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時局講演会 平成20年3月21日

「今のアメリカがわかる〜大統領選挙が決める米国の行方」
渡部恒雄氏 三井物産戦略研究所主任研究員

略歴

渡部恒雄氏 三井物産戦略研究所主任研究員
渡部 恒雄

東北大学歯学部卒業後、歯科医となる。しかし社会科学への情熱を捨てきれず米国留学。1996年よりアメリカで最も影響力がある外交安全保障シンクタンク、ワシントンDCのCSIS(戦略国際問題研究所)・日本部客員研究員となり、主任研究員などを経て、03年からは上級研究員として、日本の政党政治、外交政策、日米関係の分析を担当。05年帰国、三井物産戦略研究所で、南北アメリカ、日米関係、安全保障政策の分析、研究に携わる。民主党最高顧問、渡部恒三衆議院議員の長男。


 サンフロント21懇話会と静岡政経研究会が主催する「時局講演会」が3月21日、沼津市魚町の静岡新聞社・静岡放送東部総局ビル「サンフロント」で開かれ、三井物産戦略研究所主任研究員の渡部恒雄氏が「今のアメリカがわかる〜大統領選挙が決める米国の行方」をテーマに講演した。渡部氏は民主党の最高顧問渡部恒三氏の長男で10年間にわたるワシントンのシンクタンク研究員としての経験をもとにオバマブームを巻き起こしているアメリカの現状と大統領選の動向を語り、「オバマブームの根底にはやはり、アメリカを変えたいという国民の気持ちがある」と解説した。


歯科医からワシントンのシンクタンク研究員に

 略歴に東北大学歯学部卒業とあります。歯医者が何でアメリカの政治を話すのか。解説をちょっとさせていただきたいと思います。
 おやじは政治家ですが、おふくろは歯医者で福島県会津若松市でまだ現役でやっています。親孝行のつもりで歯学部に行き大学を卒業する頃におふくろにうちに帰ろうと思うと言ったところ、患者さんも少なく、私一人でやるからいいといわれました。1988、9年ごろで、バブル経済の絶調で、日米貿易摩擦、日本バッシングが起きた時代です。うちのおやじはずっと通商畑の仕事をやっていまして、その時おやじが話してくれたのは、日本の政治経済がこんなにうまくいった例は歴史上にもないだろうと。経済成長を見事に成し遂げ、しかもその過程で貧富の差を作らなかった。これは特筆すべき点だと。ただし、日米貿易摩擦が心配だという話をしました。
 私はもともと留学したかったんです。そこで「ちょっとアメリカを見てきていいかな」と言ったら、おやじは余り英語がしゃべれないので、英語が少しはしゃべれるようになって来いと言われまして、行ったのが1989年。私は結局、それから15年間アメリカにいて帰ってきたのが2005年、3年前です。
 私はニューヨークのニュースクールフォーソーシャルリサーチという大学で政治学の修士号を取り、折角だから働いてみようと働くわけです。働き先はワシントンにあるシンクタンクCSIS、戦略国際問題研究所というところです。
 そこで10年間働くことになりました。激動の時代です。世界の歴史の中でも忘れられない2つのことが起きました。2001年9月11日、同時多発テロです。今ちょうど5周年ということでテレビ、ラジオでやっていますが、2003年にイラク戦争が始まった。こういうアメリカの状況をアメリカの政策を作っているワシントンで身近に見てきたものですから、何としてもこういう経験を日本の皆さんにお伝えしなければいけないと「今のアメリカが分かる」という本を出しました。特にシンクタンクに正式な社員として10年間働いた、そういう日本人はあまりいないんです。


