サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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伊豆地区分科会  10月29日開催
基調講演
「温泉地再生とウェルネス産業〜
 オンパク型地域資源の活用と人材育成」

鶴田ホテル代表取締役、NPO法人ハットウ・オンパク代表理事 鶴田浩一郎氏

別府の成功体験を標準化して各地を支援

鶴田ホテル代表取締役、NPO法人ハットウ・オンパク代表理事 鶴田浩一郎氏
 まちづくりNPOのハットウ・オンパク代表という立場で、オンパク(「別府八湯温泉泊覧会」)のことを話させていただきます。
 いわゆる観光系は着地型商品といいますが、一般的に言うと地域資源を活用した商品をつくりましょうというような活動をこの10年やってきました。そのノウハウ、別府でやった成功体験を標準化して、各地に持っていき支援するNPOの仕事を、この2、3年やっています。北は函館、南は離島の奄美大島まで。今、お手伝いしているところは10カ所で、今年、群馬県、鹿児島県など県の施策として一緒にやらせていただいているところもあります。近くは熱海でオンパク型のイベントをちょうどやっています。
 各地で小さなまちづくり、お金もなく、もともと実力があったわけでもない、小さな組織からまちづくりのシーズ、ネタがたくさん生まれていて、実は一番活躍できる、自由に発想ができるというか、過去にこだわらない、そういう方たちをいっぱい輩出してきています。こういう人たちをいかに既存の地域の中に取り込んでいくかが一つのポイントになるだろうということを前段としてお話をしていこうと思います。

うらやましい限りの伊豆

 実は伊豆というのは宿泊で年間1000万人を超えるぐらいの大きな観光地です。一般的に半島は過疎地で限界集落が多いですが、伊豆だけは半島といえどもこれだけ人が来るというのは、ちょっと考えられないぐらいのボリュームがあります。交流地点としては恐ろしい力を持っていらっしゃる。
 数字を見ますとピーク時には1800万人来ていて、いま1100万人とか1200万人で、当然ピーク時から見れば30%、40%落ちている。これは当たり前の話で旧来型の温泉地はすべて落ちています。観光が生み出す経済パイは集客人員が30%落ち、単価が20%落ちれば実力は半分になっている。これが実は団体を扱っていた旧来観光地の常識です。それと軌を一にして地方が疲弊し、経済パイが縮小していると言えると思います。
 しかし伊豆は、この小さい中で1000万人以上の人が来ている。九州から見たらうらやましいかぎりで、九州は全域とっても伊豆と同じぐらいの人しか来ていません。別府温泉で50万人ぐらいです。湯布院が100万人を切るぐらい、篤姫で有名になった指宿温泉、ここら辺が主要な温泉地になる。あとは阿蘇の周りです。みんな100万人を切っていますから、全部合わせても伊豆の方が多いんじゃないかと思います。それほどこの半島に人が来ているということは、ここはどういう所だというぐらい凄いところです。
 気付いたことが2つあります。一つは恵まれています。強豪の箱根や群馬県の大温泉地群などの競合温泉地がたくさんある中で、伊豆地域は健闘していると思います。もう一つは、昨日地図を見ていて気付いたのですが、伊豆半島と富士山と駿河湾という位置づけを180度逆さまにすると、国東半島と阿蘇山と別府の位置づけにとてもよく似ている。やはり人を集客できるのは海があって、半島があって山があるんだと。集客交流できる地域の相似性というのはひょっとしたらあるのかなと思いました。
 日本ですから京都以外は人の集客交流できる観光地というのは必ず温泉地になっている。そこに温泉があるというのは圧倒的に強い。そして伊豆は後背地に3000万人の関東マーケットがある。どんなことがあっても伊豆と箱根には人が来るだろうと思います。

