サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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活動内容
平成15年度の活動方針

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平成15年度総会 平成16年5月26日(沼津東急ホテル)
記念講演「人類にはまだ知らないことできないことがいっぱいある」


■講師略歴

晝馬 輝夫氏
浜松ホトニクス(株)代表取締役社長

 1926年生まれ。47年浜松工業専門学校(現・静岡大学工学部)機械科卒。53年浜松テレビ゙株式会社設立と同時に取締役就任。64年代表取締役専務、78年から代表取締役社長。83年4月浜松ホトニクス株式会社に社名変更。84年PHOTONICS MANAGEMENT CORP.(米国)社長に就任。他にも(財)しずおか産業創造機構理事、(財)光科学技術研究振興財団理事長、中国浙江大学教授、(財)天文学振興財団理事、(株)磐田グランドホテル代表取締役会長、中国南開大学客員教授、(株)光ケミカル研究所代表取締役社長、上海交通大学客員教師、浜松医科大学運営諮問会議委員、日本経済団体連合会理事、(財)浜松光医学財団理事長を兼任。


「科学」と「サイエンス」は違う−真理を追い求める心がサイエンス−

 日本は現在、閉塞感に包まれたような格好である。日本は明治維新以来、国を挙げて外国の文明を輸入した。ところが日本が取り入れたのは目先の使って便利な、いわゆる日本語でいう科学だった。科学とサイエンスは違う。今から30年ほど前、アメリカに行ってノーベル賞をもらった科学者らと話をしてそう気が付いた。科学とは使って便利な、サイエンティフィック・テクノロジーとかサイエンティフィック・ノレッジといった、サイエンスの活動をした結果出てくる知識のことをいう。ではサイエンスとは何か。本当のことは何だ、絶対的な真理とは何だと、それを追い求める心がサイエンスだと思う。言ってみれば、哲学や宗教や芸術と同じようなものだ。ただサイエンスの場合には自分だけ分かってるのでは駄目で、第三者にも分かるような方法で説明しなくてはならない。
 ところが日本では科学という結果だけ持ってきて、もとの真理を追い求めるということをずっと行ってこなかった。戦前は大学の研究の中で真理の追求の話を少しはしたのだが、真理を追究したという外国の人の書いた物を読んでどうだと言っていた程度。日本は結果としてはある程度の金儲けはできるようになったわけだが、今度は中国あたりが出てきて、日本が一緒に競争をやろうとしてもコストが高くて儲かるわけがない、という話になった。


光は粒であり波であると言うが本質はまだ分かっていない

 それではどうすべきか。私は光のことしか分かっていないので、光について話しをしたい。光とは一体なんだろうか。実は光の本質はまだ分かっていない。
 ただ光の性質という話になると、光は粒である、もう一つには波であると言える。光はこの両方の性質を持っている。しかし粒であるという話と波であるという話は容易にくっつかない。互いに相違う性質を持っているという妙な話になってくるが、それは光の動作を説明するときにこう考えた方が都合がいいということであって、いずれ今よりもう少し物理が進歩してくると、この2つのものが帰一されるような解釈が出てくるのだと思う。そうするとアインシュタインの次の物理が出てくるようなことになるだろう。
 今の技術から言うと、粒だって言うなら、一個の光の粒(光子)がどこからできてどこに当たるか、ということが測れればいい。一方の波動性となると、これが面白いのだが、波は時間とともに大きさが変化するので、ある単位時間における光の大きさが分かればあとは周波数などを入れて数学的に全部計算ができるような計器ができる。今のところ時間は無限に小さくなるという理論になっていて、最近ではサブピコ秒の測定ができるような道具はできた。サブピコ秒とは1ピコ秒(1兆分の1秒)のそのまた下の桁ということで皆さんピンと来ないかと思うけれど、1秒間に30万キロ走ると言う光が1ピコ秒では0.3ミリしか動かないのである。それで何がうれしいんだと言うと、非常に大出力の光は光の量を時間で割って表すが、通常1ワットの光が1秒間に来るものを、その光をぎゅーっと時間を縮めて1ピコ秒に全部入れてみる。すると1テラワットというものすごい強い光になる。強い光となるとやたら光子がたくさんあるとお考えかと思うが、実はそうではなく光と物質の相互作用があって、短い時間にたくさん送り込むことで非常に強い光がどんどんできるのである。短い時間を使うことで非常に面白い現象がいろいろ出てくる。