政権交代を支えるシンクタンク

 アメリカのシンクタンクは、アメリカの政府のためのシンクタンクと思われがちですが、違うのです。アメリカという国、社会のためのシンクタンクです。その証拠にこういうシンクタンクはほとんど日本でいうNPO、非営利団体で、民間の寄付などで成り立っており、アメリカの社会のためにやっている。
 政府べったりというところも多少ありますが、そういうところは少なくて、むしろ政府に対して違う考え方を出す。ですからシンクタンクが研究したものの行先は政府ではなく、むしろ議会なんです。議会に対してこうやって政策を直しましょうと言っているのですが、ものすごく政府に影響力がある。それはなぜか。アメリカのワシントンの構造と関係しているのです。
 ワシントンの政権交代のシステムは世界のどことも違います。それが実はシンクタンクが影響力を持っている理由です。何が違うかというと、政権交代した時の人の出入りの大きさとか幅が違うんです。アメリカでは政権交代すると3000人規模で交代するといわれています。日本の政権交代を考えてみてください。基本的には内閣総理大臣が代わる。大臣が全部代わる。それと共に代わるのは副大臣、政務官までです。総勢100人も代わらないんです。
 アメリカは役所の局長級まで全部代わります。アメリカでいう事務次官というのは副長官、局長級は次官補といいます。さらにその下まで代わる。次官補代理、日本でいえば局の次長、審議官。偉い人はみんな代わってしまう。
 アメリカの場合は、4年に一度、民間から政府に入る。政府にいた人は民間に入る。行ったり来たりぐるぐる回るわけです。こういうのを称して「回転ドアシステム」といいます。これが実はアメリカの政権交代の重要な機能なんです。
 役所の重要な仕事をつい最近まで民間にいた人がやれるのかと思うでしょうが、実はすぐにでも役所で使える人たちをプールする機関があるんです。それがシンクタンクというところです。もちろん大学や民間企業からの人もいます。
 シンクタンクという政策を研究するところで働こうと思う人たちは、日々自分の専門の研究をします。そして4年後政権交代があったら、その時はステップアップして頑張ろうと。こういう人たちの一団がワシントンのシンクタンクにいて日々政策を研究している。
 アメリカでは政権交代すると前の政権を一気に否定して新しいことをやるんですが、ある意味いいことでもあり、悪いことでもある。いいことであるとすれば、今までブッシュ政権が引きずっているマイナスのものを一気に変える可能性がある。日本の場合はそういうものがないですから、いいところは安定している。悪いところは本当は変えなくてはいけないところをいつまでも変えないところです。


ジョン・ハムレとゼーリック

 具体的に見ていきます。私がいたところはCSIS、戦略研究所です。シンクタンクもそれぞれ共和党に近いところ、民主党に近いところといろいろあります。CSISはちょうど真ん中なんです。政策を真ん中にしているのではなく、民主党の人と共和党の人を均等に取っているということです。だから回転ドアで人の入れ替わりがよくあります。
 今の所長はジョン・ハムレといいます。彼は所長になるまではクリントン政権の国防副長官、ナンバー2をやっていました。彼が2000年、ブッシュとゴアの2人で選挙をやった政権交代の年にクリントン政権からCSISという民間のトップに来ました。
 それまで所長をやっていたのは、ライス国務長官の下で国務副長官をやっていたゼーリックです。ゼーリックは、今、世界銀行の総裁をやっています。ゼーリックが2000年の選挙の時にCSISを辞めた理由は明確で、ブッシュ陣営の外交問題のアドバイザーとして選対に入りたいということで辞めてしまうんです。めでたくブッシュが当選しますとゼーリックはUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)の通商代表という閣僚級のポジションで入閣するわけです。そして第2次ブッシュ政権では国務副長官になりました。この時ゼーリックは恐らく国務長官、あるいは財務長官の両にらみで国務副長官の席にいたんです。なぜかというとその当時国務長官のライスが2004年の選挙でひょっとしたら上院選挙に出るといううわさがあって、そうなると昇格で国務長官になれます。それから財務長官が代わるという噂があった。そうなると財務長官になれます。私はゼーリックと一緒に仕事をしていましたからよく知っていますが、彼は国務長官になりたかったんです。ところがゼーリックは、ライスが国務長官に残り、ポールソンが財務長官になると、もう口はないということで、逆にポールソンがいたゴールドマンサックスに重役として入るんです。
 ところが本当に人事というものは分からないもので、イラク戦争を主導したオルフォビッツという国防副長官が世界銀行の総裁をやっていたんですが、いろいろ内部でトラブルもあり、自分のガールフレンドを世界銀行で雇って優遇したと。それで身内優遇人事を問題にされて最終的には世界銀行総裁をクビになってしまうんです。その後釜としてゼーリックが世界銀行の総裁になった。人の出入りというのが、ある意味で政策とか政治とかに関わっているのがアメリカです。
 もう1人例を挙げます。ハードリー国家安全保障担当補佐官の下にマイケル・グリーンというアジア担当補佐官がいます。これが実はブッシュ政権の中で知日派のすごく重要な人間です。彼は日本政治が専門でして日本でも暮らしていたことがある。ブッシュ、小泉が非常にいい関係を持ったわけですが、この時日本の事情をよくブッシュに説明したのがマイケル・グリーンでして、この人は外交問題評議会で働いていて、そこからブッシュ政権のNSC(国家安全保障会議)のアジア上級部長になったわけです。そして今、実はCSISにいるんです。日本部長をやっています。彼は日本にいるとき、岩手日報という盛岡にある新聞社で働いていました。


