サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

活動内容
平成18年の活動方針

活動報告
平成24年度
平成23年度
平成22年度
平成21年度
平成20年度
平成19年度
平成18年度
平成17年度
平成16年度
平成15年度
平成14年度
平成13年度
基調講演 平成19年2月15日
「ファルマバレーに期待するもの」
日本政策投資銀行顧問(前副総裁) 大川 澄人氏

略歴

日本政策投資銀行顧問(前副総裁) 大川 澄人氏

大川 澄人(おおかわ・すみひと)

 韮山高を経て、1969年東京大学法学部を卒業。同年日本開発銀行入行。1990年米国スタンフォード大学国際政策研究所客員研究員。96年4月日本開発銀行流通部長、97年4月人事部長、98年5月総務部長。99年北海道東北開発公庫と統合され設立した日本政策投資銀行総務部長。00年3月に理事、04年6月に副総裁就任、昨年10月顧問に。ファルマバレー応援団代表。


ファルマバレーの取り組み

 ファルマバレーは、富士山麓の先端健康産業集積プロジェクトという形で、通常のバイオのクラスターと違って、もう少し広範な概念の中でやっていこうという点で非常にすぐれたアイデアの形で行われているプロジェクトではないかと全体としては思っています。
 その中で3つの部門に分かれていまして、一つが「研究開発と医療の質の向上戦略」。2番目に「新産業の創出と地域企業の活性化戦略」となっており、3番目に「ウエルネスの視点でのまちづくり」です。多分、3番目のところが他のバイオのクラスターにはない部分ではないかと思っています。
 1番目の「研究開発と医療の質の向上戦略」ですが、平成14年に静岡がんセンターができました。本当によく出来た病院で、しかも新しい取り組みがかなり行われており、日本、むしろ世界に誇れるものが出来たと静岡県東部出身者として大変喜ばしく思っています。付属の研究所が平成17年11月にできてお医者さんと看護婦さん、理工系の大学など工学系の方々のまとまった形での研究もスタートしており、静岡県立大学の創薬探索センターも薬科大として蓄積のあるところに新しい統合的な素晴らしいものが出来ていると思っています。
 治験ネットワークは平成10年からスタートしていますが、28病院、1万4000床の静岡県全体の病院がネットワークをつくる形で動いてきており、大変期待できるものだと思っています。製薬メーカー等は一つの県できちんとして治験が出来るネットワークが出来ていれば必ずそこに行くといっております。このネットワークはノウハウの塊のようなものですから、これをきっちりつくっていくことは重要だと思っています。それから電子カルテルシステム、これも国に先駆けてつくった大変素晴らしいものです。
 この4つのものは有機的に、概念的には結びついていますが、具体的な形できちんと結びつくかについてはこれからの努力と全体の継続的なコーディネートが大事で、きっちり続けていかないと、ある意味でばらばらのものになり、相互性が出て来ない危険性が残っていると思っています。
 2番目の「新産業の創出と地域企業の活性化戦略」の中のベッドサイドクラスターですが、ある病院の近くのところで医療機器だとか、または患者の補助とか、そういうものを含めて新しい産業を起こそうという概念です。まだこれからのものですが、概念としてはかなり面白いものを持っていると思っています。そういうもの全体をまとめていく支援ネットワーク会議が開かれています。これは県のファルマバレーセンターがやっていまして、全体のコーディネートをきちんとやってもらう必要があります。
 3番目の「ウエルネスの視点でのまちづくり」では、まず「温泉・ツーリズム(かかりつけ湯)」ですが、東京で「かかりつけ湯」という言葉を聞くと、「おっ」という感じがします。非常に素晴らしいネーミングで、ブランドとして非常に期待される名前ではないかと思います。こういうものがきちんとつくっていけるかどうか。本当の意味で信頼されるものができるかが、これからの課題だと思っています。
  「健康づくりのトレーニングシステム」は、東大の小林先生が作ったシステムを導入しています。私も試してみましたがかなり面白く、興味深いものでして、これが県東部だけではなく、静岡県全体に普及すると本当に面白い地域づくりができるのではないかと期待できるものです。次に「食材・健康食品」ということで、富士宮市のフードバレー構想が行われています。


