サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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第7回富士地区分科会 平成14年2月19日(ホテルグランド富士)
パネル討論 テーマ:「地方工業都市の空洞化と今後の課題」

<コーディネーター>
大坪  檀 (静岡産業大学学長)
<パネリスト>
齊藤 公紀 (大昭和製(株)取締役会長)
佐々木健一 (ジヤトコ・トランステクノロジー(株)代表取締役会長兼社長)
千谷 基雄 (富士通(株)沼津工場長)
長谷川浩之 ((株)エッチ・ケー・エス代表取締役社長)



◆大坪 鈴木会長のお話を伺って、皆さん度肝を抜かれたと思うが、大変示唆に富んだお話だったと思う。何か先進的なことをやることが、空洞化など2世紀の産業の抱える問題を解決する大きな発端になるのでは。東部を代表する産業のトップランナーであるパネリストの方々に、ご意見を伺いたい。


 


大坪檀氏

◆齊藤 私は富士に育ち、戦後の高度成長の波に乗り、町が大きく伸びていくのを目の当たりにした。今回の参加にあたり調べてみたのだが、富士市は紙の生産は飛躍的に伸びているが、就業人口は減っている。合理化によって産業を伸ばしてきたことが裏付けられる。工業都市なので多くの産業が参入してきて、川下の産業は雇用吸収力もあって伸びた。
 我々製紙業は輸出競争力のある産業ではなく内需型。一人あたりの紙の消費量はここのところ頭打ちで、どうやって伸ばすかが課題。また富士山の麓の町々がより繁栄していくために官民一体、行政一体となって町起しにまい進できたら、と思う。やらまいか精神をばねに町が一枚岩になって成長を遂げた浜松のように、伸びている町を参考にしたい。また富士表の人々の健康状態も、予防医学の考えで注視する。世界一の物をもっともっと作って、富士をよりよい元気町にしたい。
◆佐々木 ジヤトコ・トランステクノロジーは999年に、ジヤトコとトランステクノロジーが合併して生まれて約2年の会社。自動変速機(AT)を作って自動車メーカーに供給している。ATは開発に大変人手や期間を要して生産設備に膨大な金がかかることと、一種類のATを複数の車に適用して量産効果が出せることを理由に、従来は自動車メーカーが自ら製造するのが主流だった。それが現在、専業メーカーによる生産量が世界の四分の一を占めるまでに変化した。
 その背景には、ATそのものの技術革新や自動車の環境対策に伴ってATの種類の多様化、細分化が起こり、自動車メーカーが自前で手掛けても、量産効果が出しにくくなってきたことがある。一方で排ガス対策や電気自動車開発など、経営資源を投入すべき領域が増えてきたので、もしATを開発、供給できる部品サプライヤーがいれば任せてもいい、となった。自動車産業の構造が変わってきたのだ。我が社はそうした動きをとらえ、拡大化するATのビジネスに取り組んでいる。この動きは欧米にもあり、私どもも海外の顧客が増えている。きょうのテーマにもある、海外で顧客が増えてきたときにどこで生産するかという問題に、まさに今直面している。
◆大坪 外国で作った物が安く日本に入ってくることはないか。たとえば中国からは。
◆佐々木 ATに関しては今のところない。日本の中で生産し海外に輸出するのが今の段階では主流だ。


 


千谷基雄氏

◆大坪 次に千谷さんに伺いたい。
◆千谷 富士通の工場長というのは比較的のんびりした商売だったが、実は昨年の暮れから大変厳しい構造変革をやっている。今まで沼津市はコンピューター生産高日本一を誇っていたが、富士通はこの製造部門を石川県に移す、という大きな決断をした。
 私はもともと大型コンピューターの基本ソフトウエアの開発エンジニアだったが、982年に駐在中のニューヨークでIBM産業スパイ事件に遭遇。この時に欧米人の法律意識は日本人とまったく違うと痛切に感じた。おとり捜査のような品の悪い手法をビジネスの場でも使う、そういうアメリカ人の意識を非常に厳しく受け止めた経験がある。

