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特別講演会 平成19年3月26日(サンフロント)

「北東アジア情勢と日本の安全保障」
軍事アナリスト 小川 和久氏

略歴

軍事アナリスト 小川 和久氏
小川 和久(おがわ・かずひさ)

1945年12月熊本県生まれ。中学卒業後、第7期自衛隊生徒として陸上自衛隊生徒教育隊に入隊、続いて陸上自衛隊航空学校、同・霞ヶ浦分校で航空機整備を学ぶ。この時期、神奈川県立湘南高等学校通信制で併学。同志社大学神学部を中退後、日本海新聞(鳥取の県紙)で司法・労働・県政を担当する。日本海新聞の倒産で、講談社「週刊現代」の記者となり、9年間にわたって政治・社会問題を担当。1984年3月、日本初の軍事アナリストとして独立する。

 3月26日、静岡政経研究会とサンフロント21懇話会の共催による特別講演会が軍事アナリストの小川和久氏を講師に招き、沼津市魚町の静岡新聞社・静岡放送 東部総局サンフロント9F「ミーティングホール」で開かれた。テーマは「北東アジア情勢と日本の安全保障」。北朝鮮、中国を中心とした各国と日本の関係、日米同盟の現実、日本の安全保障問題などを熱く語った。

世界に通用するものの見方を

 北東アジア情勢に限らず国際情勢は常に緊張し、激動している。それは人間の歴史が始まって以来変わったことはないんです。それに一喜一憂していたら生きていけない。世界に通用するものの見方ができるようになろう。世の中の動きに左右されずにツボを押さえて生き延びていこうというのが、われわれが押さえなければいけないことではないかと思うわけです。
 北東アジア情勢となると、まず隣の国の北朝鮮、あるいは中国があります。これは格好の教材、テキストです。これをきちんと乗り越えていく中で、世界の中で本当に信頼され、高く評価される日本というのが実現できるのです。
 違う角度のお話をしますと、日本国が経済立国をしていこうとすれば、世界を舞台に活動している日本企業が安心して展開できるような環境をつくらなくてはいけない。世界が平和でなければ、世界を舞台とした日本企業の経済活動はありえない。だから世界が平和になるように、きちんとわれわれは関わる。そのために日本国の安全を確かなものにする。これを足場とし世界を舞台として日本企業の経済活動があり、それが巡り巡って、例えば沼津の繁栄にもつながっている。物事には順序があるんです。平和と安全がなければ経済的な繁栄はない。安全なくして繁栄なしなんです。そういうところから北東アジア情勢を見ていきたい。


木を見て、森を見ず

 例えば中国について言いますと、国防費、軍事力を整備するために使うお金が19年連続で2桁の伸びを続けている。えらいこっちゃと。すごい軍事力を備え、台湾を一なめにし、あるいは日本にとっても脅威になるだろうというのが中国脅威論です。
 19年連続、2桁の伸びは事実です。しかしだからどうだと言うんですか。中国だけ見ていたら、それは中国はすごいという感じになるけれど、中国という木が立っている森全体を見渡さないと相対的な位置づけは分からないじゃないですか。
 日本の議論というのは木を見て、森を見ずになってしまうんです。北朝鮮ばかり見て、北朝鮮はすごいと、北朝鮮を中心に世界が回っているような話になる。あるいは中国が中心に世界が回っているような議論になる。違うじゃないですか。森全体の中でどれぐらいの木なのか、元気がいいのか、枯れかかっているのか、それを見極めないと有効な政策なんて出てこないです。
 同じ19年間をみるとアメリカ、台湾、日本はもっと軍事力の近代化が進んでいるんです。中国の場合、この差が縮まらないというのが基本です。それが森全体を見るということです。中国だって、北朝鮮だって脅威にならないようにしていくことがもっともっと大事なことです。


一流の国のふるまい方を知らない

 脅威というものは教科書的に言いますと、相手の意志と能力を足したものだといわれます。脅威でなくするためにはどうするか。まず相手の意志を敵意じゃないようにしなければいけない。日本がどんなにがんばっても北朝鮮や中国が日本のことを好きになってくれるわけがないくらいのことを思っていなければいけない。
 そして日本なしには北朝鮮も中国も生きていけないような関係を築くことは出来ないことではない。そうなれば少なくとも敵意は引っ込みます。同時に相手の軍事力を中心とする能力については、常に近代化において差をつけ続ける。あるいは日本でいえば、アメリカとの同盟関係によって相手が軍事的冒険をしないように押さえ込んでいく。それが一つの答案の書き方です。
 日本の議論というのは、空騒ぎしている感じがしませんか。そういった空騒ぎをしないですむような仕組みを今、安倍内閣は作り始めています。私もそのメンバーの一人です。
 とにかく脅威だと感じるのだったら、脅威ではないようにするにはどうしたらいいのか。その中で軍事的な位置づけをどうするかという話がなければいけない。しかも今の話をもっと大きなところで取り巻く戦略的な考え方というものを持たないといけない。日本は、二流、三流の国のままでは恥ずかしいです。
 日本という国は本当に国民のレベルも高いし、私はもっと世界から信頼され、評価されてもいい国だと思います。ただ世界の中を歩いていく上で一流の国のふるまい方を知らない。そこのところです。それを身につけさえすればもっともっといい国になれます。もっと安全も繁栄も確かなものになります。