次の政権高官は

 政府の高官にアプローチして仲良くなるのはなかなか難しいんです。ところが4年に1度政権が代わるとシンクタンクの人間が政府高官として入っていくわけです。シンクタンクはNPOですから非営利団体、ですからみんな安い給料で働いているんです。時間もあるし付き合ってくれるんです。こういう人たちと仲良くなっておくと次の政権の高官になる。ですからワシントンに世界中から人を送るというのは、そういうこともあるんです。
 来年、どちらの政権ができるのかまだ分かりません。民主党政権ができる可能性もある。ならば民主党系のシンクタンクと付き合っていればいい。誰と付き合えばいいのか。ブルッキングス研究所のストローク・タルボックという所長はロシア専門家です。かなり大きな老舗のシンクタンクです。ここには次のクリントン政権かオバマ政権になったときに入るような人たちがごろごろいます。例えば、私の友人が多いんですが、イラク戦争5周年ということでテレビに出ていたオハンロン。軍事、安全保障の専門家で民主党政権になれば、恐らく政権に入るだろうといわれています。彼は日米安保にも詳しいので日本にとって期待できます。ブルッキングス研究所は日本との関係も深いです。例えば私のところのボス、三井物産戦略研究所の所長寺島実郎も委託研究員をやっていました。朝日新聞の船橋洋一さんも研究員をしていました。ですから日本にいいんです。
 もう一つ民主党寄りのシンクタンクでいうと米国進歩センターがあります。これはジョン・ポゼスターという所長で、彼はクリントン政権時代の首席補佐官でした。ヒラリー・クリントンに大変近い。彼女の政権ができればポゼスタや彼のところの研究の内容が大いに採用されることになるでしょう。
 では、共和党の時はどうしたらいいのか。本当だったらヘリテージ財団とか、アメリカエンタープライズ公共政策研究所を見ておけばいいんですが、今回のマケインは保守本流じゃないんです。中道です。ですからどちらかといえば保守の右寄りのところとはそれほど関係は深くないんです。むしろ中道のラインの方がいい。では誰なのか。マイケル・グリーン、彼がいま実はリチャード・アーミテージというブッシュ政権の最初の国防副長官とともにマケインにアドバイスしています。ですからマケイン政権ができた時は、あまり無理してアプローチしなくても日本をよく知っている人が入るということです。
 民主党のクリントンの時は明確でして、CSISの上級副所長のカート・キャンベル、彼は上級副所長を一昨年辞めまして去年から新しい民主党のシンクタンクをつくっており、彼が恐らくクリントン政権の時はアジア政策を束ねるといわれております。
 ではオバマは誰なんだと言いますと、CSISにデレク・ミッチェルという研究員がいます。キャンベルと一緒にクリントン政権の時、国防総省にいたんですが、このミッチェルがオバマの場合、入るといわれています。


