ではそれを実際にどうやって光でやろうとしているのか。私どもはまず人間の健康の問題を考える。特に日本では高齢化が進んで要介護の老人が増加して医療費が増大し、その結果若年人口の減少とともに若い人に対する医療費の負担が非常に増えている。厚生労働省の発表では2−3年前には年間の医療費が30兆円だったのが平成25年、10年後には60兆円ぐらいになる。死ぬまで元気で働く人間をつくらにゃしょうがない。
その一つの道具としてポジトロンコエミッショントモグラフィー(陽電子放出断層撮像、PET)がある。ポジトロンとはプラスの電荷を持った電子のことだが、これを放出するポジトロン放出核種をサイクロトロンという装置でつくる。そのポジトロン放出核種から出てきた陽電子がマイナスの電子とぶつかると電荷がゼロになり、ガンマ線の相当強いのが2個出てほぼ180度反対方向へ飛んでいく。この性質を利用して、ポジトロン放出核種を標識として酸素や水、糖分などと科学合成した薬剤を人体に注射し、どこからガンマ線が飛んできたか検出し画像を再構成するのがPETである。これを使えば人間の体の中の化学作用が起きる場所が見える。この技術で人間の体の中を色々測ろうという努力が進み、今では体の中の問題は相当分かるようになってきている。人間の脳が生きている状態でどう働いているか、どうやって考えてんだ、何で喜んでんだということも研究できる。
一番新しく作ったのが全身のポジトロンの分布を測るPETである。これで全身のがんを測ろうじゃないかとなり、浜松市の市長にお願いして、県西部浜松医療センターの分室に私どもの研究所の横に来てもらった。がんは非常に激しく分裂する。ということはそこにエネルギー、燃料がいる。その燃料がFDGというもので、外から放射線の付いたグルコースを入れるとグルコースはそこに集まる。たくさん集まる所は細胞がひどく分裂していることになる。胃がんの切除手術後も具合の悪い患者の方を測ったら、グルコースが集まる小さな所がいっぱいあり、転移が見つかった。残念ながらこの方はお亡くなりになったが、PETで検査をすると非常に小さながんが分かる。だからがんを非常に早い時に発見できる。そこでPETで早くがんを見つけて治しちゃおう、と計画したわけである。
PETはボケの診断にも役立つ。脳ブドウ糖代謝で見ると、健常人に比べてボケの患者はグルコースが大分ない。これはがんとは違ってグルコースがない所が働いてないということでまずい。純粋健忘には、血管が詰まって血液が行かないからそこの働きが鈍くなるケースと、医療センターの金子満雄先生が定義された、脳が使わないから退化しちゃう「ずるボケ」のケースがある。だから純粋健忘患者は治る。一方アルツハイマーは現時点では治す方法が見つかっていないが、PETなら早く見つけられる。両方とも今のところは名医が診れば分かるという段階で、名医でなくてもコンピューターで診られるようにならないかと努力中なのだが、発症の3年程前に見つけることはできる。だからアルツハイマーでも症状が出ていないうちに見つければ薬を飲んで進行を止めて、ずっとボケないで済むだろう。
老人になればなるほどがんで死ぬ人は増え、65歳以上の死亡例の30%はがんで、80、90歳になれば死亡例の50%以上にまでなる。眠るがごとく死ねれば別に言うことはないが、がんというのは非常に痛い、つらい。痛みを止め苦しまずに亡くなっていただくために実は相当お金をかけていて、今一番金がかかって各健康保険組合で困るのはがんである。同時に、堅実に仕事してもらうためにはボケの問題も重要。まずはボケとがんを測ろうと、この4月に浜北PET検診センター用検診棟が竣工した。これは私どもの一つの夢というか実験の第一歩で、8月から私どもの従業員を測り、それでうまくいけば各健保組合と連携して遠州120万人を測りたい。検診はまず尿や呼気などを分析するプレ・スクリーニングをやり、怪しい人はPETやMRI、X線CTなどで検査して診断を下すという流れであるが、これでボケになる人、がんになる人が相当減る。
東部では重陽子線でがんを殺そうというお話だがあれにご厄介になる時分には相当傷んでいる。こっちは見たところまだ健康な人のがんを早く見つけたい。うちの会社では去年300人ほど集めて尿の検査をやった。初めてであったために、尿の中に何がどれほどあればがんなのか分からず試行錯誤したが、30人ほどPETへ突っ込み3人ほどがんが見つかった。1人は早期とは言えないぐらいだったが、全員治って今ピンピンしている。その時にほかの3人が大きなお世話だと言ってやらないでいたら、何とみんながんになっちゃって病院に行った時には手の施しようがなくみんな死んじゃった。だからおかしいから来いって言うんじゃ手遅れだ。ピンピン元気のいい奴を定期的に測らにゃいかん。これまでのPETでは1日6人ぐらいしか測れなかったが、最新のは30人測れる。3台あればうまくいけば1日100人ぐらい測れる。遠州からはがんとボケがなくなる、ということをしたい。
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