参考になるアメリカの取り組み

 例えば一流の国の戦略的な取り組みといえば、アメリカの取り組みは非常に参考になる。アメリカが何でもいいなんて言いません。あちこちで失敗しているし、国内でも問題だらけの国です。ただやはりナンバーワンでいるだけの戦略的な取り組みは常にしている。そこのところを参考にすればいいんです。そういう発想が日本の場合、出てこないわけです。そこが問われるんです。
 例えば中国に対するアメリカの戦略的な取り組みといえばクリントン政権以来一貫している「建設的関与」というものがあります。これはどういうものか。中国を経済の面ではおいしい国に変えてしまおう。軍事の面では危なくない国に変えてしまおうということです。まことに都合がいいような話に聞こえるかもしれませんが、国益を追求するということはそういうことです。
 「建設的関与」というものはどういうものか。キーワードは「民主化」という言葉なんです。
 中国も巨大な軍事力も欲しいし、経済的にも成功したい。両方欲しいんです。ただ同時には手に入らない。そうなってくるとまず経済力を身につけて、それから軍事力を備えようという順番になります。その経済力を身につけるためには、社会主義のシステムの中で効率の悪いものがいっぱいあった。このシステムを近代化して、どんどん効率をよくすればするほど中国なりに民主化が進むんです。その一つの段階が今の経済的な成功です。バブルだという言い方もあるけれど、一応成功はしている。中国なりに近代化は進んでいるのです。
 その中国に経済力が身についてきた。それで巨大な軍事力を持って何かしようとするんじゃないかというのが中国脅威論です。しかしアメリカの考え方では、そうはならない。アメリカは民主化が中国なりに進み、巨大な経済力を備えるに至った中国は、それでもって巨大な軍事力を振り回すような国にはなりにくいという学問上の理論を持っているんです。その理論というのはアメリカのイェール大学のブルース・ラセットという教授の理論です。彼は1946年以来、40年間の世界の戦争を徹底して研究した。そして学説を打ち出した。「民主主義の制度を持つ国同士は戦争をしない」という「民主的平和論」です。中国なりに民主化が進めば、戦争をするような国になりにくいという理論で、それが正しかったかどうかは、後何十年かしないと証明できない。ただ今のところそれでいけるんじゃないかという考え方なんです。
 アメリカは中国丸かじりで、中国を都合のいい国に変えようとしている。人権問題とか、中国が嫌がることに口を挟み、中国も抵抗します。でも、それを目指す着地点にぐっと落とし込んでいく強制力をアメリカはちゃんと持っている。これが軍事戦略であり、例えば日本との同盟関係なんです。軍事戦略や軍事力の位置づけというのは、大きな戦略の中の重要な一部をなしているということです。
 そうしたことを一つ参考にしながら、日本がやはり世界の中で一流の国として信頼をされ、評価され、安全と繁栄を実現できる国にどんどん変えていかないといけないという話なんです。


北朝鮮はどういう国か

 いま、日本国民が一番関心を持っているのは北朝鮮です。確かに危険な感じもするし、日本としては隣り合っているのですから、安全な状態にしなければいけない。日本国民としては拉致問題などはらわたが煮えくり返るような問題がぜんぜん解決されていない。でも木を見て森を見ずという話に戻りますと、北朝鮮という木はこの世界という大きな森の中の端っこの方に立っている枯れかかった1本の木に過ぎないんです。
 軍事力を含む国力では、これは相撲に置き換えると序二段です。それに対して日本は横綱、大関の国です。序二段がキレかかってナイフをちらつかせているのに対して、横綱、大関が悲鳴を上げて逃げ回っていたらどうなるんですか。
 やはり横綱、大関に求められるのは、ひとにらみで安全な状態にするということでしょう。そこにおいて初めて世界の信頼や評価が生まれてくる。それをちゃんとしようと思ったら、やはりツボを押さえた議論をしなければいけない。科学的なものの見方をしなくてはいけない。それによって初めて拉致問題にも進展があるかどうかが分かれてくるんです。
 北朝鮮の正規軍は常に組織されている軍隊が110万人ぐらいある。これの70%ぐらいが38度線の北側に集まっていて、ある日突然韓国に攻め込んでくるんじゃないかという議論をする人がいたでしょう。本当の専門家の間では、これはありえない話なんです。
 昭和28年7月、朝鮮戦争が休戦状態になって以来、一度も北朝鮮は正面から38度線を突破して韓国に攻め込む能力を持ったことがない。持ちたいけれど持てない。それを分かっていて、そこの部分はあきらめて、きちんとある部分とある部分だけ軍事力を突出させてきた。そのことによって自分の国の生存を図ってきたから、頭はいいんです。敵ながらあっぱれというところもあるんです。


北朝鮮の弾道ミサイルと特殊部隊

 北朝鮮はどんなに陸軍がたくさんいてもそれを上空から守るための空軍を整備することは、お金がないから出来ない。あきらめた。その代わりやったのは2つの点です。安上がりで効果的なんです。
 一つが核兵器の開発と、それを運搬する手段としての弾道ミサイル、もう一つが北の人が韓国の人に化けるのはそう難しくない。それを逆手に取って世界最大の特殊部隊を持った。8万5000人から12万5000人。この2つなんです。特殊部隊をきちんと押さえ込まないと、韓国国内が騒乱状態に陥れられて、その中で北朝鮮の陸軍を空から攻撃しなければならない韓国やアメリカの空軍の飛行機が地上で破壊される。そういう中で初めて38度線の北側にいる70、80万人の北朝鮮の陸軍が韓国に攻め込むことが出来るようになるから、特殊部隊をどうやって封じ込めるかが、一つのツボなんです。ずっと韓国もアメリカもこれをやっている。
 もう一つは核兵器と弾道ミサイルです。北朝鮮にとっては政治的なカードとしても極めて効果を上げている。核兵器の開発の動きというのは、とにかくアメリカとの交渉の糸口には常になっている。あるいは弾道ミサイルも発射実験をすれば、日本もふわふわするし、いろいろなところと話が出来る。それだけではなく弾道ミサイルは、麻薬と並んで北朝鮮が外貨を稼ぐための商品になっている。いいことばかりなんですね。
 この2つをきちんとやっている北朝鮮という国は侮りがたい。その2つを封じ込めるということが、やはり北朝鮮を安全な国にするということなのです。そこのところを押さえずに変な議論をするということは、非科学的であるといわざるを得ないわけです。


