サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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第8回伊豆地区分科会 平成15年7月8日(ニューフジヤホテル)
基調講演 今世紀の伊豆、再生に向けて〜地域経済と観光〜


■講師略歴

竹内 宏氏
経済評論家

1930年、旧・清水市生まれ。 54年東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行入行。83年常務取締役調査部長、88年専務取締役調査部長などを歴任後、89年退職。同年〜98年11月まで長銀総合研究所理事長。98年12月竹内経済工房設立、現在に至る。


地域の発展と歴史の深い関係

 地域の発展というのは歴史と非常に深い関係があり、一朝一夕では発展できないという感じがする。本県でいくと、静岡は木工の機械が多い。駿府城ができ、浅間さんや久能山が造られた後、仕事が終わった宮大工が失業して箱物を作り、さらに箱物から下駄を作って下駄がやがてファッションサンダルになり、現在、この工場はインドネシアに移っている。漆器ができ、そこから雛具ができ、オルゴールができ、鏡台ができ、この鏡台から村上開明堂のような自動車のバックミラーのメーカーが生まれた。飛行機のグライダーを造り、やがてプラモデルメーカーができ、田宮模型など静岡のプラモデルは世界を制覇している。
 浜松は昔から大変面白い所で、静岡・清水は天領で藩学校がなく寺子屋もなかったので教育水準が極めて低く、あまり立派な人が出ていないと言われているのに対し、浜松は名藩、出世城で、新しい藩主が次々にやって来る。よそ者を快く受け入れるような体制が出来上がり、代わった藩士が持ってきた綿花の技術が定着し木綿ができ、木綿から繊維産業が発達し、幕末には日本の綿織物業の中心になった。やがて豊田佐吉が織機を発明し、明治の終わりに浜松は繊維工場の街から機械工場の街に変わった。また山葉寅楠がオルガンの製造を始め、浜松は楽器の都市にもなった。戦後、織機のメーカーはオートバイのメーカーになって世界を浜松のオートバイが制覇し、ここから自動車メーカーができた。ホンダ、トヨタ、スズキ、ヤマハなど世界の巨大企業がこれだけ出たのは世界の奇跡である。
 そのような基盤があるから大正の初めに鉄道工場を誘致して000名の技術者が来、同じ時期に浜松高等工業ができて、浜松は技術者の街になった。現在はハイテク製品で世界で圧倒的なシェアを持つ30−40社の中堅企業がある。金を貸す人もいた。今も新しく企業を興す人には信頼によって金が集まる気風がある。この気風は天竜川から東に行くとバッタリとなくなり、ごく狭い範囲で産業、技能が形成された。


伊豆には文化の匂いがあるはず

 『伊豆詐欺、駿河乞食、遠州強盗』という言葉がある。伊豆は山岳地だらけで海岸線が縮こまった狭い土地なので、人々は肩を寄せ合って折り合いを付けていくしか手がないから人の心を読むのが非常にうまい。だから井上靖をはじめとする小説家が出てきた。だからこそ困ったときには騙すのが異様にうまい、言われる。駿河は天領なので豊かでのんびりしていて教育水準も低いから、困ったら乞食になっても平気。遠州は台地でもともと名産がなく、風は強いは遠州灘は荒いはで、遠州人は大変に荒い気性で困れば強盗になる、と言われている。我々が子供のころは、遠州人には気をつけろ、駿河の人間は下駄が後ろから減るけれど彼らはせっかちだから前から減るんだ、と言われた。この下駄が前から減る心こそ、世界的な巨大工業地域をつくり上げた。
 私の年代で行くと、浜松高等工業は非常に自由な教育で学期末の試験もやらず成績もつけなかった。その成果かは分からないが、現在の浜松のリーダーたちはこの高等工業から生まれた。私は静岡の旧制高校を出たが、ここには東京の連中がやって来て、吉行淳之介など卒業した人はみんな東京に行き帰ってこない。静岡高校は静岡のために何にも役に立たなかった。浜松にはそれだけ引きつける力があった。地域独特のものがあってこそ地域は発達していくが、それははどうやらすぐにはできないらしい。
 そういう点から伊豆を考えると、駿河と同じように恵まれていないと思う。天領なので当然教育水準が低いし、特に広がるような産業がなかった。ここにやってくるのは東京資本。新しい産業を興して人々を引きつけるのは並大抵の努力ではない。
 大正の終わりから昭和の初めにかけて東海道線ができ、熱海駅ができた頃から伊豆には文化人が住むようになってきた。画家の横山大観をはじめ、山本有三、太宰治、最近では池田満寿夫など。この地域の中には見えないけれど文化的な匂いがあるはず。起雲閣などにこの匂いがする。この文化性をどのようにうまく統一的につくっていくのか。スルガ銀行が井上靖の文学館やビュフェ美術館を造ったりしているし、天城湯ヶ島町には昭和の森会館があるが、たとえば熱海だったら太宰治などはこの辺で書いていたのだから、全集の初版本がドンと並んでいるようなことが必要だと思う。


