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第9回富士地区分科会 平成15年2月4日(フジロイアルホテル)
基調講演「5年で変わる日本」


■講師略歴

唐津 一氏
東海大学教授

 1919年生まれ。42年東京帝国大学工学部電気工学科卒業。逓信省電気試験所勤務を経て、48年日本電信電話公社(現・NTT)入社。61年松下通信工業に移り、企画部長、情報システム部長などを経て、71年取締役、78年常務。84年松下電器産業技術顧問。86年東海大学開発技術研究所(現・総合科学技術研究所)教授。90〜93年東海大学福岡短期大学初代学長を兼任。94年電通顧問、2002年東京都参与。


日本は5年で変わる国−光産業が今爆発的に伸びている

 こう言っては失礼だが、マスコミに出ないようなことが今どんどん日本で起きている。今、光産業がものすごい勢いで伸びている。たとえば液晶のパネル。それからデジタルビデオディスク、DVD。とうとう昨年12月、DVD機器の出荷台数はVTR機器の出荷台数を月間で上回った。VTRは世界中ほとんどの家庭に普及しているが、それがDVDに入れ替わってしまう。これがいよいよ始まった。もう一つ大きいものに太陽電池もある。
 そのぐらいものすごい勢いで日本は変わりつつある。ところがこの変化が非常に早いものだから、なかなか分かりにくい。私は日本の将来について何も心配していない。結局、日本の経済というのは技術が支えている。新しい技術が生まれれば、そこに新しい産業が生まれるのは当然のことだ。光産業の成長率は年率で10%をはるかに超え、市場規模は10兆円になった。鉄鋼業は12兆円だが、これをもうすぐ抜く。日本は分かりやすく言うと変化の国だ、変わる国なのだ。しかもその変わりようの速さといったら5年で行ってしまう。それで私は今日の表題として「5年で変わる日本」を選ばせていただいた。


日本には世界一の産業がたくさんある

 最初に今日本はどういう状態にあるかを申し上げたい。これを知っていなければ判断を間違える。日本の輸出産業を調べてみると日本には世界一の産業がいっぱいある。考えてみるとこの国は不思議な国で、日本列島の面積というのは世界の広さのわずか0.3%。その国がGDP500兆円、世界の経済の15%を担っている。ものすごい国なのだ。その理由を我々は知っていないといけない。
 日本が世界一を握る製品はまず乗用車。生産台数は毎年1000万台だ。それから造船、これは韓国が造船世界一になったと威張ったけど、また抜き返して世界の船の40%は日本製。それから二輪車、工作機械。そして金型、これがすごい。物を作るには金型がいるが、フォードもゼネラルモーターもクライスラーも日本の金型で車のボディを造っている。さらに産業用ロボット、複写機、ファクシミリ、ミニラボ用DP装置などもトップ。それから家電製品。中にはほかの国の物の方が増えた物もあるが、これは大体日本が世界のトップを走っている。今すごいのがデジタルカメラで、とうとう生産が1000万台を超した。デジカメのいいところはその場ですぐに画が出ること。変な顔をしていたら消して撮り直せばいいからこれは売れる。それからカーナビ、ゲーム機、カメラ、腕時計だ。
 そういう物を作るには材料が要る。ITとよく言うが半導体を作るのにはシリコンが要る。それから半導体用エキポシ封止材、IC用セラミックパッケージ、液晶表示装置、リチウムイオン電池その他あるが、これ全部世界一だ。

基礎データを見ていないと間違える−メディアの言うことを鵜呑みにするな−

 そこで皆さんぜひ聞いていただきたい。この世界一のメーカーは経営も世界一なのだ。一時日本の経営なんてなっていない、グローバルスタンダード、アメリカの真似をしろなんてバカなことを言った奴がいるが、そんなことをやっていたら全部世界一から落ちる。経営で一番大事なことは結果だ。結果が世界一ならやっぱりその経営は世界一。いかにいい加減な評論家が多いか分かってきたでしょ。やっぱり現場を見なきゃ駄目。
 また10年間日本は経済空白が続いたと今でも言う人がいるが、あれも嘘だ。1991年はバブルで、その後どんと落ちた。それでまたよくなったのが96年だったが、またどんと悪くなった。経済は政府がやっているのではない、民間企業がやっている。会社というのは不景気になって赤字になると死に物狂いになって立て直しをやる。その効果が出るまで大体3年から4年かかるのである。だから頑張ったら経済は必ず良くなる。
 日本のGDPの構成の中で一番大きいのは製造業。110兆円だ。それとサービス業、この二つが日本の経済を引っ張っている。ところが新聞には毎日金融とか保険とかが出ている。あんなのはたいしたことないのに、トップ記事になるんだから困る。製造業とサービス業を書いてほしい。私たちはやはり基礎的な数字、データを見ていないと間違える。