北朝鮮がつぶれたら困る韓国と中国

 北朝鮮は昨年7月5日にロシアの南の方の海に弾道ミサイルを7発撃った。去年の10月9日には核実験をやってのけた。日本としてはかなり肝を冷やした部分もあるわけです。ただ、北朝鮮がなぜそういう動きをするのか。又今、北京で再開されて、ちょっと中断状態になっている6者協議、6カ国協議というものは、何のためなのか。
 6カ国協議とマスコミは書くんですが、日本政府は6者協議という言い方をします。これはどこが違うか。6カ国協議というのは客観的な一つの見方です。政府自民党としては北朝鮮を国として認めていないから6者という言い方をするんです。
 6者協議を何のためにするのか、ちょっとおさらいしておいた方がいいと思います。だって6者協議が中断するも再開するも北朝鮮次第。その中で、ある意味ではやりたい放題やっている。何であんなものはつぶしてしまわないんだという意見があります。放っておいたらつぶれるのに、何でカンフル注射を打つようにいろいろな支援をするんだと。
 それはどういう理由であれ北朝鮮がつぶれたら困る国が2つあるからです。それは韓国と中国です。だから北朝鮮がつぶれないようにする、その仕組み、枠組みとして6者協議をやっている。核兵器の開発という危ない火種だけは取り上げる。あとは、しばらくは今の体制でもいいというのが6者協議なんです。
 考えてみてください。どういう理由にせよ、北朝鮮がつぶれたら、まず韓国が受けるダメージは計り知れないです。お互いの国民の半分ずつぐらいは朝鮮戦争で同じ民族同士が殺し合ったという記憶が生きている。この際、親の仇をという動きだって出てくる。内戦状態になる可能性があるんです。もちろんドイツの統一と同じように経済的な負担が韓国には降りかかってくる。韓国経済が25年ぐらい後戻りするといわれる負担はなんとか持つけれども、内戦状態になるということは、ドイツとはぜんぜん違うんです。
 韓国としては、後継者は誰でもいい。安全な北朝鮮だったらしばらく続けてくれ。そして統一するのにふさわしい時期が来たら統一したいというのが、どの立場によらず願いであります。
 そして中国もそうなのです。朝鮮半島が内戦状態になってしまったら、何十万人とも知れない難民が中国の東北部、旧満州になだれ込む。これが中国の屋台骨を揺るがしかねないんです。中国というのは国民の不満が今、渦巻いている。ガス抜きをいろいろなところでしなきゃいけないぐらいです。それはもう日本で格差社会といっているのと違って、ものすごい格差です。取り残されている内陸部からどんどん沿岸部に職を求めて若者が出てくるが、職がない。皆、大都市の裏町にたむろして不満のはけ口を探している。そこに北朝鮮が崩壊して難民がどっと入っていったらガスに火がつくのは間違いない。北京オリンピック、上海万博もあり得ない。何とか北朝鮮を安定させて自分の国の生存につなげたいというのが中国の本音です。だから北朝鮮にばかにされるようなことがあってもこらえて、こらえて議長国を買って出てやっている状態です。
 これが6カ国協議です。だから絶対につぶされないということを前提に北朝鮮はぎりぎりいろいろなことをやってのけるんです。


北朝鮮の核実験で米中が一番気にしたこと

 それに対して時々アメリカがお灸をすえる。一昨年11月で言えば、これが金融制裁です。今、金融制裁を解除する問題で話し合いは中断していますが、あれはマスコミで報道されている通り、相当北朝鮮に効いたんです。金正日ファミリーの財布に当たる口座だったということもあり、北朝鮮はすぐにアメリカにお使いを出して勘弁してくれといった。しかしアメリカは勘弁なんかしないですね。無条件で核の開発をやめろ、6者協議に戻れと言った。北朝鮮としては、それに対して「はいはい」というわけにはいかない。軍を中心にもっともっと強硬な路線でいこうという人たちが出てくるでしょう。強硬路線の北朝鮮になればアメリカは怖くないかもしれないが韓国は緊張します。日本はびびります。それでいいんですかという話ですね。
 そしてアメリカが自分の方を振り向いてくれ、2国間で協議をして、いろいろな問題について、特に北朝鮮という国をつぶさないということを一筆書いてくれるようにというのが北朝鮮の望みです。体制保障をしてくれということです。
 そして、こちらを見てくださいという意味も込めて去年7月5日に7発の弾道ミサイルを撃ったわけです。そうしたら次のカードを切るという話になり、10月9日に核実験をやった。これについてはアメリカとしても韓国や中国や日本が懸念していることもあって振り向かざるを得ない。
 このとき、アメリカが一番気にした、あるいは中国が一番気にしたのは何だと思いますか。日本が軍事的に自立する方向に動き、その延長線上に核武装する動きが出る可能性がある。これは北朝鮮どころではないと。北朝鮮に対してはきちんと、安全な状態にする必要があるということだったんです。
 あの核実験は安倍さんが中国で首脳会談をやって韓国に飛んでいる途中だったんです。安倍さんが中国で胡錦濤さんと話をしたとき、「北朝鮮があまり変なことをやると、日本で軍事的に自立すべきじゃないかという動きが出てくる可能性がありますよ。お宅ももうちょっと北朝鮮を甘やかさないでちゃんとやってください」という話はしているわけです。