オバマとクリントンの違いは年齢

 オバマとクリントンの人脈はほとんど同じなんです。何が違うかというと年齢です。オバマは46歳、ヒラリー・クリントンは60歳。キャンベルは大体50歳ぐらいで、50歳ぐらいの人がクリントンにくっついていて、ミッチェルは40歳代前半ですから、そういうような人たちがオバマについている。基本的にはみんなかつてはクリントン政権で働いていた人たちが多いんです。ですから政策面であまり差はないです。むしろ人脈的に若いか、歳とっているか、こういう違いだと考えてもらえばいいと思います。


史上最低レベルのブッシュ政権の人気

 ブッシュ政権の人気は本当に史上最低レベルです。どれくらい低いかといいますと、戦後の歴史の中でブッシュと並んで低い大統領は一人しかおりません。ニクソン大統領です。ニクソン大統領は例のウォーターゲート・スキャンダルを起こしました。大統領再選の時にライバルの民主党本部のオフィスがワシントンの真ん中にあるウォータービルで盗聴され、それを追っかけて行くとどうも共和党のニクソン陣営とつながっている。しかもそこにニクソン大統領が直接かかわっている可能性があり、最終的には大統領の犯罪ということになって、大統領を裁く弾劾裁判所が設置されるというところまで行き、その直前でニクソンは大統領を辞任してしまうんです。ブッシュはこのニクソンと並ぶぐらい人気がないんです。
 アメリカは戦争をしたからといって大統領の人気は落ちません。問題はどういう戦争をやったかということです。恐らく多くのアメリカ人は、特にブッシュに不満を持っている人たちは、ブッシュ政権は国民を欺いてイラク戦争を始めたと思っています。これが実は史上最悪の人気ということになります。


大量破壊兵器口実にイラク戦争

 問題は、イラク戦争は何で始めたのかということです。アメリカは5年前の2003年3月21日、イラクに対して攻撃を始めるわけです。攻撃をする前にブッシュ政権はアメリカ国民に対して何で我々はイラクを攻撃しなくてはならないのかということを説明しました。1月後半の一般教書演説で、ブッシュは「一刻の猶予もない。今サダム・フセインを攻撃しないといけない」と訴えるわけです。
 それはサダム・フセインがアフリカのニジェールという国からウランを輸入しているという情報をつかんだと。ウランを輸入しているということは、当然ウランを濃縮して核兵器を作っている可能性がある。イラクが大量破壊兵器を持ったら大変なんだと。だから一刻の猶予もできないと訴えたんです。ちなみにもうすでにその時点で国連の査察が入って、イラクが大量破壊兵器を持っているかどうか、ずっと調べていたんです。その途中なんです。それにも関わらず一刻の猶予もない。そんなのを待っている間に大量破壊兵器ができている可能性があるから、今攻撃しないと大変だと。
 ちなみにこの時議会はブッシュ政権に対して、イラクに対して戦争するかしないか、任せますという議案を可決しています。ヒラリー・クリントンもこれに賛成票を投じています。