光は物質の糊である

 光というのは一体何であるか、どこにいるか。光が今急になくなったらどうなるだろう。真っ暗けで困っちゃうとお思いだろうが、そうではなくて皆さんの体はおろかこの机、会場のビルディング、全部ドロドロに溶けちゃうのである。
 それはどういうことか。たとえば水素の原子は真ん中の原子核に陽子が1個入って、その周りに電子が1個回っている。この電子がマイナスで陽子がプラスの電荷を持っているが、通常こんな非常に近い所にあればペチャッとくっついて電気がなくなり水素の原子という物は存在できないはずなのに、ちゃんと頑張ってる。それは光が電子にもぐり込んで、電子が元気になっているからだ。そこにさらに光子が飛んでくるともっと元気がよくなって電子は遠い軌道に入る。逆に光がなくなるとと電子は元気をなくすから、中の軌道に落ちてくる。従って光は原子の中の電子の軌道を制御しているのである。電子の軌道を制御して何がうれしいんだと言うと、たとえば原子2つがバラバラにあってもドロドロの状態だからどうしようもない。しかし外から光子が入って電子がある状態になると、両方の軌道が一緒になって2つの原子核を2つの電子が回るようになり、電子の縄で原子が結ばれる(共有結合)。その他イオン結合など色々あるが、すべて電子の作用で原子と原子は結ばれ、一つの物質ができる。だから光というのは物質の糊だ。よって糊である光がなくては、そこらじゅう全部ドロドロに溶けちゃうという話になるわけだ。
 それが三千年も昔に作られた旧約聖書にある創世記の『天地の創造』に書かれている。−神様は天地をつくった。だがドロドロになっていてどうしようもなく、地は混沌であった。神様はこりゃいかんと気がついて、「光あれ」と言った。神様は光はいいもんだと言って、それで夜と昼をつくって天と地をつくった。それが第1日目の仕事だった。2日目からは光を使ってすべての物をつくって、5日目には終わった−というような話だが、三千年前にちゃんとそういう話があり、それを人類がこれは大事だよとずっと受け継いできた。それを物理学で説明するようになっただけのことであって、あまり新しい話ではないと思う。


目に見えないところにも光がたくさんある

 一口に光と言っても色々あって、普通の皆さんは目に見える光を光とおっしゃっていると思うが、私どもはこれを可視光と呼ぶ。ほかに見えないのがたくさんあって、エックス線だとかガンマ線だとか、紫外線、赤外線、遠赤外線、電波、こういうのが全部実は光なのだ。光のことはまだやることがいっぱいあると申し上げているのは、実はこういう広い範囲のところを指しているとご理解いただきたい。
 たとえばモヤシを真っ暗な中に入れ、出てくる微弱光を検出する非常に感度のいいカメラみたいな道具を作って写真を撮る。生長点では当然光がたくさん使われるから最も光を検出できる。このような、生物がその生命活動に伴い出す極めて弱い光を生物フォトン(バイオフォトン)といい、今から20数年前私どもが写真を初めて撮って世界に実証した。大豆から光が出たって面白くはないと言うかも知れないが、たとえばサツマイモがフザリウム菌にやられると全然甘くなくなり、これを種イモにすると子孫も全部甘くなくなって困る。そこで種イモにイの字に菌を塗り付けさっきのカメラで画を撮ると、免疫の作用で抗原がフザリウム菌を食い殺しているイモには菌の分解で出る光でイの字が浮かぶ。光れば甘い、光らなければ駄目となり、種イモのフザリウム菌に対する耐性を検査できる。これは県の農業試験場と私どもが一緒にやったが、私が大の男がイモが甘いか甘くないかで騒ぐのはどうかと言ったら「抗原抗体というのは人間の体や植物にとって非常に大事な役目をなす。大の男がちゃんとやるべきことなんだ」と怒られて恐縮した覚えがある。