読みを誤った北朝鮮

 中国に対しても、アメリカに対しても、自分の国の存在をアピールしなければ生き延びられないということで、北朝鮮は核実験をやった。ところが北朝鮮は核実験について読みを誤った面があるんです。核実験をやってしまえば核保有国として認知され、核軍縮交渉という形でやれるし、相当立場が強くなると思った。そうは問屋が卸さなかったんですね。
 核実験をやってしまえば核保有国として認められると、北朝鮮が思ったのは1998年5月のインドとパキスタンの核実験なのです。あのとき、両方の国はアメリカからも日本からも経済制裁されましたが、軍事的な制裁はされなかった。だから北朝鮮だってやり得だと思ったところがあるんです。ところが読みがちょっと違った。
 それはどういうことかというと、インド、パキスタンについては、あの国々の核武装を認めてもいいという国がいるんです。例えばインドの核武装はアメリカから見ると中国に対するカードなんです。だからアメリカの言うことを聞くインドならいいんです。同時にアメリカから見ても中国から見てもパキスタンの核武装はインドをけん制するためのカードなんです。ちゃんと存在理由がある。北朝鮮についてはそのように見てくれる国がないんです。
 国連が制裁決議案を全会一致で採択したことは、北朝鮮が一番がく然としたんでしょうね。中国が賛成したということです。そしてその中には北朝鮮がもっとも短いシナリオでは3日でつぶれてしまう恐怖のシナリオが含まれる選択肢もあった。この辺は大変震え上がって、とにかく6者協議に戻れないかということで、もう慌てふためく。その中で去年の暮れに6者協議が再開され、1回では自分のところの値打ちが下がるから物わかれに終わるような形に持ち込みながら、今年に入ってアメリカとベルリンで金融制裁について話し合って、また6者協議で今度は合意に至るというような動きになっているんです。


国連の制裁決議

 北朝鮮の国連の制裁決議は、国連憲章第7章の第41条に基づくものなのです。軍事的な制裁ではないんです。非軍事的措置といわれています。軍事的な制裁はその次の42条です。41条は経済制裁や海の上で船が積んでいる貨物検査をやるとかです。海の上での貨物検査が実は軍事制裁に一気に変わる分水嶺という危険な要素をはらんでいる。それは北朝鮮も中国も分かっている。それを中国は北朝鮮に突きつけたんです。
 北朝鮮に対して中国は言うわけです。みんな他の国を怒らせたから戦争になるかもしれないんだよと。同時に俺の国は海の上での貨物検査には参加しない。それはもともと同盟国でやってきたからだ。俺の国の言うことをもう少し聞けよというメッセージを突きつけているわけです。
 中国がしたたかなのは海の上での貨物検査には参加しないけれど、陸から入っていくいろいろな貨物については税関の検査という形でコントロールしますと、他の国に対して言い訳をする。これが外交というものなのです。
 海の上での貨物検査はどういうものか。日本ではいきなり海上自衛隊が出て行くような話を国会でするから、ばか者と言ったわけですよ。海上自衛隊が出て行く場合は、アメリカも海軍が出ている場合です。これはもう強制的な措置をするために法律を相当いじらなければ駄目です。
 アメリカのシナリオでは、非軍事的措置ですから、まず海上での検査は沿岸警備隊がやるんです。日本で言えば海上保安庁。これは警察機関です。朝鮮半島の東西の海岸沖の2カ所で5隻ずつ巡視船が出る。場合によっては銃撃戦になる。そのとき、北朝鮮が手を出したというシナリオだと、沿岸警備隊だけでは力が足りないから海軍を使うといって、後ろの方に航空母艦の機動部隊を1個ずつ置いているんです。それがアメリカのシナリオなのです。
 わが海上保安庁は、世界で2番目の沿岸警備隊です。これが出て行くためには法律の改正などが必要なのに、海上自衛隊だというのだから、日本人は勇ましいというのか、戦争好きというか、阿呆じゃないかという話なんです。海上保安庁というのは国境警備隊でもあり、国境紛争が戦争にエスカレートしないための安全装置なんです。人間の知恵として日本は周りが海だから海上保安庁を持っているわけです。それを税金で支えておいて、ちゃんと働かせられないとしたら問題が多いだろうと思います。


北朝鮮はすでにミサイルに核弾頭を

 北朝鮮はすでに核兵器を弾頭ミサイルの弾頭に4発、ないし5発積んでいると思って、われわれは向き合う必要があります。北朝鮮が日本に対して使うと思われるのはスカッドミサイルを改良したノドンというタイプです。これは1300キロぐらい飛ぶと言われています。長さが16メートル20センチ位あるでっかいやつです。ただ北朝鮮が自分の方から使うことは今のところない。アメリカから攻撃をされないために、アメリカがこぶしを振り上げたら、韓国や日本を攻撃できるレベルの核兵器を持っていればいいわけです。
 「アメリカさん、うちをやるんだったら先に東京が消滅するよ」ということを見せ付けることによって、アメリカの攻撃を抑止できる。だから自分たちから使ってしまったら、やられた側は、ダメージは大きいけれど後は終わりですからね。叩きつぶされてしまう。
 ただ彼らはすでに持っているということを前提に取り組みをしていく必要がある。まだ持っていないんじゃないかとか、ミサイルには積むことは出来ないじゃないのかとか、そんなことを推測しても仕方がない。一番悪いシナリオで考えていくというのが前提です。
 北朝鮮は去年10月9日に核実験をやった。
 原爆が2種類あるということはご存知ですね。長崎に落とされたのがプルトニウム型、広島に落とされたのが濃縮ウラン型。この2種類あるうちの一つ、プルトニウム型を実験しました。これは一長一短あるのです。これを上手く使い分けているから北朝鮮は頭を使っているんです。金正日の顔を見て賢そうに見えないなどと思わないでください。本人が賢いかどうかは別として、国としては相当頭を使っています。


