サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

活動内容
平成15年度の活動方針

活動報告
平成24年度
平成23年度
平成22年度
平成21年度
平成20年度
平成19年度
平成18年度
平成17年度
平成16年度
平成15年度
平成14年度
平成13年度
東部選出県議団・市町村長連絡会議との合同会議 平成16年3月29日(サンフロント)
記念講演「新しい時代の健康と運動」
東京大学大学院総合文化研究科 小林寛道氏

■講師略歴

小林寛道(こばやしかんどう)
東京大学大学院総合文化研究科教授

1943年6月生まれ。
1968年 東京大学教育学部体育学健康教育学科卒
1970年 東京大学大学院教育学研究科(体育学) 修士課程修了
1977年 教育学博士(東京大学)
1976年〜1978年 カリフォルニア大学サンタバーバラ校環境ストレス研究所ポストドクター研究員

名古屋大学総合保健体育科学センター講師、助教授などを経て
1986年 東京大学教養学部助教授
1990年 同教授
1994年 東京大学大学院総合文化研究科教授

◇社会的活動
日本バイオメカニクス学会理事、日本体力医学会理事、高所トレーニング環境システム研究会会長、独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター運営委員、日本発育発達学会発起入代表など。

◇主な著書
「日本人のエアロビックパワー」(杏林書院)、 「幼児の発達運動学」(ミネルヴア書房)、 「走る科学」大修館書店)、 「発育・成熟・運動」(監訳一大修館書店)、 「ランニングパフォーマンスを高めるスポーツ動作の創造」(杏林書院)など。


世界一の長寿国

 今日は、新しい時代の健康づくりという形でお話しさせていただきます。
 何が新しいかというと、こんなに大勢の人間がこんなに長生きしたことはないという意味で新しいということです。従って健康づくり、あるいは体づくり、あるいは心の問題として、われわれが今まで全く経験しなかったような状況がどんどん生じてきています。これは世界にも類がないわけですから、われわれがいろいろ考えていかなければいけないことです。とくに世界一の長寿国として、日本がリードしていかなければいけないのは「健康づくり」ということです。
 健康づくりの基本は、昔から栄養、運動、休養と教えられてきましたが、今の子どもたちにとって栄養はうまくできていないとか、休養と言っても夜更かしで休養できてないとか、あるいは運動もできていない。栄養と運動と休養が健康づくりの基本でありながら、何か基本ということがしっかり根づいていない。もう一度基本的な要素から考えてみる必要があると思います。


西洋流健康づくり

 健康づくりのは、大きく分けて西洋流と東洋流の二つの考え方があります。
 西洋流の健康づくり法で有名になったのは、有酸素運動、エアロビックダンスです。音楽に合わせてやるということでメディアを通じて普及してきましたが、もともとは1968年にアメリカのケネス・クーパーという空軍のお医者さんが、パイロットの運動としてジョギングだとか自転車だとか、酸素をたくさん取り入れる運動によって体力を向上させようということを始めたものです。
なぜ酸素なのかというと、酸素は脂肪を燃焼させる。脂肪を燃焼させるために体に酸素を取り入れるという考え方です。
 そしてジョギングブーム。アメリカのカーター大統領が来て日本でもジョギングをしたということで非常に有名になりましたが、その当時は出来るだけ心臓に大きな負荷を掛けてたくさんの酸素を取り入れて運動するやり方がいいといわれました。ところが研究してまいりますと、それほどきつい運動をするよりは、どちらかというと比較的きつくないレベルで出来るだけ長い時間やった方がいいだろうとだんだん変わってきました。そして最近はウオーキングブームです。
 ウオーキング、ジョギングも大体定着してきまして、市町村でやるマラソン大会などには非常に多くの人が参加する。ただもっと盛んにしたいのですが、一番ネックになっていますのが警察でありまして、警察がいっさい許可しないということがあります。この辺、何とかもう少し安心して出来るようなウオーキングコースであるとか、ジョギングコースであるとか、有酸素運動が出来るような環境を造っていくことが必要だと感じています。


