サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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第9回富士地区分科会 平成16年2月10日(ホテルグランド富士)
パネル討論 
  テーマ:伊豆観光の新展開−ウエルネスによる伊豆の活性化に向けて

<パネリスト>
池内 賢七男 (クアハウスかけゆ前支配人)
山口 建   (県立静岡がんセンター総長)
高橋 誠   (駒の湯源泉荘代表取締役)
鈴木 藤一郎 (伊東市長)
(アドバイザー)
古川 文隆  ((財)日本ウエルネス協会専務理事)

<コーディネーター>
青山 茂   (サンフロント21懇話会TESS研究員)

◆青山 古川さんからこれからの新しい価値観であるウエルネスというものを行政、住民、企業、全体のネットワーキングの中で考えていかなくては、というお話があった。ウエルネスというのは目的を達成するために健康で居続けるためのコンディショニングと言ってよいのだろう。地盤沈下が言われて久しい伊豆の観光の立て直しを考えるに当たり、ウエルネスをビジネスの視点で見た場合にどんな展開が見えてくるかを考えたい。まず、今までの取り組みのご紹介を。


伊豆の温泉で体の癒しと心の癒しを

◆鈴木 伊東市は平成10年に厚生省から健康保養地モデル市町村の指定を受け、平成12年2月に健康回復都市宣言をさせていただいた。都会で仕事で疲れた方々に、伊東温泉で文化、スポーツ、レクリエーションを通して心のリフレッシュをしていただくのが目的だ。宣言以来、毎年オレンジビーチマラソンを開催し、有森裕子さんを招いて講演も行った。市民対象には腰痛や生活習慣病の予防教室などを催している。観光用としてはいくつかテストケースをつくり、希望の旅館に売り出してもらった。これは最初は補助金をもらったのでだいぶ安くやれて多くのお客さんに来ていただけたが、補助金がなくなったらなかなかうまくいかない事例も出てきている。体の癒しと心の癒しを目的としてまちづくりを展開をし、お客さんを新たな角度から呼んで来ようと努力中である。そんな中、県のファルマバレー構想が打ち出されてきた。最初は富士山麓、沼津辺りを中心とした医薬品、医療機器が主体であろうと思っていたが、ウエルネスの問題が取り上げられてきたので何とかうまくタイアップしながら新たな観光の方向を見出したいと県とも相談している。ウエルネス部門は具体的な方法が見えにくいが、これは県とともにつくっていかなければと思う。連携を取りながら伊豆全体に広げていきたい。
◆高橋 畑毛温泉から2キロ程山間に入った韮山町の奈古谷という所で、駒の湯源泉荘という1軒宿と日帰り温泉の両方を営業している。畑毛温泉は静岡県でただ1カ所指定された国民保養温泉地である。ウエルネスとはまさに健康増進、健康づくりであると私は捉えたが、昔から温泉利用については休養、保養、療養の3養という考え方がある。この3養の中で温泉を利用した保養ということがウエルネスの考え方と非常にマッチするのではないか。そう考えていま、保養健康プログラムを旅館の中で展開している。1つ目は私を含めた施設内のスタッフによる入浴セミナーの開催、体操のインストラクターによる健康リフレッシュ体操の指導、上手な入浴法と題したリーフレットを配布するなどの啓蒙活動。2つ目は外部からインストラクターやセラピストを呼んで、温泉と組み合わせて整体治療とリフレクソロジーをやること。3つ目は医療機関との連携。と言っても大それたものではなく私は勝手に緩やかな連携と呼んでいるが、近くに開業されている温泉療法医の先生にお話をしたところ快く引き受けてくださり、お互いに無理なく長続きする形で、と始めたものだ。診療所に通院中の方で温泉利用が治療に役立つ方に限りドクターが私どもの割引券をお渡し下さっていて、温泉利用の普及を担っていただいている。
 始めて3年ぐらい経ったが、私自身これに全力を注いでいるわけでもないので残念ながら経済的、事業的な成果にはなかなかつながっていない。ただ、お風呂に入って体調を崩す方はぐんと減ってきた。またお客様から「お宅のお湯はいい」というお言葉を以前にも増していただくようになった。私どもが温泉そのものを非常に愛していて上手に使おうと取り組んでいること、健康志向の宿であることが認知され、私どもの施設の特長や方向性をお客様にうまく示すことができたことがやはり最大の成果だろう。
◆青山 高橋さんは薬剤師と臨床検査技師の資格もお持ちで、30歳で今の旅館経営に転身を図り、薬剤師ならではの新しい視点で新しい経営を編み出してこられた。
◆高橋 薬剤師と言っても実は病院での調剤の経験はなく、専ら基礎研究の仕事をしていたのでお客様の体調のデータを集めることは本能的に好き。私が勝手にこういう入り方をしろ、これはいけないと打ち出してきたわけではなくて、基本的にお客様と相談しながらまとめ上げていって私の入浴セミナーはでき上がっている。