小型化に適しているプルトニウム型

 プルトニウム型というのは、今の世界の核兵器の開発の中では主流なんです。これは小型化するのに適している。構造は複雑で高い技術力がなければなかなか出来ない。初めて核兵器をつくる国の場合は核実験を積み重ねないと出来ないのはプルトニウム型です。ただプルトニウム型も必ずしも核実験をしないでも出来るのです。プルトニウム型をいっぱいつくってきた経験を持っているロシアの技術者なんかがどっと入っている場合は核実験なしでできます。
 核兵器の小型化はどういう意味か。軍事目標だけを確実に一発で消滅させることが出来る。しかし民間人の被害はほとんどなしですませる。そういう使い方をやはりしたいわけです。アメリカの言い方をすると、付随的被害というんです。これは民間人の被害です。民間人の被害が出れば出るほどイメージが悪くなるんです。だからピンポイントでやろうとする。核兵器についても小型化しようとする。
 しかしプルトニウム型は、デメリットもいっぱいあります。必ず大きな特定の施設が必要です。原子炉が必要なんです。核燃料の再処理工場も必要だ。これもでっかい施設だし、人工衛星からどこにあるか分かってしまう。そういうところで動きをせざるを得ないから、ひそかに核兵器を開発することは出来ないわけです。しかもアメリカが攻撃しようと思ったら原子炉とか再処理工場とか一発で分かりますから、攻撃の目標になりやすい。これがデメリットです。それが分かった上で北朝鮮はプルトニウム型を政治的カードとして使い切った。核兵器の開発の動きを見せるわけです。そのたびに6者協議が開かれたり、アメリカとの交渉の糸口になっている。そして最後に核実験まで行くわけです。これをカードとして使う。


軍事目標になりにくい濃縮ウラン型

 一方の濃縮ウラン型はどうか。広島に落とされたのもそうですが、核実験をしないでつくれるんです。だから広島に落とされたものは組み立ててそのまま落としている。長崎に落とされたのはプルトニウム型ですから昭和20年7月にニューメキシコのアラモボウドという実験場で実験をやってから同じものを組み立てて長崎に落としたんです。
 濃縮ウラン型は実験しないで済む。しかも遠心分離機を使った製造法です。小型の遠心分離機を北朝鮮の場合6000台ぐらい使う計画のようですが、普通の建物の中に分散して置けるんです。それをつないでいけばいいわけだから。核兵器を開発している動きがほとんど分からない。特別の施設は要らない。軍事目標にもなりにくい。そういうメリットがある。
 この濃縮ウラン型については、2001年9月11日にアメリカで同時多発テロが起きるまで、パキスタンは一貫して北朝鮮に核技術を提供していた。その中で相当なものが、ノウハウだけではなくて、実際の物質まで行っているということです。同時多発テロの後、アメリカから攻め立てられて、パキスタンはそれまで核兵器の開発の中心人物だったカーン博士を表に出してきた。核の闇市場といわれているやつです。カーンがパキスタンとアメリカにこれを供述するんです。カーンは40回ぐらい北朝鮮に出入りし、核兵器の設計図を渡している。濃縮ウランの技術、ノウハウも渡した。それだけではない。遠心分離機の現物を20台から40台渡した。北朝鮮はそれをモデルに自分たちで6000台ぐらい作るんですが、そのための金属材料をヨーロッパから150トン輸入した。そしてあと200トン輸入しようとしていてオランダの港で当局に押さえられた。
 あるいは濃縮ウランそのものもカーンがある程度渡しているんじゃないかといわれている。カーンの供述によると1999年の段階で北朝鮮に行ったとき、地下施設の一つで3発の原爆を目撃したと供述しています。98年5月にパキスタンが濃縮ウラン型の実験をしたんですが、このデータが北朝鮮に渡っているわけです。
 よく言われるのは、ミサイルの弾頭に核兵器を積むまで小型化するのは技術的に無理なんじゃないかとか、いろいろな説があります。でも、そういう話が議論されていたのは1994年の段階だということを思い出してください。それから13年、北朝鮮がミサイルの弾頭にこれを積んでいてもおかしくない。パキスタンのミサイルがすでに核弾頭を積んでいるからです。
 ミサイルの開発についてもパキスタン、イランと北朝鮮の協力関係は密接だったんです。北朝鮮は弾道ミサイルの発射というのは自分の国からは3回しかやっていないんです。それぐらいの回数の発射実験でミサイルは完成させられないです。その間、イラン、パキスタンの広い国内で発射実験をやって、実験でしか得られないデータを持ち帰って完成させて、またパキスタンとイランに買ってもらって外貨を稼いできている。パキスタンのガウリが積んでいるのだから、ノドンも積んでいるとみなすべきなんです。


尊敬するに足る日本に

 彼らも相当冷静に計算して動いてきているわけですから、やはり狙う着地点に落とし込んでいくための戦略が必要だということです。
 例えば小泉内閣の時に2回、小泉総理が北朝鮮に行って、金正日と会って、拉致被害者と家族を取り戻してきた。向こう側はどういう思いで応じたと思いますか。日本に拉致被害者を返す。あるいは拉致事件についてそれなりに認める。一定の謝罪をする。向こうにとってメリットがあるからやったんでしょう。何を向こうは見たのですか。それを押さえないと北朝鮮との外交は出来ない。
 それは実は日米関係なのです。アメリカにとって日本がもっとも重要な同盟国なのです。アメリカは日本が日米同盟を解消することをずっと怖がっています。日本側が考えているのとまったく逆です。だからアメリカは日本のいうことを相当聞くんです。同盟国である限りは。それを北朝鮮は分かっている。中国も分かっている。それで日本ともちょっといい関係を築き始めないとアメリカと北朝鮮の関係を北朝鮮にとっていい方向に動かすことはできない。そういうことを向こうが考えるのは当たり前じゃないですか。
 だから日本としては北朝鮮だけじゃない。中国に対してもそうですが、アメリカから見て最も重要な同盟国であるだけではなくて、尊敬するに足る、一目も二目も置かなければいけない日本に変わっていくということがより日本の安全を高め、北朝鮮との外交を良好な方向に進める基本線なんです。そこのところをわれわれは見ていない。われわれは自分たちの姿を客観的に見ているのかという話なんです。