その後9−96年にカリフォルニアに行き、現地の会社を買収しそこに単身乗り込んだ。当時のアメリカはインターネットの勃興期。シリコンバレーで今をときめくハイテクベンチャーが輩出した活気のある時期だった。私はその中で、あるネットワークの会社と組んで、オンラインゲームをスクラッチから開発して2年でサービスに持ち込む、ということができた。これは日本では考えられないスピード。何でこんなことがアメリカではできるんだろうか、ということが大きなショックだった。
 さきほどの富士通の構造改革に話を戻すが、これはコスト競争などの単純な問題ではない。今、変化の激しいハイテク企業の中で何が起きているか。実は、日本企業はタイムリーにものを作れなくなっているのだ。たとえばコンピューターはインターネットですべてつながっているので、同じインターフェースを使わなければいけない。自分たちの作ったインターフェースを国際標準に認めさせるには、ものすごい政治活動、営業活動がいる。しかしそれが全然できてなくて、日本人の作ったものが世界のデファクトスタンダードにならないという、非常に厳しい状況に直面している。製造コストとかそういう問題以前に、日本人は本当に何を作ればいいか分かっているのだろうか。あるいは、それを分かる環境にいるのだろうか。非常に深刻な問題と感じている。
 シリコンバレー流のやり方を整理してみると、一つにはマルチカルチャーの強さ。次に自分の成果が自分のものになるシステム。今カリフォルニア大学の中村修二先生がもといた会社と特許問題で争っているが、個人と成果の結びつきを日本企業はあいまいにしてきた。さらには、労働の流動性があり個人も自分のオポチュニティを積極的に求めていける社会であること。加えてもう一点は、リスクマネーの存在がベンチャーを育てていることだ。
 ものを生みだす環境が日本に大きく欠けてきているのではないか。これが私の持っている最大の危機感。逆に言えば、そういう環境をこの静岡の地につくり出すことができれば、2世紀にイニシアチブを取れるインフラを生み出せるのではないか。
◆大坪 日本のコンピューター技術は後れているという印象を持っている方もいると思うが、千谷さん、相対的に言っていかがか。
◆千谷 アーキテクチャーという、いわゆる設計思想とか設計標準の面では圧倒的に後れていると言わざるを得ない。ただ素材、半導体とかパッケージの技術では断然日本が優れているので、一方的には言えないが、アーキテクチャーの面でリーダーシップを取れないとコンピューターは牛耳れない。


 


長谷川浩之氏

◆大坪 長谷川さん、お願いします。
◆長谷川 さきほどの鈴木会長のお話のように、我々の会社も小さくてもナンバーになろうと、HKS USAを26年ぐらい前につくり、昨年も新規投資で工場を造った。アメリカのマフラーメーカーとも競争して、クオリティの高さで選ばれている。結局はいい物をタイムリーに、その人たちが喜ぶようにやるしかないな、と思った。一方イギリスにもHKS EUROPEをつくり、約5年前から進出している。ヨーロッパでは、安物で適当な物を持っていってもだれも支持してくれない。高くてもいい物を、あのメーカーならばと思わせる戦略が成功している。尖ったところでHKSのブランドと活動を光らせている。
 また、ある商品群は労働集約型だから、タイで生産しようと金型から何から全部持っていったが、思ったほどはコストが下がらなかった。まず原材料が日本製でなければ駄目だという部分。現地の人間には図面で指示するだけでは不十分で、品質を維持するための指導をしないと日本と同じようなものはできない、ということもあった。工賃が安いからと乗り出してもなかなか難しい。すべてを海外に持っていく気はなく、これから国内で作るのは小ロット、多品種に徹していく方針だ。小ロットでもこだわった物を売っていくようにしないと駄目だろう。
◆大坪 ニッチの分野でも中国などの方がコストが安くなりつつありますか。
◆長谷川 たとえばアルミのホイールは、30%ぐらいを海外の安物が占めてしまった。これに対抗し大手のエンケイさんは、、物流から顧客に届けるまでのトータルコストで競争する発想に切り替え、徹底的に品質とコストを追求した。一方で佐々木社長のところのATは、ありとあらゆる技術の集合体なので、ある意味ではエンジンを作るより難しいだろう。となれば、今までの考え方を見直すと同時に、0年たっても残る分野はやるが、今まではよくてもこれからは駄目な物はやめる、という決断をしなければならないと思う。


 


