◆山口 ファルマバレーのファルマには薬、薬剤という意味があるので、ファルマバレー構想は医薬品あるいは医療用具という辺りに非常に強くスポットが当たったような印象を与えているのではないかと思う。それも大事な一面ではあるが、ただ言いだしっぺの1人としては、今日話題のウエルネス産業あるいは健康産業の活性化も2本の柱のうちの1本であるとお伝えしたい。もっとも医療や医療・健康用具の開発は研究者からもものづくりをする人からも見えやすいのに対して、ウエルネス産業の方は方向を言うのがなかなか難しい。だからこちらについては地域から積極的に提案していただき、それを推進する役割をファルマバレー関係者が担うという取り組みをしている。その1つの表れが4月に発足したファルマバレーセンター。まだ県の職員の出向で数名の体制だが、観光行政のエキスパートや伊豆をよく分かっている人材が揃い、ファルマよろず相談という形で地域の方からの提案、相談を受けている。既に月50件以上の相談があり、そのかなりの部分がウエルネス産業に関係するものだ。かなり難しい相談があったときは県庁の特命チームが県庁内での調整を可及的速やかに行う。少なくともYESかNOかを速やかに出し、各部局の盥回しのようなことは絶対しない。長期的な視野で活用していただきたい。
ファルマバレー構想を話すとき、私はいつも薬師如来のことを申し上げている。当時の薬師という言葉の中には医師の仕事も全部含まれていた。いろんなお寺の薬師如来を見ると掌の上に小さな薬壷を持っておられる。この中には霊薬が入っていて、霊薬を使うと体の異常も治るし心の癒しにもつながる。ファルマバレー構想というのは、たとえるならそういう霊薬を皆で作り上げていこう、地域としてそういう実践をしていこうというプロジェクトだ。利益を受ける対象はあくまでも住民。病気になったときに世界でも最も進んだ医療を受けられるとともに、ものづくりや観光産業に携わる住民の方もうまく利益を受けていただくというのが1つの理想像。ただこれはまったく始まったばかりで、住民ということを打ち出した産学官共同事業は全国でもたぶん初めての試みで注目されているが、一方で本当にうまく進められるのかと言う方もたくさんおられる。ファルマバレーセンターはその辺を注意しながら進めていこうとしる。
今は日本人の3人に1人ががんで命を落とす時代なので、約半数の方が一生にいつかどこかでがんにかかる。その対策は、1つは予防。先程の夫を殺す10ヵ条の逆を一生懸命やっていただくことが大事だが、この大部分は脳卒中、心筋梗塞を予防する生活習慣でもあり、日本人の死因の大体4分の3から3分の2をカバーできる。2番目には検診。今日この場で検診をやると、200人おられるとすれば1人か2人がんが見つかるはず。残念ながらこれは事実なので、検診はぜひ受けていただきたい。3番目の大切な注意は、もし何か症状があったり、健康観が崩れたときは迷わず勇気を持ってお医者さんに行くこと。この3つをきちんとやっていただければ今がんは全国平均でも5割、がんセンターのような高度医療機関だと6、7割は治る時代なのでしっかりと治していただけるのではないか。
そういう時代に備えてでき上がったのが静岡がんセンター。私は究極のサービス産業として運用して下さいと職員に常々申し上げている。サービスには単にお金勘定だけでなく高質という意味が少しある。このサービス産業の特徴は命を預かること、それから医者の嫌な役目だがせっかく健康観に満ち満ちている方々の前でがんがあるかもしれないというようなひどく心の平穏を乱すことを言わなければならないこと。サービス産業は顧客満足度がキーワードになってくる。医療関係者にとっては患者、家族の満足度、これが間違いなく21世紀のキーワード。顧客の選択、集中ができていないサービス業は衰えていくはずだが、がんセンターはどういう患者さんがお見えになるかを病気の名前まで含めてほぼリストアップし、たぶん最も顧客をしっかり捉えている病院ではないかと思う。
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