孫子の誤読

 「風林火山」という言葉は孫子の言葉です。「疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵(おか)し掠(かす)めること火の如く、動かざること山の如し」。武田家は6つあるうちのこの4つしか使っていないんです。
 孫子の中で一番有名な言葉は、『彼を知りて己を知れば百戦して危うからず』です。彼というのは敵。相手のことを十分情報収集しておこう。そして自分のことをわきまえて、戦いにのぞもう。そうすれば負けないという話です。日本は義経の時代からこればっかり言っているわけです。やみくもに相手に対して情報収集しようとする。ところが、孫子のその言葉の2番目のフレーズがポイントなんです。『彼を知らずして己を知れば、1勝1負す』と。相手の情報がぜんぜんない。最悪の事態だ。そんな場合でも自分のことをわきまえて、過大評価もせず、過小評価もせず、戦いにのぞめば1勝1負、半分ぐらい勝てるという話です。
 ここで物事の順序というのが分かるんじゃないですか。相手についての情報を集めることよりも先にやらなければいけないことは自分のことをわきまえることだと。これが日本に欠けているんです。だから孫子を誤読したと私は言っているんです。
 世界の情報関係者がいるでしょう。アメリカのCIAとか、旧ソ連のKGBとか。ああいう情報の専門家の間では共通認識が同じことであるんです。情報というものはそれを取りに行った人間のレベルに応じたものしか手に入らない。
 外交をやるときもそうなんです。己の姿を知るということが大事です。われわれは己の姿を知っているのか。アメリカにとって最も重要な同盟国だといったけれども、これを日本の常識でいうと逆でしょう。アメリカに守ってもらっている。逆らって文句言ったら安保を切られてアメリカは帰ってしまう。えらいこっちゃという話でしょう。その根拠はなんですか。
 根拠もなしに1984年に私が正式に調査するまで、外務省も防衛庁もそう思いこんでいたんです。だから怒るわけです。私が正式にアメリカ政府の許可を得て北は三沢基地から南は嘉手納基地まで行って、基地司令官に聞き取り調査をやり、アメリカの国防総省に資料を出させて、説明させてまとめたら、逆です。日本以上の同盟国はどこにもいない。そして問題なのは、われわれが払っている税金の使い道を民主主義のシステムを機能させて、ちゃんとこれでいいのか、チェックしていれば一目瞭然の話を知らなかったということです。


地球半分の米軍の行動範囲を支える日本列島

 結論からいいますと、日本列島が支えているアメリカ軍の行動範囲は大雑把に言うと地球の半分です。ハワイから西に来てインド洋の西のはずれまで行き、アフリカの一番南の端の喜望峰まで。インド洋のすべてと太平洋の3分の2。その海と沿岸部分で戦うアメリカ軍は日本列島が全部支えています。そして他の国は日本列島の代わりをすることは出来ないんです。だから日本が安保をやめると、地球の半分の範囲で軍事力を支える能力の8割が失われる。そうなってしまったらアメリカの言うことをロシアも中国も北朝鮮も聞かなくなる。アメリカは世界のナンバーワンの座から滑り落ちるんです。
 地球の半分で活動する米軍は、場合によっては巨大な勢力になります。アメリカ本国からも来る。ヨーロッパからも来る。しかも世界の最先端を行く武器で固めているわけです。これを支えられる国といったらアメリカと同じレベルで三拍子そろってなくてはいけない。一つは工業の力、もう一つは技術の力、もう一つは資金、お金の力です。どこに日本と代わる国があるんですか。
 そこなんです。だから、日本列島はアメリカ本土と同じ位置づけです。「戦略的根拠地」といいます。アメリカにとってかけがえのない日本列島をわれわれは自衛隊で守っているわけです。年間4兆8000億円の防衛費を払っている。この中から、他の役所からも少し来ているけれど、6000億円近くの在日米軍のための経費を負担しているんじゃないですか。そのうちの2400億円弱がいわゆる思いやり予算です。在日米軍にかかるお金の7割が日本の負担です。これはアメリカ政府のホームページにちゃんと出ています。向こうは情報公開の国ですから。
 何をおどおどするんですか。アメリカがどれぐらい日本に気を使っているか。例えば駐留しているアメリカ軍が事件、事故を起こした時、日本に対してはことさら気を使っている。事件や事故がきっかけで日本で反米感情が生まれる。最悪の場合は日米安保解消でしょう。アメリカはリーダーでいられなくなる。だから火が起きないようにものすごい神経を使っている。


日本の防衛力

 日本の防衛力、軍事力のことを皆さん、知っていますか。例えば、日本の自衛隊は世界で何番目ぐらいだろうかという話が出てきますが、これはトータルとして強いかどうかが問題なんです。日本はそのランキングに入る条件を備えていないんです。
 それはなぜか。そこを押さえていなかったら議論は全部おかしくなってしまう。集団的自衛権から何から。
 日本とドイツは戦後再軍備をするときに自分の足で立つことの出来る軍事力を否定されました。自前の軍事力は持っては駄目だということになる。
 これは戦力投射能力なき軍事力と日米同盟という言い方をするんです。国としての戦力投射能力は外国を壊滅させることの出来る軍事力を意味します。それは日本もドイツもない。一人歩きできるようにしたら何をするか分からないと思われている。だからアメリカが求めるところだけ世界最高レベルの能力がある。日本でいうと海上自衛隊の潜水艦に対する能力は世界で2番目のレベルでずっと来ました。それから航空自衛隊の防空能力、空の脅威から日本列島を守る能力は、アメリカにとっても根拠地であるから、それを守る能力は高いのが当然だということで、世界で3番目、4番目できた。でも、他はないに等しい。陸上自衛隊はその日本の国土を守る位置づけです。
 今年度の防衛費は4兆8000億円です。そのうち人件費が46%。純粋に軍事力の整備に使うことが出来るのは、全体の30%から35%。この部分が潜水艦に対する能力、あるいは防空能力を高めることで、ほとんど食われてしまうんです。だって世界最高レベルの能力を維持しようと思うと、高性能なやつをいっぱい持たなければいけない。これが現状なんです。これで行くのか、あるいは自立できる方向に行くのか、その議論がなされたことがないんです。


