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平成20年度総会 記念講演

「日本経済の展望と地域経済の活性化」
千葉商科大学学長 島田 晴雄氏

経歴

千葉商科大学学長 島田 晴雄氏
島田 晴雄
1943年東京都生まれ。慶応義塾大学大学院修了後、米国ウィスコンシン大学で博士号取得。2004年4月から富士通総研経済研究所理事長。
先の小泉政権下では内閣府特命顧問として政策支援に携わり、現在も財政制度等審議会委員、対日投資有識者会議座長、消費者行政推進委員を務めるなど政府の政策形成にも深くかかわっている。

 伊豆に別荘を持つという島田晴雄学長は「私は静岡には縁が深くて半分住民なんです」と静岡との関係を紹介。「お話したいことが山ほどあります。今いろいろなことが起きていますので、皆さんと一緒に考えたいと思います」と講演を始めた。

景気は悪くなる

 皆さんが、一番関心があるのは、恐らくこの国はどこに行くのか、景気はどうなるのかということだと思います。
 そこから始めたいと思いますが、景気はどんどん悪くなります。今年、そして来年もそうなるのではないかという気がします。もし何かで反転する可能性があるとすれば来年の終わりか、さ来年かという感じです。
 去年までに株を買った人はしょうがないですから、もう健康に気をつけてやっていってください。やがて経済は必ず反転しますから。底値を打てば反転するのが経済メカニズムです。だからいつ底値を打つかということです。落ちるところまで落ちないと反転しないので、何年かはかかると思って、こうなったら株のことは忘れて、早寝早起きしてきっちり歯を磨いて、何ごとにも興味を持って、少しエクササイズして・・・ということです。
 しかし去年買いそびれて今お金を持っているという人は、これは面白いです。とても良いチャンスです。虎視眈々とやってください。世の中には出遅れた方がいいということもあるんです。
 というような経済です。これからは。なぜそうかというと、アメリカがサブプライムというアホをやってくれたからです。返済能力のない人に貸し込んだのはいいけれども、それをいかにも良く見せようと思っていろいろな商品を絡めてヘッジをかけて、証券化商品と称した。何が何だか分からないんです。それをヘッジしてあるから安全だと称するものですから評価会社がみんなトリプルAを付けたんです。中身は分からないのだけれども、それで皆買ったんです。
 日本はちょっと金融技術が遅れているので、なんとなく買いそびれたんです。だから傷が浅いんです。アメリカは深々とキズを負いました。欲の皮が突っ張っていますから。ヨーロッパもほとんどそうで、金融がパニックになって今、世界中がものすごい金余りです。お金を持っているのは機関投資家で、それはみんな人さまのお金ですから今が底だと分かっていれば大儲けですが、底だと思って買ったら二番底というと首が飛ぶわけです。ですからみんな真っ青になっていた。
 3月にベア・スターンズという大証券会社がつぶれました。アメリカは共和党の大統領ですから思想的に公的資金は使わないということですが、そんなことは言っておれないので、連銀が資金を出し、ベア・スターンズを力任せに救ったのです。事実上の公的資金です。そこでアメリカの金融パニックは止まったといわれています。ですからアメリカの株はそれ以降そんなに落ちてはいません。


なぜ日本の株がまずいか

 じわじわダメなのが日本です。なぜ日本の株がまずいかというと、長期的には日本は人口が減るからです。経済というのは人口掛ける1人当たりの生産性です。日本はこれから世界史に前例がないほど人口が減るんでしょう。今、日本の人口は1億2千7百数十万人ですが、2050年の予測ですと中位推計で9500万人、下位推計で8900万人。今まで過去25年間中位推計が当たったためしがない。全部下位推計があっています。下位だと3900万人減ってしまうんです。
 3900万人というと韓国の人口です。それが1世代で減るのだから、何か異常なんです。そういう国は、経済成長はあまりないんです。経済成長がなければ株価は上がるわけがないというふうに世界から見られているんです。