日本全体の中でのファルマの位置づけ

 このようなファルマバレーの具体的な取り組みを日本全体の中で見たときにどういう位置づけになっていくのか。アンケートをまとめた日経バイオ年鑑のバイオクラスターランキングによりますと、ファルマバレーは21番目です。第1部と第2部に分かれていまして第1部だけ見ますと5番目になります。かなり上位です。第2部は27番目ということになり、かなり下の方です。
 第1部は何かというと、クラスターの基盤整備についてです。人、もの、金、たとえば人材を取りたいと思ったときの制度として何らかの支援制度があるかとか、ちゃんとした施設を作っているかどうかとか、またお金という問題でいけばベンチャーを起こしたいときなどに融資制度があるかどうかとか、基盤整備です。この基盤整備についてはかなり高い点数が出ているということです。ということは静岡県がかなりの力を入れて、ファルマバレーをやっていることが明確に出ているところです。
 第2部はクラスターの特色ですが、これはそれぞれの実績を反映しているということです。上位のたとえば北大阪、北海道、神戸とどう違うんだということですが、北大阪のバイオクラスターは千里ニュータウンで大阪府を中心に国の独立行政法人も含めてもともとバイオに強い大阪大学などが中心になってはじめたところでして、かなり多くの大学、企業、研究者が集っています。研究者の数でいけば大学、企業あわせて6000人弱の方々が協力しているということですし、バイオのベンチャーとして有名なアンジェスMGをはじめ50社以上のものがすでに企業化され、かなりの実績が出ています。北海道は他の地域と違いまして北海道大学を中心としてITの関係の方々が札幌中心に集まり、ベンチャーでの形のいろいろな立ち上げをやっておられ、その延長線上で成功したわけです。起業できたのは26社とか、研究者の形でも1000名弱の方々が大学、企業で協力している状況です。
 3番目の神戸の地域クラスターは、神戸の震災の後、もう少し神戸も元気を出さなくてはいけないということで、ポートアイランドに神戸医療産業都市構想というものを作って、スタートさせたものです。これは再生医療を中心にやっていこうということで、京都大学、阪大、神戸大学という一流大学が国の理化学研究所と併せて、集積して実績を出しつつあるというものです。ここも研究者は2000人ぐらいの方々が協力され、かなりの企業が出てきているというものです。


いいネーミングを生かさなくては

 この3つと比べてみたときのファルマバレーはどうなのかというと、例えば特許の出願でいくと3つともすでに1000件近く出願したといっています。ファルマバレーでは、多分まだ10件以内という状況ではないかと思います。研究者でもこの3つはいずれも1000人以上の方が協力していますが、ファルマバレーの場合はまだ200人弱ぐらいだと思います。参加の企業数もこの3つは100社以上で、かなり有力なところが参加していますが、ファルマバレーはまだ50社以下という状態です。ファルマバレーは必ずしもそういうようなものがないところに作っていますから、むしろこれから期待するもの、もうひとつ概念的には健康産業都市といっているように幅広い概念でやっているので、幅広い概念のところをどうやって生かしていこうかということがポイントになろうかと思っています。
 ファルマバレーがどれくらい知られているか。
 韮山高校の同級生に、ファルマバレーの応援団長をやっているといいますと、「ファルマバレーって何だ」と。三島周辺の出身者の中にも知らない者が大勢いるということです。一方まったく静岡県に地縁のない方でも製薬メーカーに勤めている人はファルマバレーというとよく知っていますが、まだまだ知名度は低いというのが実際のところだと思います。
 名前ですが、この富士のファルマバレーはファルマバレーで良かったなと思います。バイオバレーと付けたとしても何の特徴もない。ファルマバレーなら日本で一つしかない名前なので、きちんと成功すれば、日本はもちろん世界に知られる可能性があると思いますし、いいネーミングをしたので期待できる名前で、かつこの名前を生かさなくてはいけないと思っているところです。