大きなコストとリスクを抱える自立する道

 日本の防衛力はとにかく一部分だけアメリカの求めるところだけ突出していて、後は自立できない。それを日米同盟で補っているというのが現状です。
 現状を押さえて、どっちに行こうかという話をしていない。選択肢は2つしかないんです。1つは現状を維持していく。それをさらに日本の国益に生かすという手口。これが多分現実的でしょう。
 もう1つ、自立する道。これはアメリカが嫌がります。日本がいなくなったらアメリカは、世界のリーダーでいるための条件を失うということもあるし、自立した日本というのは、敵が出来るということでしょう。
 日米同盟なしで、自前で今の安全を保とうと思うと、大きなコストがかかる。大きなリスクと直面する。それを分かった上で、それを選ぶのかという話なんです。
 今と同じレベルで安全を保とうとすると、自衛隊の数は120万人ぐらい。今は24万人です。今と同じように国家公務員としての給料を出していると、人件費だけで年間13兆円。防衛費は全体で29兆円あまりになります。国家予算が83兆円なのに、約30兆円が国防費といったら北朝鮮並みの割合ですが、そういう考え方もある。でもコストをカットしなければいけないから何をするかといったら、人件費カットです。徴兵制です。これをやると年間に20兆円ぐらいのカットになるんです。それでも大きなコストですね。アメリカとの同盟関係はない。心細いからいろいろな選択肢を研究し、その中で目の前に出てくるのは核武装なんです。技術的に言えば何年ぐらいで出来るかとか、プルトニウムを持っているとか、いろいろな議論があります。そんなものはどうでもいいんです。どういうリスクがあるかです。
 核兵器を持つ場合は、巨大な通常戦力がないと駄目なんです。核兵器を守れないじゃないですか。だから通常戦力があって大きなコストを負担しなければいけない。その上に核武装をしようという選択になる。ところが核武装の選択ではまず、NPTから抜けなければいけなくなる。核拡散防止条約の体制から抜ける。そうすると軍事の話ではないんです。民生面が大きな影響を受ける。原子力発電が出来なくなる。
 なぜかというと日本は原子力発電のために核燃料を輸入する。核燃料の再処理を頼まなければいけない。そういったことに関して7つの国と協定を結んでいる。NPTに入っていることを前提にして、国際原子力機関、IAEAの査察を受けて100%透明度を見せている。これを全部やめにしなければいけない。そうすると7つの国との協定も破棄しなければいけない。原子力発電が出来なくなる。そういう話です。
 いいんですよ。それはそれで一つの選択だから。でも、ここまで生活水準が上がっていたら、生活水準を半分以下に落とすなんて話が出来ますか。相当無理ですね。その辺はちゃんと議論をすればいい。


もう一つの選択肢

 もう一つの選択肢は現状をさらに国益に生かすことです。日本はとにかく世界が平和じゃないと、安全も繁栄もないと言いました。日本国憲法の前文は何と言っているか。世界の平和を実現するためにわれわれは行動することを誓うといっているでしょう。それと9条と整合性がないから問題があるんだけれども、あの前文の精神を否定する人は誰もいません。そうであれば少なくとも国連の平和維持活動のような形の平和を実現するために自衛隊を出さなければいけない現場にはフルに出せるということが日本にとっては理想的なんです。
 自衛隊をどんどん出そうとすると、例えば中国や韓国から「日本軍国主義は」という話に今の段階ではなりかねない。しかし戦力投射能力がない。外国を攻めて叩き潰す能力がないということを国が言って、足りないところはアメリカとの同盟関係でいくといえば文句が言えなくなる。必要とされるだけ出していけるようになる。平和を実現するための礎を自衛隊によって固めながら平和が実現するようになれば、それは日本に対する信頼と評価につながってくる。こちらの方がリアリティーがあるということです。
 日本の場合、すぐに戦争をやってドンパチやるだけが軍隊の任務だと思っている人が多い。軍隊の使い方を知らないのかという話になる。軍隊をドンパチに使うときは最悪のシナリオなんです。他の使い方にフルに使わなければ駄目なんです。
 イラク復興支援だって思想がないから説明できないでしょう。
 なぜ復興支援に軍隊が必要なのか。これははっきりしています。復興支援は民間が中心にならないと出来ないんです。建設会社が行き、電力会社が行く。しかし、イラクはとにかく秩序が崩壊して治安も悪い。民間はまだ行けない。民間が行けないからといって復興支援をやらずにいると、復興が進まなければ混乱は進むし、それをよいことにして危険が世界中に散らばる可能性がある。危険が多少なりともあって民間が行けない場合は、危険に耐えられる能力を持った組織を持っていって、危険に耐えながら復興支援の足場を築き、出来るだけ早く民間にバトンタッチするというのが、先進国に共通した考え方なんです。危険に耐えられる組織は軍隊です。日本で言えば自衛隊です。