温泉地の軌跡

 この中でいくつか温泉地が勃興してきます。ご存知のように2000年をピークに日本中で有名になったのは黒川温泉です。もともとは10軒ぐらいしかない温泉地でした。人知れず頑張ってきた。そこが2000年に40万人のピークで、今頑張っている。
 フェイズでいうと胎動期があって発展して来て、いま40万人で横ばいです。10年ぐらいで温泉地ってできあがってしまうんです。
 湯布院は、完全に成熟期にあります。宿泊もホテルは150軒。70年代から5倍ぐらいに増えています。小さな旅館が多いです。別府も150軒ですが規模が全然違います。6倍ぐらいの規模があります。湯布院は1軒10ルームぐらいの旅館です。70年代に胎動してきて90年代に入ってブレークし出した。
 その時に別府は衰退期に完全に入るわけです。90年代の別府と湯布院を比べてみると、別府は九州を引っ張れないんです。引っ張っていったのは湯布院で、毎年、旅館も10件ずつ増えていってピークが2005年ぐらいで、今成熟して横ばいになり、それから下がりつつある。黒川温泉はあっという間に上がったんですが、今若干下がりつつある。
 片や10年で全国ブランド、片や30年で全国ブランドになった温泉地も成熟して、やはりお客様が少しずつ減っていくという軌跡を描いています。

衰退期と発展期の温泉地に効くオンパク系の手法

 地域再生とか地域づくりの公式は、地元を再発見し、地元に元々あるものをもう一度探し当て、それを磨いて商品にしましょうというやり方です。これが着地型商品づくり、あるいは地域資源の活用です。
 旧来型の温泉地でそろそろ疲弊してどうしようというところは、このやり方で再度発見しなくてはいけない。例えば、熱海と別府は、温泉地として昭和40年代の西と東の横綱ですが、再度見つけるだけの宝の山が眠っていて実は磨かれないだけ、発見する人がいないだけという状態の温泉地です。
 ですから衰退系の温泉地というのは、地元を再度見つめ直す機会のある商品群をみんなでつくっていく。旅館業界の人だけではないんです。地元のことを面白がる市民を一緒に巻き込んで作っていくということがとても大切で、衰退期と発展期の温泉地に効く手法が実はオンパク系の手法です。
 例えば湯布院のような成熟期の温泉地には、なかなかこれは効かないんです。効かないというか、あまり似合わないんです。結構、高稼働で、黒川もそうですが、ここでは着地型資源で新しい商品を見つけましょうと言ってもなかなか本気になってやってくれる人がいないんです。まだ飯が食えている状態の時は誰も本気にならないというか、市民もまだ気が付いていない。これが衰退してくると今からやるぞみたいなところはそういう人が出て来る。不思議な話なんですが、そこかしこに旧来型温泉地の疲弊した中でそういう小さな動きが生まれているということが言えると思います。

今、市民力が問われている

 ただ残念ながら、旅館とかゴルフ場など観光施設をやっている方たちが全面的にかかわれるかというと、財務的に疲弊しています。90年に比べて30%お客さんが減って、20%単価が下がれば売り上げは半分になっているわけです。これは旅館業界では当たり前の話で、半分になってもまだがんばっているというのが実際の話です。そういう中で地域のことまで一緒にやれる旅館の人は数えるぐらいしかいないのです。
 ですから旅館組合が一つになってやりましょうというけれど、絶対それは不可能です。だから今、市民力が問われていて、僕らも実はNPOでやっている。旅館組合とか旧来型の観光協会ではなかなかやりづらい。だからそういうところにお願いしてサポートはしてもらうんですが、実行部隊は本当にアクティブに動ける実行委員会とかNPOをつくっていただいている。われわれは、そういう組織運営、オンパク的手法、例えば着地型商品の作り方などについて各地でお世話をしているという形に今なっています。