日本の経済を支えているのは技術力

 何を作るにも鉄が要る。鉄鉱石は日本に来た時は1d2千円。鉄鉱石から鉄板を作ると1d5万円になる。この板を使って自動車を作ると1dで100万円だ。物を作ることから出てくる付加価値が、日本の経済の原点だ。物を作ることで付加価値を付けることは、技術がないとできない。日本の経済をつくったのは技術力。技術がないと物はできない。
 ところが難しいことに、技術はどんどん変わっていく。家電の場合、戦後最初はラジオを作った。その次に白黒テレビで、それからカラーテレビ、オーディオ、ビデオと行き、今新しい技術は日本で生まれてボロ儲けしだした光技術だが、大体10年で入れ替わっている。だからあることで成功したからって寝そべっていたら大変なことになる。最近中国あたりがだいぶ元気になったが、これは日本の技術を持ち帰って色々やっているから。だから日本は潰れるよというが、あれは嘘。中国が持ち帰っている技術は古めかしいものばっかりだ。一番新しい技術は日本がやっている。その後を追いかけているのが中国その他の国なのだ。だから我々は先へ先へと走らないと国は潰れる。日本が技術開発に使っているのは毎年16兆円で、日本のGDPが500兆円だから3.2%になる。こんな国は世界にないだろう。死に物狂いになって新しい技術技術とやっていることを理解してほしい。
 日本の技術輸出は大体9兆円、輸入は4兆円で、日本は技術の輸出国だ。しかも日本の技術を世界で一番たくさん買っている国はアメリカ。アメリカはパソコンで大成功したというが、日本の部品がなければアメリカでパソコンはできない。昔は日本の技術の輸出と輸入とは大体バランスがとれていたが、1993年から技術の輸出がべらぼうに増えている。ITブームでパソコンが無茶苦茶売れだしたからだ。よく日本は物を作るのは上手いけど、その技術の大部分はアメリカから買っていると言う人がいるが、あれも嘘っぱち。アメリカ特許の取得件数のトップ10社には、アメリカの会社はIBMとマイクロン・テクノロジーとGEの3社しか入っていない。サムスン電子以外、残りは全部日本の会社である。こういうふうになったのはこの5−6年で、アメリカの競争力強化委員会は去年、このままでいくとアメリカの会社は日本のパテントで縛り付けられるから、パテントの政策を変えなくてはいけないと報告書を出している。それぐらい日本はパテントを取っている。特にエレクトロニクス関係が強く、アメリカでは何を作ろうとしても日本の特許に引っかかる。ところが今でも日本人は創造性がないなんて馬鹿なことを言う人がいる。創造性がなかったらパテントは取れない。そういうことを言っている人に創造性がない。