“先義後利”−温泉地ならば地域で温泉について勉強すべき−

◆青山 池内さんは長野の鹿教湯温泉からいらしていただいたが、まち中の全団体がそこに集結するような鹿教湯温泉健康保養協会という組織をつくり、リハビリテーションセンター鹿教湯病院とクアハウスかけゆとの連携的なプログラムを実行されてきた。ご自身でも2000人以上の方を療養プログラムで指導されたというご経験をお持ちだ。

◆池内 昭和29年、国民健康保養温泉地という制度ができたが鹿教湯温泉は31年に指定を受けた。当時全国で7カ所程で、56年には国民保健温泉地の指定もいただいた。指定の条件は温泉が豊富とか温泉医学、温泉に精通した人間がいるとか医療機関があるとかだが、私どもの温泉地は地域ぐるみでそういった保養温泉地の精神を今でも十分に守っている。たとえば風俗営業を一切認めず、地域の商店街も健康志向的な考え方に基づいている。現在は31軒ほどの旅館があり、必ずしも順調でなくこの10年右肩下がりというケースもあるが、設備投資に積極的に取り組んでいる旅館、商店は伸びている。
 クアハウスかけゆは温泉利用型健康増進施設と運動型の療養施設の認定を厚生省からいただいて、私は温泉療養のアドバイザーとしてやってきた。トレーナーは医師の指示に基づいてやっていて、各旅館へは健康相談という形を取っている。鹿教湯病院には20数名の医師がいるがはっきり言って温泉医学、温泉を理解している先生は2割程度。温泉医の資格のある先生も6人ほどいるが、中には温泉なんて効かないよと言う方もいて統一が取れていない。基本的な考え方を言えば、温泉で治療できる病気は1つもない。だが温泉には癒しの効果があると私は思う。
 温泉は入浴方法によってすごい効果がある。たとえば入浴法によって血圧の上限が分かる。温泉地であるならば、地域は医学的な見地からの温泉の価値や利用法を勉強すべきだ。ましてや旅館の主であれば我が街の温泉は何だ、効能はこうだということを張り紙だけではなくて自分が知っておくべき。それがやはりお客さんへの第一のサービスではなかろうか。道理に沿ったことに真剣に取り組んでいくと後で利益がついてくるという意味の「先義後利」という言葉があるが、こういう時代だから先に算盤勘定ではなく、やはり真剣にそれに取り組んで需要と供給のバランスの中で対応していくサービス精神が大切だと思う。そのためには専門的な勉強もしなければならないし、プロフェッショナルでなければならない。
 以前、私は「予防に優る治療なし」とやって生意気だとだいぶ怒られて、次に「予防医学」とやったらまたいけないということで、最近では「健康はすべての願い」という言い方をしているが、そんなことをやっているうちにあらゆる方々が参加してくれて生まれたのが鹿教湯温泉健康保養協会。病院から始まって行政、商工会、組合、観光協会など各部門、各機関が参画し、インストラクター、トレーナーを採用して鹿教湯温泉のあらゆる事業、イベントに携わる。無償で毎朝健康体操をやったり、集まりにトレーナーが来てストレッチ体操をやったり。予算は約2000万円で、ほとんどはトレーナーの報酬だ。実は協会の理事長は病院の院長。治療のみならず予防ということにも非常に力を入れ、温泉についてもご理解をいただいている。そういうリーダーがいることで組織がまとまったと思う。