お医者さんの協力には価格の壁

 ここからオンパクの話になります。2000年ぐらいに僕が別府の再生を考えたとき、再度歴史の検証をすると温泉地というのは体を癒して湯治をしたところからすべてが始まっている。ヨーロッパでも同じです。温泉の使い方は一緒です。ただヨーロッパの場合は近代医療の中に入っていまして、温泉治療も保険がきく。1週間のパッケージだと保険が出るわけです。日本は湯治という文化がありながら残念ながら近代医学の中で全部切り捨てていった。
 温泉病院はかつて全国にありましたが、いまは岡山大学の分院で三朝温泉しかないんです。なぜそうなったかというと、残念ながら温泉療法というのは学者さんの世界で地位的にはあまり高くない。昭和40年代ぐらいにもてはやされ、いま70歳から80歳ぐらいの方が温泉療法に詳しいんです。
 人口も減るし、大型温泉地は外国人が増えるか滞在客が増えるか、この2つしか宿泊を増やす方法はないわけです。日本人の滞在客を増やすには、新しい湯治文化をつくればいいじゃないかということになって、お医者さんの協力を得ようとしました。
 ところがお医者さんの時給が非常に高い。看護婦さんを必ず連れてくる。例えば温泉地の健康プログラムをお医者さんと作ると、1週間滞在してもらって、どう良くなったかという検証結果、エビデンスをつくるのに非常にお金がかかるんです。一つのプログラムで10万円とか15万円ぐらいのプログラムになってしまう。結局、ウェルネスの事業はお医者さんがボランティアベースでやってくれる時は出来る。だから昭和40年代にやっていた70、80歳を過ぎた人とやっています。彼らはとても喜んで下さいました。ただ残念ながらそれが商品になることはありませんでした。やはり価格の壁が大きすぎたということです。

ウェルネス系の温泉地にシフトしていくときに一番大切なのは人材

 そこで展開を変えました。ウェルネスの場合は心身ともに健康になればいいわけですから、例えばエステからマッサージ、メンタルまで入ります。実現していませんが、温泉地の再生を考えるうえで歓楽型から保養型へと考えているんです。このウェルネス系の温泉地にシフトしていくときに一番大切なのは人材です。
 マッサージをやってくれる人たち、メンタルをやってくれる方、そしてエステをやってくれる方、その人材が、その地域の中に根ざした人たちがいるかどうかという事がとても重要で、まずはそういう方々を集めない限りウェルネス系の温泉地になりようがない。
 だから僕らは非常に長いスパンで考え直しました。実は体験参加型のイベントを春秋に120ぐらいのプログラムをつくり、今、オンパクを展開していますが、ウェルネス系のプログラムは大体30から40ぐらいです。これがほとんどがマッサージ、メンタル、それからその組み合わせです。
 例えばアロマの先生とメンタルの先生を組み合わせて、ある旅館でやる。一番大切なのが先生の質と、それにふさわしい場所を提供することです。組み合わせるわけです。たとえばアロマだけだったらその先生1人で出来る。でも、それにふさわしい旅館、別府らしい近代化遺産の古い別荘建築の家があったりするわけです。そういう所でやる。そこに温泉もくっつけたい。3つぐらいくっつけると1つの完成系のウェルネスのプログラムができてくるというようなお手伝いをずっとやっています。
 ウェルネスというのは、実は僕らにとっては非常に大きな集客産業にしようとして、毎年、僕らのなかで実は人材作りをやっているというのが、我々のオンパクというNPOの一部なんです。
 でも、実際の話は、これだけで地域が元気になるかというと、ぜんぜん違うと思っています。とくに衰退した温泉地でウェルネスだけでいけるかというと残念ながらいけないんです。

ぶれない地域の哲学がとても大切

 実は別府の場合、疲弊しきったからNPOを市も認めていただいているわけですが、我々は5つのぶれないコンセプトを持って、地域の参加・交流型のプログラムを作っています。この5つのテーマは、別府再生のテーマでもあります。別府が歴史的に必要だと。これだったら別府のアイデンティティに等しいだろうというものを打ち立てて、プログラムにしていったという経緯があります。その5つには、ぶれない地域の哲学のようなものが入っていることがやっている人にとって、とても大切で、そこら辺が一つ、地域再生の“肝(きも)”かなと思っています。
 別府の場合どういうことかというと、簡単に言いますと、1つはウェルネスです。ウェルネスそのものは産業振興です。いわゆる旅館、ホテルの業界振興と同じようにウェルネスの産業振興をやる。その場としてオンパクを使ってください。ここでテストマーケティングをやってくださいということです。
 オンパクというのは、実はテストマーケティングの場所なんです。ここでうまくいけば、彼らはそれを商品にしていく。例えば、古い旅館を場として、そこでエステをやったり、メンタルの先生と組み合わせて商品を作ったりしていくわけです。それを1年間やっていくわけです。ですからイベント型なんですが、それはあくまでテストマーケティングの場になっている。