政治不況と政策不況

 しかし人口があまり伸びない国でがんばっているいい国もあるんですけれど、日本は最近とんでもないことになってしまった。ねじれ、政治不況と政策不況。国会がねじれ現状で何も通さないと。日銀総裁も決められない。
 ねじれはどこの国にもある。アメリカだって大統領は共和党で議会は民主党です。ねじれていても国益の時は一緒になる。予算は衆議院だけで通りますが、予算を執行するとなると関連法案が通らないと執行できないんです。関連法案で一番大きいのは何かというと税制法案。ねじれたら党利党略でガソリン税はけしからんと。暫定税率はやめろと。そういうものを政争の具に使わないでくれと思うのに平気で使うから上がったり下がったり、えらい迷惑です。
 ですから世界から見ると、日本は止まったというのです。それだけならまだいいのですが、政策不況というのがある。役人が良かれと思って変な法律を作る。例えば建築基準法の改正といっているけれど私はあれは改悪じゃないかと思います。ヒューザーが鉄骨を抜いたのは悪いです。しかし現場を知らぬ机上の理屈で強化したから建築許可が下りないです。がんじがらめだから。それで私の知っている北海道の世界に知られた立派な建築会社もつぶれてしまいました。
 それからサラ金。多重債務の人がいるからかわいそうだという。かわいそうだから高い金利はダメだと。世の中には自己管理のできない人というのはいるわけです。滞納者が多ければ高金利をかけなくては会社が成り立たないじゃないですか。
  役人が分かっていない。昔の役人はまちを歩いていろいろ研究したから。今はコンピュータばかり見ている。コンピュータを見ていて何が分かるかと。みんな成績はいいんだけれど、全く知恵のない連中です。生活は偏差値ではない。知恵ですよ。知恵は人間を知ることです。
 それから投資家を守るのだという金融取引法。金融にはリスクがありますと。リスクは当り前だろうと。リスクは自分でとるんです。ところが投資する人を保護するために悪くなる可能性があるんですよと30分かけて説明せよというんです。説明してないと営業停止です。お客さんの中には「分かった。俺のリスクでやるからいいよ」という人に「待った」と足止めして30分かけて説明です。だから、証券が売れなくなる。
 エコノミストという雑誌が、ジャパンではなくてよく見たらJAPAINと書いていました。ペインは痛みだから日本痛み。それを読んでどんどん外資が日本から遠のいて株が下がっている。それでなくても長期金利が下がるのに短期にそんなことをやったらどうするのだというのが経済なんです。
 ですから今年どんどん悪くなります。去年株を買った人は一生懸命歯を磨いて健康に気をつけてということです。そこまで悪くなると相当悪くなるから今年、来年は面白い。お金を持っている人は。


今年から来年、マイナスサイクルが働く

 で、世界はどうなるんだと。アメリカはさっき言ったようにいろいろやって、日本よりスピードが速いんです。日本はバブル崩壊後、本当にひどかった。失われた10年とか、15年といわれるけれど、あれはバブルが崩壊してひどいことになっているのに、6年も7年も政策当局が動かなくて、ようやく8年目ぐらいに動いて、竹中平蔵さんが入ってきてしゃか力になってやりました。「あの餓鬼、どけろ」とか、銀行家がいうわけです。竹中さんも金融は素人だからよかった。金融というのは、ようするに人間関係の世界なんです。いろいろなことを知っていると身動きが取れなくなってしまう。竹中さんは理論家ですからどんどんいくわけです。そうしたら銀行の頭取が集まって「竹中を、告訴しろ」といったんですが、逆に、銀行の頭取がやられてしまって、竹中さんはガンガンいった。
 小泉さんがバックにした竹中さんが内閣府の中を歩いていると血塗りの刀を持って歩いている雰囲気でしたね。そういうので改革をやったんです。というようなのが今や全部止まったというふうに思われています。
 アメリカは実は一昨年からサブプライムが問題になっていて去年が一番ひどかった。ただひどくなってからものすごい勢いで銀行にお金を入れている。日本は10年かかったけれどアメリカは半年で入れましたから。しかも今度はアラブとかお金を石油などで儲けて、「ソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)」(政府系投資ファンド)といって、国家投資会社を作るわけです。そこがドカーンとお金を入れる。そんなものもアメリカの金融機関にどんどん入れて、だいたい穴埋めされてしまったんです。ですからアメリカの金融の方は第一次の危機は終わったんです。
 経済の実態は、ケガをしたものだから投資が起きない。投資が起きないと雇用が生まれない。雇用が生まれないと賃金が伸びない。賃金が伸びないと消費が伸びないと、どんどん落ちていく。
 もう前のクォーターからマイナスになりましたから、どんどん不況です。やがて日本に来る。日本のアメリカに投資している会社も、トヨタ自動車ですら売れ行きがどんどん落ちています。そういうことでマイナスサイクルが今年から来年も働くと思って、冒頭に言ったように去年株を買った人は静かにしていると。今年はおもしろい。いろいろなところで反転の可能性がありますから。世界中の猛者たちは今や虎視耽々と、どこが面白いかとやり始めている。そんな時代です。