齋藤公紀氏

◆大坪 ひと回りしましたので、齊藤会長、追加発言をしていただきたい。
◆齊藤 私どもは昨年日本製紙と統合し、日本ユニパックホールディングという形になった。グループで最適地生産を目指しているが、富士山周辺は立地はいいのでここで腰を据えて闘いきろうと、減量的な設備投資をしコストカットをして利益を出せる体質になってきている。私どもは「捨てる経営」。駄目なものは将来も戻らないので、工場ごとスクラップすることまで考えなければならない。思えば私はこの産業で、『公害』と『ヘドロ』と『環境』と闘ってきた。逆にそれを商品化してバリューにできないかとずっと考えている。ゼロ・エミッションの工場に早くしていかないと。
 実は、紙はここ3、4年で2割ぐらいインドネシア品にマーケットを取られてしまって、我々もダメージを受けている。早く挽回をしたい。
◆大坪 紙はそれまでは海外との競争があまりなかったんですか。
◆齊藤 今までもあったが、ここのところインドネシアに加えて中国から製品が入りつつある。パルプはカナダの工場から中国などに輸出しているので、それが逆にブーメランのように戻ってきてしまうのも痛しかゆしだ。しかし国内ではリサイクルが進みパルプの購入量が減っているのに対し、中国のマーケットはすごく伸びている。中国、インド、インドネシアは今後紙の消費量が大変伸びると予測され、それぞれの国でかなりの量を吸収するだろうから、世界で我々が完全にノックアウトされるような状況ではないと思う。
◆大坪 環境対策について聞かせてください。
◆齊藤 環境基準はもっと厳しくなる方向なので、さらなる対策で富士山がもっともっときれいに見えるようにしたい。なぜ富士山が世界遺産になっていないのかと調べたら、基準に達していなかった。富士山は既に大きな観光資源だが、世界遺産というグレードをもらえば産業と観光がマッチングして、この富士表が伸びていくのでは。


 


佐々木健一氏

◆大坪 佐々木さん、お話をいただけますか。
◆佐々木 皆さん方のお話を伺い、扱っているものによって苦労の対象が変わってくるということを実感した。長谷川さんに見抜かれましたが、ATは部品数が900点にも及び技術的にも障壁が高く、これを自力で製造できるメーカーが存在するのはアメリカと日本と、ヨーロッパのごく一部だけ。今後AT製造の、専業メーカーへのシフトが進んできたとき、しばらくは私どもと名古屋にある同業のもう一社で、担うことになると思う。我が社は年間240万台のATのほとんどを、富士を中心とした静岡県の中で生産している。ただ、これから各国でATの普及率が上がっていくにつれて、自動車メーカーの海外工場のそばでATをつくってほしいという要求が出てくると思う。対応を考えていきたい。
◆大坪 技術者はどんなふうに獲得しているのか教えていただきたい。
◆佐々木 静岡県内で充足するのは難しい。かといって、まだ知名度の低い会社なので全国版の人材を集めるのもままならない。ATの技術者で特徴的なのは、今まで自動車メーカーが自らやっていたため人材の流動性が非常に悪いこと。結局人材の養成に注力しているのが現状だ。それと富士という場所柄を考えると、名古屋とか東京、横浜地区に技術屋さんは集まりたがる。たとえば新幹線の運賃などが下がって行き来がしやすくなれば、若い優秀な人材が地方にも定着するのではないか。海外と比べて国内の運賃は高い。
◆大坪 今の話で、海外生活の長い千谷さん、何かご発言いただけますか。
◆千谷 シリコンバレーでは、ざっと00キロぐらいの長さのサンフランシスコベイを囲んで人がどんどん動き、百数十キロぐらいの距離を通勤する例もざら。高速道路の料金がかからないからだ。流動性があって広域な産業圏ができている。日本では東京−大阪なんてとても通えないが、もし料金がかからないと仮定すれば通える距離。今日本のやっている高速道路論議には異質なものを感じる。何のために社会のインフラがあるか、という哲学が議論不足。
◆大坪 千谷さんはさきほどから文化の問題についてご発言されているが、もう少しお話しいただきたい。
◆千谷 ものづくりという観点からいくと、やはり僕は日本人は非常に能力が高いと思う。問題はその能力が活かせる環境が用意できているかどうか。文化に依拠していて、どうしても相手のことを理解しないとつくれないという性質のものは、いかにものづくりが上手でも日本人にはできない。逆に、そんなに文化を意識しなくてもいい分野では、できる。しかしグローバル経済の中で生きるなら、外国人と一緒になって仕事ができなくてはいけないのだから、マルチカルチャーをどうやって育てていくのか考える必要がある。


 