観光二流国・日本

 日本の観光地は世界から見て二流になった。この辺の最大のリゾートの済州島に行くと、ハワイにあるような大型のホテルが次々にできている。日本では同規模のホテルは沖縄サミットが開かれたザ・ブセナテラスつくらいしかないので、ハードから言ってももはや絶望的なほどの格差がついた。大型ホテルが集積すれば高級な客を引っ張り、そこがマーケットになるが、そのスケールが日本は小さい。プーケットやサムイ、バリ島、済州島のどれに比べても我が国の観光施設は圧倒的に小型で、なおかつ高くてサービスが悪いので、どうしても競争に負けてしまう。私はよく静岡に泊るが静岡はホテルが少なく、時々満員で泊れない上に、チャンネル数が少ない。アダルトチャンネルだけ親切で、ほかがまるっきり少ないというのは、いかにも観光日本で、絶望的な感じがする。アジアの大リゾートではNHK、BBC、CNNなど36チャンネルぐらい入る。
 それから景観の問題。全体の統一を取って雰囲気づくりをするのが観光地全体としての目標と思う。ベニス、フローレンス、ミラノのようなイタリアの都市は景観が優れていて千年前の姿がそのまま残ってて、だれもが好きになる。下がレンガで自転車で走ればグラグラするし、ベニスに至っては自動車が台も入れないわけだから、こんな所に住んでいること自体が素晴らしい。何でイタリアが綺麗なのか。イタリアは文化が連続していて、イタリア語が読めればローマ時代の文献は読める。日本の場合は文化の接続性がない。先程起雲閣に行ったら東郷平八郎や尾崎紅葉の書があったが私は全然読めない。当用漢字を作ったおかげで若い人たちは夏目漱石も森鴎外も読めなくなって、文化の断絶が起きた。これでは街もでたらめになるのは仕方がない。


熱海でも盛んなカジノ論議だが…

 この頃議論されているカジノだが、カジノにも何種類もある。ラスベガスがなぜ素晴らしいかと言えば、ショーとマジックがあり、都市があり、コンベンションがあるからだ。トータルとしてのカジノだから、これを熱海に持ってくるのは無理。ではパチンコ屋やゲームセンターみたいな軒軒のカジノで行くか。それともバーデンバーデンのように、レストランも付いて正装でないと入れないような豪華なカジノで行くか。
 カジノをやればうまく行くというわけではない。日本の企業もラスベガスでカジノをいくつかやったが大体が失敗した。儲けるためには週間ぐらいいて30万円から50万円はするまでいるぞ、というようなお客を捕まえなくてはならない。また、いかにして暴力団から手を切るかが最大の課題で、色々難しい面があると思う。


小型観光地づくりの成功要因−不便さを忍んではじめて守れるもの−

 長浜や美山、小布施、川越など、最近成功している観光地は全体の景観が統一されている。6、7メートルの道幅で、ちょうど肩が触れ合う程度のヒューマンスケール、店の高さが2階建てぐらいで和調の並木が連なっているような所がよいようだ。むろん看板は禁止、木の板で張り付けた看板かのれんぐらいにとどめている。
 道はあまり大きすぎてもよくない。一番立派な道路ができているのが名古屋だが、名古屋の街は地下街が異常に発達している。道路が大きすぎて歩く所がないからだ。自動車を追い出し、安心して歩けることが重要だと思う。そして街には趣のある店を作る。例えば後継ぎがいない店が多くなったら、長浜のように有志がつくったディベロッパーがその店を借りるか買うかし、新しい経営者を入れて伝統的な品物、ユニークな商品を置いてもらう。ここにギャルに売れるような小間物を置いては駄目。ギャルが来ると大体失敗する。清里も馬籠も妻籠も7−8年は成長したが後が続かない。ギャルと若者は自動車に乗ってやって来るから、自動車を追い出せばこの軽薄なる人々を追い出せるかもしれない。
 そうなると地元の人は不便だが観光地ならば当然で、住民に便利になれば街としては台無しになる。文化というのは不便であり、我慢が必要だ。清水の薪能を鑑賞したことがあるが、最初のうちはつまらないが我慢して見ていると節を覚えてよくなってくる。文化を守ることも我慢、快適で守れる訳がない。不便さを忍ぶ中で文化がにじみ出てくる。
 