世界はこれから“ブリックスの時代”に

 さて、ここで申し上げたいことは一つです。日本は小泉さんが頑張ってようやく改革をということで世界からお金が集まって、株価は良くなり始めたところを外のサブプライムで足を引っ張られたんだけれども、それをねじれ国会で止めて、政策不況でさらに悪くしている。このアホはどうしたんだということです。世界がみんな前に行こうと言っている時に日本は歩みを止めているものだから、相対的には後ずさりしている。ますます世界から見放されているという状況で、そうするとわれわれはどうしたらいいか。それを考えましょう。
 世界はすごい勢いなんです。5年前にゴールドマンサックスというアメリカの証券会社の研究所が、世界はこれから“ブリックスの時代”になると言ったんです。ブラジル、ロシア、インド、中国。これらの国は8%から9%の成長率で伸びている。そういうのが伸びているからアメリカがポシャっても大丈夫だという「リカップリング議論」があります。リカップルは分けるんだから、アメリカがポシャってもこちらが良ければいいんだというんだけれども、アメリカの財務長官が違うと。リ・カップリングだと。もう1回一緒になるんだと。なぜか。中国はいいといっても輸出のほとんどはアメリカに来ているんだからアメリカがポシャれば中国もポシャる。インドがいいといってもソフト屋は皆アメリカに来ているんだから一蓮托生だと。この議論をどちらかと見ることによって今後の世界の動きの見方が変わるんです。


1960年代のアメリカを上回るロシアの元気さ

 私は最近ロシアに行ってみました。日本は20年前ぐらいにすごくロシアに肩入れしていました。日本の商社はほとんどあの共産主義のロシアに入って助けていたんです。ゴルバチョフがソ連はデカ過ぎるからロシア人だけでつつましくやろうという考え方で大改革をしました。これをペレストロイカというんです。それまでの共産主義で世界を制圧するという馬鹿な話では駄目だということでやった。
 ゴルバチョフって皆さんよく知っていますよね。世界平和の立役者だと我々は思っていますが、ロシアでは人気どころか売国奴といわれている。ロシアで今、一番人気のある人はプーチンです。
 石油だの資源だのすごい値段がついているのをがっちりと固めているガスブロムという会社があるんです。この会社に全部権益を集中した。そこに若い経営者を据えて、彼の言う通りです。今度それを大統領にしたわけです。ものすごいお金を貯めて、各国に対してまた軍備をして頑張ると。これがロシアで大人気なんです。もうプーチン様。
 私もロシアに昔に行った時は凍りついたような国でもう終わりだと思いました。株価は落っこちているし、資本市場はメロメロで、いわゆるディフォルトというのを起こしてしまったんです。会社でいえば不渡りを出してしまって、もう禁治産国家。しかも潜水艦が沈んで2百何十人も水兵さんが死んで、もう終わりだと思っていたのが、驚きです。
 ファンドマネージャーとモスクワに8日間いたんです。この人は評論家ではない。ロシアファンドを作るために、お客さんのお金を何倍にもすることのできる会社を見て選ぶんです。だから目がもう鷹のような人たちですから面白かったです。
 私が知っているアメリカのもっとも元気のいい時代は1960年代です。ビートルズが売れた時代。ロシアはその時代を上回る元気さです。これはすごいです。町に行くと高級車がバンバン走っている。
私が前に見たロシアは潜水艦が沈んでひどかった。あの時は国も破産して、株価もひどくて。その時の株価から9年間で、何とロシアの株式市場の平均価格は60倍。誰が買ったんだと聞いたらゴールドマンサックスというアメリカの証券会社だと。
 日本はその前に商社が全部助けていた。だけどペレストロイカでごちゃごちゃになってしまったんで全部引いたんです。その間に欧米がどっさり入ってしまった。
 赤の広場に行ってみたらわかります。前は汚い市場だったのが、今行ってみなさい。ガラス張り、ざっと300メートル。日本店は一つも入っていない。全部ヨーロッパのブランドショップです。日本が7、8年間、引いている間に諸外国が全部入っています。今ウクライナの核はアメリカが管理していますからね。そういう時代になっています。
 今は、消費が投資を呼び、投資が技術開発を生むという成長国家の循環に入ったんです。専門的にいうとこれから経済成長です。今までは戦後復興です。