ドイツの事例

 海外ではどうなのか。ドイツの事例をご紹介したいと思います。ドイツは医学、製薬で世界のトップを走っていたわけですが、アメリカがバイオにかなりの研究費を投入することになったときに、これではいけないと国を挙げてバイオについてもお金をかけるようにしました。最初に各地域から手を挙げてもらって優秀なところにお金を集中的につけようということで、95年に募集を開始して97年からお金を投入し始めました。最初のものがバイオレギオ・コンペというもので、これに対して17の地域が応募して3カ所が選ばれ、そこに対して全体で100億から150億のお金を投入し、その後もドイツは国としてバイオフィーチャープラスとか、いろいろな形のものについてコンペをやり、選ばれたものにお金を投入する形でやっています。そのためにドイツのバイオは地区別に3つの地区がかなりまとまった形で大きい形のバイオクラスターが出来ている状態です。
 選んだ基準は、まず科学的研究基盤があるかどうかです。複数のバイオテクノロジーの関連研究所とそれを結ぶ情報拠点があるかどうか。バイオの企業が進出しているかどうか。そこに集まってくる企業に対する成長支援のコンセプトがあるかどうか。特許を申請するとか、コンサルタントを必要の場合に関連支援施設があるかどうか。さらにそういうものが出来上がってきた時にマーケティングの形でサービスできる形のものがあるかどうか。進出した企業の資金調達に対する支援があるかどうか。地域における研究施設と病院の協力体制があるかどうか。遺伝子工学的に組み換えられた物質やその実験に関する規則や通達がしっかりしているかどうか。こういう基準で選んだということです。


ネットワーク機関の役割が重要

 この基準で選ばれたものの一つがゲーテで有名なハイデルベルクです。ハイデルベルクバイオクラスターとファルマバレーを比較してみますと、ハイデルベルクの場合は推進母体がハイデルベルク市だけではなくて州全体、近くの町も含めてやっていますが、重点分野は治療・診療薬の開発という形で本当の意味でバイオに特化した形のものです。ファルマの場合は推進母体が静岡県で、もう少し概念が広い先端健康産業集積という形です。
 それからインフラは、ハイデルベルクでは比較的小さいテクノロジーパークをつくり、そこに基幹的な施設があり、そこのところがネットワークの機関でいろいろな調整をするという形になっています。実際上、バイオのクラスターというものをやっていくにはネットワーク機関の役割が非常に重要で、ここのところが必ずしも毎年順調にいくものではなくても、きちんと皆の連絡を取って具体的な成果を挙げていく不断の努力が必要なわけでして、これがあるかないかが決定的な違いです。
 そこに情報が集中した上できちんとした調整を行うことによってしっかりしたクラスターが出来てくるというのは重要なポイントになります。特にファルマバレーのような形で白地のところにつくったものであれば、なおさらこの機能が重要だと思っています。
 決定的に違うのは大学の研究所、化学・製薬分野の大企業のところで、ハイデルベルクはハイデルベルク大学、ドイツがん研究センター、ヨーロッパ分子生物学実験室、これは世界で1番といわれるような実験室です。それからハイデルベルク分子生物学センター、マックスプランク医学研究所、企業でもバスフ、アボット、メルク、ロッシュと世界的な大製薬会社が参加しています。その点、残念ながらファルマバレーの方は静岡県立大学、日大国際関係学部、東海大学開発工学部、総合研究大学院大学遺伝学専攻、国立遺伝学研究所で、その意味では大学、研究所としては十分なものではないというのは率直に認めざるを得ないのかもしれません。
 大企業の部分でも日本の研究拠点としてはかなり立派なものを設けていただいていますが、どうしても世界的なレベルでいうと、まだ不十分といわざるを得ない。この部分は、これから克服する努力を続けていくしかないということだと思います。