薬師如来の霊薬

◆山口 ファルマバレーのファルマには薬、薬剤という意味があるので、ファルマバレー構想は医薬品あるいは医療用具という辺りに非常に強くスポットが当たったような印象を与えているのではないかと思う。それも大事な一面ではあるが、ただ言いだしっぺの1人としては、今日話題のウエルネス産業あるいは健康産業の活性化も2本の柱のうちの1本であるとお伝えしたい。もっとも医療や医療・健康用具の開発は研究者からもものづくりをする人からも見えやすいのに対して、ウエルネス産業の方は方向を言うのがなかなか難しい。だからこちらについては地域から積極的に提案していただき、それを推進する役割をファルマバレー関係者が担うという取り組みをしている。その1つの表れが4月に発足したファルマバレーセンター。まだ県の職員の出向で数名の体制だが、観光行政のエキスパートや伊豆をよく分かっている人材が揃い、ファルマよろず相談という形で地域の方からの提案、相談を受けている。既に月50件以上の相談があり、そのかなりの部分がウエルネス産業に関係するものだ。かなり難しい相談があったときは県庁の特命チームが県庁内での調整を可及的速やかに行う。少なくともYESかNOかを速やかに出し、各部局の盥回しのようなことは絶対しない。長期的な視野で活用していただきたい。
 ファルマバレー構想を話すとき、私はいつも薬師如来のことを申し上げている。当時の薬師という言葉の中には医師の仕事も全部含まれていた。いろんなお寺の薬師如来を見ると掌の上に小さな薬壷を持っておられる。この中には霊薬が入っていて、霊薬を使うと体の異常も治るし心の癒しにもつながる。ファルマバレー構想というのは、たとえるならそういう霊薬を皆で作り上げていこう、地域としてそういう実践をしていこうというプロジェクトだ。利益を受ける対象はあくまでも住民。病気になったときに世界でも最も進んだ医療を受けられるとともに、ものづくりや観光産業に携わる住民の方もうまく利益を受けていただくというのが1つの理想像。ただこれはまったく始まったばかりで、住民ということを打ち出した産学官共同事業は全国でもたぶん初めての試みで注目されているが、一方で本当にうまく進められるのかと言う方もたくさんおられる。ファルマバレーセンターはその辺を注意しながら進めていこうとしる。

今は日本人の3人に1人ががんで命を落とす時代なので、約半数の方が一生にいつかどこかでがんにかかる。その対策は、1つは予防。先程の夫を殺す10ヵ条の逆を一生懸命やっていただくことが大事だが、この大部分は脳卒中、心筋梗塞を予防する生活習慣でもあり、日本人の死因の大体4分の3から3分の2をカバーできる。2番目には検診。今日この場で検診をやると、200人おられるとすれば1人か2人がんが見つかるはず。残念ながらこれは事実なので、検診はぜひ受けていただきたい。3番目の大切な注意は、もし何か症状があったり、健康観が崩れたときは迷わず勇気を持ってお医者さんに行くこと。この3つをきちんとやっていただければ今がんは全国平均でも5割、がんセンターのような高度医療機関だと6、7割は治る時代なのでしっかりと治していただけるのではないか。
そういう時代に備えてでき上がったのが静岡がんセンター。私は究極のサービス産業として運用して下さいと職員に常々申し上げている。サービスには単にお金勘定だけでなく高質という意味が少しある。このサービス産業の特徴は命を預かること、それから医者の嫌な役目だがせっかく健康観に満ち満ちている方々の前でがんがあるかもしれないというようなひどく心の平穏を乱すことを言わなければならないこと。サービス産業は顧客満足度がキーワードになってくる。医療関係者にとっては患者、家族の満足度、これが間違いなく21世紀のキーワード。顧客の選択、集中ができていないサービス業は衰えていくはずだが、がんセンターはどういう患者さんがお見えになるかを病気の名前まで含めてほぼリストアップし、たぶん最も顧客をしっかり捉えている病院ではないかと思う。