元気なロシアの若手経営者

 一番感心したのは経営者が元気がいい。投資対象の業者をずっと訪ねたんですが、みんな経営者が若いんです。なぜか38歳が多い。何で38歳なのか。どうもこうらしい。ペレストロイカの時にモスクワが大混乱し、旧型の価値観でエリートになろうとした人は全部失敗した。混乱の中で100人に2人くらいは、ぬくぬくと次の時代を先取りするやつが出たんです。
 彼らがすごいベンチャー企業をやっている。代表的なのが、メディアホールディングの社長でロシア版マードックのような男です。人工衛星の電波を配信して地上のシステムを作ってソフト会社をいくつも持っている。1年間に100%くらい成長して今は数千億円の会社ですが、数年で何兆円かの会社になります。独占です。
 彼はジーパンをはいてくるんです。何をやったかというと、まず空軍に入ってジェットパイロットを8年やって、今度は宇宙開発事業団のようなところに入って、ロケットの打ち上げをやって、そのうちにビジネスが面白いといってビジネスに転じたという男です。
 もっと若いファンドのパートナーがいて英語がものすごく上手いんです。クロアチア出身でモスクワで勉強したんだというんです。目から鼻に抜け、何をやっているかというと、ロシアの銀行がいま1200くらいある。それを60ぐらいに集約すると。束ねると値段が上がるんです。その差額をビジネスモデルにして売るんです。そこに殺到するから大儲けなんです。今度は電力でそれをやるというんです。彼はモスクワほど面白い国はないと。昼も楽しい、夜も楽しいと。28歳。今一番興味を持っているのは何だと聞くと、アフリカだという。アフリカはみんな苦労しているじゃないかというと、今のアフリカはスタート地点が低いから成長率は高い。だからもうかるんだと言ってやっている。こんなのが若者の中にたくさんいる。翻ってみると日本はどうなっているのか、ちょっと気になります。


インドの原点

 この間インドに行ったんです。驚きました。実は恥ずかしながら初めて行ったんです。アレンジをしてくれた人が大変な人で、彼はやがて政治家になる見所のある青年でした。ファンドマネージャー10人と行きまして、普通はバンガロールとかソフトの中心のところに連れていくんですが、彼はそれも見せるけれども、まず最初にビハール州に連れて行ってくれました。
 インド大陸は牛タンのようなかっこうをしているでしょう。有名なムンバイ、昔ボンベイといった。何でボンベイといったらイギリス人が発音できないからなんです。もともとはムンバイなんです。東の方にはコルカタという町があるんですが、昔はカルカッタといったんです。
 ムンバイのあるインド東北は人口で9300万人、平均所得は年間200ドル。そこに行こうというんですよ。ちゃんとした空港がないからプロペラ機2機に分乗して行きました。3時間ぐらい乗ると平原が見えてきたんです。アスファルトの道が一条見えるんです。そこが飛行場です。管制塔も何もない。
 土煙を上げて着くと農民がワーと来るんです。私が団長だというんで、次々に花輪をくれました。それからビクラムシラというところへ行くというんですよ。2500年前のお釈迦さまが大学校を作った。その遺跡は見事なもので、最盛期には1万2千人の学生が通っていたというんですから、昔のインドはすごかったんでしょうね。
 インド哲学がありますが、ギリシャも中国も全部インドからですからね。インドから始まった時代があったんですね。しかし今は往時の姿はないです。
 道なき道を車に分乗していったんですが、頭にトウモロコシの木をのせて歩いている。お釈迦様の時代にはガンジス川の水が豊かだったので舟で運んだというんですが、今は頭ですから2500年前より生産性が低いみたいです。
 アレンジした彼がここに連れてきたかったという。牛や馬より生活水準の低い一億人ぐらいの人がいる。これがインドの原点だと。この人たちを良くしなかったらわれわれの政治家としての使命がないというんです。