日本企業は「暗黙知」をいっぱい持っている。活かし守り育てろ

 経営学の野中郁次郎先生、この方は竹内弘高氏と共著で『知識創造企業』(東洋経済新報社)というご本を書かれたが、最近私はこの方のお話を伺って目から鱗が落ちた。知識というものには暗黙知と形式知の2種類がある。暗黙知とは口で言えないけど俺は知っている、できるという知恵で、秘伝に属するようなもの。形式知とは既に分かっている、数学や物理、化学というような形式に則って表す知識である。通常皆様が知識として言うのはこの形式知。形式知にならないと学術文献には載せてもらえない。だから形式知の方が大事だと思われているわけだが、実際に知識の発達の過程から考えると一番最初に出てくるのは、なんしろ訳が分からないけどこうやればいいぜ、というようなことだ。たとえば飛行機の発明。空飛ぶ鳥を見て、羽をバタバタすれば飛べるのかと崖から飛び降りたら落ちて死んじゃったということはいっぱいあっただろう。それがああでもないこうでもないとやっているうちに、ライト兄弟がともかく飛ぶには飛んだ。空気力学だのという学問ができたのはそれから後で、先に空気力学があって飛行機を造ったのではないのである。だから飛びたいなあという意欲のもとに一生懸命頑張ってともかく飛べるようになって、なぜ飛んだのか分からんじゃあ困るということから、空気力学とか色々が出てきたのだ。
 この会場にも何か物を作っておられる方がお見えであろうが、ちゃんと儲けることができる物は我が社だけが知っているとか、あの男がやればできるとかいうことがあって初めてできる。一般的な大学を出てきた知識で作れる物では絶対儲からない。だから我が社だけでできますよというのが非常に大事で、この暗黙知が実は日本では方々の企業にいっぱいあると野中さんは言う。ではアメリカはどうか。アメリカの大学の気の利いた所の先生方と話してみると気が付くが、ほとんどの先生が自分の専門分野に対して相当強い暗黙知を持っておられる。ただしそれは暗黙知として人に言わない。ま、言えないわけだが、ある特定の分野についてその知識を応用する場合は形式知としての文献をお書きになる。よってアメリカに留学する日本の大学の若い先生は形式知を習ってお帰りになることになる。帰国してあんまり長くたつと知識が古びちゃうから、しょっちゅう文献を送ってもらうとかまた1−2年勉強しに行くとかして、形式知の維持をしている。
 一方、日本の大学には形式知しかないので、日本の大学で勉強した人たちは形式知しか持ってない。そういう人たちを集めて仕事しても企業は儲からないから、自分たちの所で一生懸命暗黙知をつくっていく。ちゃんとやった企業はそれなりに伸びている。トヨタは最初は外国から自動車を教わって持ってきたが、今ではうんと儲けてアメリカの自動車会社がトヨタの真似をする。なぜか。日本の企業は終身雇用で、トヨタでは従業員に親子3代働いているような人たちもいて、暗黙知がいっぱいある。それが一つの日本の企業の財産になっている。アメリカでは従業員が次々と移り変わり、一つの企業の中で暗黙知を育てることはしない。最近は新しい知識をもらってきて大急ぎで会社をつくって、少し儲けてどこかに高く売り付けるのが成功物語だ、日本もやろうじゃないかなどと馬鹿げたことを言うが、そうではないんだ、暗黙知が非常に大事なのだと私は申し上げたい。