ファルマバレーの強みと弱み

 S(strength)、W(weak)、O(opportunity)、T(threat)の4つの要素から見るSWOT分析でファルマバレーの強みと弱みをまとめてみますと、S:強みでは、やはり恵まれた自然環境です。富士山の裾野にあり、温泉もある。気候も温暖だという点では大変すばらしいものを持っていると思います。魅力があることは間違いありません。既存産業の集積でも医薬品、医療機器という意味での生産の集積もそれなりのものがある。健康社会という形のクラスターをつくっていくというのはここだけで、総合性にきわめて優れた先行性があると思います。
 次に、O:機会ですが、これは巨大な首都圏市場が近くにあるとか、高齢化社会が到来するとか、予防医療とか、抗加齢の医療の流れの中で、ある意味では非常に機会が多いことは間違いないと思います。
 それではW:弱みという点では、プレーヤーが他と比較しても、まだ不足しているのではないか。ないものねだりしてもしょうがないわけですが、これからきっちり充実させていくという一言に尽きると思います。
 大学・研究所の不足も間違いないと思います。あそこにいくと何かがあるぞと思われるような小粒でもいいんですが、しっかりした大学、大学院というべきかもしれませんが、必要なんだと言う意見が非常に強いということでして、そういうものが出来るかどうかです。次に地域連携ですが、県の熱心さに比べて地元自治体がファルマバレーと連携した形でどこまで本当にやっているかという点がちょっと気になります。静岡県東部は、県中部、西部と比べて、必ずしもそこに一体感がない。首都圏ともちょっと一体感がないとか、そういう部分があるのかなと。そして都市度というのは、やはり不足気味ではないかと思います。
 T:脅威という点ですが、関西とか北海道ではかなりバイオのクラスターが進んできて実績もすでに出ています。各企業から見れば当然実績が出ているところに行きたいというのがあたり前ですが、この部分については単なる競合ではなくて、協調の仕方だとかいろいろあると思います。神戸が再生医療を中心にやるのであれば、がんの研究を中心に連携も含めていくこともあろうかと思います。


やっておかなければならない地震対策

 巨大地震の不安ですが、やはり静岡県にはぬぐいきれないものがあろうかと思います。しかし、バイオの施設が集中しているサンフランシスコやロサンジェルスも実際に地震が起こっていますが、地震が起きる可能性が高いからといってそこから逃げ出そうという人たちはいません。ただ、企業ベースでみるとやっておかなければならないことがあるのではないかと思います。それが地震対策です。
 地震のある地域に進出している企業との取引で企業が一番心配するのは、発注したときにその企業が倒れて事業が継続できなくなった場合に自分のところの事業も止まってしまうのではないかという不安です。その観点から、私たちの銀行では昨年4月から「防災格付け融資制度」をスタートさせました。各企業の防災に対する熱心度といいますか、具体的な準備の度合いによって優れているものであればより安い金利という形の融資制度をつくっております。ポイントは、内閣府の必須・基礎項目を中心とする取り組み分野で、応急対策を中心とした防災計画を策定するとか、生命安全確保策の整備だとか、施設の安全策および設備の状況把握、教育・訓練の実施などを用意するというのが、まず大前提です。この大前提の上に立って、さらに事業継続計画、建築物の耐震化等の施設減災対応、重要業務のバックアップ体制整備、情報公開・社会貢献への取り組みなどをつくりなさいということです。


一番重要なのが事業継続計画

 その中で一番重要なのが事業継続計画です。日本の企業の策定状況は1年前の調査ですと7%ぐらいでした。何か起こったときにどういう形で指揮命令系統が出来るのか、バックアップはどうなっているのかをきちんとつくっていただきまして、いろいろシミュレーションを行うことによって、想定をしたときの準備を事前にやっておくことが必要です。これが全部行われていますと、業務を中断される時間はどれくらいかが想定されます。その業務の中断される時間を極力短くすることによって取引先に迷惑をかけない準備をしておくということが必要です。多分、静岡県に進出する企業についていえばこういうものをきちんとつくっておくことが必要でして、これがあるかないかによって取り引きしようかどうかと考えることが起こってくるのではないかと思います。事業継続計画BCPというのは、今大企業がかなり一生懸命作り始めていますが、これをきっちりつくっておくことが必要です。
 アメリカの企業は、むしろこの地震対策だけではなくて自分のコンピューターがダウンしたときとか、システムが壊れたときのために、こういうものを皆さん用意しております。それによって自分のところの事業がどんなことが起こっても継続できるぞということを説明しているのです。