アジアの中心目指し開発

 次にインドを斜め切りにして西南のムンバイに行くとどんどん元気になっていて、すごいことをやっている。
 なんと42歳で行商人から財閥になった人がいてインドの西海岸に港湾工業区を造っています。そこにジープで行ったんですが、広大なところに空港と鉄道と港湾を造っている。これからインドの中心になるんだといいます。「ここの空港から西に1時間半でドバイだ」というんです。中東の石油の産地が目と鼻の先にあり、ここはアジアの中心になる。スケールが大きいです。300平方キロあるというんです。大阪市が230平方キロだそうです。あと5年ぐらいして行ったらものすごい都市が出来ているんでしょう。
 何でインドがそんなにすごいかというと、11億人の世界最大の民主主義国なのですが、平均年齢が25歳。日本で言うと昭和27年で、日本はその後高度成長した。なぜ。経済は人口掛ける生産性ですから若い人間がいて頑張れば成長してしまいます。
 中国はもうピークを越しています。インドはこれから。われわれはそういう国々とやっていかなければいけないんです。


気概をなくした日本人

 日本の現状は何かというと政治不況と政策不況です。それだけではなくて、私は最近日本人の気概がなくなったと。気概の喪失こそ深刻だと思います。
 最近気になることがあるんですが、工場の事故がやたら多いんです。それから鉄道事故なんか昔はなかった事故が多いんです。
 昔の日本の勤労者はすごかったですね。日本の勤労者は、安全は当り前でした。あるとき鉄工所に行ったんです。現場作業の作業長に聞いたんです。「あなたが一番気にしていることは何ですか」と。そうしたら「私の後継者が育つかだ」と言ったんです。私は経営者と話しているのかと思いました。日本の勤労者、中卒、高卒の人は、そういうメンタリティだったんです。
 その当時、私はアメリカの工場を見て歩いたんです。でかいクライスラーとか。そうしたら、アメリカはでかい工場だから駐車場に2000台ぐらい勤労者の車が止まっているわけです。生産ラインでみんな生産している。ある時、白いスポーツ型のキャデラックで、昔ですから手ですっとワインカラーの線を引いて格好良くしているわけです。女の作業員が大きな筆と物差しで描いていましたが、午後4時になったらベルが鳴り、交代です。そうしたら仰天です。その人が突然、定規を放したんです。白い塗料が車にあたってべとべとになっている。彼女は自分のセーターか何かを持って駐車場に急いでいました。いの一番に出ないと駐車場を出るのに1時間ぐらいかかってしまうから。そういう勤労者を抱えた国だったんです。アメリカは。
 今はトヨタ方式が浸透しているからそういうことはないんだけれど、日本の方がおかしくなってしまった。皆、気概がないのです。
 昔の日本人はもっと違っていたと思います。どうしたんだろうと。多分これかなと思うのは、昔は誰が言わなくても一つの目標があった。先進国に追いつきたい。豊かな生活をしたい。頑張らなきゃあと思ったんです。
 ところが1993年に日本はアメリカの所得を超えた。それから日本が変わったと思うんです。学生たち、子どもたちは、本能的に知っている。「俺たちはアメリカより豊かなんだ。勉強しろ。何のためだ」と。
 どうしてこんな日本になってしまったのか。一番重要なのは、何のために、何をするかということなのです。目標が見えなくなった。この国に目標がないのか。これを皆さんと考えてみたい。


アジアの田舎になるのか

 私が学長をやっている千葉商科大学は今、6500人の学生がいて、そこに350人の中国人が来ている。彼らはまだ頑張りますよ。やはり気迫が違う。なんで中国人は頑張るのか。これは日本みたいになりたいからです。日本はそれを達成してしまったからどうするんだと。もう日本には人々を鼓舞する目的はないのか。私はあると思うんです。
 一昔前、日本は何かあると金でかたづければいいというんだけれど、もうそんな払うお金は日本にはないです。昔は断然世界の援助トップ国でした。今は5番目で、もっと落ちてきている。日本は何しているといわれている。1993年、これがピークです。この時世界に300の国があって、日本の世界におけるGDPは14%です。アメリカは25%。2つ合わせたら4割です。G8といっているけれどアメリカと日本で世界は仕切れた。たった10数年前です。
 それが去年、最新のデータが分かった。2年前のデータですが、日本の世界における比重が9%になった。人口がその間、300万人増えているんです。増えていて小さくなった。なぜか。失われた15年とかいってもたもたしているからそういうことになった。他の国は7%、8%伸びている。
 これから人口は減るのです。あと20年すると日本は5%、4%になる。世界の小国です。かつてスペインは世界を支配した。艦隊は天下無敵だった。それがイギリスに叩き潰されて、今はヨーロッパの静かな田舎でしょう。もっとすごかったのはポルトガルです。あれこそ世界を支配したんですが、今はヨーロッパの田舎でしょう。日本もほっとけばああなる可能性が非常に大きい。困るじゃないですか。