伊豆の温泉に“かかりつけ湯”を

◆山口 がんセンターにお見えになった方からよくなった後でどこか伊豆の温泉を紹介して下さいと聞かれたことが何回かあったが、なかなか答えにくい。あの温泉、あの宿はここが特徴だからいいですよという付加価値的なものが、あまりよく見えていない。私が知らないだけかもしれないが、もしかしたらこれが今後改善すべき点なのかなと思う。個人的にこういう温泉があったらいいなと思うのだが、まったく健康な人や逆に本当の病気になった方ではなく、半病人、と言うとちょっと嫌な言葉だがそういった方が顧客になることを考えられないだろうか。たとえばがんセンターにお見えになった患者さんで、がんは治した、しかしいつ再発するかもしれないという心の悩みをいつも持っておられる方。あるいは高齢者で足腰が痛い方。こういった方々に“かかりつけ湯”のようなものをお勧めできると患者さんや家族の方は喜ぶのではないかといつも思う。もちろん本当の病気になれば病院で治すが、その前にかかりつけ湯に入ることで健康観を取り戻す、そんな仕組みがうまくできないか。そのためには、たとえば料理は立派な物は決して出さず、連泊になるので2000−3000カロリーの普通の食事を出していただく。値段はリーズナブルにする。
 がんセンターもがんの患者さんあるいはその家族のことを非常に熱心に考えている。ともかく患者さんやご家族の考え方が極めて劇的に変化しているのが今の日本の社会。こういう温泉に見えるお客さんの考え方もたぶん今大きく変わりつつあると思うので、変化に遅れないのが必要ではないか。一言で言えば、顧客の方々が己をよく知ってくると思う。自分の健康についてここに不具合がありそうだと知るようになってきている。伊東の温泉に行くに当たっては、自分の健康にメリットがあるかという考え方をたぶんする。伊東にでも行くか、という方はどんどん減ってくるのでないか。さらに言えば、伊東のあの宿に行けば自分の健康観を取り戻せるだろうという考えをする方が増えてくるのではないか。これからの顧客の変化を考えることがウエルネス産業には必要と感じる。


売り手よし、買い手よし、世間よし

◆青山 己をよく知った顧客が自分の健康観を取り戻すためにする旅がこれから増えるということは、古川さんがおっしゃった主観的健康観の話ともつながってくると思う。
◆古川 まさしく今山口先生のお話を聞いて勉強させられた。日本に24万人お医者さんがいる中で、僕はたくさんのお医者さんと付き合っているがこういうマーケティング的な発想のお医者さんはなかなかいなかった。世界に誇るがんセンターの総長さんがかかりつけ湯という新しい言葉を発表した。ドクターが顧客満足度と言う、ビックリしちゃう。
◆古川 それから企業の人も行政の人もみんなあれもやりたい、これもやりたいと言いがちだが、20世紀型、それこそバブルの絶頂期ならばいい。でも今のこんな時代であれもこれも手を出したら必ず失敗する。21世紀はあれかこれかという視点が大事だ。皆さんのお話を聞いてもやっぱりあれかこれかだ。また、確かに健康器具とか医薬といった目に見えるものがウエルネス産業と言われる部分があるから、逆にウエルネス産業という形で目に見えないところの追求をしていくことがないと産業として成熟しないのではないか、とお話を聞きながら感じた。一方で「三方よし」という考え方も必要だ。つまり売り手と買い手と地域、世間という問題で、その3つのコラボレーションを考えて三方よしというビジネスを展開していくことが大事ではないか。