パールハーバー以来の敵からの攻撃

 実はアメリカはこの時点ではイラク戦争賛成論の方が多かったんです。この時のブッシュ政権の支持率は高かった。なぜなのか。これはアメリカ人のメンタリティーとすごく関係しているんです。実はアメリカ人というのは自分の国、北アメリカが外国から攻撃されるなんて夢にも思っていなかったんです。最後にアメリカが一方的に攻撃されたのは日本の真珠湾攻撃です。ところが真珠湾はアメリカ本土ではなくハワイです。アメリカの本土がやられるとは夢にも思っていなかった。
 2001年のテロはパールハーバー以来最大の敵からの攻撃です。それまで国防省しかなかったんです。本土を防衛するという役所がなかった。2001年9月11日以降に合わせて国土防衛省という役所を作るんです。それまではそんなことは考えていなかった。
 冷戦時代、ソ連とアメリカが大量の核ミサイルを向け合って均衡を保っていました。お互いにすくみ合って、核ミサイルだけではなくて通常兵器の攻撃もエスカレートしていくから怖くてできない。そういうわけでソ連とアメリカが向き合った時代というのは、多少の小競り合いと代理戦争はあってもソ連本体とアメリカ本体の攻撃はなく、アメリカ人はこの抑止構造に非常に安心していたんです。
 ところが抑止が崩れたとアメリカが悟ったのが2001年9月11日です。ニューヨークのワールドトレードセンターに働いていた民間人3000人近くが一瞬のうちに殺されたんです。ところがアメリカ人はここでハタと気がついた。報復できないんです。国ではないから。国だったら報復を恐れてこんなことをやらない。相手がアルカイダというテロ組織だった。実際アメリカは報復としてアルカイダをかくまっていたアフガニスタンを攻撃します。
 もし国のリーダーだったらアメリカからの報復を恐れてアメリカに対してちょっかいなんか絶対出せないんです。ところがアルカイダだったら関係ない。
 これは大変だとなったのがイラク戦争を始める前のアメリカ人のメンタリティーだったんです。だからサダム・フセインがもし核兵器を作れば、アルカイダに横流しすることはあると。そうなったら彼らはためらわずにアメリカに使う。であればアルカイダが核兵器を手にする前にその可能性をなくしておけと。これが実はイラク戦争の理屈だったんです。だからブッシュは、サダム・フセインがウランを輸入しようとしていると、訴えたわけです。


イラク戦争に突っ走ったネオコン

 ところがこれも、今冷静に考えればそんなことはないですね。核兵器ってそこら中にあるじゃないですか。サダム・フセインから核兵器をもらわなくてもアルカイダはキム・ジョンイルから貰ってもいい。あるいは旧ソ連、ロシアの周りの国で結構管理の甘いところがあるから、そういうところからかっぱらって来てもいいわけです。
 だから開戦前の2002年の時点で冷静な戦略家は今、サダム・フセイン攻撃を焦るなと言っていたんです。むしろ今やればアメリカは泥沼にはまるから国際的な管理体制を強めた方がいい。そもそもサダム・フセインがアルカイダに核兵器を横流しするわけがないだろと。ちなみにこういうことを言った人はコー・クロフトというブッシュのお父さんの安全保障担当補佐なんです。今彼はマケインにアドバイスしています。
 つまりこういう現実派の人たちは待てよと言っていたんです。なのにイラク戦争に突っ走った人たちはどういう人たちか。ネオコンといわれる人たちでした。彼らはタカ派であまり現実的ではないんです。世界に民主化を広げるとか、人権抑圧を許してはいけないとか、こういう理念が先行する人たちで、直情型といってもいい。だからそういうところが相当引っ張った。
 もう一つ、ネオコンの人たちの特徴としてはイスラエルという国に対して非常に親近感を持っている人たちで、サダム・フセインが核兵器を持ってもアメリカには直接的な危機はあまりない。でもイスラエルにとっては大変です。彼らは核兵器を持ったらイスラエルをすぐ核攻撃する可能性があると。今、アメリカの中でちょっとイスラエルロビーに引っ張られすぎじゃないのというのが、出てきました。こういう話が出てくるぐらいイラク戦争にはイスラエル要素というのもあると思います。
 それともう一つ。一般的に言われていますが、中東の石油、ガスなどの天然資源をコントロールしたいというのがアメリカの中にも強くあります。特に昔はイランがアメリカと近かった。これがイスラム革命によってむしろ敵対的な国になってしまった。石油資源を確保するために重要なアメリカのパートナーというのが今はサウジアラビアとか湾岸の国だけになってきた。出来ればペルシャのあたり、イランかイラクのどちらかを味方にしたいと思っている。そういう意味ではサダム・フセインを追っ払って親米の国をイラクに作るということは長期的な戦略にはかなっていると思っていたんですね。