人口減少と高齢化

 とにかく人口は小さくなっていくんですが、それでもいい国だ。素晴らしい。楽しいと。こういう国をつくる必要があるじゃないですか。
 どうしたらいいのか。国内の問題は4つほどある。これに打ち勝たなければいけないんです。これから人口減少と高齢化でいろいろな問題が起きます。国会が止まっている場合じゃないんです。
 まず問題は財政赤字です。労働力が減っていくわけです。日本の人口は今、1億2800万近くあるんだけれども、40年で人口は9000万を切るんでしょ。そうしたら労働力は2500万人ぐらい足りなくなります。
 それから貯蓄率が下がっています。過去15年を見るだけでも日本の貯蓄率はトップから世界最低の方になってきた。どうしてというと、原因は高齢化です。60歳以上のご家庭の貯蓄率はマイナスなんです。年金生活に入ると年金じゃ足りないから貯蓄をおろすでしょう。こういうご家庭が増えている。
 貯蓄率はかつて世界最高だった。たくさん貯蓄があるから、日本はその貯蓄を銀行が企業に貸して高度成長した。過去15年、日本は大赤字ですが、貯蓄があるからそれでもって銀行が国債を買って世界から借金しないでやってきた。ところがこの7、8年、貯蓄率はつるべ落としに減っています。では、どうするという問題です。


地方が空洞化する

 それから全国各地の地方が空洞化を始めている。人口が40年で3千何百万人減るわけですから。減らないのは東京と横浜と何と滋賀県が減らないといわれている。それから名古屋、石垣島と宮古島、あとは全部減る。北海道なんか激減します。東北も北陸も九州も大阪も静岡も人口が減るといわれている。
 このまま放置していいのか。いいわけないです。このまま放っといたら地方はえらいことになります。地方がアウトになると何が起きるかというと、地方は食料の供給基地であり、人材の供給基地で、自然を守ってくれているでしょう。地方がダメになったら大都市は根なし草ですから、なんとかしなければいけない。こういう問題が一斉に起きるんです。全部、人口減少、高齢化の結果なんです。これは克服しないといけない。


財政赤字のポイントは社会保障

 克服できるのか。まず財政赤字。財政赤字の最大のポイントは何か。これは社会保障が8割原因です。年金、医療、介護。これは全部高齢化だから起きている。
 ただ世界の他の国だって高齢化している国はたくさんあるのに、なぜ日本は高齢化すると全部が崩壊するんだと。これは設計が悪い。年金の問題を見ればすぐにわかります。今、年金はどういうふうにしたら貰えますか。4万円拠出したら17万円もらえるじゃないですか。どうしてそんなにもらえるのか。若い人がいるからという。
 今、61歳になった人は226万人です。今年20歳になった人は120万人。1年生は110万人、今度生まれる子は85万人です。年金で年寄りの分を支えてくれるわけがないんです。
 どうすればいいんだと。年金問題はいろいろあるけれど、一番大きいのは続けられるかということなんです。いま議論されているように税金にしたらどうか。税金方式でいくらとして、あとは自分で積み立てればいいと。今、6万5000円とか言っているんですが、私は高過ぎると思います。3万円でいいじゃないですか。後は、ぜいたくしたいなら自分で稼げばいいじゃないですか。そうすればOKですが、問題はこういうことを言って通るかです。福田さんが言っても小沢さんが言っても選挙で壊滅しますよ。ですから日本で正しいことを言えるのは島田しかいないという世界です。国民がそれを受け止めればOKです。そういう改革をしていくということです。医療も介護も皆同じです。
 それから人口が足りない。子育て。全部追いつかない。では、答えはあるのか。あるんです。生産性。日本は6800万の労働力があるけれど、農林水産、サービス、流通、建築、建設、この生産性がものすごく低いんです。高いのはモノづくり。トヨタとかソニーとか中小企業も高い。ここは何で生産性がそんなに低いのというと競争がちゃんと行われていない。
 何十年か前にトヨタがGMに勝つ時にどうしたか。アメリカ人は体がでかい。労働組合がうるさいから旋盤は1人に1台です。トヨタは体は小さいがアメリカに勝ちたいと、1人のワーカーが5つの旋盤。できるか。ステップを全部決めて、まるでタンゴを踊るように5つを使う。それでトヨタは勝ったんです。寝ている人なんかいるわけがない。そういうふうに建設でも農業でもやれば生産性はがっと上がる。それを20年かけてやるんなら簡単ですよ。2千5百万人ぐらいの労働力は簡単に節約できる。