レジスタンストレーニング

 次にレジスタンストレーニングですが、これは筋肉を強くする筋トレですね。そのためにフリーウエイトとかダンベル体操があります。ダンベル体操は筑波大学の鈴木先生が広められました。それからマシントレーニング、これはいろいろなジムに行きますとやっています。こういったもので筋力を鍛える。
 レジスタンストレーニングをすると筋肉が働いて、筋肉に蓄えられている脂肪分がよく燃えるという理論で、大きく肥満を解消したいという考えが彼らの健康づくりの基本です。従って食べ過ぎや余計にとった消費カロリーを運動によって消費するという考え方です。大量にとって大量に消費するというアメリカ的な考え方です。ところがアメリカに行って感じることは、行くたびに肥満者がますます増えていることです。一体これは何なのだろうと。どんなに学問が進んでも、どんなに偉そうに学者が言っても、あの国の現実というのはどんどん健康的に悪い方にいっており、肥満者を押さえられないでいる。
 そこで今、彼らは何を考えているかというと、結局運動によって消費カロリーを増やすだけでは無理だ。食生活を改善しなくてはいけないということです。食生活の改善は何かと言えば、日本食だということになっている。従って日本食によって健康を改善させようと。それでは日本食とは何かというと刺身ということになるわけです。
日本食というといろいろ出てきますが、こういうのが健康にいいのだよという日本食のサンプルを、もう少し全世界にわれわれも教えてあげることが必要だなと思います。
 彼らが考えているような、いわゆる消費カロリーを高めるだけの健康づくりは正しくないと、私は考えているのです。そういったことに彼らもだんだん気付きまして最近ではヨガであるとか、呼吸法であるとか、そういうことを東洋から取り入れてやろうとしている。でもどうしても消費カロリーのことから抜け出せないというジレンマがあって結構苦しんでいるわけです。


東洋流の健康づくり

 次に、東洋流の健康づくりですが、これは少ないエネルギーで上手に生きるのが東洋流の生きたかです。あまり食べ過ぎない。腹八分目だというのが一つの基本です。もう一つ大事なことは、調心・調息・調身ということです。東洋的な武術であるとか、あるいは健康法であるとか、すべて調心・調息・調身という言葉で現されていますが、端的に日本語に翻訳しますと調心とは心を穏やかにということです。調息は呼吸の調整です。調身は足腰を鍛えること。簡単に翻訳しましたが、もっと深く一つひとつのことを言えば、これは東洋思想ですから非常に深みがある。
 主に心身の調子を整えることが東洋的な考え方であるわけです。必ず心と体を整える。学校の教育が今、心と体を一体にと言っているのですが、どうも子どもたちの現状というのは、うまくいっていないところがある。
 東洋的な健康法、それから西洋的なものも非常に良い部分もありますから、それを上手に取り合わせて健康づくりをしていくことが、われわれが1つの特権として与えられた柱というか、地理的条件を持っていると思います。


運動の効用

 運動とは筋肉を動かすことです。実際は筋肉を動かして骨を動かし、身体全体を動かすのが運動です。ストレッチ、それからマッサージをしても運動の効果があります。筋肉が収縮して静脈が心臓に戻ってくる。こういうのを筋肉ポンプと言うのですが、こういう運動をすることによって筋収縮とか、筋の肥大予防とか、萎縮予防ができ、マッサージなんかは筋肉の感覚を刺激して組織を活性化するし、ストレッチというのは非常に大事で体を伸ばすことによって集中刺激して、ストレッチをするだけで筋肉の萎縮が抑制されるんです。
 もう一つ骨の面での運動の効用ですが、骨を丈夫にするためにカルシウムを食べましょうと言われますが、骨というものはカルシウムだけ取っていても丈夫にならないんですね。やはり運動によって物理的な刺激を与えることが必要でして、運動をしている人の骨は太いですね。運動をしていない人の骨は細い。骨粗そうの予防、これも非常に大事な要素になりますが、これも骨の物理的な刺激が必要です。
 もっと大事なこととして最近、非常に注目されている運動の効用は、内臓とか中枢、消化器系を活発化する効果が非常に大きいということです。それから内分泌の調節能力を高める。自律神経系の機能を高める。
 お話したかったのは、運動は脳の機能を活性化することです。脳の機能を活性化する物質であるセロトニンとかβエンドルフィン、コルチゾール、そういうものの分泌を促進する。運動しているときの脳と運動していないときの脳の活性度が明らかに違ってくる。運動すると脳の血流も増えます。
 最近はいろいろの機械で測定できるよになっています。それで測ってみると、きつ過ぎる運動というのは、あまり脳の働きによくない。中間くらいのところがいい。穏やかな運動の方が脳を活性化するんですね。専門的にいうと、ある運動をすると必ず乳酸が身体に溜まってきます。ある段階から急に溜まってしまいますが、その境目のところでやった方が脳の活性度は高まると言うことです。
 ところが乳酸は心臓が働くときにエネルギーとして使われますし、筋肉が働くときにも使われる。脳の活動に今まではグリコーゲンしか使われないのだと教科書に書いてあったんですが、実は乳酸も脳の活動に使われるんだということが分かって、近年は脳の中の海馬、連合野、前頭前野の働きが注目されています。海馬は記憶などの機能に関与しています。従って軽い運動をした方が記憶力が良くなる。記憶の中枢が活発になるということが分かってきた。いろいろな研究がされていますが、マイルドな運動が海馬を非常に活性化させるという証明が幾つか出てきています。