新しいサイエンスから始まり新しい生き方、新しい価値観に至りさらに新しいサイエンスと巡るスパイラル

 人類にはまだ知らないことできないことがいっぱいある。これを切り拓くには独自の文化を熟成させることが必要である。絶対真理の存在に対する対処の仕方を文化というのではないかと思うが、これを日本は明治以来ほとんど捨てて省みなくて、外国の真似専門できた。だから今の日本の哀れさは己がないことにある。今でも、政府の補助金でお役所と企業が一緒に何かやる話があると、ほとんどの場合一番先にやるのは欧米視察旅行だ。相変わらず己が自らつくった知識でなく、借り物の仕事をしようとする。大変なさけないと思うと同時に、それを続けていて果たして日本独自のものができるのか、問題に思う。
 そして日本では、外国から持ってきたものを特定の企業だけに許可するよ、と規制をする。政治と経済が密着して、持ちつ持たれつで国内では結構商売になるが、これからのビジネスは国内事情を満たすだけで通れるわけがない。世界規模で考えていかにゃいかん。しかし厄介なことに今まで日本国内ではそれで来てたから、政治と経済の間に密着を過ぎたような非常に汚い関係が成り立っている。それがあたかも仕事をするということであり、それをうまくやるのが事業家の手腕だという風潮がある。これを何とかしないといけない。
 では新しいビジネスとはどう考えるべきか。まずは先程申し上げた意味で、新しいサイエンスが出てくるとする。すると多くの新しい科学が出てきて新しい技術ができ、新しい応用→新しい市場→新しい産業へと進む。ここまでは前と変わらないが、その産業の目的は金儲けというのが今までの例だった。これからの新しい産業は人類に対して新しい生き方を与えるものでないと値打ちがない。金儲けちゃいかん、と言うんじゃないが、金を儲けることでそういうことをする。それができると新しい価値観ができる。新しい価値観ができれば再び新しいサイエンスができるだろう。またぐるぐる回って上向きの進歩ができる。それが世界の中でできるのが産業の本当の値打ちなんだ、と私は主張したい。


光技術でがんとボケを早期発見する

 ではそれを実際にどうやって光でやろうとしているのか。私どもはまず人間の健康の問題を考える。特に日本では高齢化が進んで要介護の老人が増加して医療費が増大し、その結果若年人口の減少とともに若い人に対する医療費の負担が非常に増えている。厚生労働省の発表では2−3年前には年間の医療費が30兆円だったのが平成25年、10年後には60兆円ぐらいになる。死ぬまで元気で働く人間をつくらにゃしょうがない。
 その一つの道具としてポジトロンコエミッショントモグラフィー(陽電子放出断層撮像、PET)がある。ポジトロンとはプラスの電荷を持った電子のことだが、これを放出するポジトロン放出核種をサイクロトロンという装置でつくる。そのポジトロン放出核種から出てきた陽電子がマイナスの電子とぶつかると電荷がゼロになり、ガンマ線の相当強いのが2個出てほぼ180度反対方向へ飛んでいく。この性質を利用して、ポジトロン放出核種を標識として酸素や水、糖分などと科学合成した薬剤を人体に注射し、どこからガンマ線が飛んできたか検出し画像を再構成するのがPETである。これを使えば人間の体の中の化学作用が起きる場所が見える。この技術で人間の体の中を色々測ろうという努力が進み、今では体の中の問題は相当分かるようになってきている。人間の脳が生きている状態でどう働いているか、どうやって考えてんだ、何で喜んでんだということも研究できる。