プレイム・ゲート・スキャンダル

 これはあまり日本では報道されていませんが、アメリカで問題になった一つにプレイム・ゲート・スキャンダルがあります。これは美貌の女スパイが登場する。彼女はバレリー・プレイムといいます。それを取ってプレイム・ゲート・スキャンダルといわれています。ゲートはウォーターゲート以来、アメリカでは大きなスキャンダルはすべてゲートがついています。
 アメリカがイラク戦争を始めた理由は多岐にわたって、そもそも何かというのは簡単に答えは出ない。ただし、戻りますがブッシュ大統領がアメリカ人に対して、これだと言ったのは大量破壊兵器をサダム・フセインが持ったら大変なことになるということでした。
 これが非常に問題になるのは、2003年5月、バグダッドが陥落してある程度落ち着きだしたころ、ジョセフ・ウイルソンという外交官が爆弾発言をニューヨークタイムズにします。「僕はアメリカ政府から頼まれてニジェールからのウランがサダム・フセインのところに入っているかリサーチしました。その結果、根も葉もないガセネタだということが分かりました。しかもガセネタだということをブッシュ政権にちゃんと報告しました。したがってブッシュ政権は2003年1月の一般教書演説でウソの情報で我々アメリカ人を戦争に引きずり込みました」と言い出すわけです。
 ブッシュ政権は大慌てになります。なぜなら次の年には大統領の再選がかかっていたわけです。あわてて何をやったか。この時にホワイトハウスがこのジョセフ・ウイルソンの奥さんは、バレリー・プレイムという金髪のCIAの秘密工作員だったということをリークしたらしいんです。そういうことをした人の信ぴょう性を落とすのが一番だと。どうすればいいか。例えば奥さんがCIAだと言えばいい。CIAという組織はアメリカでも陰謀する組織だと思われていますから、あの人の奥さんはCIAといわれると結構ダメージは大きいです。


ブッシュ政権の不人気の理由の本質

 さすがに秘密工作員の身分をばらすことは重大な国家機密の漏えいですから、これは大変だと。アメリカは独立検察官というなかなかいいシステムがあって、政府の人間を裁くためには特別な検察官がいるんです。フィッツ・ジェラルドという検事が任命されてホワイトハウスの人間が調べられるんです。一番のターゲットになったのは、ブッシュの懐刀のカール・ローブという人で小泉首相の飯島秘書官のような役割です。カール・ローブは早い段階で疑いが晴れて、次にターゲットになったのはチェーニー副大統領の首席補佐官をやっているリビーという人です。
 ちなみにイラク戦争を主導したのはチェーニー副大統領とラムズフェルド国防長官、それとネオコンの人たちです。むしろパウエル国務長官とかアーミテージ国務副長官はイラク戦争阻止に動いたんです。この辺でブッシュ政権は亀裂が走るんです。
 そのチェーニー副大統領の懐刀のリビーがどうもこれをやったといわれているんです。最終的にどういう決着がつくかというと、限りなくクロに近いグレーで終わるんです。リビーには有罪判決が出ます。ただしこの有罪判決は秘密漏えいではなくて司法妨害、偽証です。
 これが2005年、2006年、2007年までのアメリカです。その間に、イラクに行って死んでいるアメリカ兵は2000人から3000人。今は4000人近くになっている。もちろん身内、あるいは知り合いの中で死んでいる人がいます。何でこんなにいい加減な理由で俺たち戦争をやって、しかもウソをつかれて、ということになります。これがブッシュ政権が非常に人気のない理由の本質のところです。アメリカ人というのは、納得した戦争だったら支持するんです。納得しない戦争だから支持しないんです。