“失われた0年”と伊豆

 値段が高いのは伊豆の致命傷だと思う。今は日本経済全体で値段の調整が行なわれていると言えるかもしれない。バブルの時に造られて高くなければ採算がのらない不良資産は民事再生法で安くするか更地にして売るかで、惨めなほど無秩序にできた建物群を整理するというプロセスが始まったように感じる。このプロセスが非常に進んでいるのが東京中心部で、新しい都市開発がもれずに行われている。地方の銀行が処理され不良資産が処理されてくることになると、いよいよ最終的な手荒な事がやられるのかという感じがする。
 過大な借入金が多い観光地は過去0数年間、設備投資していないからボロボロになっていて、最近になって大投資をやった所に当然負ける。現在、熱海が衰退しているのは熱海自身のせいよりも、経済的な仕組みが働いているという感じがしてならない。伝統ある観光地であればあるほど自己資本が強かったり設備投資額が大きかったりするので、長持ちをして変わるべき時期が先延ばしされている。不良資産の解決は銀行やメーカーだけの問題ではなく、流通サービス業や観光業全体にも行き渡っている共通の問題である。


海を生かす、地元の人を巻き込む、外国の人を呼ぶ

 伊豆の欠陥は海岸線の一番いい所に大きい道路ができてしまったことだと思う。伊豆のこのひと周りにはだれもが驚嘆するような美しさがあるが、車で素通りされてしまう。また、道路はあればいいというものではなく、たとえば桜見物で多くの人が来ても、観光バスで来て桜を見終わったらすぐ帰ってしまい、地元にはほとんど金が落ちない。快適な道路のために東京の旅行業者やバス業者、他の地域の業者に儲けられてしまう。一部の旅館以外の観光地の人々が、観光業が発達することに無関心なのは当然かもしれない。地元全体を巻き込んで観光や文化を仕組んでいくにはどうするか。たとえば湯布院の絶叫牛食い大会は大声を出して勝てば豊後牛が食べられるイベントで、豊後牛のPRになるからサポートが出る。地域の物をどれだけ材料に使い、地域の人をどれだけうまく利用し、地域にどれだけ還元するかで地元の観光業の発展は決まる。
 自動車を排除することは大事だ。熱海や修善寺に大駐車場を作ってそこから先はバスでなければ駄目ということにして、海岸沿いの非常にいい道路を遊歩道にする。旅館もバスでつなぐ。熱海でもヨットハーバーの周りをコンクリートで固めないで、ロサンゼルスのヨットハーバーのようにもう少し海に接近できるような場所にした方がいいのではないか。我々は海からどんどん離れていって、自動車でぐるぐる回ってガソリンだけまいて帰ってしまう。これをいかに止めるかは、非常に重要な問題だと思う。
 空港から遠いことも伊豆のネック。静岡空港ができれば一番いいが、JRがその下に駅を造らないと言う。駅を造れば人々が集まり、熱海にも海外の人が来やすくなる。福岡が栄えているのはやはり韓国、中国の成長のおかげで、ここから観光客がドカッとやって来ている。子供の数が減ってくるから外国人を持ってこないとどうしようもない。


まちづくりとは一種の思想運動


 このようなことはただではできない。一種の思想運動が必要だ。それには寄り合う習慣が必要。馬鹿馬鹿しく見えることを決めるわけだから、年に度程度の話し合いではみな反対に決まっている。説得して説得して合意を得なければならない。ただ、合意を形成するのは非常に難しい。熱海のような大きな都市になるとこれは本当に難しい。
 城下町にはお堀があって、いつもお堀を見ているから人々は文化的な感覚が強い。景観がいい所の子供は景観を大事にすることは当然で、お堀の周りに行くと家の前に花が置いてある。またお祭りがあって人々は年中顔を合わせる。長浜では寄り合いが発展する中で、人々が地元の歴史に対する認識を共有し誇りを持っていった。そして長浜城を復活させようとリーダーがポンと億5000万円出し、街全体で約4億円が集まって城ができた。
 地域の合意を形成するには、リーダーが率先して自腹を切って動くと人々が寄ってくる、というような意味でのリーダーシップがどうしても必要なのである。このリーダーシップがつくられるのは、寄り合いの習慣があってこそ。しかしリーダーというのもそんじょそこらにいるわけではない。その地域の金持ちがたまたまリーダーになった上に自腹を切るなんて、気前のいい人はあまりいないから、一つ、二つの県で一件成功していることになる。


国家がやることはろくでもない−いかに規制から逃れるか−


 宿場町の町並みが残る足助町で、一番邪魔になったのは小・中学校や町役場のむき出しのコンクリートで、昔はそうでないと補助金が出なかった。景観を邪魔する物は国家が築いた物ということが多い。国家がやることはろくでもない。その意味で特区をつくることは非常に重要。伊豆を病院の特区にしたらまずは外国から人を入れる。この地域に限ってアメリカの医師免許を持った医者が開業できるようにする。医師ではない、経営のプロが経営する病院をドカッとここに入れる。そのような特区にして国際競争を起こさせ、海外からの投資を呼んで非常に活気がある街にしていく。全体のコントロールは市が図る。
 国家というのは非常にろくでもないところだから、ここからの影響をできるだけ排除して、自立的なプランができればいい。



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