体力低下は学力低下を招いている

 あまり運動しないとストレスが溜まります。そして体力が低下する。精神・心理的な不調が起きる。身体を動かさないと脳の活力低下が起きる。子どもたちにこういう傾向が強く出ている。意欲がない、根気がない、気力が出ない、集中力がない。こういう状況が子どもたちに出ています。
 これはどういう訳かと、全国一万人の子どもたちをわれわれは調査しました。そして同時に行なわれた文部科学省の体力テストの5段評価と比較し、意欲、自発性があるかどうかを調べました。
結果は、体力がある子の方が意欲的である。体力のない子は意欲も低いし、自発性も少ない。集中力の問題、あるいは意欲の問題、学習能力についても体力がある人の方が、意欲が高いことを示しています。東大生は体力がないじゃないかといわれますが、他の大学と比べると体力はある方です。意欲もある方です。偏差値でいうと下の方が比較的意欲の面でも学習能力の面でも低いというようなことがあります。
昔、アメリカとかヨーロッパでハーバード大学とかエール大学の医学部の学生がオリンピックの選手として出てきてしまうような話が良くありました。日本ではそんなことはあり得ないと思っていたんですね。勉強できる人は勉強、運動できる人は運動と分かれていたと思うのですが、だんだんそうではなくなってきたというのが今の時代の特徴です。
今、子どもたちの学力低下が問題になっていますが、東大の総長をされて文部大臣をやられた有馬先生は「学力低下は体力低下と同じなんだよ」と言われています。東大の数学の岡本先生という有名な先生がいますが、「学力が低下しているのは体力低下と本当に一致している」というわけです。
われわれは体力が低下してもいいじゃないかと軽く思っていたんですが、体力低下は実は、脳の働きであるとか、心の働きとか、そういうことの低下をもたらし、心と脳と身体の調整がうまくいかなくなる。そういうことの現れとして、こういうことが起こってきている。
 ですからわれわれは本気で子どもたちの身体と心の問題を同時に考えなければいけないということです。
 身体づくりについて、いままでの20世紀は筋肉とか心臓、肺系などの身体パーツのトレーニングの時代だと考えていました。21世紀は、脳を中枢とした総合的身体機能・スポーツ技能のトレーニングの時代だと考えています。


ウエルネストレーニングの健康づくり

 ウエルネストレーニングの健康づくりについて、実はいろいろなマシンを開発したんです。最初のものは陸上競技連盟の科学委員長になりまして、どうしても短距離をもっと強くしたいということで、80人くらいのチームを組んでカール・スイスとか、実際のレースの時の分析をしたりした結果、動作のやり方が違うことが分かり、選手の皆さんに何とかそれを修正して貰おうと講習会などで説明するんですが、どうも理解してもらえない。それならば新しいマシンをつくって、動作原理を体感してもらおうということになり、マシンをつくったのです。
 その中で出てきたのが、これからの運動選手のトレーニングというのは、脳と身体とこころの相互作用を高めるような、そういうトレーニングであるべきだということです。それから体幹深部筋を鍛える。そして筋肉痛が起きない。運動をやろうという人たちのなかには筋肉痛が起きるから嫌だという人が圧倒的に多いんです。ですから筋肉痛が起きない運動のやり方があるはずだと。
もう一つ楽しく飽きずに行うことができる。トレーニングジムなどに行ってみるとトレーニングマシンが置いてあって初めは面白いですが、しばらくやっていうちに何か飽きてきてしまう。飽きるということは面白くないということですから、それを楽しく飽きずに行えるシステムを考えなくてはいけない。
 そして、誰でも個人の能力にあわせてできるものであること、運動を行った効果が実感できること。スポーツ能力が向上する。ただ健康になるだけでなく、何か自分が新しいスポーツに挑戦して、それが上手になっていくという喜びは、また次元の違う喜びが出てくるんですね。マラソンでも初めは走れるかどうかです。まず走れたという喜びがあるんですが、今度はもう少し速く走りたいと。そういうスポーツ本来のものが持っている面白さを体験できるような、そういう健康づくりというシステムを考えるべきだと思うわけです。