高齢化のプラス面で地方を元気に

 最後に申し上げたいのは、これは地方の空洞化をどうするか。地方は不利なんです。だから地方は今まで交付金と税制優遇と補助金と入って、しかもちょっと賃金が安いから工場を誘致して何とかやってきた。ところがいま財政難だから交付金も補助金も全部ダメ。工場誘致は中国に行ってしまう。地方はどうすればいいんですかと。
 最後にものすごい手があるんです。これは高齢化の大プラス面です。みんな年を取ってくると何が一番気になりますか。健康でしょう。健康の3要素は薬でもお医者さんでもない。長野なんか一番お医者さんは少ないけれど寿命は長いんです。きれいな空気、きれいな水、ストレスのない静けさ。これが健康の3要素です。
 どういうところにあるのか。これは簡単ですよ。寂れていればいいんです。しかし寂れているだけでは暮らしにくいから人は来ない。便利に楽しく暮らすというとすぐに住宅団地をつくるというけれど、それはダメです。住宅団地は、絶対つくってはいけません。なぜか。日本は4700万の家庭があって5千500万の家があるんです。800万戸も住宅が余っている国は日本だけです。つくらないで流通させる。こういう家があるということを人々に教える。そうすればOKなんです。
 病院がないというんだけれど、地方にもお医者さんはいるんです。車で30分行けば必ずちゃんとした病院に着きます。全国に1万の病院と10万の診療所があるんです。介護施設は地元の建設業者がやればいいんです。そういう生活インフラを、金を使わないで知恵を使ってつくる。そして空気がきれいだ。水がきれいだ。静けさがあると。日本全国いろいろありますけれど、一番恵まれているのは静岡県だと思います。静岡は温泉はある。海はある。最高です。ただ海の使い方が下手です。


ストーリーを作ろう

 こういうふうにしませんか。漁船が夜中の12時にライトをつけて出て行き、漁をして朝の4時に帰ってきて魚を市場に出す。それから後は漁船が遊んでいるじゃないですか。あの漁船をなぜ2交代で使わないか。朝の9時にお父さんを乗せて漁に出る。子どもたちがお父さんがんばってと見送る。1時間ぐらいして帰ってくればいいんです全部お金をいただくんです。観光漁業だから。
 帰ってきたらお父さんブリを取ったよと。取れなくても水槽の中に入れておけばいいんですから。そして「これがブリっていうんだ」と見せる。お父さんが3枚におろすよ。子どもがエキサイトして、絵日記に書いてくれる。今日はグレートイベントだと。
 そういうのをやりませんか。船も2交代だからたくさん現金収入が入るじゃないですか。漁業組合が観光業をやっていいと国土交通省が決めたんだからやってください。
 そして、みんな参加して良かったというストーリーが必要なんです。これからは。伊豆に来て良かったという物語です。あらゆるものにストーリーを作りましょうよ。そうすると素晴らしいんですよ。今度は静岡空港もできるんでしょう。国内空港だったらペンペン草ですから。アジアとどんどん交流しないといけないけど、コンテンツ、ストーリーがなかったらダメでしょう。だから静岡はブライダルの中心地だといったら大はやりですよ。
 いろいろなことがあるじゃないですか。そうするとちょっとずつ人が動く。東京の人口がちょっと動けば地方にはものすごいインパクトです。そうすると仕事の機会が生まれて若者も来る。年寄りが入ってくれば、そういう人たちに食わそうと若者が入ってくる。そしてうまくいく。それが日本再建の道です。
 静岡は、生活大国として素晴らしいと思います。何でもそろっている。揃っているのにちょっと安住しているかなという感じがするので、一つ頑張ってやっていただきたいと思います。



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