最もブッシュから遠い人を選ぶ大統領選

 それでは今度の大統領選挙はどうなるのか。当然のことながら有権者は共和党も民主党も最もブッシュから遠い人を選ぶことになります。それで今残っている人たちはみんなブッシュから遠い人たちなんです。有権者の70%以上の人がアメリカは間違った方向に向かっていると考えています。ということは早く今までのアメリカの方向を変えてくれる人が一番です。それで当然共和党は人気がなくて民主党になる。ですから今ヒラリー・クリントンとオバマ候補に人気が集まる。それから共和党のマケインに人気があるのは、実はブッシュと一番遠い人だからなんです。彼は1匹狼で中道派、しかもブッシュとは2000年の大統領選挙では非常に感情的になるまで選挙運動をやったライバルでもある。
 そもそもマケインという人はどういう人かといいますと、マケインはお父さんもお祖父さんも海軍の職業軍人でした。彼自身も海軍に入った。特にお父さん、お祖父さんは海軍大将になっている。マケインはベトナム戦争にパイロットとして従軍していた時に北ベトナムに撃ち落とされてハノイで捕虜になるんです。ハノイには拷問が横行している非常に過酷な収容所があって、アメリカ人はハノイヒルトンホテルだとジョークで言われるぐらいの収容所があって、ここで捕虜になっていました。
 ちょうどそのころ、マケインの父親が太平洋軍の司令官、つまりベトナム軍と戦っているトップの司令官になるんです。その情報をつかんだベトナム軍は、マケインに帰っていいよと。そこでマケインは何をやったか。「出るには順番がある。何で俺が先に入ったやつを差し置いて出れるんだ」と言って残るんです。当然捕虜収容所は拷問が横行していますからマケインもずっと拷問されて、今もその影響が残り、手が十分上がらないんです。最後まで順番を守ってぼろぼろの姿でアメリカに戻るんです。当然、アメリカ人はこの話を知っています。だからアメリカにとってマケインは国民的な英雄なんです。
 それが政治家になって2000年の大統領選挙でブッシュと予備選をする。この時にはマケイン旋風が起こりましたが、結局組織力と力に勝るブッシュが最終的には勝つんです。それ以来ブッシュとマケインの間は感情的にはずっと崩れていたんです。
 マケインは実は中道派で保守派が嫌っているんだけれど、彼が残るということはいかにブッシュと違うところを国民が望んでいるかということの証拠でもある。問題は、マケインは70歳を超えていますから弱点は歳を取っているということです。ただマケインの中道派のぶれない魅力、安全保障に強いところは、やはり魅力があります。


オバマブームの根底にあるもの

 では激戦の民主党は、オバマ、ヒラリー、どちらが勝つのか。そもそもオバマ候補がここまで強くなるのは、何だろうか。
 オバマは46歳です。しかもまだ上院議員としては1年議員で、しかも黒人です。これは全部ブッシュにないところです。アメリカ人は一刻も早く今までのブッシュ政権でやったことを取り換えたいわけです。つまり世界中にアメリカは変わったと思わせたい。変わったと思わせるには何がいいのか。これは若い黒人の大統領が出てきたらアメリカも変わったと思いますね。もちろん女性大統領が出て来ても変わったと思うけれども、一番変わったと思うのは何か。これはやはり黒人の若い男が出てきた方がいい。
 オバマブームの根底には、とにかくブッシュが引きずり込んだみっともないアメリカを変えたい。こういう気持ちが強いんです。これがアメリカの中で重要な動きだと思ってください。
 ですからオバマ対ヒラリー、どうなるか分かりませんが、私はオバマが有利だと思っています。そしてオバマが勝ち残れば、オバマ対マケインではオバマの方が有利だと思っています。