大ヒット商品「温泉道」

 これだけでは駄目だと。2つ目は地元資源、温泉そのものの見直し、天然温泉力をどう見直すのということをやりました。
 日本のなかで源泉を数えても2万9000しかないんですから1割は別府の温泉です。その別府の温泉をどう使うかという発想で生まれたのが「温泉道」です。これは大ヒット商品なんです。その中で「温泉道名人」という企画があります。別府にはお金を払って入れる湯が400もある。こういう事はマニアしか知らなかった。
 10年前に始めました。そのうち88湯入ると温泉道名人になれる。スタンプラリー方式なんです。88湯のスタンプを集めたら温泉名人になって、黒い金刺繍タオルが貰えますと。これはマニア向けの企画で始めて、冗談で「面白いね」と始めたんですが、こういうものが当たるとは全く思っていなかった。
 本当に考えさせられたんですが、現在、温泉道名人の企画をやっている人たちは毎年5000人いて、100人以上が名人になるんです。8割が県外の方。88湯入るには別府に何回来ているかということです。
 マニアでないと、こういう事は気がつかなかったんですが、別府というのは温泉の聖地に等しいと。湯の上に人が住んでいるところだと。これは地元の人は知らないんです。
僕らでも「温泉しかないものね」というんです。すごい温泉があるのに、温泉しかないといってしまうのが衰退温泉地の特徴です。自分たちが持っている資源を自分たちで卑下してしまうというのが、大体衰退期の温泉地の特徴ですが、マニアは違うんです。これは凄いと。
 これは観光協会とわれわれNPOと一緒にやっています。名人をとった人はちゃんと名前を温泉殿堂に張ることにしています。もう名人は1千人を超えるようになっています。毎年5千人がやっていますから、どれだけの人がどれだけの別府の温泉に入っているか。本当にすごい話です。地元資源を利用した最大商品なんです。これは地元の人は気がつかない。本当にニッチマーケットのマニアの人が気がついて、それがどんどん大きくなっていったという商品で、これが温泉を知る機会になっている。

まちを語れる人が多ければ多いほどそのまちは活性化する

 3つ目が「地域文化の体験」です。元々、どの温泉地も深い文化があるということですが、これを皆さん、打ち捨ててくるんです。男社会のなかではスクラップ・アンド・ビルドが好きですから壊して新しい物を建てる。でも残念ながら今、女性の文化の時代は、どうも古いものを、例えば近代遺産とか、昭和初期の家とか、古民家とか、こういうものをいかに再生して交流文化拠点にしていくかというのが、いまどこも基本になっています。
 「古いものを壊すというのはアホで、迷ったら残せ」というような時代です。変なものを作るより古いものを再生した方が絶対交流に役立つ。例えばレストラン等も同じです。そういうところの方が人が来るんです。
 こういうことを今やっと行政が気がついて、古いものを再生するときに補助金も出るようになりました。10年前までは行政は新しいものしか作らない。スクラップ・アンド・ビルドで補助金は出るが、古いものを再生するときは出ないというのが普通でした。いまは少し出るようになりました。
 そういう文化そのものを見せてあげる。古民家は文化かといったらそうではないかもしれないけれども、いわゆる地域文化をきちんと説明する。例えば、芸者の置屋さん。温泉地にあれば杉の皮かなんか使って「こじゃれている」はずなんです。これを壊すか、残して何かにするかというのは非常に重要なところで、ここが分かれ目です。これが残っているところは「芸者の置屋さんでした」という案内ができるんです。
 別府の場合は結構残っていました。地域文化をきちんと見せてあげるのは、実はまち歩きとかガイドさんの育成につながっていって、10年ぐらい前からやっているんです。
 いまはまちづくりの基礎は、実はまち歩きで、まちを語れる人が多ければ多いほど、そのまちは活性化すると言われるようになっています。まちを語れない人が多い時、実は衰退期に突入しているときで、まちを語れて、まち自慢を語れる人たちが多いまちはあまり衰退はないです。
 衰退期の温泉の「温泉しかないものね」という言葉に象徴されるようなことも、マニアが語れば一湯ずつ語れるんです。例えば重曹泉は美人の湯ですが、硫黄泉の酸性のお風呂に入ってからお塩系の保湿系のお風呂に入るとお肌はツルツルです。これは科学の公式です。でもこういうことはみんな知らないんです。
 温泉を一生懸命研究するようになると2つの温泉を巡る商品が出来てしまう。知れば知るほど商品ってできるんです。だから知らないだけで、知っている人を連れてくればいいんです。そういう人はマニアだったりするんです。ですからマニアは大切にしましょう。