日本の集団的自衛権

 安倍さんが議論しようといっている集団的自衛権だっておかしな話なんですよ。例えばアメリカと日本は同盟関係を結んでいる。日米安保です。アメリカが攻撃された。日本は攻撃されていない。そんな場合でも日本は権利あるけれど、集団的自衛権は行使しないとか、政府統一見解になっているからやらない。また、助けに行かないのは肩身が狭いという話でしょう。
 この話は全部おかしいんです。権利があるけれど行使しないなんてヘンな話だけれど、仮に行使するといっても今の現状では助けに行けないのです。戦力投射能力がないから。あるいは北朝鮮が仮にアメリカを攻撃する能力があってやった。日本は攻撃されていない。アメリカの同盟国として北朝鮮を叩き潰すために能力があるかといって、それはないんです。竹島を巡って韓国の空軍と海軍と戦って勝つぐらいの能力はあります。
 しかし、戦略投射能力というのは最悪の場合は50万人規模の陸軍を北朝鮮に上陸させて占領してしまうという構造に陸軍も海軍も空軍もなければ駄目なんだと。それはないんです。ですから今言われている議論は成り立たないんです。
 自立した軍事力、戦略投射能力を日本が持つということはアメリカが嫌がっている。アメリカの同盟関係がある以上は、それは持てないんです。じゃあ選択肢は、あと2つぐらいしかないじゃないですか。アメリカにとって必要不可欠な日本列島を自衛隊で守り、在日米軍経費を出して、日本の周りでは、日本の防衛という意味では米軍と一緒に戦闘行動をする。これをもって日本の集団的自衛権とする。
 あるいは国連憲章第51条は、とにかく国連安保理事会がその平和を実現するために機能するまではどこの国にも集団的自衛権も個別的自衛権もあるといっている。だったら安保理事会が機能した状態とはどういったことか、ちゃんと定義して、その段階までは、日本の周辺でアメリカと戦闘行動をとるし、安保理が機能したら活動を停止する。それをもって集団的自衛権とみなす。という言い方も出来る。それしかないんです。
 しかし、日本の議論というのはそういった話にならないのです。例えば北朝鮮の場合もそうです。つぶさないために6者協議をやっているといったけれど、それでもつぶれてしまう場合があるわけです。この間政府が研究した結果を出したんですが、最悪の場合10万人から15万人の北朝鮮の難民が日本に来るというわけです。それを受け入れる施設を整えるのに1年ぐらいいると思うから、出来るだけ第三国に出そうという話なんです。
 それはそれでいいですよ。ただもっと大事な議論がないじゃないかということを、この間も総理大臣官邸で言ったんです。それは難民を出さないためにはアメリカ、韓国、中国と話し合って、手を打っておかなければいけないんです。それは難民が使う可能性のある船を全部燃やしてしまう。破壊する。あるいはそれでも出てくるものは、海の上で何重にもブロックして出さない。それは特殊部隊が難民に混じって来ますから。それだけではなくて同時に北朝鮮の一般国民が飢えないように、病気で死なないように、100カ所以上のお助け小屋、救援センターを国際赤十字と協力してあっという間に展開して、食料と医薬品を行き渡るようにする。そういったことをやりながら日本側の難民受け入れ態勢の不備も整備しなければいけないじゃないかと言ったら、そっちの側は日本の官僚機構では出来ないんですと、警察庁のトップが言ったんです。


日本版NSCの整備

 そこのところを整備しようというのが、今の安倍内閣なんです。どういうことか。今総理大臣のいる首相官邸の能力を上げて、国の司令塔をつくろうという動きが進んでいます。間もなく国会に法案が出ます。これは国家安全保障に関する官邸機能強化会議、日本版NSCというのが出来る。私もそこの委員でやってきたわけです。
 ただこれは、安倍さんたちは分かっているけれど、議員の人も後ろにいるキャリア官僚たちも分からないところがあるから、整理をしなければいけなかった。で、私は冒頭に言ったんです。とにかくここにいるキャリア官僚は日本の受験競争の勝ち組ばかり、優秀だと。この人たちに任せておいて全部オーケーだったらこの会議はいらない。ぜんぜん駄目だからこの会議が必要なんです。
 しかし駄目だといっても官僚がアホだという話ではない。官僚や官僚機構は日本だってアメリカだって限界がある。それを乗り越えるのは政治の仕事なのに、政治が官僚は優秀だという錯覚のもとに丸投げしていて、機能しなかったから懸案がいっぱい残っている。それを直していこうというのだから、という話から始まっています。
 ある問題が生じた。解決しろといわれると、官僚は優秀だから80点ぐらいの答案はすぐに頭に浮かぶんです。ただそれを実現しようと思うと、自分の役所だけではできない。4つ、5つ、6つの役所が同時に動かないと出来ない。それをやらせることが出来るのは、政治でしょう。政治がそれをやらない限りは自分の役所の責任と権限の範囲で答案を書かざるを得ない。だから日本の官僚が書いてくる答案は100点満点の20点が多いのです。
 難民の問題だってアメリカ、韓国、中国と話し合って難民を出さないようにしろとか、お助け小屋をつくれとか、そういう話にならないわけです。彼らは分かるんですよ。ただそういうふうに動かない。それをやろうというのが国家安全保障会議なんです。
 官僚機構は政治がリードしてやらないと持てる能力を発揮できません。あるいは内閣情報室、公安調査庁、警察庁とか、防衛省とかいろいろ情報機関があります。最後に情報のお客さん、クライアントは内閣総理大臣です。クライアントがどういう情報が欲しいかという情報要求というものを的確に出せないと情報機関は機能しないんです。官僚機構をリードし情報要求を出すためには司令塔が頭脳としてのシステムを小さいなりに持っていないと駄目なんです。それが今までなかった。
 それを20人以内ぐらいの規模で作っていこうと。そこの事務局員というのは自衛隊でいうと師団長が来るわけです。その下にいっぱい付いてくるわけですよ。そういったものがようやくできるということです。大きな一歩です。
 海に守られてこれだけ安全な島国で、素晴らしい能力を国民的に身につけることが出来たし、文化もすごい。後は欠けている所だけきちんと見据えて、克服する手立てをちゃんとやればいいんです。それをやれば鬼に金棒。強がりを言ったり、気づかなかったりすると、それがアリの一穴になるということです。ようやく鬼に金棒の方向に歩みを踏み出したということです。



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