 一番新しく作ったのが全身のポジトロンの分布を測るPETである。これで全身のがんを測ろうじゃないかとなり、浜松市の市長にお願いして、県西部浜松医療センターの分室に私どもの研究所の横に来てもらった。がんは非常に激しく分裂する。ということはそこにエネルギー、燃料がいる。その燃料がFDGというもので、外から放射線の付いたグルコースを入れるとグルコースはそこに集まる。たくさん集まる所は細胞がひどく分裂していることになる。胃がんの切除手術後も具合の悪い患者の方を測ったら、グルコースが集まる小さな所がいっぱいあり、転移が見つかった。残念ながらこの方はお亡くなりになったが、PETで検査をすると非常に小さながんが分かる。だからがんを非常に早い時に発見できる。そこでPETで早くがんを見つけて治しちゃおう、と計画したわけである。
 PETはボケの診断にも役立つ。脳ブドウ糖代謝で見ると、健常人に比べてボケの患者はグルコースが大分ない。これはがんとは違ってグルコースがない所が働いてないということでまずい。純粋健忘には、血管が詰まって血液が行かないからそこの働きが鈍くなるケースと、医療センターの金子満雄先生が定義された、脳が使わないから退化しちゃう「ずるボケ」のケースがある。だから純粋健忘患者は治る。一方アルツハイマーは現時点では治す方法が見つかっていないが、PETなら早く見つけられる。両方とも今のところは名医が診れば分かるという段階で、名医でなくてもコンピューターで診られるようにならないかと努力中なのだが、発症の3年程前に見つけることはできる。だからアルツハイマーでも症状が出ていないうちに見つければ薬を飲んで進行を止めて、ずっとボケないで済むだろう。
 老人になればなるほどがんで死ぬ人は増え、65歳以上の死亡例の30%はがんで、80、90歳になれば死亡例の50%以上にまでなる。眠るがごとく死ねれば別に言うことはないが、がんというのは非常に痛い、つらい。痛みを止め苦しまずに亡くなっていただくために実は相当お金をかけていて、今一番金がかかって各健康保険組合で困るのはがんである。同時に、堅実に仕事してもらうためにはボケの問題も重要。まずはボケとがんを測ろうと、この4月に浜北PET検診センター用検診棟が竣工した。これは私どもの一つの夢というか実験の第一歩で、8月から私どもの従業員を測り、それでうまくいけば各健保組合と連携して遠州120万人を測りたい。検診はまず尿や呼気などを分析するプレ・スクリーニングをやり、怪しい人はPETやMRI、X線CTなどで検査して診断を下すという流れであるが、これでボケになる人、がんになる人が相当減る。
 東部では重陽子線でがんを殺そうというお話だがあれにご厄介になる時分には相当傷んでいる。こっちは見たところまだ健康な人のがんを早く見つけたい。うちの会社では去年300人ほど集めて尿の検査をやった。初めてであったために、尿の中に何がどれほどあればがんなのか分からず試行錯誤したが、30人ほどPETへ突っ込み3人ほどがんが見つかった。1人は早期とは言えないぐらいだったが、全員治って今ピンピンしている。その時にほかの3人が大きなお世話だと言ってやらないでいたら、何とみんながんになっちゃって病院に行った時には手の施しようがなくみんな死んじゃった。だからおかしいから来いって言うんじゃ手遅れだ。ピンピン元気のいい奴を定期的に測らにゃいかん。これまでのPETでは1日6人ぐらいしか測れなかったが、最新のは30人測れる。3台あればうまくいけば1日100人ぐらい測れる。遠州からはがんとボケがなくなる、ということをしたい。


未来を拓く光技術−レーザー核融合と植物工場−

 日本の産業の重荷の一つは日本国内では産業用原材料がほとんど取れないことである。もう一つは電気が高いこと。同時に土地が高いことである。人件費も高いのだが、そこらへんはあんまり野暮なことを言わないで、さてこれをどうするか。私どもは大阪大学のレーザー核融合研究センターと過去四十年間、レーザー核融合の研究にとり組んできた。これは日本のエネルギー問題を救うことができる基本的な方法である。
 核融合の方法は重水と三重水素の凍った物が入った直径0.3_程のごく小さなプラスチックの球に、周囲からテラワット級のレーザーを均一に照射し、レーザー爆縮を起こす。爆発ではなく、縮む、という構造。すると中にある重水と三重水素の原子核がギューッとくっついて一緒になっちゃう。この時に使った量の大体1000倍ぐらいのエネルギーが出る。うちは励起用の高出力半導体レーザーを阪大と共同で開発した。
 日本では色々国会でうるさいことを言う人がいてレーザー核融合は軍事研究だ、けしからんと言ってさっぱり話が進まなかったが、おかげさまで最近IAEA(国際原子力機関)が音頭を取ってレーザー核融合の研究をやろうという話になった。だが、今大問題なのは核融合を起こしてからどうやって電気をつくるかである。今のところ、それでもういっぺん水を温めて蒸気にしてタービン回すんだと言ってるが、そんなトロくさいことするな、何とかしろやと言っている。それができれば電気ももっと安くなるだろう。
 レーザーを使ってもう一つ、植物工場というのを造っている。赤色高出力半導体レーザーと青色LEDを光源にして稲を育てると、大体70日で米が実り、年5回できる。農林水産省に言ったら、社長さん、日本は米余っているんですと言う。電気が安くつくれるようになってもし3円50銭になったら1d5万6000円でできるそろばん勘定だと言ったら、そんなことすれば百姓みんなつぶれちゃうと言う。まったく農林省の役人ってのは度し難い。さらにこの工場で生成した有機材料を使い、工業用原材料を供給することも夢見ている。稲だけだと葉に当たる以外の光が下に落ちてもったいないから、何か藻みたいなのを一緒に育てればみんな吸収するだろうと北海道大学の先生に言ったら、ユーグレナという植物プランクトンで共同実験をやることになり、結果6日か7日でレタスの200倍ぐらいの速度で生長した。しかもこれは1d作ると1dCO2を吸う。これ以外にも植物プランクトンは色々ある。有機合成化学を使うことでできた物から工業用原材料を生産し、日本にしかない工業用原材料を供給できるようにしていこう。そうすれば日本では工業原料が取れないという問題が解決できるだろう。まあこれは大分先の話だけど