まち歩きはまちづくりの基礎を作る上でも人材育成の上でもとても大切

 まち歩きはおじいさんたちがよく知っています。だからおじいさんたちを最初は町の主役にしてやっていくと大きな商品に育つ。別府をもっと大きくしたのが、実は長崎の「サルク博」(「さるく」は長崎弁で「ぶらぶら歩き回る」という意味)で、今の長崎市長の田上さんという方が提案して始めたイベントです。
 長崎の観光はハウステンボスがなくなって本当に落ち込んだんです。30%落ちどころではない。長崎市内のホテルの経営者はほとんど交代しています。それほど衝撃が激しかったんです。修学旅行の100万人なくなった。その対応を何とかしようと田上市長が観光課の職員の時に毎回別府に来て自分が必要なところだけ取っていった。
 その取っていったところは、まちの好きな人を作るということだったんです。非常に感覚的に鋭い人だった。まちの好きな人を作るというのは、まちを語れるとか、まち歩きで昭和の看板が一つ残っていたら面白いでしょうと言えるとか、路地を歩いていてこの路地の狭さとかを解説ができる。あまりきれいではないお茶漬け看板がありますがそこに味のあるおばちゃんがいるとか、まちの中で、路地の中で、なくなろうとしている文化にもう一度焦点を当てるわけです。
 それがうちのまち歩きの原点みたいところで、焦点を当て直すと、若い人はめちゃめちゃ喜ぶ。ここら辺を田上さんは見ていて、全部持って行ったんです。それで長崎の「サルク博」というのが出来上がったんです。サルク博は街並み整備も一緒にやったので、3年で8憶円ぐらいかけています。
 そういうわけでまち歩きというのは、まちづくりの基礎を作る上でも人材育成の上でもとても大切だと思います。今、長崎市には200人とか300人のまち歩きのガイドさんが生まれています。それがベースです。

B級グルメ「とり天」

 もう一つ。今、はやりだしたのがB級グルメです。各地域で自分たちが日常食べているけれど、お客さんにはとてもすすめられないようなものをB級グルメと称して結構、今はプロモーションに使うんです。お客さんもB級に関しては反応がとてもいい。
 別府も早いころから小料理屋のおばちゃんが作る料理がありました。最近、無茶苦茶にはやっているのが別府の場合は「とり天」です。鶏肉は普通、唐揚げなんですが、別府と大分だけはなぜか鶏肉の天ぷらなんです。この3、4年、「とり天」を売ろうということで別府市がちゃんとお金を出してくれて「とり天マーク」を作りました。
 旅館料理には旅館料理の文化がある。こういうものもいいんですが、片や地元の人しか食べていないものがそれぞれの地元にはある。それをきちんとプロモーションしてあげる。
 1泊2食の旅館があってもいいけれども、1泊朝食の旅館があってもいい。そういう旅館さんはこういうB級グルメ系を推薦するというように、すみ分けのようなものが必要になっている。宿泊業界も色々な業態が選べるようになったら「とり天」を食べに行く人が増えたり、いろいろ町の中にも人が増えたり、お店が増えたりするというのは事実です。

