたら大変なことになるからやめなよと警告を発しているんです。これは1対1の話し合いなんです。こういうふうに危機を北朝鮮が煽るとアメリカもつい1対1で話に乗ってくるのではないか。そういう話し合いをどんどん膨らませていって米朝間の正式な協議の場にしようと北朝鮮が考えた可能性はあると推測しています。
 しかしあくまでもアメリカが北朝鮮の代表部に連絡したのは「撃ち上げるなよ。撃ち上げると大変なことになるよ」と警告をして相手が誤解しないように直接電話で話したんだよといっているだけで、それ以上の話し合いには応じていないんですね。アメリカは。やはり駄目か、それでは本当に撃ち上げるかと、撃ち上げてみたわけです。それが7月5日の時点です。


したたかな北朝鮮の外交

 そしてこういう事態の中から何が出てくるかです。国連の安全保障理事会が昨日の夜から協議を始めております。日本は先頭に立って強硬な決議案を出しております。しかしよその国は意外に乗ってこないんです。安保理で日本が出した強硬な決議案が通る可能性は私は非常に薄いだろうと思っています。つまり北朝鮮があんなに華々しく実験をやったのに、それをどう受け止めるかというのは国によって違うわけです。
 イランがあれだけ核兵器を作るかもしれないという作業を続けていて、いろいろな国が国連安保理に決議案を出そうといっているのに、なかなか安保理に出せないんです。そういう事態を北朝鮮は見ているわけでしょう。仮に華々しい実験をやっても安保理ではたいした決議は出されないだろうと。そこまで北朝鮮は読んでいるんじゃないのかなと思っています。
 やはり北朝鮮の外交というのは、ここ10年、20年見ておりますが、したたかであります。北朝鮮の外交が成功するとは思いません。むしろアメリカを手玉に取るような面もあったし、日本も振り回された面もあった。そういう覚悟で、この国を見ていく必要があるんじゃないのかなと思っています。日本の経済制裁なんか恐らく読んでいたでしょう。覚悟の上です。
 成功はしていないけれど失敗もしていない。そういう段階で、今、北朝鮮の一か八かのカードを切ったと思います。とにかくアメリカと1対1で交渉したい。ヒル国務次官補を平壌に呼んだけれども断られた。最初のカードが失敗に終わった。今度はミサイルを撃ち上げてみよう。アメリカが乗ってくるかどうか分かりません。まだ。完全に失敗したとはいえないのです。もう少し様子を見てから結論を出しましょう。


結論を急ぎすぎるな

 大体、私たちは国内政治でもそうです。国際政治でもそうです。結論を急ぎすぎるんです。私たち日本人は。特にテレビのワイドショーなんかを見ておりますと、「どうなんですか」と責める司会者がいますが、そういうふうにはなかなか国際政治は行かないんです。分からないことがいっぱいあるんです。
 国際政治の世界は見ていくところがいっぱいあるんです。未知数がいっぱいある。複雑複合方程式みたいなものですから結論を急がない。とくに外国の政治がらみのニュースというものは、慎重に結論を出したい。
 吉田茂は戦後の日本の形を作った人です。外交官出身ということはよく知られています。この人は若いころ20年間も中国に勤務していた。書記官、領事、総領事として。そして晩年は神奈川県の大磯に暮らし、蔵書が山のようにありました。それは今、大磯の図書館に寄贈されています。それを見ますと中国についての文献が山のようにある。古典も現代ものも。そうして勉強して、20年間の経験もある。その吉田さんが中国政策では間違ったんじゃないかという評価があるんです。結論は謙虚に、慎重にというのが私の持論であります。