「震災害時発動型ファイナンス」

 とはいえ、実際に地震が起こってしまったとき、当座の運転資金等が必要になるということがあります。日本で最初にこれをやったのが巴川製紙所です。静岡と清水にしか事業所がないので、東海地震対策として、事前に何か起こったときのために資金を提供してもらうスキームをつくりたいということで、われわれと相談した上でつくったのが「震災害時発動型ファイナンス」です。
 これは事前にお金を預けておきまして、何か起こったらそのお金をリリースするという形です。本来地震保険でカバーできればいいじゃないかという議論がありますが、実は地震保険というのは日本の場合、保険料も高く、必ずしも十分用意が出来ないという状況が起きています。そのために地震保険でカバーできない分について、事前のファイナンスで用意しておこうということです。
 このようなものでBCPをつくるとか、起こったときのファイナンスを用意する形にしておけば、地震対策として企業ベースではかなりのものが用意できるので、地震が起こっても大丈夫だということであれば、静岡県の企業と取り引きする会社も十分あるということだと思います。


ファルマバレーを核とした形で地域づくりは可能か

 日大の稲葉陽二先生が都市の規模によって重視している政策課題が違うのではないかという観点から、都市の規模別にアンケートした結果をまとめていますが、人口規模でみると重要度の違いが歴然と現れています。例えばベンチャーの創業支援とか産学官連携というのは人口30万人以上だと相対的に高いけれど、人口5万人未満だと重点においていない。魅力ある街づくりだとか、商店街の活性化についての重点の度合いも違う。人口5万人未満のところは子育て支援が極めて重視されている。明らかに人口規模によって、それぞれの都市の政策課題が違うということです。
 これはある意味で普遍的な要素があるということでして、ファルマバレーを中心とした形の地域づくりを考えるときに、どうしても各都市は自分のところの重要な政策課題から先に考えるということで、ファルマバレーを核とした形で地域づくりというものを政策課題の第一番に置かないということです。今回、どうかなと思って富士市を含めホームページをクリックしてみますと、ファルマバレーという言葉がすっと出てくるところはどこも基本的にはありません。ファルマバレーに関して各市町村の取り組み自身が必ずしも優先順位が高くなっていないかもしれないというところが一つの問題で、これを克服する形を考えないといけないということだと思います。
 また、都市的な施設として満足できるような形のショッピングを可能にする場所を東部地域に作るにはどうしたらいいかも考える必要があると思います。その意味では、ばらばらに各地がそれぞれ中心地を作っていくのがいいのかは真面目に考えなくてはならない問題だと思います。


富士山世界遺産の問題

 次に富士山の世界遺産の問題です。世界遺産登録の暫定リストに載ったということで、かなり期待が持てるということです。日本での世界遺産は、自然遺産が3カ所、文化遺産が10、暫定リストの9カ所が上がってきています。
 自然遺産の白神山地と屋久島の観光客数を見ますと、登録年を100にして、その1年前とその後を見てみますと、白神山地の場合はかなり高い数字が今でも出ています。屋久島は一時急増しましたが、そのあと少し落ち着き、指定前より10%以上増えている状態です。知床もかなり高い形で伸びてきています。文化遺産では例えば姫路城や京都も指定されてもほぼ横ばいです。一方白川郷は5割、6割増とかなり急増しており、厳島神社、広島の平和公園はむしろ低迷気味です。古都奈良や日光の社寺についても横ばいです。
 これを整理してみますと、もともと観光地として有名だったところと観光地でなくむしろ不便だったところの2つに分かれていて、観光地で有名だった京都だとか、奈良だとかは必ずしも観光客が増加しているわけではありません。世界遺産の形で、急に有名になったところ、交通が便利になったところは急増するけれど、それ以外のところはそうでもないということが言える感じがします。