商品を作る時は女性とよそ者がとても大切

 もう一つは、絶対人が集まりますが、自然のなかで近隣の自然をきちんと見せてあげるということです。エコツーリズムは圧倒的に伝統も古いし、いろいろな人がやっている。なおかつ修学旅行のツールにもなっているから比較的ビジネスになりやすい。まち歩きをビジネスにするにはちょっと時間がかかります。エコの場合は食と一緒にやれば比較的黒字化しやすいのではないかと思います。
 別府の場合は棚田100選に選ばれた棚田があります。地元は何も知らなかったのです。地元で埋没して40年ぐらいたった人は地元の商品は作れないです。地元で商品を作ろうと思えば、企画力のある女性、そしてよそ者が入ってくると新しい目で地域を見ますので、商品が自然に出てくる。僕のように30年も別府にいると当たり前、全部当たり前の風景になっているから商品の出来ようがないんです。まさか売れるとは思わないまち歩きそのものが観光客に売れるとか、「とり天」が売れるとかは、地元に長く住んでいた人は絶対できないんです。
 ですから商品を作る時は他所から連れてくること、女性とよそ者がとても大切です。この二枚看板がそろっていないと外に売れる商品は作れないといってもいいぐらいです。僕らの企画グループは女性とよそ者ばかり。8割方女性で、すべて女性が最終意志決定します。
 棚田があるのは知っていたけれど棚田が商品として売れるなんて誰も思わないんです。棚田のおじさんもおばさんも誰も棚田のお米を別府の人に買ってもらおうと思っていないという状態の中で棚田のエコツアーを始めました。そうすると反応がぜんぜん違う。
 一次産業って凄いです。集客交流産業になるんです。棚田に人が集まるようになると、あまりプログラムを描かなくても棚田好きが自然に集まって来て、田んぼを持っていたら四季にプログラムが勝手にできる。だからそこでできたお米をそういう人たちに直接売るという仕組みが、内成という地域ですが、できあがりました。我々がテストマーケティングする必要も全くない。ただガイドブックの1枠だけいつも買ってくれています。1枠3万円とか5万で売っています。

もともと持っている文化の再生がベース

 5つほど別府のコンセプトをお話ししましたが、この5つは絶対ぶれない。ぶれさせない。そこにはみ出すものは入れさせないという気持ちでやっています。
 温泉力と地元の食は別府人の深い、深い文化に他ならないのです。ここをぶれさせて他のものを持ってくると再生のツールにならないというか、単なるはやりで入れているだけで、文化として地元に定着しないし、長続きしない。はやりものはやることはありません。
 これはイベントで人を集める。延々と事業として、農業だったら棚田の人たちが飯が食えるとか、ウェルネス系の産業の人たちが飯が食えるとか、こういう飯が食えるようにならないと、いくらプロモーションをやっても意味がない。
 そのときベースは、別府に集客交流のベースを作るには別府がもともと持っている文化の再生であるというのが、僕らのオンパクをやっている考え方です。それが湯治の文化であったり、もともと持っている温泉力を大切にすることであったり、するわけです。こういうことを外に行った時も商品を作る上で大切にしていただいているということです。