身体の深部の筋肉を鍛えることが大事

 そのウエルネストレーニングシステムは、最初に脳の活性化、真ん中に体幹深部筋の強化、いままでの筋力づくりは大方ジムで、腕とか足とかの筋肉を鍛えていた。ところがやはり身体の深いところ、骨盤の中であるとか、脊柱だとか、そういう身体の芯の部分を鍛えないと、けがをしたり、運動することによって本当に力が出せないことが分かってきたんですね。それはSRIで写真を撮ってみますと、大腰筋といって骨盤を動かす筋肉、腰椎から大腿骨につながっている深いところの筋肉、これを鍛えることが必要だということが分かってきたんです。
 これはマシンのやり方でやっていくうちにもう一つ、グリーンというすごいアメリカの選手が出てきて、どうしてそんなに強いのかとNHKの取材班が密着取材しました。結局、腹筋をすごく鍛えている。深腹筋という言葉が出て来ましたが、そういうのを契機に、やはり身体の深部の筋肉を鍛えるのが非常に大事だということがわかってきました。


これからのリハビリ

 脳と体幹深部筋と筋肉を同時に鍛える方法を、われわれは開発していかなければいけない。それを認知動作型のトレーニングマシンの開発と呼んでいますが、それは動作の学習とかリハビリとか、私も幾つかマシンを開発しておりますが、まだまだこれは開発が必要で、それをよりリハビリという分野でやっていくと、これは世界的市場になっていくと考えています。
 実は、この間台湾で国際会議があったときにアメリカのリハビリテーションの第一人者のドクターでディーゼルという方の話を聞きましたが、リハビリのトレーニング機器はまだ貧弱で、もっともっと工夫しないといけないと思うんですね。無理やり、平行棒とか、力ずくで訓練する。あれでは喜びをもってリハビリするなんってとんでもないことではないかと思います。皆さん、何とかがんばりながらリハビリをしている。
 この間、石川知事とがん研の山口総長、私と大坪先生と対談する機会がありまして、その時に山口先生が仰ったことが非常に印象的でした。がんの手術をする前に少しリハビリをして運動させ、そしてがんの手術をすると非常に回復が早いという、「使用前リハビリ」という考え方が出てきました。これは医学の分野では前から取り入れられていたことらしいです。手術をする前に体力を付けて、そして手術をする。そうすると治りが早い。これは幾つかの病院ではすでに行われていたということですが、もう少しそのことをシステマティックにやっていくことも必要なんじゃないか。がん手術やいろいろな手術をされる人たちに、まず運動させる。そうすれば何か生きようという気持ちになる。それで手術をすればがんばろうという、そういうシステムというのが大事だなと。そういう関わりというのが一つできてきたんですね。
 ですから単にリハビリというのは修復医療だけではなくて、手術前、手術後、そしてもう一つ問題なのは病院にいつまでもいれません。しかし退院したときの受け皿が足りない。病院外のもう一つ別の、入院するほどではないが、もう一つ何かやりたいという、ここのところがすっぽり抜けていますので、このファルマバレー構想の中では、そういった低体力の人たちに対する健康指導のシステムを作っていくことが必要であろうと思っています。
 なぜこういうことが医学の世界では、手が触れられなかったかというと、保険の点数にならないということの一言に尽きます。点数化するとワーッとなってくる。

水・温泉の利用

 また、筋肉と身体の代謝の循環を高めるのに、水・温泉の利用があります。東部地区は伊豆半島を中心にしながら温泉の利用がありますが、いままでは温泉の利用は、保養というか、来たらゆっくりしてごちそうを食べてお風呂に入って、というわけでした。栄養・運動・休養ということに温泉という資源を入れると、栄養と休養はあったが、運動のファクターが抜けていた。そこを徐々にもう少し組み入れていくことによって、何か別の活性化が図れるのではないか、というのが一つの提案です。