健康保養は商売にならない?−人材育成とネットワークづくりの重要性−

◆青山 一巡した中で一番引っかかったのは、高橋さんが健康保養は商売にならないとおっしゃったこと。お客の絶対量がまだまだ不足しているということなのか。
◆高橋 非常に核心を突かれたような厳しい質問で、答えにくい部分もある。まったく個人的な考えだが、需要はたくさんあると思う。先程の総長のお話ではないけど首都圏を中心に温泉で癒しを求めている方はたくさんいらっしゃる。問題は供給側。連泊が難しいとか単価の問題とか、食事の問題、人の配置の問題がある。温泉保養と言うとすぐ湯治と思うが、湯治と言ってしまうと1週間、10日あるいは1カ月、極端なことを言うとと自炊で、となる。しかし保養であれば2、3泊でも十分だし、単に休養、体を癒してリフレッシュするということならば1泊でも十分だと思う。供給側のスタイルの問題ではないか。
 伊東でも熱海でも天城でも温泉を使ったいろいろな試みはあるが、それらが有機的に動いていないのも問題。私の所も含めて地域間の連携はまったくない。新しいネットワークをつくれば新しい展開が見えてくるのではないだろうか。各温泉場の特性、事情はあるが、それらを踏まえた中で特徴を出してやっていけばいい。それときょう私がここで1番言いたかったのは人材の育成。池内さんも鹿教湯温泉健康保養協会の予算はトレーナーの育成費、講習費でほとんどとおっしゃられていたが、まさに伊豆にあっても、ウエルネスにしろ温泉保養の事業化にしろインストラクター、トレーナーの育成にかかっているのではないか。
◆青山 鈴木市長、伊東市としてはウエルネス産業の人づくりをどう展望しているか。
◆鈴木 人を育てるのはなかなか大変。今はインストラクターをお願いしている状況だが、自前でできる方法がないだろうかと研究させているところだ。それから旅館組合さんにも働き掛けているが、3泊なり5泊ぐらいのリフレッシュを含めた療養を、パックでいくらと安くやる方策も考えていく必要があるのではないか。それともう1点、私は温泉の療法も効果があるだろうと思う。もともと旧国立伊東温泉病院はリウマチで全国的にも有名になった所で、市立伊東市民病院になった今でも温泉を利用してやってもらえないかという話があるし、非常にいいお医者さんがほとんど残っている。確かお相撲さんが多かったと思うがスポーツ選手が怪我をしてこの温泉で療養した実績も結構あり、こうしたケースを今後も考えていく必要がある。それにはバックとしての医療体制も必要だろう。いずれにしてもスポーツドクターにしろインストラクターにしろ、それなりの人材が必要になるから、人材育成や人材の登用は研究課題である。
◆青山 古川さん、ウエルネスを推進する宮崎県の都城市の事例を教えていただきたい。
◆古川 都城は平成元年にウエルネス都市宣言をした。私たちも応援させていただいたが、まちづくりの中にCIを導入しようというのがもともとの考え方で、その基本コンセプトをウエルネスにしようということだったが、旗振り役の首長さんの熱意とやる気が大きかった。最近のアンケートでは都城市民13万7千人の内98%がウエルネスという言葉を知っている、聞いたことがあると答えた。自分が考えるウエルネスということについて自己主張ができる人も52.3%に上る。都城は役所の在り方が違った。1家1ウエルネス運動を推奨し、出前講座もした。市民が役所に来るのでなく役所の職員が市民の中に入っていく。1人の職員が変わればまちは100人変わる、という意識改革が進んだ。