生命と心の現象は物質の作用である

 何も景気が悪くて政府の不況対策を待たないと俺たちやることがないんだ、なんてつまらないことを言うことはない。自分でどんどん知恵を働かせればやることはいっぱいあるんだ。その訳の分からないことを考えろよって話になると厄介なんだが、私どもも光産業開発創生大学院大学構想というのを持っている。日本では明治以来産業を自分たちでつくったことがない。それを自分たちでつくろうじゃないかとやっている。
 (スライドを指し)これはニュートリノ観測でノーベル賞をもらった小柴さんで、これは私で、スウェーデンでのノーベル賞の授賞式である。これは私どもが20年来付き合っているシドニー・ブレナーということしのノーベル賞をもらった遺伝子研究のイギリスのボスだ。カミオカンデはプロトンという陽子が崩壊するのを実験しようというのがそもそもの目的だった。これはハワイ島のマウナケアという4200bの山のてっぺんに日本が造った国立天文台ハワイ観測所の反射望遠鏡で、私どもも参画した。お前らこんなどでかいもん造って何するんだと聞いたら宇宙の果てを見たいと言う。宇宙の果てってどこ見りゃいいんだと言うと、そういうこと言う奴はニュートン物理学だ、量子物理学で言えばどこ見たって分かるはずだって言うんで、もうそれ以上聞くのやめたんだが。ともかくビッグバンで宇宙がどんな具合でできたかを知るには、その200億年昔にバーンとはぜた奴が光の速度でバアーッと広がっているから200億年先っちょを見れば分かるはずだ。そう言うと皆さんそうだなってお思いだろうが、よく考えると全く分からなくなるのでは。
 同時に人間の生命力というのは遺伝子であり、遺伝子とはタンパク質だ。人間の神経、心の働きも実は神経伝達物質という物質によって行われていることが光の研究で分かってきた。ビッグバンの10秒後には粒子が全部できたのだから、体に入っている物質というのは今から200億年ぐらい前にできた物質が宇宙の中をぐるぐる回って、本日ただ今皆様方の中に入っているのである。その物質が実は心の問題、命の情報を全部持っている


未知未踏の所を切り開く−できないと言わずにやってみろ−

 だから皆さんの意識が体の中にある物質との間で情報を交換できれば、何も大学行って勉強してこにゃいかんって話には全然ならない。訳の分からんこと、知らんこと、できないことをやりなさいよと私が言ったら、大変だ、うちの会社の若い奴をもういっぺん大学やりました、って浜松の社長さんがいたけど、そりゃお前間違いだわ。毎日の仕事を一生懸命見て、素朴に考えてみろ、そこに訳の分からんこといっぱいあるよ。そういうの自分でよく考えてみろ。それで皆で相談してみれば、そこで何かをやろうという話が出てくるはずだ。それが未知未踏の所を一人ひとりが開いていく道なんであって、決して難しい話じゃない。浜松ホトニクスの社長の話を聞くなんてつまらんこと考えないで、ご自分でおやりになったらいいんじゃないか、というところでございます。


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