千谷基雄氏

◆大坪 鈴木会長が“IT亡国論”と刺激的におっしゃったが、ご意見を。
◆千谷 ITとは、インターネットで形成されたコミュニケーションの世界や、デジタルテクノロジーのことを一般的に指していると思うが、それが亡国になることはないと思う。情報を迅速に効果的に大量に得ることと、現場に行くことは両立できる話だ。ただ、ITをベースに得た情報だけを使って判断し、現場に行くことがおざなりになると問題だ、と言われたのだと受け止めている。今ネットワークの中では、たとえばオークションのようなネットでしか不可能な市がいっぱい生まれてきたり、行政などが電子入札を積極的に取り入れて、談合が排除されるなど日本型の取引が本質的に変わってきたりしている。そういう変化を見落としてはいけない。
◆大坪 長谷川さん、いかがですか。だいぶ考え込んでいるようですが。
◆長谷川 日本をものづくりの国にしようとは、政府や国は考えてないんですよ。高速も高い、ガソリンも高い。高速道路をただにして、ゆっくり走る車は絶対に左車線を走るというルールにしたらいい。このままでは、いい物を作っても運ぶだけでコストがかかるから駄目だ。国も変わり、システムを変えるという大英断をしなければ、日本のものづくりはこの先やっていけない。私は日本でものづくりをやるから声を出すが、国民の声を反映して国づくりをしていかない国は、まずいなーと思う。
◆大坪 核心を突いた部分にずいぶん入ったと思う。政治を本気になって変えないと、ものづくりは駄目になる。
◆千谷 若くて優秀で、外国人と丁々発止できる人はみんな日本から出て行っているのが現実で、事態は深刻だ。
◆大坪 このへんが産業の空洞化、人材の空洞化ということだと思う。ここで会場からご発言をお願いします。
◆山本公一・東海大開発工学部教授 地域の活性化のためには、そこが一つの核にならなければ人は来ない。私は静岡県の現在は通過県だと思う。東京から新幹線に乗ったら次は名古屋だと。それを通過県にしないためにはどうしたらいいか。もう一点は教育の問題。ものを考える力がない、チャレンジする精神がない、これを克服しない限り日本は限りなく空洞化すると思う。ご意見をたまわりたい。
◆齊藤 ユニークな特性を持った子供たちがそのまま伸びてこない。みんな角を削られて金太郎飴みたいになって、社会に出てくるケースが多い。たとえ金平糖のような学生でも社会で頭角を現せるような、そんな受け入れ方を企業や社会ができるようになったら2世紀型の産業や地域を支える人材が育ってくると思う。ただ最近若い人たちが、刃物を持ったり麻薬をやったりというケースが増えているようで、忸怩たるものがあるが、学問をして社会に貢献できる人材もかなり増えていることを私は知っている。彼らをもっと深く精進させるような教育を求め、大いに我々も叫んでいきたい。
◆千谷 人が集まるために一番大事なのはビジョンだと思う。日本人はビジョンの議論に慣れていないが、語る努力が必要だ。たとえば静岡県のファルマバレー構想は、2世紀の時代の状況をうまくとらえ、かつ産業的にもすそ野が広い話だからすごくいい。それから投資をしてくれる所には人は集まる。地域のベンチャーを振興させるためのベンチャーキャピタルの仕組みをつくりあげればいい。数百億円の規模でファンドを集めて、リスクをヘッジしながらファンドとしてリターンを得る、ということをやれば投資が生きてくる。
 教育の問題だが、日本の教育にはあまりにもフィロソフィーがない。子供たちが世の中で生きていけるようにしてあげるのが教育であって、その基本が日本の議論には欠けている。また読み書きそろばんは絶対さぼってはいけないのであって、早くからどんどん仕込まねばならない。そこにゆとりなどと馬鹿なことを言っているようでは、それこそ亡国だと思う。この時代に、こんなに教育をさぼっている国は見たことがないという感じがする。
◆佐々木 通過県にしないためには、足を止めてもらう値打ちをつくらなければ。私どもの場合には、少なくともATについて知りたいと思ったら、まず富士に来て私どもを訪ねていただけるとすべて目的がかなうというぐらいの実力を備えたい。何かで一番というものを、それぞれ地域で活躍している人たちが持たなければいけないのではないか。
◆長谷川 まだ会社が人数も少なかったころ、社員を集めるときに「自分の会社に魅力がないから学生が来ないのだ。だから新しいことへのチャレンジをレースの場で見せよう」と思い、レースをやってきた。日本全国に発信するために、得意なことをやっていこうと思っている。通過点にならないように、とんがった会社でありたい。



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