低酸素環境の健康づくりの可能性

 低酸素環境エクササイズですが、これは実に面白いんです。私たちはマラソンを強くするために高地トレーニングを本格的に1990年から研究して、その成果として選手は高地トレーニングをしています。コロラドに行って選手と一緒にトレーニングしたり、栄養の問題とかいろいろ話し合っています。
 高地トレーニングはなぜ効果があるのか。結局単にヘモグロビンが増えるという話ではなさそうだということです。実は走って追い込まれていくと、体の中で血管が収縮してくる。そうすると血がうまく流れなくなってしまう。余裕があるときは流れるんですが、追い込まれていくと収縮してしまうんです。しかし高地トレーニングをやりますと、かなり追い込んでも血管収縮が起きにくくなる。それはなぜかというと、低酸素の環境にいると成長ホルモンが出てきまして、成長ホルモンが出てきて代謝を高めるということもあるんですが、もう一つ低酸素環境の高地トレーニングをずっと続けていくと、その血管があまり収縮しなくなるというのがどうもポイントなんじゃないかと僕らは考えています。
 いまアメリカとかでは、リビングハイ・トレーニングローということで、高いところに滞在し低いところでトレーニングするということになっていますが、僕はついこの間も香港で国際会議があり、日本は逆だと。高いところでやるんだと言ってきました。現に勝っていますからね。
 それをもっと効率的に出来ないかと考えたのが、低酸素トレーニングで、低酸素の部屋をつくってトレーニングしてしまおうと。低酸素の環境の中でトレーニングすれば山に行ったのと同じ条件が出来るわけです。そこで低酸素エクササイズというのをやりました。外国ではリビングハイ・トレーニングローですから低酸素の中で積極的に走ろうという考え方ではないんです。低酸素の環境に滞在する。そしてトレーニングは下でやる。われわれは低酸素の中で積極的に運動をしてしまおうと。これは世界の中でこんなことをやっているところはありませんが、そういう中から選手がたくさん出てきて、オリンピックで活躍する選手も出てきた。
 どうして低酸素のトレーニングがそんなに有効かというと、実は先程言った血管収縮を起きなくさせると同時に、どうも脂肪がよく燃えるんじゃないかということです。これは今、研究を進めつつありますが、低酸素の環境の中で運動をする。そうすると脂肪がよく燃える。そうすると肥満予防だとか、脂質代謝を亢進させるという効果があるんです。このことをこの間、香港の会議で話していましたら、ニュージーランドから来た学者が実際にそれを実行していまして、驚くことに彼は心臓疾患者も低酸素を吸わせてから運動をさせると非常に治りが早いんだという。いろいろ生活習慣病の人たちにも低酸素を吸わせて運動させるといいのだと言うものですから、本当にやっているのかと聴きますと、「やっている」というんですね。毎年一回、高地トレーニング研究会の国際シンポジウムをやって外国の学者も呼んで徹底的にその人のノウハウを聞き出すということをやっています。これは面白いというので今年9月の研究会にニュージーランドから来てもらうことになり、面白い展開が出てきました。これを上手に利用すれば、高地トレーニングと健康づくり、あるいは低酸素環境で健康づくりという展開ができてくるというふうに考えています。
 

トレーニングマシンの効果

 スポーツは体力、技術、精神力すべてが必要です。とくにランニング能力を改善するには、フォームの改善とか、筋力・パワーの強化とか、持久力をつけることが必要です。そいうことが認知型トレーニングマシンでできるんです。1995年に初めてトレーニングマシンをつくりましたが、このマシンが出来てから9年、構想まで入れると10年です。やっと最近世の中の人たちが注目してくれるようになりました。ですから、今ここで僕が言っていることは10年後にはきっとすごいことになる。いま誰も何も言ってくれないとあきらめてはいけないので、こつこつと見向きもされずにゆっくりとやっているうちにいろいろなものが出来てくるんですね。
 第一号のトレーニングマシンは、「かとう」と勝手に名前をつけています。ランニング中のくるぶしを円運動の軌道で何とかできないかと考えて、工夫し、その結果、大転子と腰の部分を一緒に動かすと、これが円の軌道でいけることが分かりました。そしてマシンによって円の軌道で走ることがで
きたら、突然、11秒6くらいで走っていたうちの学生が10秒9くらいで走りまして、「おいおい」ということになりました。このマシンをつくりまして、東京大学で10秒台で走るランナーを4人つくりました。10秒台が4人というと体育大学並みです。「よし、いけ」といってやっているうちに、いままで予選で落ちていた選手が決勝に行ってしまう。決勝で勝ってしまい次の大きな大会に行くはで、「いけいけ」とやっているうちに全員肉離れで壊滅的な結果を招きました。失敗したのはスピードが出過ぎてしまったんですね。そのスピードに身体が耐えられなかった。悪かったなと思っています。
 本当にマシンが効くかどうか、みんな半信半疑で、「小林先生、何か景気のいいことを言っているけど、都合のいいデータだけ出しているんじゃないか」と。それでこの間、静岡県の高校の皆さんが30人くらい東大にお見えになった。僕は「高校生で、ものすごく体力のあるが走り方が下手で教えても教えても駄目な生徒を一人連れてきてください」とお願いしました。その子がすごいですね。高校3年生でベスト記録が100メートルで11秒02の生徒が1回こういう風にやるんだよといってマシンの使い方を教え、しばらくしたら10秒7になりました。すごいですよ。それでインターハイの全国大会に行ったら、ルールが変わりまして100メートルで1回目のフライングはいいのだけれど2回目は失格ということになり、2回目をフライングして失格になってしまった(笑)。ちょっと欲しかったです。