富士山を巡る地域の連携が重要なポイント

 では、富士山についてはどうか。富士山は世界的に有名な山ですので、世界遺産の指定によって富士山の観光客というものが、急増すると単純に思うのは期待し過ぎなのかもしれないということです。むしろ富士山について考えてみると、世界遺産の指定に対する動きを見てみても静岡県と山梨県が協力して申請している点からいって富士山を巡る地域の連携が取りやすくなれるきっかけとしては非常に重要なポイントになっているということが、私から見たときの富士山の世界遺産登録のための効果だと思っています。それ以外に自動車の富士山ナンバーという形のものが申請されていて、これも静岡、山梨両県の連携が取れるかもしれない。
 今、国土交通省も富士山を巡る回廊のようなものを作ろうと計画しているようでして、そういうものが出来ればある意味で富士山を巡った形での新しい地域づくりが行われてくるのかなと期待をしているところです。


はっきり分かっているのは日本の人口が減ること

 はっきり分かっていることが一つあります。皆さんもご存知だと思いますが、日本の人口が減るということです。日本の人口は05年の1億2800万人をピークに、すでに減り始めています。2046年には1億人を切るといわれていまして、2100年には4700万人になるだろうというのが厚生労働省の推計です。では、100年前はどうかというと1900年は4400万人でした。人口がこの100年間で3倍になり、また、100年後に3分の1になるということです。
 2046年の人口が1億人になることを考えてみても単純に40年で割れば1年間に70万人減ります。富士山ろくの6市の人口が80万人ですから、それに近いものが毎年減っていきます。経済活動的にいうと後10年そこらで団塊世代の経済活動も変わりますので、多分そのあたりから地域の経済状況も大きく変わってくるということが、これはもうはっきり分かっているということです。
 約100年後を考えると、日本の人口が4700万人になったとすると、観光施設で必要なものは100年前と極端に言えば同じ量だけでいいんだといえると思います。これは今のままの状態が続けば移民政策が取られない限り、必ず実現する事実です。しかしながら世界の人口はどうかというと、今、60億人ですが、2010年には70億人、2050年には90億人になるといわれています。そうすると、静岡県東部の地域を考えたとしても、今のような形の経済的な地位を保ちたいとすれば、日本人だけの観光ではなくて、世界から人を呼んでこざるを得ません。
 その意味では、今回のファルマバレーで行っている健康を中心とした形の地域づくりは、大変広い概念で行われていますが、これを中心にここの地域の人口をきっちりキープする、または観光客も含めて世界に向けた形での観光客をちゃんと取り込むということが必要だと思います。しかも急増を狙うのではなくて減っていくことを前提にして着実な形でやっていく政策が必要だということになります。


社会的信頼度という形で地域づくりを

 今、企業のベースとしてCSR(Corporate Social Responsibility)ということが言われています。企業の社会的責任といわれているものですが、最後のRがレスポンシビリティーというところを、責任と訳しているわけですが、私はここのところを信頼度と訳すべきだという方たちに賛成でして、企業の社会的信頼度というと、その企業がどういう形で自分の企業を持っていけばいいかということが、ある意味では分かると思っています。
 実はこれは地域政策でも同じだと思っていまして、地域の社会的信頼度という形で地域づくりを行うことが必要だと私は思っています。例えば、温泉の問題においても、温泉というものは東京でもどこでも、今、1000メートル掘れば出てくるものなんです。そうすると単なる温泉では価値がないんです。自分のところの温泉は価値のあるものなんだと、皆から信頼されるものをきちっと作っていくことがポイントになると思っています。
 その意味でこのファルマバレーの構想というのは素晴らしい概念で、かつネーミングも素晴らしいと思っています。この構想で、静岡県東部全体の地域づくりが行われることを期待して私の講演とさせていただきます。



▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.