日本の製造業の国際化が急速に進んでいる

 案外皆さんご存知ないが、日本の輸出はGDPの中のわずか9%ちょっとである。アメリカは大体7%。ところがヨーロッパは20%前後、韓国は35%、台湾は42%。つまり日本は輸出大国だと言うがあれも嘘で、数字を見ないで言っている。昔は日本の輸出というと耐久消費財、つまり自動車とか家電製品だった。ところが今から7−8年前からこれがひっくり返って、今では日本の耐久消費財の輸出はわずか3割で、残りは消費財、物を作るのに使う材料とか部品だ。なんで逆転したか。一つには日本の海外生産が非常に増えた。二つには電子材料・部品など日本でないとできないものが増えてきた。日本の輸出構造はすっかり変わってしまったのである。ところが今でもテレビでは日本の輸出が増えたと言っては自動車が出てくる。日本の自動車の輸出がアメリカの貿易赤字をどうのこうのと言ったのは10年前の話である。まさにすごい勢いで日本は変わっているから、やっぱり最近の話をしないと分からなくなってしまう。これは非常に大事なことだ。
 こういう変化に対応しなくちゃいけないからどこの会社も大変。今日本の大会社の社長の方々の経歴を調べてみると、海外駐在の経験が10年以上の方がほとんど。それだけ日本の経営は国際化している。日本の海外生産は2000年度には製造業の24%に近づいた。4分の1は海外、これは大変なことだ。私は松下に長年いたが、海外生産がとうとう7割近くなったそうだ。日本の大きな会社はみんな海外にどんどん出て行く。一方海外生産が進むとともに、そういう企業に勤める方を海外からも随分呼んでいる。埼玉県では日本国籍でない労働者の数がもう全体の17%か18%になっている。特に海外に行っていた日本の移民の方が随分日本に帰ってきている。教育をどうするとか、いろんな問題が今次から次へと発生している。一言で言うと日本の製造業の国際化がものすごい勢いで進んでいるということだが、これにどう対応するかについては日本の政府はいつも出遅れだ。
 驚くべきことに、アメリカ製の自動車の輸出のトップはホンダ。次はトヨタである。その次にゼネラルモーターが来る。何でこんなことになるか。むこうで作った車をむこうで輸出した方がはるかに経営的には得だからだ。日本だと税金がどうこうとか色々あるが、海外ならそうした制限がない。マレーシアでは日本の工場がむこうで生産した時に上がる利益に税金を取らない。各国の相続税、所得税のリストの比較書を作ってみると、日本みたいにすさまじく税金を取る国なんてあんまりない。本当にひどい国だ、この国は。特にアジアの国々は日本の会社に来てほしいからほとんど相続税ゼロだが、日本では知られていない。皆さんも子供のためにだったらむこうでやりなさい。その方がよっぽど儲かる。

この不況は空気。気分が変われば金は出てくる

 今度は日本では消費、お金の使い方もまた急速に変わっていることを申し上げたい。とうとう日本の個人消費は300兆円になった。GDPの60%、ものすごい金だ。次に消費全体に占める節約が容易な支出、つまりいいかげんな金ということだがこれは98年にはなんと消費全体の34%、100兆円。この金が出てくれば不況なんていっぺんに飛んでいってしまう。これをみんなが使わなくなったことが今、日本の最大の問題だ。何で使わないか、理由は簡単。あんなに朝から晩まで日本は駄目だ駄目だと言われたら金使わなくなっちゃう。私はこの不況は空気だと思う。世間の空気がおかしいのだ。
 気分が変わるとこの金は出てくる。一昨年横浜は非常に良かった。お正月の箱根駅伝で横浜の学校が勝って、高校野球は春も夏も横浜が勝って、最後にプロ野球で横浜が勝っちゃった。その経済的波及効果は120億。気分が良くなると金を使う、人間って大体そんなものだ。これをどうやって引っ張り出すかが景気対策である。だから総理ももうちょっと上手いこと言えばいいんだけれど、なんか渋い顔ばっかりしているから金が出てこない。

サービス業−後始末産業、ずぼら産業−が今すごい勢いで伸びている

 生活感覚の移り変わりについてはほとんどの方がご存知ないので、データを説明したい。要するにあなたは今度何にお金を使うつもりですかということだが、一番下位なのは衣類、次に耐久消費財、その次に食費が来る。そして20年間ずっと回答の約25%を占めるのが住居。日本人は食べることも着ることも大体満足したので、住まいを快適にしたいと思っているのが表れている。ところが回答が15%からとうとう30%まで行った項目がある。レジャー・余暇・サービスだ。つまり今の成長産業はサービス業である。政府のサービス産業基礎調査で製造業の事業収入の増加率はこの5年間でマイナス3%だったが、サービス業はプラス30%。業種別の就業者の統計では、製造業が大体1600万人で頭打ちになり1400万人まで減ったのに対し、サービス業はわーっと伸びて今1700万人。サービス業ではこの5年間不況はなかったのだ。これは世間ではほとんど言われていない。
 そうすると当然皆さんはサービス業って何だろうと思うだろう。英語の辞書でサービスを引くと、まずサーバント、召使とある。その次がスレーブ、奴隷。要するに誰かさんのために代わりに仕事をしてあげましょうというのをサービスと言う。そういう産業が今日本では猛烈な勢いで伸びていることを知っていてほしい。たとえばダスキンという会社は昔はお掃除の道具を売っていたが、今お掃除の下請けの方がはるかに実入りがいい。大体みんな怠け者になって、もう面倒くさいことは金を出して人にやらせようとなったのだ。私はそういう産業に対して後始末産業と名前を付けた。もっと言えばずぼら産業、みんなをずぼらにしてくれる産業。これからはそういう産業の時代だ。
 私が会長をしているニュービジネス協議会では、毎年新しい事業を創りだした会社を表彰している。去年のトップは消耗して使えなくなった厨房器具を下取りし、新品同様に再生して売る会社だった。サービス業という目でもう一度見直すと、世の中には新しい産業がまだいくらでもある。不景気だー物が売れないだー言っているのはど素人だ。そんなこと言わないで探せって。一つ皆さん方は新しい産業を興してほしい。静岡県というのは新しいことをやるのに日本で一番先頭を行っていて、聞いたことのない産業をつくっている。とうとうノーベル賞につながった産業の会社(浜松ホトニクス)もある。