身体の正しい使い方を教えるマシンシステム

 脳と体幹深部筋と筋肉を同時に鍛える方法を、われわれは開発していかなければいけない。それを認知動作型のトレーニングマシンの開発と呼んでいますが、それは動作の学習とかリハビリとか、私も幾つかマシンを開発しておりますが、まだまだこれは開発が必要で、それをよりリハビリという分野でやっていくと、これは世界的市場になっていくと考えています。
 実は、この間台湾で国際会議があったときにアメリカのリハビリテーションの第一人者のドクターでディーゼルという方の話を聞きましたが、リハビリのトレーニング機器はまだ貧弱で、もっともっと工夫しないといけないと思うんですね。無理やり、平行棒とか、力ずくで訓練する。あれでは喜びをもってリハビリするなんってとんでもないことではないかと思います。皆さん、何とかがんばりながらリハビリをしている。
 この間、石川知事とがん研の山口総長、私と大坪先生と対談する機会がありまして、その時に山口先生が仰ったことが非常に印象的でした。がんの手術をする前に少しリハビリをして運動させ、そしてがんの手術をすると非常に回復が早いという、「使用前リハビリ」という考え方が出てきました。これは医学の分野では前から取り入れられていたことらしいです。手術をする前に体力を付けて、そして手術をする。そうすると治りが早い。これは幾つかの病院ではすでに行われていたということですが、もう少しそのことをシステマティックにやっていくことも必要なんじゃないか。がん手術やいろいろな手術をされる人たちに、まず運動させる。そうすれば何か生きようという気持ちになる。それで手術をすればがんばろうという、そういうシステムというのが大事だなと。そういう関わりというのが一つできてきたんですね。
 ですから単にリハビリというのは修復医療だけではなくて、手術前、手術後、そしてもう一つ問題なのは病院にいつまでもいれません。しかし退院したときの受け皿が足りない。病院外のもう一つ別の、入院するほどではないが、もう一つ何かやりたいという、ここのところがすっぽり抜けていますので、このファルマバレー構想の中では、そういった低体力の人たちに対する健康指導のシステムを作っていくことが必要であろうと思っています。
 なぜこういうことが医学の世界では、手が触れられなかったかというと、保険の点数にならないということの一言に尽きます。点数化するとワーッとなってくる。

ファルマバレー神話をつくろう

 最後の結論ですが、「ファルマバレー神話」をつくろうという提案です。
 ファルマバレー構想を進めることで、まず1番目は住民が皆、健康で長生きになる。2番目は子どもが元気で、肥満児が少ない。肥満児が実は10%いるんです。イタリアでは30%です。肥満が進むと最後は人工透析に行ってしまいますから自治体の負担も大変です。人工透析は月に50万円かかるといいますから、子どもの時から何十年も人工透析したらそれで自治体は破産ということになりかねない(笑)。ここは真剣に考えることですね。
 3番目は長寿食が食べられる。4番目、肩こり、腰痛が治る。5番目、不定愁訴が少ない。6番目、身体の芯が強くなる。7番目、若返り、スタイルが良くなる。そして8番目は、ぼけにくく、9番目はスポーツが強い地域になる。スポーツが強いというのはオリンピック選手を出す。そうすると10番目で、お金も儲かる。なぜだというと、ここからいろいろなことが発信できるからです。例えば、ここでリハビリマシンなんかいいものが出来れば、これは世界に発信できる。そしてこのマシンができれば、がんが治る。手術からの快復が早い。体力がすぐつく。気持ちが明るくなる。これはハルマバレーの願いです。
もう一つは、リハビリが効果的で、身体が自由に動く。痛みが軽く活動的で楽しいと。こういう神話を実現させていくために、皆さんの力と知恵を合わせていただければと思います。必ず出来ると思う次第です。



▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.