圧倒的に別府の情報発信をしてくれるコアファン

 この10年間、実は着地型商品という地域資源を大切にして小さな商売をたくさん作ってきました。オンパクそのものは、地場中心に協力事業者さんが200事業者ぐらいあります。ここが一番大切なんですが、実はバックで全部IT系で顧客管理のシステムを持っていまして、予約関係も全部ITでやっています。いわゆる個人データの集積をやっています。
 どういうことかというと、深く別府を知る体験交流型プログラムの別府大好き、交流プログラム大好きみたいな別府ファンの蓄積をやっているんです。ということは大体何をやっても5500人、歩留まり7割として4000人近いファン層をうちが抱えているということです。この人たちはかなり深く別府が大好きなので、圧倒的に口コミをして頂ける。
 ここが一番大切で、何々さんは別府が好きという実名でコアになるファンがいかに全部見えてくるかということで、この人たちが圧倒的に別府の情報発信をしてくれるんです。
 これでどれだけ人が来るのか。たいしたことはないです。250万人の別府の宿泊の中で、これは1回やって4000人から5000人の集客です。そのうち泊まっているのはたった20%です。でもこれはブランド力の構築とか口コミに関しては圧倒的に強いんです。情報発信力が強いものですからオンパクが発信しなくても中の一人ひとりが発信してくれるという、こういう事例が山ほどあって、オンパクとは関係なく発信できる。一つ一つのプログラムの発信力が強い。
 そうすると別府全体が衰退からどうも抜け出して、とても変わってきている、面白そうに見えるというブランド力の再構築をやっているんです。
 健康プログラムをやることで集客交流を飛躍的にアップしよう、別府のオンパクで飛躍的に宿泊をアップしようというのは、僕の経験上はっきり言って不可能です。マニアは別ですが、こういう着地型商品は旅行者が行き先を決めるキラーコンテンツにはなり得ないです。

ウェルネスの新しい動き

 最終的には僕は戦略的にウェルネスをやっていきたいと思っています。別府も、伊豆も滞在系を狙うでしょう。実はどこも滞在系を狙うんです。滞在系と外国人を狙うしか生きる道はないわけですから。その時は大概そうなります。ですからどこが最初にそうなるかということなんですが、少し長い目で見て、地域を元気にしながら産業振興も一緒にやっていくということが、長いスパンで見るときっとうまくいくんではないかなと思います。ですから元気な人をつくっていくというところがとても大切だということだと思います。
 最後に一つ、ウェルネスの新しい動きだけお話しすると、西洋医学と現地の医学を合わせた統合医療という言葉があります。アメリカでは当たり前に保険がきいたりするんですが、日本ではなかなか統合医療ではきかないんです。ただそれが民主党政権になって少し旗色が変わってきました。だからこれから温泉療法などを統合医療として医療の中に持っていこうという動きが、もうすでに動いているところがあります。
 もう一つ非常に大きな動きは、150億円をかけて鹿児島の指宿に、指宿そのものがメディポリスという構想を持って、終末ケアのがん医療のセンターの計画があります。一つは統合医療も入っていましたが、4つぐらいの柱でグリーンピアを買い取って財団法人メディポリアという地元の製薬会社を中心に鹿児島大学等が協力して非常に大きな医療センターをいまつくっている最中です。
 注目していますが、それが観光集客とどう関連するか、終末医療の患者さんが長期滞在していくのか、ここら辺は医療との関係で今後どうなるか非常に注目しているところです。
 
< 略 歴 >

◇鶴田浩一郎(つるた こういちろう)
昭和27年、大分県生まれ。昭和52年成蹊大学経済学部経営学科卒業、同年日本貿易振興会(JETRO)入社。昭和56年1月同社退職。同2月(株)鶴田ホテル(ホテルニューツルタ)専務取締役に就任、。平成2年9月(株)鶴田ホテル代表取締役社長に就任、現在に至る。全国旅館生活衛生同業組合連合会シルバースター九州地区常任委員、大分県旅館ホテル生活衛生同業組合常務理事、別府市旅館ホテル組合連合会副会長、NPO法人ハットウ・オンパク代表理事。ハットウ・オンパクで厚生労働大臣表彰(2002年)、国土交通省観光カリスマに選定される(2003年)、経済産業省・国土交通省地域中小企業サポーター(2007年)、内閣官房地域活性化伝道師(同)、ハットウ・オンパクで総務大臣表彰(同)、JTB交流文化賞最優秀賞(2008年)。
 


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