日本経済、つきまとう二番底懸念
=簡単でないデフレ克服=
二番底か踊り場か−。今年の日本経済は回復基調をたどる中でも、このどちらかを意識せざるを得ない展開が予想される。鳩山政権は家計支援を起爆剤として景気浮揚を図るが、根本的な問題として日本経済は約35兆円もの需要不足を抱え、二番底懸念もそう簡単には振り払えない。しかも、ここ2、3年、外的ショックに脆弱さをさらけ出しているとあって、海外で新たな不安材料が出てこないかどうかにも警戒が必要だ。
2010年度の政府経済見通しでは、成長率は実質1.4%、名目0.4%と3年ぶりのプラス成長を見込む。08年秋のリーマン・ショックの影響で主要国の中でも一番激しい落ち込みを見せていた日本経済だが、財政規律を一旦棚上げしての積極的な景気対策の効果でどうにか持ち直しに成功。09年4−6月期以降の回復基調がしばらく持続することが期待されている。
しかし、今年で言えば、前半は成長率がかなり下がることが確実視され、一部にはマイナス成長に陥ると見るエコノミストも少なくない。これまでの景気刺激策の効果が一巡することに加え、円高や公共事業削減の影響などが懸念されているためだ。今春闘でも雇用情勢の厳しさが声高に指摘されるのは間違いなく、年初以降、しばらくの間は二番底議論が高まる恐れが強い。
これに対し、政府は、これまでに打ち出した緊急経済対策の効果などで「二番底は何とか回避できる」(菅直人副総理兼国家戦略担当相)と見る。世界経済を引っ張る中国への輸出などに支えられるほか、家計下支え効果もじわじわ出てくると期待してのことだ。「二番底と言うよりも一種の踊り場状態になるのではないか」(武藤敏郎大和総研理事長)との声も有識者の間で聞かれる。
ただ、踊り場論者も、デフレについては強い警告の念を発しているのは二番底論者と同様だ。デフレで企業収益が悪化し、それが一段の賃金低下を招くようになれば事は深刻。需要不足が改善されさえすれば先行きに明るさも見えてくるが、不足が約35兆円もの巨額さゆえに、その解消には数年要するとの見方が支配的だ。今のところ、政府と日銀はデフレ克服に向けて息の合ったところを見せている。しかし、財政余力が限られる中、日銀にさらなる追加金融緩和を求める声が政府部内で高まる可能性も十分あり得る。
最たる問題は、こうした難局に立ち向かう鳩山政権の経済運営の手腕がもう一つであることだ。首相の影の薄さはこれまでも指摘されているところだが、マクロ経済運営の司令塔が誰かとなると確固たる閣僚が見当たらない。経営危機に陥る日本航空の資金繰りをめぐる昨年末からの迷走ぶりなどは経済運営のつたなさを何より象徴している。
ただでさえ厳しい日本経済。今年には名目GDP(国内総生産)で中国に抜かれ、世界3位に転落するのが予想される。デフレで縮み続ける日本経済を立て直すためには、確固たる中長期のビジョンを描き、産業界と視線を同じくして将来に立ち向かうことが必要だ。当然、明るい展望ばかりでなく、国民に負担となる材料も示さなければ説得力は生まれない。
政府は遅ればせながら昨年末に、2020年度に名目GDPを650兆円に増やすことを目標とした成長戦略の基本方針を発表、新たに環境、健康、観光の3分野で100兆円超の需要創出に努めるとともに476万人の新規雇用確保に取り組むとのビジョンを掲げた。しかし、財政健全化のための「財政運営戦略」を打ち出すのは今年前半。消費税増税など国民の痛みを伴う政策の論議は完全に後回しにされている。政府が足元の諸課題に対応するとともに中長期を見据えた経済運営に努めない限り、日本経済を覆うこの停滞感は今年中には振り払えない恐れもある。首相のリーダーシップがそれだけ問われている。 |