中国、韓国の立場

 北朝鮮については確かに中国が最大のスポンサーです。食料、エネルギー、年間20億ドルぐらい援助しています。その次が韓国です。10億ドル以上は援助していると思います。資本も援助しています。やはり北朝鮮が潰れては困るんです。中国にとっては、かつて朝鮮戦争を一緒に1950年から3年間戦いました。南の方は米軍が中心になった国連軍が戦いました。最初、北朝鮮が戦ったけれど、やがてソ連軍が入り、最後は中国軍がドッと入ってきて、そして最後は38度線で休戦になったわけです。どちらが勝つとも負けるともない、それが今日まで続いている38度線です。
 中国としては朝鮮半島でものすごく血を流したんです。血で結ばれた同盟だという言葉が中国にはあるんです。北の方もそれを忘れてはいない。私が中国の北朝鮮を担当している人から聞いた話で、「しかし北朝鮮は中国の思う通りには動いてくれません」と嘆きました。これはやはり単なる衛星国家ではないということですね。援助も受けている。世話になった。しかし北朝鮮をどうするかということは北朝鮮自身が決めるという自負が現れている。ナショナリズムです。中国も思い通りには行かない。しかし中国が北朝鮮に影響力を持っているのは事実であります。北朝鮮は中国にとってアメリカという最大のライバルの間に存在している1つの緩衝地帯のようになっているんです。北朝鮮を潰したくないという気持ちがある。
 では韓国から見るとどうなのか。同じ朝鮮民族です。そして朝鮮戦争で3年間戦争した。あの戦争はひどかった。戦線が北に上がったり南に下がったり、また北に上がったり。その度に住民が逃げ惑ったんです。38度線で休戦になった時、家族の一部が北にとどまってしまい、一部は南に留まってしまったんです。これが離散家族です。こういう人たちが1000万人いるだろうと言われています。それに比べると韓国政府が発表している拉致被害者は485人です。ですから日本では拉致問題がものすごく大きな意味を持っているけれども、韓国では相対的に重要性が低いんです。離散家族1000万だよ。これを何とかして会わせようという事業をずっとやっている。
 最近は韓流ブームとかで日本にも韓国の文化がどんどん流れてくる。そういう中で非常に関係が近いような気がしますが、政治のレベルではまったく違います。それが日韓の竹島問題などに現れています。昔は日本も反共、韓国も反共で、反共同盟でした。今はイデオロギーの時代が終わり、世代も変わり若い人には戦争の記憶もない。北朝鮮に同情心をもつ人も多いということです。ある在日の人に聞いたことがあります。日本人と北朝鮮の人が川に溺れた時、どちらを先に助けますかと。在日の人は「当たり前でしょう。北朝鮮の人を先に助けます」と言いました。恐らくそれは本音だろうと思います。
 とにかく南北朝鮮は1つのファミリーです。やがては統合されるんです。10年後、20年後かも知れません。そのことを皆意識しているわけです。


最大課題の農村問題に取り組む中国

 中国のことをもう少し話しておきたいと思います。何しろ13億人の大国です。経済がどんどん成長しています。日本の企業もこぞって中国へ出て行きますね。中国は勿論問題を山ほど抱えております。そして2年後には北京のオリンピック、その2年後には上海で万博を控えている。そういう中で問題を抱えている。
 何が一番の問題かといえば、農業問題です。農村が貧しい。国全体のGNPはどんどん伸びています。外貨も増えています。しかし農村が貧しい。人口の7割はその農民です。沿岸部分はどんどん発展しているが、内陸部の農村が駄目なんです。
 これを今の政府は何とかしたいということで、今年からなんと160億ドルという巨額のお金を用意して、農村の生活水準を上げる。学校もただにする。福祉関係も保護を提供するというような政策を打ち出しております。間に合うかなという感じです。
 毎年、地方、農村部で暴動がありますね。土地を強引に取り上げて、企業に売る。十分補償しない。地方の共産党の幹部がワルをやっていると地方の共産党幹部もよく摘発されています。この状況は直ぐには改まりません。時間との競争という面がある。しかし効果がないかといえば効果も出ている。
 中国の人がこのごろ北京でごみが溜まって仕方がないというんです。今までは農村から出てきて汚い3Kといわれる仕事をやるという人がいっぱいいて北京の街はごみがなかったが、最近はそういう人は出てこないというんです。ということは、一部かもしれませんが、地方で生活水準が上がりつつある兆候かもしれない。あの国は、今にバラバラになるとか、簡単に結論を出す人がいますが、私はそういう言い方はしません。問題はあるけれども、それを一生懸命打開しようと今、中国は頑張っているところです。成功するかどうか分からないというところにとどめて置きたいと私は思っています。


