実は1年目、58人の子どもを預かりました。でも残ったのは22人です。入れ替わり立ち替わり、辞めたり、停学、退学。初年度の全国大会予選まで22人生き残っていました。引くことの2人は3年生で卒業していました。11月、予選は1回戦で負けました。12月から始めようと。本来なら20人来てくれるはずです。しかし来たのは12人です。また8人が退学、自主退学です。なんやろう。この延べの人数から言ったら僕のスポーツの、言うならば歩留まり。ここまでしか救えなかったのか。
実は、ここに大きな問題点があったんです。
1960年代にアブラハム・マズローというアメリカの有名な学者がいました。人間が自己実現するためには5段階の欲求があるという「自己実現理論」を提唱した人です。1つ目の欲求は「生理的な欲求」だと。3食のご飯をちゃんと食べ、睡眠をちゃんと取れること。そして本当に人間が生きるために必要な事ができたら、次は「安全の欲求」、そして「所属と愛の欲求」、自分を愛されたい。自分が人を愛したい。もっと簡単な言葉で言うと集団化、コミュニティー化です。次に「承認の欲求」、そして5段階目に「自己実現の欲求」。このマズローの5段階欲求理論、考えました。自分の取り組んだ事例です。創部1年目からラグビーとは、と唱えました。彼らに言った事は、僕の偉大性をまず語ったんです。日本代表、世界選抜、日本ラグビー史上で誰も知らない奴はいない。どこの学校の指導者より僕は情熱的やし、スキル、技術を教えるのは一番うまいやろう。今、全国大会に行っているチームを半年で破れると。
まず、強い学校に習ったらいいと、全国大会で4回日本一になった伏見工業高校に行きました。観光バスを借りていい旅館に泊まらせて。1年目は1年生に80対0で負けました。
マズローの理論が言う僕の取り組みは、実はこれやったのではないかと気がついたのです。集団化、フォア・ザ・チーム。チームとはから始めて、ここから自尊心を植え付け、全国大会なり、自分の人生設計ができるのではないか。ラグビーだったらそれでいけると言い続けていたんです。
彼らの家庭環境をみました。ある奴は母子福祉家庭、両親2人が首をつっている前にいたという子もいました。その社会的弱者のお母さんだけの母子家庭が生きるためのはじめのステップです。例えば幼稚園の年長さんから小学校の低学年、一番母親の愛情を受けなくてはならない年代に、おかあちゃんに何回朝飯を作ってもらったことがあるやろうかと、はたと考えたんです。そうや、彼らはいろいろな環境下で育ってきた。最初の生理的な欲求の部分がまったくできていないのではないかと感じたんです。それをいきなり、第3段階からスタートしたら、「彼らにとっては、僕の常識は非常識や」と分かったんです。
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