イタズラな運命の神様

 ところが政治というのはまだまだ分からない。本当だったら3月4日の予備選でヒラリーがテキサスかオハイオのどちらかで負けていれば、もうヒラリー降ろしが始まってオバマに決まっている。ところが運命の神様というのはイタズラでして、テキサス、オハイオの重要なところでヒラリーが勝ってしまったんですね。これでヒラリー陣営も引けなくなってしまった。
 予備選は6月まで残っていますが、実はこれからの予備選はよほどのことが起こってもどちらかが決定的に勝つことはありません。アメリカの民主党の予備選というのは代議員を過半数取った人が勝ち。アイオワからずっと予備選をやっていますが、代議員数の合計は今、オバマが1415、ヒラリーが1245。指名を獲得するためには2025人取らなくてはいけない。ところが今後の予定では、わずかしかない。常識的に言えば予備選が終わったからといってどちらかが2025取るのは無理です。さらにアメリカの予備選の複雑なところはこの代議員に加えて選挙結果とは関係なく投票できる特別代議員が795人いるんです。
 よほどの奇跡が起きない限りヒラリーが逆転するのは無理ですが、いろいろ工作をして特別代議員を巻き込んでうまくひっくり返すことは理論上は可能なんです。しかし、もしそういうことをやるとアメリカ人はどう思いますか。密室で決まったと文句を言いますね。共和党は喜んで攻撃しますね。こんなのは正当性がないって。このまま泥仕合が続くかもしれない。泥仕合が続けば続くほどニンマリ喜んでいるのはマケインです。泥仕合が続けば続くほどマケイン有利ということになります。


日本の態度が心配

 さて、日本に対する影響はどうか。大体マケイン陣営はマケインを含めて日本は同盟国として重要だと言っています。が、マケインの怖いところは、むしろ期待度が高いことでしょう。みんな忘れていますけれど、小泉、ブッシュで関係が良かったのは何でだと言えば、小泉政権がちゃんと応えたからなんです。つまりイラク、インド洋に自衛隊を送り、あるいはブッシュ政権が一番日本に望んでいたのは、経済改革をして欲しかったんです。規制緩和、それをやりました。だから良かった。逆に言えば、相手がマケイン政権であれば、なおのこと日本が、私は軍事より経済だと思っていますが、日本が効果的な経済的な措置を取らないとなかなか厳しいことになると思います。
 それから民主党になると共和党よりはきついといわれていますが、その部分はそうでしょう。ただし、もう昔の貿易摩擦の時代じゃないんで、民主党は苦手だ、苦手だと言っていると本当になったときに困りますよ。それからヒラリー政権というのは日本よりも中国を大事にしている。日本は無視されているといいますが、その中国等は基本的にはこれから対処していくのが大変難しい。であれば、日本はある意味で頼りになる国なんです。それでオバマ陣営にもヒラリー陣営にもちゃんと日本のことを考えている人たちはいっぱいいるわけで、むしろそういう人たちが日本のこういう態度に驚くんです。クリトン政権で一生懸命日本とのパイプをつないで頑張っていた人が、日本政府の中でブッシュが当選したといってみんなでバンザイしたという噂を聞きつけて怒っていました。俺だって一生懸命日本のためにやっていたのに何ということだと。バンザイしたかどうか本当のところは分かりません。ただしそういう印象を作ったら日本はばかですね。日本はとかくそういうところがあるんです。アメリカが民主党になったら大変だと。共和党だったらいいと。で、民主党になったらどうするんだと。
 この点ではロシア人は絶対にそういうことは言わない。ロシアはロシアの外交をするんだからアメリカがどんな政権でいようが関係ないと。
 だのに日本はそれを表立った理由に見てしまう。かつての日米貿易摩擦と違って、ちゃんと民主党にも日本のことを大事に思って、日本と組みましょうという人はいっぱいいます。その意味では心配しなくてもいい。私が心配するのは、アメリカではなくて日本の態度です。とくに役所はそういうメンタリティーに陥りがちで、それと同じようにメディアは報道しますので、例えばメディアを呼んで共和党はいいよ、民主党はダメだよといっている人がいたらこれは要注意と思ってください。






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