意味がないレッテル貼り

 中国について、私たち日本で困ったなあと思う風潮はレッテルを貼ることです。反中派だとか、親中派とか、嫌中派だとか、なかには中国に媚を売っているから媚中派だというものもあります。私はそういうレッテル貼りは意味がないと思っています。
 中国が健全に生きて行く。だから日本も健全でありうる。中国が潰れたら日本経済も大変な打撃です。世界経済が打撃です。逆に日本という経済力がある国が潰れたら中国も大変です。ですから本音を聞けば日本では日中派が一番多いでしょう。中国側でも中日派が一番多いと思います。
 レッテルを貼ってあの人は親中派だというと、もうそれだけで切り捨てられるような感じになります。ある国についてはいい面と悪い面がある。私たち、日本人でも日本について嫌だと思う面もあるし、いいなと思うときもある。それが国に対する認識ではないでしょうか。嫌中派といえばもう中国全部が嫌いというイメージを与えてしまいます。これは良くない。もうちょっと国家というものは、いろいろな顔を持っているものだと思うわけです。
 反中派か親中派か、そういうマルかバツか、二者択一はテレビの悪い影響なんです。どんなことにもマルの面もあるしバツの面もある。郵政民営化だって、小泉政権だっていいなと思う面もあるし、バツの面もあると思っている人がほとんどではないでしょうか。マル、バツ。二者択一。分かり易いけれど意味がない。世論調査もそうです。小泉政権を支持しますか、しませんか。こんな言い方で答えようがないじゃないですか。ある面では支持できる。ある面では支持できない。こういう人が大半だろうと思うんです。


歪んだナショナリズム

 中国という国、韓国という国、北朝鮮という国、私たちの一番そばに存在しながら一番難しい国です。日本にとって韓国と中国とどちらが難しいかなというと、韓国の方が難しいと思うんです。それは北朝鮮という要素がもろに絡むからです。
 中国は大きな国で、経済が発展している。素朴な普通の人たちの目から見ると、経済でやられているし、政治的にもどんどん押されているという気持ちになってきて、中国なにするものぞという気持ちになる。そういう気持ちの上から負けないぞというところを示す政治家が人気を得ている。中国が何を言っても靖国神社に参拝するとか、そういうちょっと歪んだナショナリズムだと私は思っています。
 私も戦没者の遺族ですが、遺族の中だっていろいろです。私は総理の靖国参拝には反対ですが、それは戦争の犠牲を強いた人と強いられた人が同じところに祀られていてというのは、これはなんとなく落ち着かないんです。そんなことを材料にわあわあ騒いでくれるなよというのが素朴な気持ちです。毎年靖国神社に行くが小泉総理の靖国参拝には反対という遺族もいます。遺族の中にもいろいろな人がいますが、日本の今の政治レベルでは中国が反対するからやめるのはおかしいという。しかしいつも外国のことを引き合いに出して参拝を続けるという、これがおかしい。


大切な4つのこと

 いろいろな話をしましたが、私が特に強調したかったことの1つは、政治の問題というのは結論を急がないことです。いろいろな要素が絡んでいますから、慎重に謙虚に判断したいなと思います。
 それから見えないものを見るという、見ようという習慣が必要なんですね。テレビの影響力が強いものですから、テレビが見せると皆それが全てと思いますが、テレビが映さないものがたくさんあるんです。
 9月11日の事件に怒ってアメリカがアフガニスタンを攻撃しました。アフガニスタンではやはり軍人でない市民が3000人以上亡くなっているんです。その人たちのことをテレビはほとんど報道しません。しかし想像力を働かせれば相当な悲劇があるだろうと言うことが分かります。イラクでもそうです。米軍の死者は2500人、数は毎日のように更新されています。その影でイラクの市民がどれだけ死んでいるんだろうか。2万人という説もある。5万人、いや10万人だろうとアメリカのNGOの連中が推測している数字もあります。そういうものは想像力で分かるわけです。
 結論を急がない。見えないものを見る。二者択一はやめましょう。単純すぎてわかりやすいが、二者択一は意味がありません。もう1つは情報集めですね。情報の扱いは貪欲に、しかし慎重にですね。インターネットの情報は特に危ないということです。



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