ホスピタリティとは何か問い直し意識改革を

◆青山 ここで会場の方から質問をお願いしたい。
◆中山勝氏(企業経営研究所産業経済研究部長) まちづくりも人づくり、1人ひとりの考えの持ち方が非常に重要と思う。ホスピタリティについて我々1人ひとりがどう思ったらいいのか、議論する場が必要だと感じた。我々はどっぷり20世紀型の生き方に慣れているので、新たなやり方をやるときには何か大きな意識改革をし、思い切った方策をしていかないと難しいだろうとも感じる。
◆古川 高橋さんも池内さんもおっしゃっていたが、人材インフラを整備する、人材のラインナップを揃えなければならない。私は平成9年から県の委託を受けて沖縄ウエルネス計画に取り組んでいるが、当初は冬に北海道と東北のお年寄りに暖かい沖縄で中長期の滞在をしていただくことを考えた。変な話姥捨て山みたいなイメージではなくて、より気付きを得られるような、生きがいづくりができるようなシチュエーションを思い浮かべてほしい。その中で一番問題になったのがご指摘のホスピタリティの問題だった。結局沖縄では、他人を受け入れるというホスピタリティに欠ける。来る人には文句は言わないけれど、自分たちの血縁、地縁にはものすごくいいが違う文化の人だとなかなか受け入れられない。だからNPOが受け皿となって人材の育成をし、県全体でセンターオブエクセレントを考え県がきちんとした裁きをして人材インフラを整備しないと、沖縄は本当の意味での観光立県にならないと私は言った。沖縄県民に人を迎えるホスピタリティがないと、腹の中でうちのホテルが儲かればいいという考え方でやったら進まない。このまちをよくしようとしなければならない。確かにインストラクター育成というのもあるが、特に観光を考える場合私はそれが一番先に来ると思う。施設の中で囲い込もうという考え方ではその地域の発展はない。施設囲い型の従来の日本のホテル業者、観光業者の在り方を変えないと。
◆青山 ホスピタリティという言葉が出たので山口総長、静岡がんセンターはサービス産業の頂点を目指すというお話だが、もう一つ突っ込んでホスピタリティがビジネスになっている銀座のお話のエッセンスをちょっと。
◆山口 私は前職が国立がんセンター勤務でこれは築地にあり、銀座に最も近い信頼度の高い病院だ。だから銀座のマダムの方々が私の外来に何人かお見えになって、結構本音をしゃべっておられた。「銀座で店を張るには先生こういうことがやれなきゃ駄目なのよ」と5項目ぐらいあり、なかなかもっともなのでそれを静岡がんセンターに活かしているが、すべてホスピタリティだ。ただそれだけでは決して病院はうまくいかないのであって、医師、看護師の大部分は患者さんを大事にすることに集中している。ビジネス的なことを言えば静岡がんセンターではベッドの患者さんから1日で大体5万円、外来の患者さんから1万5千−2万円ぐらい収入が上がる。保険診療だから患者さんにはその額はほとんど見えず、お客さんから金額が見えていないサービス産業の代表でもある。ただ現場の医師、看護師の大部分はそんな数字は一切知らないし知ろうともしないで、患者さんを一生懸命治すことに集中している。幹部だけがそういうことを考えながら経営するのである。
 先程かかりつけ湯と申し上げたが、そのような形でやろうとすると1人ひとりのお客さんの状況をよく把握することが必要になる。かなりレベルの高いもてなしも必要になるだろう。採算などでビジネスモデルとして問題はあろうかとも思うが、静岡がんセンターでは心通う対話が最も基本的な考え方。患者さんのお話をよく聞いて一緒に考えて、できることだけ一生懸命やりましょうというのが基本で、従来は患者さん側からほとんど聞かなかった部分のお話を一生懸命聞かせていただいて、顧客に一生懸命応えていっている。
◆青山 ウエルネスというのは新しい価値観で、新しいものというのはなかなか築きにくく受け入れにくいわけだが、新しい考え方なんだということを頭にしっかりと入れて、腹をくくることがまず一歩。何よりも、ウエルネスとは何ぞやということを徹底的にプロモーションしていくことが必要だろう。手持ちの資源をウエルネスという価値観で串刺しにしていく。金太郎飴じゃないが、どこを切ってもウエルネスという価値観の断面が見えてくるような積み上げが必要になってくるのではないだろうか。実際問題として健康保養事業で非常に儲かった、発展したという実績をつくっていくことが、ウエルネスへの取り組みを全体に広げていくために大切だろう。


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