未来を拓く6つの技術

 そこでこれからの6つの技術について話をしたい。まず第一は「情報技術」、インフォメーションテクノロジー。ITは4つに整理できる。1つは通信、遠くへ情報を送る技術。次に記録。これは今急速に進歩し、とうとうDVDの時代に入った。3番目は処理。最後に制御、コンピューターでシステムを動かすこと。たとえば道路の信号機はコンピューターで車の数を勘定し、混雑の状況に応じて信号を動かしている。次に「新材料、新加工法」。たとえば超鉄鋼。今までの鉄板に比べ強さが倍で、これで自動車を作ったら目方が半分になる。これは日本独特の技術で、楽しみが多い。ほかにも超高速加工、ナノテク、レーザー加工と色々ある。続いて「生命科学」。人間の遺伝子は全部読めるようになった。ところが読んだはいいがこの遺伝子は何をやるのかまだ分からず、その研究がどんどん進んでいる。しかしこれも程度問題。遺伝子を見るとこの人は歳が50になると脳溢血になるとか分かるようになってきて、アメリカでは会社で人を採用するときに爪を持って来させて決めるなどとやりだし、今問題になっている。
 それから「新エネルギー」。世間で有名なのは燃料電池だが、その前にハイブリッドカーが普及するだろう。次に核融合。これは今の原発のような核分裂と違い、核と核をくっつける。この原料は重水素で、重たい水素、水だ。うまくいけば日本は燃料に困らなくなる。そういうすごい研究が今走り出していて、青森県に核融合の研究センターができる。10年や20年はかかるだろうが、やっぱり国はそういうことに金を使わないといけない。5つ目は「環境」。環境問題で今ボロ儲けしているのは実は日本の会社だ。産業廃棄物を燃やすと大体760度でダイオキシンが消えるので、それを燃やすボイラーが世界中で売れているが、ボイラー生産というと日本が圧倒的に強い。環境工場を一つ作ると200億から300億かかる。これは日本独特の技術である。そのほかにもレセプト制度など、新しい課題がいっぱい出てきている。
 一番最後は「宇宙開発」。宇宙開発は日本もなかなかのもの。H2ロケットは前はよくしくじったけど、最近日本のロケットは打率が100%になった。この使い道はいっぱいある。今一番期待されているのは漁業。魚のいる潮目を探すのだ。ほかの国の10分の1しか金が出ないのだが、宇宙開発も日本のいろんな新しい技術の一つの柱になりうる。

最後に残るのはセンス。センスが悪い奴は駄目

 これから我々が生きていくにも技術力を蓄えていかなくてはいけない。我々技術屋としては経済を支えているのは技術力だという信念を持ってやっている。幸いなことに今理工系の学生がだんだん増えていて、よくやっている。程度の低いのもいるがそんなのは勉強すればよくなる。結局は訓練だ。だけど最後に残るのは何か。センスだ。センスが悪い奴は駄目だ。センスとは何かと説明すると時間がかかるのでやめておくが、新しい技術をやろうと思ったときにこれってパッと分かるようでないと駄目である。そんな人たちを私は一生懸命育てるために努力している。皆さんの周りにもそういう方が実際にいらっしゃると思うから、大事にしてやっていただきたいと思う。


 
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